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データと AI でサプライチェーンの価値を引き出す

先月、2024 年のサプライチェーンについての予測ブログを共有しました。 このブログでは、複数のシステムに分散したデータを統合データモデルにまとめる必要性について詳しく説明します。 サプライチェーンのリーダー達は、広大なグローバルネットワークと顧客の期待の高まりにより、ますます複雑化に直面しています。 顧客がより多くの品揃え、持続可能性の向上、商品やサービスのオンデマンドデリバリーを求めた結果、サプライチェーン管理は戦略的な差別化要因に変わってきています。

デジタルサプライチェーンは、可視性やレジリエンス、スピードや俊敏性の向上といった、運用上のメリットをもたらします。 ただし、その可能性を最大限に引き出すには、分断されたシステムに分散した断片化されたデータから価値を抽出する必要があります。 データはイノベーションを促進する新しい経験と洞察を促進しますが、組織全体で価値を引き出すデータ戦略を構築することは簡単ではありません。 また、サプライチェーンチームは、手作業によるレポート作成、スプレッドシート、複雑なデータ操作といった負担をなくし、セルフサービスでデータにアクセスしたいと考えています。 さまざまなデータセットが企業全体や、さらにそれを超えて取引先のシステムまで分散しているため、データシステムは広範囲に拡がり、サイロ化し、複雑化しています。 そのため、サプライチェーンチームはデータをつなぎ合わせるのに長い時間を費やし、データモデルが変更された場合はこのプロセスをやりなおさなければならず、永久に続く手作業のサイクルを作り出しています。 エンドツーエンドの可視性を実現し、有意義な洞察を得るには、さまざまなソースにわたるデータを統合して調和させる必要があります。イノベーションを加速し、将来の混乱に備え、顧客のニーズを満たすために、 組織はサプライチェーン全体でのデータの活用方法を全面的に見直す必要があります。

最高サプライチェーン責任者(CSO)、サプライチェーンの責任者、その他のサプライチェーンのリーダーは、強力なデジタル基盤、AI、高度なアナリティクスを可能にする統一データモデルの必要性を認識しています。 データを手動で集計して正規化するプロセスは複雑で時間がかかり、エラーも起こりがちです。 また、多くの組織では、カスタムデータ統合作業に必要な社内スキルやリソースが不足しています。 このブログでは、組織全体のサプライチェーンデータを一元的に把握することで、エンドツーエンドのプロセスの可視性を向上させ、俊敏性を高め、レジリエンスを向上させ、運用コストを削減し、全体的な持続可能性リスクを軽減する、唯一の信頼できる情報源をどのように提供するかを概説します。 また、組織が計画を最適化し効率を向上させ、顧客の要求を上回れるようにするための統合データ基盤を AWS Supply Chain がどのように提供するかについても説明します。

AWS Supply Chain データレイク

AWS Supply Chain は、サプライチェーンデータレイク (SCDL) による統合データ管理を提供します。これにより、エンドツーエンドの可視性、より正確な需要予測、サプライチェーンの耐障害性を実現します。 SCDL は、断片化されたシステムをまたがってデータを取得し、標準化し、統合するための機能を標準で提供する、柔軟でスケーラブルなデータインフラストラクチャです。 サプライチェーンデータを集約して高品質で統一されたデータ資産に関連付けることで、組織は企業の集合知を活用できるようになります。 これにより、組織は新しいテクノロジーを探求しながら、既存のプロセスを最適化することができます。 また、SCDL は予測精度の向上、過剰在庫の削減、サイクルタイムの短縮を可能にします。 データに基づく洞察により、レガシーシステムの機能が強化され、長期的なモダナイゼーションを容易にします。

専用のコネクタにより、エンタープライズリソースプランニング(ERP)、倉庫管理システム(WMS)、注文管理システム(OMS)、輸送管理システム(TMS)、調達システム、フラットファイル、データベースなど、一般的なサプライチェーンのデータソースとデータフォーマットを迅速に取り込むことができます。 SCDL はまた、機械学習(ML)と自然言語処理を活用して非構造化データを解析し、サプライチェーンのコンテキストを理解します。この ML アルゴリズムは、一般的なサプライチェーンのデータ構造と関係について事前にトレーニングされています。 これにより、一般的なデータレイクツールと比較して、より正確なエンティティ認識とマッピングが可能になります。

SCDL は、Amazon QuickSight, Amazon SageMaker, AWS Glue, AWS Glue DataBrew などの分析およびデータサイエンスツールと統合されています。 標準化されていないデータを変換するための AWS サービスの利用方法については、以前のブログをご覧ください。 データ変換の高速化により、データチームは影響の大きいモデルをより迅速に提供し、ETL (抽出、変換、読み込み) 操作を簡素化できます。 IoT や機械学習等の技術の進歩により、SDCL は分析基盤としても機能し、サプライチェーンデータ基盤を将来も使い続けられるようにします。 AWS は、 zero-ETL の未来に向けた投資を行い、お客様が新しい洞察を発見し、より早くイノベーションを行い、より良いデータ主導の意思決定を行えるようサポートしています。

複雑な ETL やデータモデリングに費やす時間をなくすことで、統合データが脆弱性やボトルネックを解決するような、価値の高いユースケースを迅速に採用できます。 SCDL は、エンドツーエンドの可視性を高め、データ主導の洞察を引き出すための信頼できる唯一の情報源を提供します。

SCDL は AWS Supply Chain のモジュールの基盤となり、在庫の可視性を高め、在庫やリードタイムのリスクを軽減するための ML に基づく推奨事項により包括的なビューを提供します。 Demand Planning では、Amazon のサプライチェーンの専門知識と ML を組み合わせて、過去と現在の販売データを分析し、予測情報を作成し、精度を高めるためにモデルを継続的に改良します。傾向と異常を分析し、混乱を予測し、問題が発生したときに優先順位を付けるために ML を使用することで、組織はレジリエンスを高めることができます。アナリストは、データの処理に費やす時間が少なくなり、ビジネス判断にインサイトを適用する時間が増えます。AWS Supply Chain を使用すると、状況認識力を高め、計画を最適化し、需要に対応した供給を行い、変化するビジネスニーズに対するデータの整合性を向上できます。

今年後半には、Amazon Q in AWS Supply Chain をリリースする予定です。これは、Amazon Bedrock を搭載した生成 AI アシスタントで、サプライチェーン管理の生産性を向上させます。 Amazon Q in AWS Supply Chain は、需要変動、在庫状況、ベンダーのリードタイムの不確実性に関する重要な質問に回答する自然言語インターフェイスを提供します。 SCDL に格納されたデータを問い合わせ、「何が」「なぜ」といった質問に対するデータ主導の回答を得ることができます。 Amazon Q in AWS Supply Chain は業務用に特化して設計されており、使用する組織の SCDL に合わせてカスタマイズされます。

まとめ

イノベーションのペースと顧客需要は世界的に加速しています。 組織は、競争力を維持するために必要な可視性、スピード、およびレジリエンスを実現するために、集合的なデータインテリジェンスを活用する必要があります。データは、AI/ML の潜在能力を引き出すデジタルトランスフォーメーションの基盤であり原動力です。

SCDL は、分断されたサプライチェーンデータを広く活用できる高品質な資産に迅速に統合するための専用機能を提供します。 これにより、予測からサプライチェーンのデジタル化まで、データ主導のイノベーションが促進されます。 AWS Supply Chain は、既存のサプライチェーンのデータ投資から価値を引き出すための迅速かつ簡単な方法を提供します。主な利点は次のとおりです。

  1. 事前構築済みのデータコネクタにより、価値創出までの時間を短縮。
  2. 手動による複雑なデータ統合を最小限に抑えることでコストを削減。
  3. 集計分析により、在庫状態の可視性を向上。
  4. データに基づく洞察によるサプライチェーンのレジリエンスの向上。
  5. 予測精度の向上と在庫コストの削減。
  6. サプライチェーン専用の機能により、イノベーションサイクルを短縮。

AWS Supply Chain の Web サイトを閲覧いただき、サプライチェーンデータを迅速かつ大規模に活用する方法の詳細について確認ください。 セルフペースで学べる技術概要については、AWS Workshops をご覧ください。

本ブログはソリューションアーキテクトの水野 貴博が翻訳しました。原文はこちら

著者について

Diego Pantoja-NavajasDiego Pantoja-Navajas は AWS Supply Chain の Vice President で、ビジネスアプリケーションのビジョンの策定と実現を担当しています。彼と彼のチームは、サプライチェーンの機能を根本的に考え直し、世界で初めての継続的に改善するサプライチェーン管理システムを市場に提供することに注力しています。彼は顧客の成功に情熱を注ぎ、SaaS、クラウド、AI/ML テクノロジーを活用して、サプライチェーン、e コマース、フルフィルメントに関連するビジネスの問題を解決するための高度に使いやすく知的な B2B エンタープライズソフトウェアソリューションを構築しています。Diego はジョージア工科大学の優等卒業生で、MIT の人工知能・機械学習のエグゼクティブエデュケーションコースを修了しています。また、IESE ビジネススクール、ミシガン大学ロス・ビジネススクールとのパートナーシップのもと、リーダーシップコースにも参加しています。彼は南フロリダに家族と暮らしており、顧客のビジネスの成功をさらに推進する革新的な製品やソリューションを学ぶことを常に喜んでいます。