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GVGゲームの持つ功罪 -開発と運営の経験からメリデメについて紹介-


(忙しい人向け)この記事の概要

  • GVGゲームは利益を出しやすい競争ジャンルである

  • メリットは「離脱しにくい」「エンドコンテンツが尽きない」「課金されやすい」

  • デメリットは「バランス調整が難しい」「検証コストが高い」

はじめに

こんにちは。SHIFTのエンターテインメントサービス部の立野です。

こちらの記事ではGVGゲームの開発や運営経験を経て感じた功罪をまとめたいと思います。もちろん、環境やユーザーによって状況は異なるかと思いますが、とくに本記事ではユーザー目線ではなく運営・ディレクション目線での記事にしたいと思います。


■ GVGゲームとは?

GVGゲームとは「Guild Versus Guild」要素のあるゲームをここでは指します。作品によって言い回しは「クラン戦」「ギルド戦」「攻城戦」などなど、言い回しには数ありますが、ようは“複数人vs複数人”という構図で対戦をするゲーム全般の表現です。
 
今回の記事ではそういった複数人で競い合う「GVGゲーム」がゲーム市場においてどういった立ち位置にあり、またプランナーとして関わる際にどういった点を意識すべきかをまとめていければと思います。

■GVGゲームの市場

そもそもGVGゲームなんですが流行っているのでしょうか?

data.aiのレポートによると、

>2021年は4Xマーチバトル(ストラテジー)のジャンルのゲームがこのランキングをけん引しました。
>2ゲームの収益は97億ドルで、前年比で20億ドル近く増加しました。調査対象の28カ国中25カ
>2国で、支出ランキングの上位に激しい競争をするサブジャンルのゲーム(4Xマーチバトル(ストラテジ>2ー)、バトルロイヤル、MMORPGのいずれか)が入りました。

参照:2022年のモバイルゲーム市場動向 より
https://www.data.ai/jp/insights/mobile-gaming/state-of-mobile-gaming-2022-regional-analysis/
 
2021年における世界を俯瞰で見るとPVP含めた対戦系が支出ランキング上位に入っていたようです。対戦要素があるGVGゲームはかなり良いのではないでしょうか?
 
というのも、アプリゲームにはどうしても「サービス終了」という終着点がついて回りますが、アプリゲームは日進月歩で高品質かつ大規模なものになり開発・運用費はかさむ一方です。
 
限りある資産を使って最高のゲームを作ったとしても、それが利益に繋がらなければサービス終了。サービス終了してしまえば、それこそ利益はゼロですからそれだけは避けたいものです。
 
なので、「このゲームが利益を出せるか」については今後のアプリゲーム開発においても非常に大事な要素です。
 
では、世界的に見ても支出ランキング上位に入った「対戦要素」が含まれるGVGゲーム。なぜこれが良いのかという点も自分なりに考えをまとめていきます。

■GVGゲームのメリット

GVGゲームの大きなメリットは3点あると思っています。

  1. 離脱がしにくい

  2.  エンドコンテンツに付きない

  3. 課金モデルが作りやすい

メリット1)離脱しにくい

GVGゲームは複数人との戦いが含まれます。そのためギルドに属することが必要となります。
この「ギルド」という要素が、ユーザー定着をさせてくれるポイントになります。
 
人間の心理として「ハーディング効果」というものがあるらしいです。
カタカナが苦手な私からすると「同調圧力」と言われたほうが理解しやすかったりします。
人の心理的に周りに合わせて行動しがちになるというものです。
 
特別なアイテムがほしい、イベントに参加したい…など、ギルド参加への理由は個人差あれど一度ギルドに所属してしまえばメンバーは同じゲームを楽しむ仲間になります。もう自分ひとりで遊ぶゲームではないのです。
 
自分ひとりではすでに飽きてしまったりモチベーションが下がったとしても、自分が抜けてしまえばまだゲームに熱中している他のメンバーに迷惑がかかってしまう。
他のメンバーも同様にゲームを続けているのであれば、それに同調して続けてしまう。
そうしていくうちに、ゲームをより深くハマりエンドユーザー化していく。
 
他のゲームでは運営側があれやこれやと知恵を回して、ユーザー定着のために必死に施策やイベントを盛り込む必要がありますが、GVGゲームは「ギルド」という要素を設けることでユーザー間により、自然定着のレールに乗せることができます。
 
逆にもちろん一度ギルドが脱退の動きをはじめれば、群集心理的にゲーム離れが進んでしまうので諸刃の刃なのかもしれませんが…。

メリット2)エンドコンテンツに付きない

GVG要素があるゲームは、GVGそのものがエンドコンテンツになります。
ゲームをプレイする最終目標が「自分の所属するギルドが最強になる」というイメージです。
 
GVG要素のない他のゲームで考えると、「敵が強いステージ」などを用意することでユーザー目標として配置することができます。
 
アプリ運営が続くことでインフレは避けられません。
強いカードを配置しなければガチャによる収益は獲得できないためです。
 
ユーザーの持つ資産が日進月歩で強化され続けていれば、当時「敵が強いステージ」はあっという間にクリアされてしまいます。
したがって、運営側は新たな目標を提示しなければならなくなります。
 
倒されれば、次にもっと強いボスを運営がこしらえる必要がありますが
インフレや戦術が習熟してきたユーザーの資産環境を考えると、次の「ラスボス」の設定難易度はどんどん難しくなっていきます。
単にパラメータを強化するだけではユーザーには響きません。
 
ひるがえって、GVG要素がある場合だと運用はどうなるでしょう?
 
運営側は「ラスボス」を設計しなくても、「強いギルド」がある意味でラスボスの役割をしてくれるので、ラスボスを毎回設計するランニングコストをかける必要がなくなります。
 
新しいカードを入れれば戦術の幅やテクニックも増えますし、ラスボスとして位置していたギルドが崩壊しても次のギルドが「ラスボス」として入ります。
 
エンドコンテンツがユーザーにより自動構築されるので、ユーザーの目標が尽きにくいというのがGVGゲームのメリットの一つです。

メリット3)課金転換させやすい

メリットの1つ目で、ギルドによる同調と継続。
メリットの2つ目ではエンドコンテンツが尽きない点を話しました。
 
この2つがあることで自然とユーザーの遊ぶ環境では「自分以外のみんながエンドコンテンツを目指す」という空気感になります。
目標が一致したチームにより結束力が生まれます。
 
一方で、その目標として位置づけられているエンドコンテンツのユーザーはどうでしょうか。
きっと課金装備バチバチの非常に強いユーザー集団になります。
 
そこへ挑もうと言うのですから、ある程度の課金が求められます。
特にモチベーション高いユーザーは課金に対し積極的になるでしょう。
 
けれど、自分ひとりで勝てるかと言えばそうでもない。
GVGゲームは集団戦なので、一人の圧倒的なエースよりもチームの総合値が求められます。
 
自分だけが必死に課金して勝てない場合には、周りのギルドメンバーにも頑張ってほしいと願うものです。
 
前述の同調圧力やチームとしても目的意識が一致しているので、「自分が非課金を貫いているせいで負ける」となれば居心地が悪くなる。
そういった空気感も手伝い課金転換されやすい状況を作ることができます。
 
ゲーム運営をしていて特に難しいのが「非課金→課金」への転換です。
初回課金額を低くしたり、オトクな施策を出したりして苦労しながら課金ユーザーを増やしていく土壌づくりをユーザー間で「運営の悪印象」をもたせずに作ってくれる部分は非常にメリットです。
 
初課金ユーザーを増やしつつ、強くなることで1人ごとの課金額をあげることができる。
これがGVGゲームにおける課金モデルが作りやすい点になります。

■GVGゲームのデメリット

では、逆にGVGゲームにおけるデメリットはあるのでしょうか?

私が感じているデメリットは大きく2点あります。

・GVGゲームデメリット
運営に高い戦術知識が求められる
検証が難しい

デメリット1)運営に高い戦術知識が求められる

GVGゲームのメリットのひとつとして、ユーザー同士の競争がエンドコンテンツとして成立する点を紹介しました。
しかし、それはあくまでも「破綻しないゲームバランス」という前提あってこそです。
 
たとえば、次のガチャで出てくる装備やキャラが異常に強い”環境破壊キャラ”だったらどうでしょう。
課金すると強くなり、逆に課金しなければ勝てない状況になってしまいます。
 
これではユーザー間の戦術や作戦が介在する余地がなく、課金疲れを起こしてしまえばその時点でユーザーは目標や成長意欲を失ってしまいます。
 
ソーシャルゲームにおいてインフレは避けては通れない道。
けれど、GVGゲームにおいて求められるインフレは、「単純な強さ」や「上位互換」などの縦軸の成長ではなく、「作戦」や「戦術」などの”戦う手段”を増やす横軸のインフレが求められます。
 
そういった戦術や作戦を考えるとなると、それこそエンドユーザーの最前線レベルの戦術知識が必要になります。

  • GVGプレイヤーが今どういった戦術がトレンドか?

  • そのトレンドに対し、どういった対策が取れるか?

  • 今後、どういった流れを作っていくか?

単にパラメータを強くしてガチャで売る…というものは通用せず、ゲーム全体の戦術や作戦、バトルのトレンドを意識したゲーム設計が必須です。
 
この点があるため、GVGゲームの運営側には非常に高い戦術トレンドの知識が必要となり、数日ゲームに触れただけでは得られないため人材の枯渇・属人化しやすいうえ習熟時間もかかります。
 
他の人でフォローしにくい部分があるというのは、チームで運営するソーシャルゲームにおいて非常にボトルネックかつデメリットとなります。


デメリット2)検証が難しい

GVGゲームでは常に「多人数vs多人数」という状態で戦います。
 
ゲームバランスがちゃんと平等性が保たれているかについて検証するには、
ゲーム会社の社内で人を集めてプレイする必要があります。
そのうえ、ろくにゲームに触れていない素人では実際のユーザーのプレイ感と変わるため「一定のゲーム知識」を持った人を募ったうえでプレイする必要があります。
 
人材の確保ももちろんですが、大人数の時間確保を含め、ひとつの新スキルや新アビリティの検証のために、大量の工数を確保する必要があります。
 
ユーザーは新しい戦術の幅が広がることを求める一方、運営としては戦術の幅を広げるためには、多大な「検証工数」が求められるジレンマがGVGゲーム運営におけるデメリットになります。

まとめ

本記事ではGVGゲーム開発および運営におけるメリット・デメリットを解説していきました。ひとことでまとめると、「利益を出しやすいが、運用が大変」という内容になります。
 
成熟してきたソーシャルゲーム業界において「利益率の高さ」は非常に魅力的である一方、集団を扱うゲーム性ゆえに「一度離れれば一気に廃れる」という危うさもあるため慎重かつ丁寧なゲームデザインを心がけたいですね。


執筆者プロフィール:立野 健人
2020年にSHIFTへ入社。
入社前はコンシューマータイトルのデバッグからプランナーへ転向。
アプリゲームの開発から運営を経験し、現在はソーシャルゲームの運営サポートに従事。

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