LIFULL Creators Blog

LIFULL Creators Blogとは、株式会社LIFULLの社員が記事を共有するブログです。自分の役立つ経験や知識を広めることで世界をもっとFULLにしていきます。

生成AIによる20,000時間の業務効率化を支える取り組み

プロダクトエンジニアリング部の二宮です。

次のプレスリリースにある通り、LIFULLでは生成AIを使って20,000時間以上の業務時間削減をしたという大きな成果を上げることができました。数字の根拠が粗い試算ではあるものの、実は社内では1年間で20,000時間の削減を目標としていたため、その半分の期間で目標達成できて関係者が色めき立っています。

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私はkeelaiという社内用AIのプロジェクトに開発者の一人として関わっていて、生成AIツールの活用を推進する有志のプロジェクト(タスクフォースチーム)にもメンバーの一人として携わっています。そのため、エンジニアの中でもある程度全体が分かる立場として、生成AI技術の社内普及のための取り組みについて共有します。

私は各部署の導入の相談やプロンプトの技術サポートを担当することが多く、社内発表も行っているため、結果的に生成AI関連のチームの中でもいろいろな人から声をかけられたりして情報が集まる立場になりました。その技術と普及活動の両面で話をします。

LIFULLの生成AI活用の現状

現在、keelaiは月間でおよそ580人に利用してもらっています。去年の11月に『社内向けAI botの運用で学んだ技術コミュニケーションのコツ』という記事を書いた時点では次のような状態だったので、そこからも大きく伸びました。

keelaiはSlack上で動くAIチャットボットを含んだ "汎用AI(仮)" 技術スタックで、LIFULLグループのSlackユーザーおよそ1000人程度の中で月間200人以上に利用して頂いています。これはけっこうな成功例と言っていいんじゃないでしょうか?

社内での利用実態を見ても、keelaiはすでに社内で当たり前に使われているツールになったと思います。

内製AI(keelai)の開発・活用方針

ほとんどの内容は、KEELチームの相原さんが以下の記事で紹介している通りです。「なるべく作らない」方針で、Slackで利用できるチャットボットを主軸に社内の汎用的に使える機能を提供するようにして、個々の部署の問題は各部署でプロンプトエンジニアリングやSlackワークフローの設定ができるようイネーブリングしていく作戦で少人数での開発を実現しています。実は私自身もKEELチームに所属しているわけではなく、インナーソースのコミッターとして活動しています。

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汎用AIを目指す上でもあらゆる業務上の課題を解決する機能を私達だけで実装することは現実的ではないため、「なるべく作らない」ことでコストとバランスが取れたスケーラビリティだけを素早く示してインナーソースによって成長していくことを目指しました。

この記事の時点からさらに発展した点として、Slackワークフローと組み合わせて、ノーコードで生成AIを使った自動化機能を実現できるようになったことが挙げられます。例えば、『海外の開発拠点メンバーと、受託先ではなくチームメンバーとして協働するための取り組み』では、海外チームとのやり取りを生成AIで翻訳する使い方が紹介されています。

他にも、Slackワークフローのフォーム投稿を利用して、例えば総務では社内のFAQのRAG(社内情報検索)を使って一次回答をする機能を用意しました。私も便利に利用しています🙇

少し技術的な余談ですが、keelaiの投稿完了後に :keel_complete: という絵文字を付与していて、更に続けて別のSlackワークフローを起動できるように工夫しています。例えばプログラムでkeelaiに多数の問い合わせを投げ、その結果をGoogle Sheetsに収集するなどの使い方もできます。これを利用して、先日クリエイターの日委員によってSlackワークフローとkeelaiを使った自動化のハッカソンが実施されました。

生成AIを活用した会社の成功事例として、よく内製生成AIツールのログを徹底的に残して良い事例や注力ポイントを見つけている話を聞きますが、keelaiではプロンプトのログをあえて残していません。その代わりに公開チャンネルでの利用内容を定期的に見ているのと、Slackメッセージ内に誤回答の報告ボタンを用意することで代替しています。これはプライベートチャンネルやダイレクトチャットで、部門外秘の内容まで気兼ねなく利用してもらえるようにするためです。

普及のためにやったこと

せっかく便利な機能を用意しても、それに気づいて使ってもらえなければ意味がありません。生成AIの力を普及させるために、各社でいろいろ苦心されていると思います。我々もその点は同様で、あの手この手を考えていろいろなメディアを通してコミュニケーションしています。

  1. 社内ゼミ
  2. Generative AI Award (GAIA)
  3. 相談窓口の準備
  4. ドキュメントの拡充
  5. Slackの広報
  6. 各部門の推進リーダーがいること

これらの発表の後に「さっき紹介した事例に似たことを自分の部署でもやってみたいんだけど…」と声がかかることが多く、大きな活用促進のきっかけになることも多いです。

また、keelai自体がそうなのですが、これらは戦略的に考えられたものだけでなく、社員の自主的な動きが事後的に公式化したものも多いです。そういうボトムアップな動きがちゃんと合流できてるのもすごい点かもしれません。

社内ゼミ

こちらの『LIFULLの挑戦の機会と制度』という記事にある通り、LIFULLには社内大学の制度があります。この制度を使って生成AIのプロンプトエンジニアリングのゼミを行いました。

社員が学びたい事をその分野に特化した社員が講師となって教えあう、大学のゼミのような勉強会が実施されています。

このゼミは実は公式の取り組みではなくて、プロダクトプランニング部の部長の大久保慎さんが自主的に行ったものです。つまり正確にはLIFULLの生成AIチームの公式の取り組みではありません(もちろん内容のチェックや広報などで協力しました)。

このゼミの内容は、「初心者がプロンプトの基礎を学んですぐに中級者になることを目指す」ようなものでした。これは200人を越える社内ゼミ過去最高の参加人数を記録し、事後の内容の評判も良いものでした。実際にこのゼミをきっかけに利用者は大きく伸び、大きな自動化案件のきっかけにもなりました。

Generative AI Award (GAIA)

20,000時間以上の業務時間を創出』にも記載している通り、LIFULLではGenerative AI Award (GAIA)という表彰を行っています。ただし、今のところはインセンティブ提供というより成功事例の普及が主目標で、特に賞品などを用意しているわけではありません。

また、上記診断によって活用度が高い従業員を表彰する「Generative AI Award(通称GAIA)」を月一回実施することで、優良事例の水平展開と共にモチベーション向上にも繋げています。

LIFULLにはThink Togetherという、役員と直接質問や議論できる場があります。そこで会長の井上さんにkeelaiや生成AIの話をしていて「本当はもっと盛り上がる方法があるんじゃないか」と言ったところ、「じゃあ全社総会で時間空けとくから何か発表してみてよ、長沢翼(CTO)と一緒に!」と言われて突如始まりました。当時私はkeelaiの開発に関わっていたものの、生成AIを推進するタスクフォースに所属しているわけではなかった(後に合流した)ので、事情を知らない人からすると急に始まった謎コンテンツだったと思います😂

そこでアクセシビリティのチーム(『フロントエンドエンジニアが組織横断のアクセシビリティ専門部署を立ち上げた』)が既にエンジニア組織内でアクセシビリティに対して勝手に表彰する取り組みを行っていたので、長沢さんのアイデアでそれを生成AIの文脈で真似しました。具体的には生成AIを大きく活用できた事例を見つけ、代表者にインタビューした内容とともに発表しています。

内容は次のようなことを心がけています。

  • 聞いてて面白い内容にする:特にオンラインでの発表になることが多いので、客観的な評価基準を設けるというよりは、本当に自分たち自身が面白いと思う事例を取り上げて、やや大げさなレベルで「ここがすごい」と言って分かりやすくすることを意識しています。
  • 平均値ではなく例外に注目する:例えば「平均的に活用度が高いエンジニアチーム」ではなく「同じ職種の中でも例外的に活用度が高い営業チーム」にインタビューしました。そして普及のために何をしたのか、周囲のメンバーの反応で助かったことはあるのか等を聞いていきました。
  • 「自分だったらこうするだろう」という意識を持って話を聞いて意外な点を見つける:例えば普及率の高い営業チームの人に話を聞く際に、「自分でもSlackや総会発表で積極的にアナウンスすることは思いつくし、他のチームでもそれはやっている。じゃあむしろ共有内容や周りの雰囲気に違いがあるんじゃないか」などと仮説を立ててインタビューしました。その結果、「とにかく新しいものを気軽でおもしろ用途から試して身近に思ってもらう。周囲にもそういう面白さを受け入れる雰囲気がある」ということが分かりました。

これらの指針は、LIFULLで社内導入された中尾さんのKPIマネジメントの考え方のツールの1つであるTTPS(徹底的にパクって進化させる)や、UXリサーチの方々が勧めていたメタファシリテーションの考え方にも影響されている気がします。

こういう普及活用はどうしても「必要なのは分かるけど別に興味は湧かない。ひとまず最低限言われたことをするか」というような減点思考の捉えられ方をされてしまいがちです。そこで加点思考のコンテンツを用意するのは良い雰囲気を作るのに役立つことだったと思います。

相談窓口の準備

サポートとして、Slackに相談窓口を用意しています。各部署でオーナーシップを持ってもらって、複雑なプロンプトの改善やアイデアを相談できるようにしています。最近ではSlackのハドルミーティングを使ったオフィスアワー方式の相談会も試しています。

ドキュメントの拡充

使い方を説明するドキュメントはしっかり準備しています。特にkeelai Showcaseというプロンプトや利用例を紹介するページがあります。

「誰でも」と言ってはいるものの、それほど関係者外からの投稿は多くなく、ほとんどkeelaiチームの関係者が投稿しています😅 誰かに書いてもらうというよりはむしろ、ここの事例の中から近いものを紹介して別のチームにアドバイスすることや、この内容を見て「似たことができるかも」と声をかけてもらうことに役立っています。他にもSlackワークフローの設定手順や利用方法を動画で説明したり、色々とやり方を試行錯誤しています。

最近は生成AIのタスクフォースチームとして、GAI WIKIという「LIFULL社員が生成AIで知りたいことが大体分かるリンク集」のようなページを用意しました。

Slackの広報

社内向けAI botの運用で学んだ技術コミュニケーションのコツ』にも書いた内容です。「次の行動を喚起する」ことを意識し、大抵はサポートチャンネルへの誘導を目的にしています。

自分自身が受け手になったときのことを思い出しても、この手の広報はほとんど素通りされて、後で「え?こんな便利なツールが用意されてたの?教えてよ!」って思うことが多いはずです。それを防ぐためには、「興味の扉が開く」ようなタイミングを狙って投稿すると良いんじゃないかと感じています。つまり、新しい機能リリースや面白い事例がある度に共有する、オンラインの総会で関連する話題が挙がったときに参考になるドキュメントをコメントするなど、皆の興味が高まるタイミングにすかさずアピールすることを心がけています。

各部門の推進リーダーがいること

プレスリリースにもある通り、各部門に推進リーダーを立ててもらっています。

その他にも職種や業務特性に則して各論での利用促進を図るために、部門毎の生成AI活用推進リーダーを31名擁立し、網羅的な利用促進に繋げることができています。

これは実際に生成AIツールを推進する意味でも役立っていて、例えば「GAIAで表彰するときにその人に詳しく話を聞く」とか「活用度診断があるときにその人を通じて広報する」などで連携していて、他の取り組みを支えるベース担っていると思います。また、何か部署内で困りごとがあるときに、その方から連絡が来ることが多いです。

ただ、普段の推進リーダーの活動を、各々の自主性だけにまかせきりになってしまっている部分が多い点は課題だと思っています。もし自分が任命されたとしたら、ひとまずSlackや総会で情報共有はするものの、それ以上のことをどうすればいいか困ってしまうはずです。ただその分、先ほどGAIAの項目でも触れた、営業チームに聞いたおもしろ画像や音楽での盛り上げ方は想定外でビックリしました😂

今後の展望

最後に今後の展望をまとめます。おおまかには、生成AI推進のタスクフォースチームとして引き続き利用開始できていない人やチームに更に普及させていくことような動きをしつつ、特にkeelaiのチームとしては、成功したチームの施策を更に進展させる次のような取り組みを行うつもりです。

keelai APIの提供

keelaiのAPIを準備して、開発組織の中でより便利な効率化を行おうとしています。

まずGitHub Actionsを使って「社内ドキュメントや仕様書をうまく検索してアドバイスする」ような自動レビューを提供しました。LIFULLでは『コマンド1発でKubernetes上にProduction Readyな環境を手に入れる』で紹介されているkeelctlというツールが広く使われているので、主要なリポジトリにすぐ導入できます。

他にもプロダクトのエラーログを参照し、エラー発生時に簡単な問題であればそのままプルリクエストを作るなどいろいろな構想があります。これはシステム基盤も含めて内製していることのメリットだと思います。

過去に関わったチームのフォローアップ

keelaiの社内での普及率は順調に上がってきたため、ここから大幅に利用者数が増えることは無いと考えています。そこでむしろ、過去に相談したことのあるチームに、プロンプトはきちんと動作しているか、他に困っていることが無いかなどを聞いてより深化させるチャンスが無いか探ろうと思っています。

また、別のSlackワークスペースの子会社からもSlackコネクトされたチャンネルで利用できるようにしているのですが、利用実態がよく分からないまま放置してしまっているので、そこにも取り組む必要を感じています。

社内コミュニティを盛り上げる

(これはやや個人的な目標ですが)LIFULLには社内サークル制度があり、生成AIについて広く情報共有するサークルが設立されました。もちろん私もメンバーとして参加しています。

今のところ、ランチしながら生成AIのツールや使い方を話すことが活動内容のほとんどですが、更に何かもう少し広く役に立つ勉強会などの企画をしたいと思います。また、サークルには推進リーダーの方も何名か参加しているので、各部署の面白い普及の進め方を吸い上げて展開することもできるかもしれません。ボトムアップの方向からの動きも更に盛り上げるつもりです。

GAIPの知見を広げる

またLIFULLにはジェネレーティブAIプロダクト開発ユニット(通称GAIP)という生成AIを使ったプロダクト開発の専門組織(『さっそく試してみた!国土交通省不動産情報ライブラリAPI x 生成AI!』)があります。そこが生成AIのプロダクト開発の多くの知見が溜まっているようで、私の所属するプロダクトエンジニアリング部の注力ポイントとしても生成AIが挙げられているものの、それをつなぐ取り組みはこれからです。

最後に

LIFULLでは一緒に自分たちの仕事を良くしていくエンジニアを求めています。これらの取り組みに興味を持っていただけたなら、ぜひ求人情報やカジュアル面談のページもご覧ください🙇

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