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Laboro.AIコラム

エッジAIの活用に必要な、二つのデザイン

2022.3.20公開 2024.3.6更新

概 要

さまざまな産業での導入が活発になっているAI。ニュースや日常シーンでもその言葉を耳にする機会が多くなりました。AIの新たな在り方の一つとして近年注目が集まっているのが、デバイス側にAI機能を搭載した「エッジAI」です。このエッジAIをうまく導入・活用するためには、「二つのデザイン」ができるかが重要なポイントになります。エッジAIの概要やメリット・デメリット、活用事例の紹介をしつつ、二つのデザインについて考えていきます。

目 次

エッジAIとは
 ・オンプレミスとは
 ・クラウドとは
エッジAIのメリット
 ・リアルタイム性
 ・通信費など固定費のコストカット
 ・セキュリティリスクの軽減
エッジAIのデメリット
 ・大規模データの処理ができない
 ・システムと業務オペレーションが複雑化する
エッジAIの活用事例
 ・自動運転車
 ・製造現場・製造工程でのセンシング
 ・農業での作業支援
 ・遭難者や事故車両発見に役立つ通信装置
テクノロジーとビジネスをデザインする

エッジAIとは

「端」を意味する言葉「エッジ」が頭についた「エッジAI(Edge AI)」とは、ビジネスシーンの末端、つまりよりユーザーに近い場所に設置されるデバイスに搭載されたAIを指します。これまでAIが導入される多くの場合には、システムの中でも中枢にあるサーバー上でその処理を動作させることが主流でした。一方、エッジAIではデバイスそのものが得たデータをそのデバイス内で処理し、インターネット通信を介さずとも、その場で特定の認識処理、分析処理、フィードバック処理を行うことが目的とされています。

エッジAIを搭載したデバイスの例には、スマートフォンや自動車、小売店に設置されたAIカメラなどが挙げられます。例えば、自動運転車は車体に搭載された各種センサーで周囲の状況をデータとして収集し、その情報を処理し、前進や停止などの物理的な操作につなげていきます。

もしAIの処理環境を「料理をする環境」に例えると、エッジAIはキャンプ場のようなもので、キャンプ場での限られた設備・道具を用いてカレーライスのような限定された料理のみが調理可能な状況に例えられます。つまり、計算能力や処理内容にかなり制限・限度が設けられた仕組みなのです。

オンプレミスとは

キャンプ場的なエッジAIと異なり、自宅の使い慣れたキッチンと道具で、じっくり時間をかけてたくさんのメニューを調理できるような環境が、「オンプレミス(on Premise)」です。つまり、AIの処理に必要なサーバーといったハードウェアやソフトウェアを自社内に構築する方法がオンプレミス(略して「オンプレ」とも呼ばれる)です。環境構築のための初期費用の高さやセキュリティ対策、メンテナンスの手間ひまなどのコストがかかるデメリットがある一方、システムの柔軟性の高さや情報漏洩などのリスクが低いことがメリットとして挙げられます。

クラウドとは

自宅キッチンではなく、キッチンスタジオを借りて料理をするような場合、つまり外部のプラットフォーマーが提供するクラウド上の環境を借りてAI処理を回すようなシステム環境が「クラウドコンピューティング(Cloud Computing)」(略して「クラウド」と呼ばれる)です。店内カメラで画像撮影をして、そのデータをインターネット上に上げて処理、その結果をまたインターネットを介して端末側に送り返すといった使い方が主流で、ITジャイアントであるGoogle(GCP: Google Cloud Platform)、Amazon(AWS: Amazon Web Service)、Microsoft(Microsoft Azure)がこうしたクラウドサービスを展開しており、三大プラットフォーマーとも呼ばれています。

クラウドのメリットは、自宅にわざわざ豪華なシステムキッチンを作らなくて済むことと同じように、外部環境を借りるため初期費用が低く済むことや、膨大・大量のデータ処理も行えるような充実した処理環境を確保できることなどが挙げられます。しかし、リアルタイム性という点ではエッジAIに劣ること、複雑なタスクをAIに実施させようとするとやはり結果として高コストになってしまうこと、さらには、基本的に万全な環境ではあるものの社外に情報を送信するという点でどうしても情報漏洩のリスクと隣り合わせにあること、などがデメリットとして挙げられます。

エッジAIのメリット

キャンプ場での料理のような、言ってしまえば制限のある貧弱なエッジAIが、なぜ注目を集めているのでしょうか。その背景には、次のようなエッジAIの長所が発揮される期待があるからです。

リアルタイム性

エッジAIのメリットの一つが、リアルタイム性です。AIの処理環境として主流であるクラウドAIでは、通信のためのタイムラグが発生するため、即応性を高めるには限界があります。例えば、自動運転車に搭載されたセンサで道路に飛び出した人を認識したものの、その判定に何分・何時間もの時間がかかってしまっては意味がありません。エッジAIのようにデバイスそのものに処理機能が搭載されていれば、リアルタイムでの処理性能を高められるわけです。その他、身近な例ではデジタルカメラのスマイルシャッター機能も分かりやすい例かもしれません。瞬間的に現れる人の笑顔を捉えるためには、やはりリアルタイム性が鍵になります。

通信費など固定費のコストカット

コストカットも特にクラウドと比べてのメリットと言えます。クラウドAIサービスは従量課金制であることがほとんどで、こうした通信費をはじめとする固定費がコストとして大きくのしかかることが課題となり得ます。もちろんエッジAIでもそのシステム次第では外部サーバーにデータを送信することも考えられますが、エッジAIそのものは基本的にデバイス内で認識・推論処理を完結するため、こうしたコストカットにつながりやすいと言われています。

一方で、AI機能搭載のセンサやカメラなどのエッジデバイスの開発あるいは購入・導入には当然ながら費用がかかります。開発・購入、そして運用にかかるコストを見比べながら、最適な推論環境を選択することが肝要であることは間違いありません。

セキュリティリスクの軽減

クラウドであろうとオンプレであろうと、インターネット上にデータを送信することにはやはり情報漏洩のリスクが伴います。例えば、小売店内の顧客分析のために店内防犯カメラの映像データを送信する場合、映像内に映った顧客の顔の画像は個人情報に当たり、こうした情報が漏洩した場合は企業の信頼を大きく損なうことにつながります。

エッジデバイス上でこうした顔情報を削除してからデータ送信する仕組みを搭載して、データ送信を行うことも可能になっています。しかし、やはり外部のインタネット上にデータを持ち出さずにエッジAI内で処理を完結できた方が、セキュリティリスクは低くなります。とはいえ、エッジAIのセキュリティリスクがゼロというわけではもちろんありません。デバイスそのものが物理的に盗難されることもあり得るなど、エッジAIなりのセキュリティリスク管理を実現する現場運用が必要になってきます。

エッジAIのデメリット

オンプレ、クラウド、エッジAIは、どれが優れているかという話ではなく、「目的に合わせて最適な環境を選択・構築する」という観点によって選ばれるべきです。そうした意味で、エッジAIのデメリットもしっかりと押さえておく必要があります。

大規模データの処理ができない

コンピュータールームに置かれているような大規模なサーバーの大きさとの比較を想像すれば明らかですが、基本的にエッジAIはモノとしては小さく、計算処理するためのモジュールを搭載する物理的なスペースも限られるため、どうしてもその処理性能に限界があります。

近年、センサーチップの機能向上などもあり、エッジAIの性能も高度になってきています。しかしエッジAIは基本的に、データを用いた学習は別環境で行い、学習済みのAIモデルを搭載・活用するために用いられます。また大量のデータ分析、あるいは複数のタスク処理を同時にさせるような場合には、クラウドあるいはオンプレ環境を採用することが一般的です。

システムと業務オペレーションが複雑化する

これはエッジAIそのものというよりも、「何のためにエッジAIを導入するのか」という人の見定めの部分と言えます。「とにかく流行っているから」という理由でエッジAIの導入をすれば、かえってシステム全体が複雑化してしまいます。

また、こうした新たなシステムを導入する場合、通常、現場の業務オペレーションを組み直す必要が生まれてきます。例えば、店内の陳列棚の状況をAIカメラで認識し、その情報をリアルタイムに店内スタッフに通知する「リアルタイム在庫把握システム」を導入するケースを考えてみます。通知を受けて補充に走る役割はどのスタッフに任せるのか、また、さすがに全商品の把握は困難であることを前提とすると従来の補充運用とどう並列してオペレーションを組むのか、さらに、店内で調理している惣菜にそのシステムを導入する場合、調理時間を考えると通知をどのタイミングで発するのがベストなのかなど、目的や活用内容に応じて必ず業務オペレーションの変更が発生します。

新しい技術を用いることの魅力はもちろんありますが、「何に、どう使うのか」という点を事前に検討しておかなければ、やはり宝の持ち腐れになってしまいます。

エッジAIの活用事例

最後に近年のエッジAIの活用例を紹介します。

自動運転車

前述の通り、エッジAIの活用が最も期待されている分野の一つに自動運転車があります。クルマを自動で運転させるに当たっては、周囲の状況を把握してから運転の制御を行うまでにタイムラグがあってはならず、人間による運転と同等かそれ以上の安全性や快適性を確保する必要があります。

自動運転技術は着実に発展してきており、AI技術やセンシング技術の発達により、運転の主体がドライバーからシステムへと変わる「レベル4」の実現が見えてきたと言われています。自動運転の実用化を盛り込んだ改正道路交通法が2023年4月に施行され、そこでは新たな交通主体・分類として「特定自動運行」や「遠隔操作型小型車」が定義されています。特定自動運行はドライバーが車内にいない、いわゆる自動運転レベル4を想定したもので、遠隔操作型小型車は歩道を走行する自動配送ロボットなどを想定したものです。

自動車メーカー各社もそれぞれの動きを見せています。日産自動車は2027年度に国内で自動運転サービスを始めると発表。オンデマンド型の乗り合いサービスを想定し、まず2024年度に横浜市で走行の実証実験を始め、将来的には特定条件下で運転を完全自動化するレベル4への対応も視野に入れるとしています。ホンダは米国のゼネラル・モーターズと組み、2026年から都心で無人タクシーサービスを始める計画で、両社が共同開発する、運転席がない自動運転の専用車両「クルーズ・オリジン」を使い、レベル4に対応するとしています。トヨタ自動車は、ソフトバンクと共同出資するモネ・テクノロジーズが2024年7月にレベル2の自動運転サービスの実証実験を始める予定で、将来的にはレベル4などの高度な自動運転の実現を目指すとしています。

出典:自動運転ラボ「ついに4月「自動運転レベル4」解禁!進化した道交法、要点は?」
   日本経済新聞「日産、27年度に自動運転サービス レベル4も視野に」

当社では、みちのりホールディングスとの取り組みを進めています。同社の自動運転に関するプロジェクトは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「グリーンイノベーション基金事業/スマートモビリティ社会の構築」と、経済産業省「無人自動運転等の CASE 対応に向けた実証・支援事業(自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実証プロジェクト(RoAD to the L4)(テーマ2))」とに採択されています。当社はこれら二つの採択プロジェクトの協働推進パートナーとして、EVバスの運転手やバスの割り当て最適化、EVバスの充電計画を含んだ運行の最適化などの実現に向けたAI技術開発ノウハウの提供のほか、プロジェクト進行に係るシナリオ作成、自動運転バスの路線導入に関わるビジネス課題整理や要件定義などの各種アドバイザリー支援を行ってきました。さらに詳しくはこちらのページをご覧ください。

参考:PR TIMES「みちのりHDとの協働プロジェクト推進にあたり、自動運転バスの導入・EVバス運行管理などに関するアドバイザリーを実施」

製造現場・製造工程でのセンシング

多くの危険が伴う製造現場で、安全管理のためにエッジAIを用いたシステムが導入されるケースが増えています。立入危険区域への作業員の侵入や、製造機械の暴走・故障など、作業員の安全を確保するためにはこうした特定のシーンをリアルタイム性に検出する必要があります。また、不良品選別など製造過程での異常検知・検出においてもエッジAIを活用する例が増えています。ヒューマンエラーを完全になくすことは難しいものの、比較的簡単な一定の異常をリアルタイムで検出可能にすることで、ダウンタイムの影響を少なくし、また人的なリソースをルーチン作業から解放させることに期待が寄せられます。

参考:Laboro.AIコラム「『製造DX』は幻想か。AI導入の今と展望」

農業での作業支援

就業者不足が深刻であり、作業の効率化や無人化の実現が期待される農業においても、エッジAIが大きな役割を担っています。完全無人化は難しいとしても、トラクターなどの農業用車両を自動運転で制御する構想が描かれるほか、農薬の自動散布や農場の保守のためにドローンの活用が進められているなど、多くのシーンでエッジデバイス・エッジAIの活用素地が整いつつあります。

参考:Laboro.AIコラム「 守れ、農業。AIが描く第一次産業の進化像」

遭難者や事故車両発見に役立つ通信装置

シャープは早くて2024年度に、高速通信規格「ローカル5G」対応の通信装置を発売する計画です。半径200〜300メートルほどの範囲に5Gの通信環境を整備でき、救助隊のカメラ付きドローンとの連携を想定しています。4K画質の映像をリアルタイムで確認できる通信環境をつくり、より広範囲の災害現場を早く探索できるようにするだけでなく、エッジAIを搭載することによって遭難者や事故車両を自動検知する機能も実現しているとしています。

出典:日本経済新聞「シャープ、防災起点で新規事業 数年内に水循環の洗濯機」

テクノロジーとビジネスをデザインする

富士キメラ総研が行った調査によると、2018年には110億円と見込まれていたエッジAIの市場は、2030年には664億円にまでなると予測されています。今後、益々の技術進化とビジネス活用が見込まれるエッジAIですが、調理の例えで触れたように「何に、どう使うか」を検討した上で、オンプレ、クラウド、エッジAIから最適な環境を選択することが重要です。

また近年では、オンプレとクラウドの良いところを組み合わせた「ハイブリッドクラウド」といった概念も登場しています。それぞれを異なる物として捉えるのではなく、組み合わせることで生まれる価値にも目を向けることも、こうしたAI処理環境を検討するに当たっては大切な視点です。

ただ、いずれにしても重要な点は、これらの新しいデバイスを活用したり、システム環境を構築したりするのに、技術面の設計だけでは完成しないということです。新たなテクノロジーやシステムを導入するためには、その活用に合わせてビジネス側・業務オペレーション側も設計し直すプロセスが必ず発生します。テクノロジーとビジネスの両側面を照らし合わせながら、これら二つをデザインするプロセスを当社では「ソリューションデザイン」と呼んでその重要性を提唱しています。このソリューションデザインが精緻に達成できて初めて、エッジAIを初めとする新技術の活用素地が生まれてくるのです。

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