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Laboro.AIコラム

「品質管理AI」の違和感。その役目は人にある。

2022.3.13
株式会社Laboro.AI マーケティング・ディレクター 和田 崇

概 要

とくに製造業では、製造する製品そのものや製造ラインの品質管理をいかに行うかが、そのクオリティを左右すると言っても過言ではなく、近年、この品質管理にAIを活用する事例が増えてきています。とはいえ、「品質管理」は本当にAIにさせるべきことなのでしょうか。今回のコラムでは、製造業を中心に進められる品質管理へのAI導入について、その事例をご紹介しながら考えていきます。

目 次

品質管理業務にAIが取り入れられている
AIを活用した4種の品質管理
 ・異常検知
 ・外観検査
 ・安全管理
 ・工程最適化
品質管理でのAI活用事例
 ・鉄道設備の画像異常検知
 ・商品の欠損確認
 ・船舶の経路を最適化
 ・立入禁止区域にいる作業員を検知
品質管理をするのはAIではなく、人だ

品質管理業務にAIが取り入れられている

製造ライン上での品質管理は、従来から「匠の目」「神の手」とも呼ばれるスキルと経験を保有したベテラン作業員による確認が不可欠でした。ですが、こうした職人技による作業は、その伝承が難しく、担い手の育成と確保が大きな課題になっています。

たとえAI技術を用いたとしても、こうした経験と勘に基づく技を完全に代替することはできません。ですが、膨大なデータからパターンを学習し、その特徴や傾向を見出することを得意とするAIによって、明らかな誤りや欠落、破損、異常、予兆を捉えることができれば、手間だけがかかっていたルーチン業務が効率化され、人がより職人的な作業へと集中できる環境と時間が生み出されていくことへとつながるはずです。

AIを活用した4種の品質管理

では、AIは具体的にどのように品質管理に貢献ができるのでしょうか。ここでは、4つの品質管理の領域をご紹介します。

異常検知

昨今のAIブームを支える領域の一つが、この異常検知です。異常検知とは、文字通り、正常な状態とは異なる状態や状況を検知・検出・予知する分野で、製品の破損・劣化や機械の故障を発見あるいは予防することを目的としたAI活用領域です。なお、厳密な定義は曖昧ですが、こうした異常箇所を発見することを目的とした近しい言葉として、異常検出、外れ値検知など、また異常を予測することを目的とした領域として、異常予測、故障予測、故障予知、予兆検出などがあり、これらは同類の品質管理の領域と捉えることができます。

AI技術の精度も日進月歩で進化しており、人間には見つけられないような異常を検知できる仕組みも少なからず開発されてはいますが、学習データを必要とする「教師あり学習」が主流である現在のAI技術の活用においては、「人の目でわかる異常の検知を機械に任せる」という使い方が今なお主流です。

異常検知のケースとして多いものは、見た目にわかる異常や欠落、破損などを検出することを目的とした画像AI領域がやはり主流ですが、他にも製造機械の異音を検知するといった音声AI領域でも活発にPoCが行われています。

参考:Laboro.AI エンジニアコラム「時系列データに異常発見。『時系列異常検知』とは

外観検査

異常検知の一つとも言えますが、特に近年キーワード化しているのが外観検査です。生産品はもちろん施設・設備などの外観の検査を目的としたこの領域では、当然ながら画像データが用いられ、撮影の仕方や判定のロジックをどう構築するかキーになります。

例えば製品の外観上のキズを判定するという場合、同じ製品の写真であっても、それを撮影する角度や明るさ、画素数などが都度異なれば、それはAIに取ってみれば一つ一つが全く異なるシーンであるため、できる限りキズの有無だけに判定をフォーカスできるよう撮像環境を整えることが非常に重要です。

また、その判定・評価ロジックを構築することも欠かせません。「キズ」と言った場合、具体的にキズとは何なのか(何mm以上あって、どのような形状なのか等)、キズの許容範囲はどこか(良品・不良品を決める水準等)、こうしたルール・基準作りができていないとAIを導入した製造ラインは「不良品」として誤判定された製品の山になってしまいます。こうしたルール作りができない場合には、そもそも今のタイミングで品質管理にAIを組み込むのが適切なのかを検討する必要があるでしょうし、誤判定があることを前提とする場合には、その後工程にくる人の業務オペレーションをどう組んでいくのかなど、AIのみならず業務側の再設計も重要な検討ポイントになってきます。

参考:Laboro.AI プロジェクト事例「インフラ設備の劣化箇所検出
   Laboro.AI プロジェクト事例「波形解析による管内外面の損傷検出

安全管理

作業員の安全を確保することを目指した安全管理にもAIが用いられています。安全そのものは製品の品質に直接関わるものではありません。ですが、安全な環境の整っているかどうかは、作業員のモチベーションやメンタル面に反映されるはずで、結果として製品や作業の品質に影響することは間違いありません。

立入禁止区域にある人影の発見や、機械の暴走の発見など、安全管理は、作業現場内の危険な状態を発見するという点で異常検知に似ているものがありますが、その目的が製品や機械・設備の異常の発見ではなく、場合によっては命の危険も伴う工場内や建設現場などでの人の安全を守ることにあります。

通常、機械や現場状況がどのような状態にあると危険なのかということを人が察知するには、やはり長年の経験と勘が必要なものです。AIを活用した安全管理システムを導入することによって、新人作業員であっても一定の危険を回避しつつ、危険が迫った時にはアラートを発信するなどの仕組みを構築するなど、AIによる安全管理は、安全技能の伝承という側面も持っています。

参考:Laboro.AI 代表的なソリューション「映像から危険を察知 安全管理ソリューション

工程最適化

製造業や建設業、流通業など、人の作業が伴う業界・現場には、生産工程、製造工程、作業工程、建設工程、配送工程といった工程が必ず存在します。これら工程をいかに生産性高く設計し、効率的に運用できるかは、その製品・サービスの品質に直接的に関わってくる部分だと言えます。

工程というものは、必ず前工程と後工程が順番に連なることによって構成されます。その一つ一つの作業工程をどう組み合わせて最適な順序を設計するか、つまり「組合せ最適化問題」を解くことによって、理想的な工程は導き出されます。

例えばトラックの配送ルートの策定など、こうした組合せ最適化問題ではこれまで「離散最適化」という分野によってその解法が数多く生み出されてきましたが、近年、強化学習を用いて組合せ最適化問題を解決するケースも誕生してきています。

参考:Laboro.AI 代表的なソリューション「強化学習×最適化 組合せ最適化ソリューション

品質管理でのAI活用事例

では、実際のビジネスシーンでは、品質管理にどのようにAIが適用されているのでしょうか。ここでは3つの事例を見ていきたいと思います。

鉄道設備の画像異常検知

JR西日本はAIによる異常検知を行うため、新たな総合検測車「DEC741」を導入することを2021年11月に発表しました。DEC741では、車上に搭載されたカメラを使って線路・電柱・信号機などの状態を画像として取得、AIによって異常検知を行います。これまでこうした検査は主に人の目で行われていましたが、AI検知が十分な効果を発揮すれば、鉄道の安全性を高めた上で年間約16億円という莫大なコスト削減が見込まれるとしています。

出典:Ledge.ai「JR西日本、AIで鉄道設備を車上から確認 年約16億円のコスト削減見込む

商品の欠損確認

ドイツの自動車メーカー アウディでは、2016年から品質検査をすべてAIによって行うことを目指しており、その一環としてプレス工場での品質検査にディープラーニング技術を用いたAIシステムを導入しています。この品質検査は、プレス時などで板金に生じるわずかな亀裂をAIによって検出するというもので、数百万枚もの画像で学習を行ったAIシステムを活用し、目視確認からの代替が可能になったと言います。

出典:Audi “Audi optimizes quality inspections in the press shop with artificial intelligence

船舶の経路を最適化

精油所で精製されたガソリンなどの燃料は、タンカーによって全国各地へ運ばれていきますが、季節による需要の変化を始め、どこにどれだけの燃料が必要なのかは細かく変わってきます。そういった状況に対応するために配送計画が作られますが、800を超えるパラメータを人間の頭で計算して計画を作る必要があり、属人的で精度にも課題があると言われています。

出光では、国内のスタートアップ企業と協力し、これまで人力で行っていたタンカーの配送計画作成をAIに実施させるプロジェクトを進めており、工数にして60分の1もの削減になったことが発表されています。

出典:BUSINESS INSIDER 「AI最適化で「1カ月分の計画を10分で立案」出光のタンカー配船計画の裏側に見える、AI業界の未来

立入禁止区域にいる作業員を検知

JFEスチールでは、画像認識技術を用いて製鉄所などでの安全性を高めるサポート技術として、禁止エリアへの立入に関するシステムの実用化に成功しています。このシステムでは、大量の人物画像にディープラーニングを施してその特徴を学習、作業員が立入禁止エリアに入ったときにアラートを発するとともに、自動でラインを停止するという仕組みになっています。発表によれば、状況によって立入禁止エリアが変化するような場合にも対応し、正しくエリア認識が可能になったとされています。

出典:JFEスチール株式会社「国内業界初となるAI画像認識による安全行動サポート技術の導入について

品質管理をするのはAIではなく、人だ

「品質管理AI」という言葉を目にすることもありますが、この言葉には少し違和感がなくもありません。なぜなら、AIそのものは過去に学習したデータの傾向を参考にして、似た事象あるいは似ていない事象を推論するに過ぎないからです。これらは結果として「異常検知」「故障予知」などと呼ばれるわけですが、結局のところ、こうした特定の事象を「認識」&「予測」することがAIによってできることであり、「管理」という行為は人によってでしかできないのです。

辞書Oxford Languagesによれば「管理」とは、

よい状態であるように気を配り、必要な手段を(組織的に)使ってとりさばくこと。

だとされます。つまり、AIは、人々が良い状態や環境で働き、生活し、生きていくために使われるツールでしかありません。良い状態が作れるかどうかは、AIという機械によって自動的に為されることではなく、人が決め、方向づけ、実行されることによって達成されるものなのです。

そういう意味で「品質」という言葉には、製品や機械、設備だけではなく、私たちの人としてのあり方の質という意味も含まれているようにも感じます。「品質管理AI」なる魔法の装置が存在しないのだとすれば、従業員や作業者をはじめ、人々にとっての良い状態とは何を指すのか、そしてAI技術をはじめとする新たな技術ツールを用いてその状態をどう作り出していくかを、必死に考え始めるときです。

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