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Deeptech | AWS : NEDO 助成金と AWS の活用セッション【開催報告】

国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)とアマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWS)は 2023 年 10 月 26 日に、「Deeptech | AWS : NEDO 助成金と AWS の活用セッション」を AWS Startup Loft Tokyo にて共同開催しました。

NEDO は「エネルギー・地球環境問題の解決」と「産業技術力の強化」をミッションに、イノベーション・アクセラレーターとして産学官の強みを結集した体制構築や運営、評価、資金配分などによって技術開発を推進してきました。そして、その成果の社会実装を促進することで、社会課題の解決を目指しています。

本イベントでは NEDO のスタートアップ支援事業に採択された事業者の経験談や、ディープテック分野における NEDO のスタートアップ支援事業全般についてのご紹介をしました。ここではそのレポートをお届けします。

オープニング

AWS パブリックセクター 事業開発マネージャー(Startup) 田村 圭

イベント冒頭では、AWS パブリックセクター 事業開発マネージャー(Startup)の田村 圭が、オープニングのあいさつをしました。

岸田内閣は 2022 年 11 月に「スタートアップ育成 5 か年計画」を発表しました。これは、スタートアップへの投資額を 2027 年度に 10 兆円規模とし、スタートアップを 10 万社、ユニコーンを 100 社創出するという目標です。融資制度や税制優遇、補助金など幅広い政策で援助する内容となっており、すでに 1 兆円規模の予算が計上されています。

「この施策により、本イベントのテーマであるディープテックを扱うスタートアップにも、多額の支援が行われます。そうしたスタートアップが活躍することで、この先の日本経済の成長にもつながると考えております」と田村は述べました。

“ディープテック”とは、特定の自然科学分野での研究を通じて得られた科学的な発見に基づく技術であり、その事業化・社会実装を実現できれば、国や世界全体で解決すべき経済社会課題の解決など社会にインパクトを与えられるような潜在力のある技術のことを指します。

そうした技術は、設備や研究への投資に多額の資金が必要であったり、製品化を実現するまでに長い歳月がかかったりするという課題があります。だからこそ、NEDO の助成事業を活用することには大きな意義があるのです。

「まだ NEDO の助成事業についてそれほど詳しくない方もいらっしゃると思いますので、今回のイベントで NEDO についてぜひ知っていただきたいです。また、ディープテック・スタートアップが AWS をどのように活用すればいいのかも、把握していただきたいと考えております」と田村は結びました。

ディープテックスタートアップ・パネルディスカッション

<スピーカー>
FRAIM株式会社 取締役 CTO 宮坂 豪 氏(写真左)
WOTA株式会社 インキュベーション責任者 山田 諒 氏(写真右)

<モデレーター>
アマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップ事業本部 福井 健悟

ここからは、NEDO の助成事業を活用したスタートアップとして、FRAIM 社の宮坂 氏と WOTA 社の山田 氏がスピーカーとして登壇。AWS の福井をモデレーターとして、NEDO 活用の経験談を語りました。

FRAIM 社は「文書作成を、再発明する。」をミッションとして、AI などの最新技術を用いて文書作成を「しくみ」ごと変えることを目指し、クラウド ドキュメント ワークスペース「LAWGUE」や関連技術ソリューションの研究・開発・提供を行っています。

FRAIM 社は NEDO が実施する「研究開発型スタートアップ支援事業/Product Commercialization Alliance(以下、PCA事業)」に、2022年度に採択されました。PCA 事業とは、提案時から 3 年ほどで継続的な売り上げを立てる具体的計画がある研究開発型スタートアップを対象とし、審査を行った上で最大 2.5 億円(助成率2/3)の助成を行うものです。

採択されたのは「LAWGUE」の基幹を支えるクラウド型エディタ技術をベースとした「規制改訂等に伴う影響文書の自動特定および修正支援技術の実用化」というテーマです。

また、WOTA 社は「水問題を構造からとらえ、解決に挑む。」を存在意義とし、独自の技術・ソリューションにより「水問題」という社会課題に正面から向き合っています。生活排水を再生し最大限有効活用する「小規模分散型水循環システム」およびそれを実現する「水処理自律制御技術」を開発しているのです。

WOTA 社も FRAIM 社と同様に、2022 年度に PCA事業で採択されました。採択されたのは、住宅規模の全排水再生循環利用に対応した小規模分散型水循環システムを、そのプロダクト化に向けて異なる場面や環境条件で実証し、性能・信頼性を検証する「小規模分散型水循環システム実証事業」です。加えて、WOTA 社は 2023 年度に、「ディープテック・スタートアップ支援基金/ディープテック・スタートアップ支援事業」のDMPフェーズにも採択されています。

セッションでは、両社が NEDO の支援を受けようと思った理由やディープテック・スタートアップが AWS を活用する利点、AWS に期待すること、NEDO の各種公募に応募する際の心構えや Tips などが語られました。

FRAIM 社は PCA 事業の公募で一度は不採択となり、2 回目の挑戦で採択されたといいます。その経緯について、宮坂 氏は「エンジニアを増員して開発速度を向上させたかったですし、インフラの費用も今後大きくなることが見えていました。だからこそ諦められませんでしたね。NEDO の助成金は金額が大きく、スタートアップにとって魅力的です」と話しました。

また、山田 氏は AWS の利用について「多種多様なサービスが用意されているため、ディープテック・スタートアップにとっても便利に活用できます。さらに、AWSの利用クレジットをご提供いただき、運用サポートも受けられるので、多くの利点がございました」と推奨しました。

これから NEDO の助成金を申請する企業に向けて、宮坂 氏は「採択前・採択後にどのような書類を作成する必要があるのかあらかじめ調べておくとよい」と説明。山田 氏は「申請時は、自社の事業の社会的な意義や研究開発した内容を事業化する方法などを申請書類に適切に記載してほしい」と述べました。

NEDO 事業説明会

ここからは、NEDO のイノベーション推進部に所属する方々が登壇。NEDO の概要やディープテック分野におけるスタートアップ支援の内容、申請方法などを解説しました。まずは NEDO イノベーション推進部 総括グループの村井 繁樹 氏が NEDO の支援内容について「ディープテック分野での人材発掘・起業家育成事業(以下、NEP事業)」を中心に説明しました。

NEDO イノベーション推進部 総括グループ 村井 繁樹 氏

NEP 事業は、NEDO が行う起業前後の方々を対象としたスタートアップ支援事業です。本事業は「開拓コース」と「躍進コース」の 2 つに分かれています。躍進コースにおいては、応募要件や支援内容に応じて「躍進 A」「躍進 B」「躍進 C」の 3 タイプを設けています。

開拓コースの対象となるのは、起業前の個人(チームでも可)。活動内容としては、自ら起業することも視野に入れながら、技術シーズを活用したアイデアの実現可能性に関する調査を行うこと。活動費としては月額 30 万円(税込)上限 300 万円までとなります。この費用は調査活動において自らが必要と判断した経費に使用でき、事業期間は NEDO が指定する日から 10 カ月程度です。

一方の躍進コースでは、「躍進 A」の助成対象は個人・チーム。「躍進 B」「躍進 C」は法人が助成対象(応募時が個人の場合、交付決定後に法人化する必要あり)です。活動内容としては、事業可能性の調査や、事業化促進に向けた研究開発や実証を行うこと。助成金額は「躍進 A」「躍進 B」が 500 万円未満であり「躍進 C」が 3,000 万円以内です。事業期間は 12 カ月以内となります。

●詳細は、本年度のNEP事業公募ページを参考としてご確認下さい。

※尚、来年度は変更になる可能性があることを予めご了承下さい。

NEP事業公募ページ(2023年度): https://www.nedo.go.jp/koubo/CA2_100393.html 

セッション内では NEP 事業の各コースの概要説明や実施体制の全体フロー、審査の方法、公募情報の見つけ方、応募の手順や各種参考情報などが網羅的に語られました。

NEDO イノベーション推進部 総括グループ 奥田 洋子 氏

村井 氏の次に登壇したのは、NEDO イノベーション推進部 総括グループの奥田 洋子 氏。 NEDO の支援内容について「ディープテック・スタートアップ支援基金/ディープテック・スタートアップ支援事業(以下、DTSU事業)」を中心に説明しました。

前述の通り、日本政府は「スタートアップ育成 5 か年計画」を掲げています。その施策の柱として「スタートアップへの資金供給の強化と出口戦略の多様化」が存在しているのです。その流れを受けて、NEDO によるディープテック・スタートアップへの支援策の強化のために、DTSU 事業が 2023 年度に開始されました。

ディープテックは、事業化や社会実装を実現すれば世界規模の課題を解決できるというような、社会にインパクトを与える価値を持ちます。一方で、そうした技術は研究開発の成果獲得や事業化・社会実装までに長期間を要する上に多額の資金も不可欠です。さらに既存のビジネスモデルを適用しにくいという特徴があります。そのため、国による支援の必要性が高いのです。

DTSU 事業では、ディープテック・スタートアップが行う研究開発や試作品の開発、量産化のための実証等に加え、市場獲得に向けた事業化可能性調査等に対する支援を行います。STSフェーズ(実用化研究開発(前期))、PCAフェーズ(実用化研究開発(後期))、DMPフェーズ(量産化実証)の3つのフェーズを設けており、事業の進捗度に適合した支援を行います。また、ステージゲート審査を経ることで、複数フェーズでの中長期的な支援を行います。

これらの支援の実施にあたっては、スタートアップの資金調達スパンに応じた支援とするべく、VC等やCVC、事業会社、金融機関から、所定の期間内に、助成対象費用の一定割合以上の出資又は融資を受けることを必須の要件としています。

助成金額上限は、 STSフェーズ が 3億円又は5億円、PCA フェーズが 5 億円又は10 億円、DMP フェーズが 25 億円となり、複数フェーズを跨ぐ場合も 30 億円としています。また、事業期間は次の資金調達の時期を目安に設定することとし、同一フェーズ内で4年まで、複数フェーズを跨ぐ場合も6年までとしています。

●詳細は、DTSU事業公募ページをご確認下さい。5年間の通年公募を行っていますが、年4回程度の提案受付機会を設けており、当該機会ごとに公募ページが異なり、公募内容も変わりうる点にご留意ください。

※DTSU事業公募ページ(2023年度第3回の例): https://www.nedo.go.jp/koubo/CA2_100429.html

セッション内では各事業の支援対象者や対象分野、事業の流れ、経費計上に関する留意事項、提出資料の内容などが語られました。

(※NEDOの助成事業に関する情報は諸事情等により変更が生じる可能性がございます。)

AWS パブリックセクターは今後も、ディープテック・スタートアップがイノベーションを加速させるための、さまざまなテクニカル・ビジネスセッションやコミュニティ活動を実施予定です。ご関心を持たれた方は、ぜひお気軽にこちらまでお問い合わせください。社会課題解決イノベーションに取り組まれる、スタートアップや研究者のみなさまのご参加をお待ちしております!

このブログは、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 パブリックセクター 事業開発マネージャー( Startup )である田村 圭が執筆しました。