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re: Invent 2023 ギリアド・サイエンシズ登壇 イノベーショントークのキーポイント!

この記事は “Key takeaways from Gilead’s Innovation Talk at re:Invent 2023” を翻訳したものです。

寄稿:ギリアド・サイエンシズのシニアバイスプレジデント兼 Chief Information Officer (CIO) マーク・バーソン、AWS ヘルスケア・ライフサイエンス担当ゼネラルマネージャー ダン・シーラン。

re: Invent 2023 では、ギリアド・サイエンシズの CIO であるマーク・バーソン氏が、「インダストリー向け生成AI」をテーマにしたイノベーショントークに、AWS インダストリテクノロジー担当ディレクターであるショーン・ナンディ氏と共に参加しました。 講演では、生成 AI を使用して治療法の飛躍的進歩を加速させるというギリアドのアプローチが強調され、企業レベルでテクノロジーを実現するために、レジリエントなクラウドインフラストラクチャと強固なデータ基盤を確立するというギリアド社の取り組みが紹介されました。

講演のキーポイントは次のとおりです。

生成AI による治療の進歩の促進

製薬会社は、サイエンスイノベーションの最前線で、生死に関わる病気と闘う患者に画期的な治療薬を迅速に提供しなければならないという大きなプレッシャーに常に対峙しています。 しかし、新薬の開発プロセスには通常 10 年以上の時間と、数十億ドルもの費用がかかり、さらに上市までに 90% という恐ろしい失敗確率に直面しています。

生成AIは、新規化合物の同定と設計を加速し、治療法の開発プロセスを最適化することで、創薬を大きく変革することができます。 この新技術は、規制当局への申請、市場アクセス、製品化に関連する手作業属人的な作業や冗長なプロセスを自動化することで、サイクルタイムをさらに短縮できます。

ギリアドは、生成AIがビジネストランスフォーメーションに与える可能性を活用して科学の進歩を加速させ、クラウド、データ、AI の融合を活用したイノベーションを実現する最前線にいます。 同じく、意思決定の強化、効率の向上、クラウドスケールのデータからのインサイト抽出の促進など、ROI の高いさまざまなユースケースに対応する生成 AI ソリューションを模索しています。

「業界の複雑な課題を乗り越えるには、企業が俊敏、かつイノベーティブであり、進化する状況に適応する必要があります。私たちは、手に入れられるあらゆる利点を追求する必要があります。 私たちは生成AIをエンタープライズ企業の視点から模索しており、投資対象となる価値の高い生成 AI のユースケースを特定するためのエンタープライズアプローチを実装しています。」

— ギリアド・サイエンシズ社 CIO、マーク・バーソン氏

創薬の変革:生成AIによるターゲット評価の再構築

ギリアド社は研究開発能力を強化するためにさまざまな生成 AI のユースケースに投資していますが、その中でも最も注目しているユースケースの 1 つがターゲット評価です。

ターゲット評価は、創薬の初期段階における重要なステップです。新薬候補のターゲットとなる生体分子(タンパク質または核酸)の評価と特性評価が行われます。徹底した評価を行い、研究者が成功確率が高い新薬候補について、どのターゲットを研究対象として追求する価値があるかを優先順位付けします。 ただし、このプロセスには、ペタバイト規模のデータをマイニングし、関連するあらゆる研究を特定し、その研究を分析し、研究から得た知見を迅速に適用する必要があります。

ギリアド社は生成 AI を活用して、創薬ターゲット評価プロセスの効率と効果を飛躍的に向上させています。専門の LLM  (Large Language Models) を使用して、膨大な量の医科学文献やデータベースを迅速にクエリして分析しています。 これにより、科学者は自然言語検索を行って研究文献を要約したり、簡単なクエリで分子相互作用をシミュレートしたり、参考文献を含む合成研究レポートを動的に作成して更新したりできるため、最終的にはより安全で効果的な医薬品の開発を加速できます。

#1: LLMツールを使用して、膨大な量の科学文献とデータベースを迅速に分析します #2: 潜在的な創薬ターゲットに関連する研究を特定します #3: ターゲットの特定と検証の初期段階を大幅にスピードアップします

「生成 AI は単にテクノロジーだけの問題ではなく、私たちの働き方そのものを変革しうる存在なのです。」

ギリアド社は、生成AIによって高品質な創薬ターゲット評価レポートを効率的に生成することで、従来までの評価プロセスに必要としていた時間を数か月にまで大幅に短縮できると予測しています。 同社では、これらの LLM、アーキテクチャのパターン、LLMOP (大規模言語モデルオペレーション) を社内の他のユースケースで再利用することも検討しています。

「基本的には、同じだけのリソース配分でより多くのことを行うという考え方です」と Berson 氏は言います。

<左>:出来ること 機械と自然言語を使った対話が可能 標準化された研究レポートの作成 スピードを持った品質評価結果の生成 <右>:利点 要約されたコンテンツ作成が加速される 使いまわしが可能なアキテクチャ−パターンとLLMOpes 他の部門、部署で再利用できる可能性

生成 AI を実現するための強固なクラウドとデータ基盤の確立

まだ生成 AI のモデルをめぐる話題があったにもかかわらず、ギリアド社は早い段階で、強力、かつ競争力のある生成 AI  アプリケーション構築の鍵は、包括的なエンドツーエンドのデータ戦略を実装することにあることを認識していました。 AWS 上に構築された堅牢なクラウドインフラストラクチャにより、ギリアドは事業を効率的に拡大し、迅速かつ機敏にイノベーションを起こすことができます。 同社はコンピューティングとストレージのワークロードの 80% を AWS に移行し、現在ではミッションクリティカルなワークロードをクラウドで実行しています。 「私たちは、クラウドがもたらすレジリエンス、スピード、スケーラビリティを高く評価しています」と Berson 氏は言います。

「これはギリアド社にとって戦略的なビジネス上の優先事項であり、創薬から製品化までのバリューチェーン全体を変革するためには不可欠です。」

「ギリアド社では、AWS 上に構築されたクラウド、データ、強固な分析基盤の上に 機械学習 (ML) と生成 AI を構築しています。 さらに、MLOps を自動化して ML ライフサイクル全体の効率化を実現しています。」

ギリアド社のエンタープライズデータプラットフォームでは、ML と生成 AI の機能を一から作り直すことなく活用できます。 データメッシュアーキテクチャで運用されるこのプラットフォームは、組織のデータを一元化し、管理を拡大し、組織全体のコラボレーションを促進します。 また、分散型データオーナーシップモデルでは、データに最も近く、現場の状況を理解しているビジネスチームがデータを管理できるようになります。

ギリアド社のデータメッシュのもう 1 つの特徴は、「データ・アズ・ア・プロダクト(DaaP)」アプローチです。 組織全体のデータプロデューサーは、エンタープライズデータプラットフォームで 300 を超えるデータプロダクトを公開しています。 これらはデータ利用者がすぐに使用できるようになっており、データが検索可能、アドレス指定可能で、理解しやすく、信頼できる、有用、アクセス可能、安全、相互運用可能であるよう最大限の注意が払われています。 さらに、これらのデータ製品のライフサイクル全体を管理するさまざまなセルフサービスデータソリューションが、分散型データオーナーシップの全体的なコストを削減することで、この戦略全体をサポートしています。

「AWS では、進化するビジネスニーズにより迅速に対応するために、従来のモノリシックなアプローチから脱却して、最新のデータ編成とエンジニアリング手法を導入しています。」

ギリアド社は、機密性の高い患者データを扱うグローバルなライフサイエンス組織として、フェデレーションによる意思決定構造(Federated Decision-Making Accountability Structure)に基づいた強力なデータガバナンス運用モデルにより、データセキュリティとコンプライアンスを強化しています。 「私たちには中央集権的な企業基準とガバナンスがありますが、ドメインのオーナーシップは独自に保たれています」とバーソン氏は言います。 「これにより、変化に機敏に対応し、成長に直面しても ROI と持続可能性を高めることができます。」

・データ メッシュ アプローチは、かつては大規模なデータを管理するために使用されていました。 ・各ビジネス部門による分析データのドメインオーナーシップ。 ・企業全体でデータを製品として共有する

この強固な基盤が整ったギリアドは、AI、機械学習、ディープラーニング、分析の活用を全社的な機能として拡大し、複雑なデータを貴重なインサイトに変換し、分子、創薬ターゲット、疾患間の隠れた関係を明らかにしています。 また、AWS と協力して、データサイエンティストに最新のテクノロジーを提供し、すべての人にとってより健康的な世界を作るという大胆なビジョンに向けて、画期的な治療イノベーションを実現しています。

「私たちが AWS を選んだのは、その技術だけでなく、業界を変革し、共に再定義することに情熱を注いでいるからです。 私たちはまさに、その活動に可能性を実現する力を見出しています。」

将来を見据えた取り組み:生成AI のユースケースをプロトタイプから本番環境に移行

業界がより複雑で創薬ターゲットを絞った治療法に移行する中、今後 3~5 年は創薬における生成 AI の価値を実証する上で極めて重要です。 パイロットからプロトタイピング、本番環境に至るユースケースが増える中、ギリアドは生成 AI の実用的な使用に対する基本指針を確立し、将来を見据えた責任ある AI の使用を確保することに重点を置いています。

Berson 氏はセッションを締めくくりに、生成 AI の流行に乗り出している企業に向けた、示唆に富むアドバイスをいくつか述べました。独自の指針を確立し、当初から経営幹部の関与と賛同を得ましょう。 「生成 AI が 単に IT プロジェクトの一つになるのではなく、ビジネスと緊密に連携して構築され、ビジネス成果でその成功を測るような取り組みになるようにしましょう」と彼は警鐘を鳴らしました。


このre:Invent 2023 イノベーション トークのリプレイはこちらの YouTube でご覧ください。

re:Invent 2023での HCLS のその他の発表とハイライト ToP10 については、このブログをご覧ください。

著者について
Dan Sheeran
Dan は AWS のヘルスケア・ライフサイエンスインダストリービジネスユニット (HCLS IBU) を率いており、ライフサイエンス、医療機器、保険者、データサービス、ヘルスケア ISV および OEM のすべての AWS のお客様をサポートしています。HCLS IBU は、お客様が AWS クラウドと機械学習サービス、および AWS パートナーのソリューションを活用して、新しい治療法、診断、およびデバイスを研究・開発し、患者の転帰を改善してより効率的に医療を提供できるよう支援します。2019 年に AWS に入社する前は、慢性疾患の予防と管理のための遠隔医療と機械学習に焦点を当てた 2 つのデジタルヘルススタートアップを設立し、率いていました。Danはシアトル地域に住んでいます。ノースウェスタン大学で経営学修士号、ジョージタウン大学で理学士号を取得しています。

翻訳は Senior Business Development Manager の亀田が担当しました。