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トヨタと堺市消防局の新たな挑戦 ドラレコ映像は消防の新しい情報源となるのか

このブログ記事は、トヨタ自動車 社会システム PF 開発部 坪田 沙弥香氏 とアマゾン ウェブ サービス ジャパン シニアソリューションアーキテクト 安藤 正祥、 同社 クラウドインフラアーキテクト 笹原 悠馬が共同で執筆し、トヨタ自動車が監修しています。

イントロダクション

トヨタ自動車 (以下、トヨタ) は、大阪府堺市と共に現場状況が分かりにくい交通事故などの緊急を要する事案に対して、現場付近を走行する車両のドライブレコーダーの映像を活用する共同実証実験を行っています。
本記事では、トヨタがアマゾン ウェブ サービス (AWS) を活用し、「消防向けドラレコ映像活用システム(以下、消防ドラレコ)」を開発した事例についてご紹介します。

トヨタイムズニュース「人命救助へ1分1秒 交通死傷者ゼロへ堺市と協同 (toyotatimes.jp)」 2024 年 3 月 18 日掲載
トヨタイムズニュース「堺市消防局とトヨタの新たな挑戦 火災や事故でドラレコ活用 (toyotatimes.jp)
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背景

119 番通報は、災害現場に直面し心理的に余裕がない方からの通報も多く、現場状況を正しく把握できないことがあり、その結果として消防隊は現場に到着してから、緊急車両の追加出動や装備の見直しをすることもあります。消防ドラレコは、消防指令センターのオペレーターが 119 番通報だけで現場状況の把握が難しい場合、付近を走る車両のドラレコ映像を活用し、迅速かつ適切な消火、救急、救助活動に役立てるものです。

ソリューションの概要

119 番通報だけでは把握しきれない現場の状況をより正確につかむために、消防指令センターのオペレーターが消防ドラレコを通じて付近の車両の映像を閲覧します。現在、共同実証中の堺市では、協力企業と連携し、堺市消防局管内を走るバスやトラックなど約 400 台に搭載したドライブレコーダーからの映像を活用しております。

システムの特長(情報の流れイメージ)

119 番通報だけでは把握しきれない現場の状況をより正確につかむために、消防指令センターのオペレーターが消防ドラレコを通じて付近の車両の映像を閲覧します

出典:トヨタ

  1. 119 番の通報内容から消防指令センターのオペレーターが事故などの発生場所を特定
  2. 消防指令センターのオペレーターが現場の映像を必要とする事案か判断
  3. 2 で必要と判断した場合、システムにて事案発生地点を検索
  4. GPS 情報を利用し、付近を走行するドライブレコーダー装着車両を選定
  5. 対象車両のドライブレコーダー映像を取得
  6. 消防指令センターでドライブレコーダー映像を確認し、迅速で適切な対応につなげる

プライバシー尊重への取り組み

消防ドラレコではバスやトラック等の法人車両に約 400 台の専用ドライブレコーダーを設置し、その映像を活用しています。映像に対してプライバシーへの配慮を施した上で、データを暗号化し保管しています。また、映像には必然的に様々なものが映り込みますので、同じくプライバシーへの配慮に慎重に対応する必要があります。トヨタでは消防向けドラレコ映像活用システムについて、自社で定めるガイドラインに準拠するとともに、映像データに対してプライバシーに配慮した処置を施した上で、データを期限付きで保管するようにしています。これらの映像は、AWS のストレージサービス Amazon S3 に暗号化した状態で保管されていますが、S3 のライフサイクルのルールを活用して保管期限が過ぎたら自動的に削除されます。データベースでは Amazon DynamoDB を活用し、同じく保管期限が過ぎた項目を自動的に削除するように有効期限 (TTL: Time to Live) の機能を活用しています。

一方で人命救助に関わる状況ではより早く消防局に映像を安定的に提供することが期待されます。AWS のサーバーレスサービスを活用することで消防システムに配慮した可用性を実現しています。また、イベント駆動型アーキテクチャを採用することで、スケーラビリティを確保しながらも、プライバシーへの配慮に必要な処置を施しつつ、迅速な映像提供が可能になります。このように、AWS のサーバーレスサービスとイベント駆動型アーキテクチャの採用により、可用性と拡張性の両方が確保されています。

アーキテクチャ概略図

消防ドラレコのアーキテクチャ概略図。AWS のサーバーレスサービスを活用した構成

また、トヨタは有識者からのアドバイスのもと、市民への社会受容性調査を実施し、下記 3 点に配慮した上で映像を堺市消防局に提供しています。

  • 堺市消防局で映像は保存せず、専用端末を介し、一時的な閲覧のみを可能にして提供
  • 堺市消防局より閲覧要望のあった地点・時間のドラレコ映像のみを提供
  • 映像に映り込んだ人や車両について個別に追跡したり、その行動特性や移動傾向等を分析したりすることを禁止

リーンな開発プロセス

消防ドラレコの開発は、まず短い期間で MVP (Minimum Viable Product) を開発した後、頻繁にシステムの改修を行いユーザーからのフィードバックを得る、リーン開発で進められています。MVP の開発において、AWS プロフェッショナルサービスが主に AWS のアーキテクチャ構築への支援と、イテレーティブな開発プロセス習得の支援を行っています。

AWS のアーキテクチャ構築にあたり、AWS のアーキテクトはまず、トヨタの多岐にわたる技術課題を理解した後、それらの課題を解決する柔軟なアーキテクチャの検討を行いました。その結果、トヨタの消防ドラレコには、機能改修のリードタイムを短縮するために、コンピュートには AWS Lambda を、データベースには Amazon DynamoDB と、開発者がアプリケーション開発に注力できるようサーバーレスアーキテクチャが採用されています。また、インフラについては、AWS の各種マネージドサービスを活用することで、データの可用性や拡張性などの非機能要件を AWS で担保しながら、差別化につながらないシステムの維持運用の負荷をオフロードしています。例えば、データのバックアップは、マネージドサービスの機能を用いて行うことで、インフラを追加構築することなく設定のみで実現しています。さらに、エラーや障害の情報は、Amazon CloudWatchAWS Chatbot を組み合わせることで、アプリケーションを追加で開発することなく社内のチャットツールに通知をしています。

トヨタは、消防ドラレコの限られた検証期間を最大限活用するために、要件定義、設計、実装、テスト、リリース、ユーザーからのフィードバックをもとにした改善を素早く繰り返すイテレーティブな開発フレームワークとして、スクラムを取り入れています。AWS プロフェッショナルサービスは、スクラムマスターに各セレモニーのファシリテーションやチーム内の課題管理などスクラムマスターとしての動き方についてコーチングを行うなど、トヨタの開発チームが、スクラムによるイテレーティブな開発プロセスを学び実践するためのトレーニングの提供などの支援を行っています。

このように AWS プロフェッショナルサービスの包括的な支援により、消防ドラレコの初期のシステム開発は迅速かつ短期間に進められ、加えて、トヨタの開発チームは、支援を受けている期間に獲得した AWS 活用に関するナレッジやスキルを継続してその後の開発にも生かし、実装に向けた取り組みを加速させています。

結び

トヨタが大阪府堺市と共に取り組む消防向けドラレコ映像活用システムの AWS 活用事例は、車両のドラレコ映像を活用し、迅速かつ適切な消火、救急、救助活動に役立てることで社会に貢献していく願いが込められたものです。
AWS は、社会課題の解決とよりよい暮らしの実現に向け、モビリティ社会の究極の願いである「交通死傷者ゼロ」への取り組みを続けるトヨタへの支援を一層強化していきます。

シニアソリューションアーキテクト 安藤 正祥
クラウドインフラアーキテクト 笹原 悠馬