KAKEHASHI Tech Blog

カケハシのEngineer Teamによるブログです。

医療という社会課題を前に、AIエンジニアに何ができるか?


カケハシが展開する薬局向けプロダクトのひとつ『Musubi AI在庫管理』。
データに基づく需要予測で薬局の医薬品在庫を最適化するというこのシステムの機械学習まわりをはじめ、新規事業にまつわるデータ活用や機械学習プロダクト開発を一手に担っているのが、私たちmirAI(ミライ)チームです。

カケハシでも、機能開発やプロダクト企画におけるAI活用の検討が、日を追うごとにどんどん進んでいます。ユーザーである薬局の皆さまからの期待の大きさも同様です。私たちとしても、医療領域におけるAI活用の実例や、その開発を担うmirAIチームの最新情報など、発信の機会を増やしてAIの社会実装に少しでも貢献できればと考えています。

今回はその第一歩として、mirAIチームでマネージャーをしている私、鳥越が、チームメンバーの蓑田さん、藤本さんに、カケハシのAI活用の現在と未来をテーマに話を聞いてみました。カケハシの機械学習のこと、開発チームの雰囲気など、話が弾んで盛りだくさんの内容になりました。ぜひご覧ください!

「ユーザーが“社内に”いる」という大きなアドバンテージ

mirAIチームのマネージャー鳥越
鳥越:そういえば、お二人がなぜカケハシに入社したのか、ちゃんとお聞きしたことなかったですよね?

藤本 佳宏

藤本:私は、今までの経験を活かして社会問題の解決に貢献したいと考えていたときに、前職の同僚でひと足先にカケハシで活躍していたメンバーが声をかけてくれたのがきっかけです。カジュアル面談を通じて、カケハシが掲げるミッションやバリューに共感したことが決め手になりました。

蓑田:僕は、前職で社会インフラの劣化予測などに携わっていたことがあり、「自分が培った技術を別の社会課題で活用してみたい」と思い入社しました。難易度の高いチャレンジだからこそ、乗り越えられたときの達成感も大きいはずだ、と。

鳥越:一般的なソフトウェアスタートアップのイメージと比べて、カケハシの特徴ってどんなところにあると思いますか?

蓑田:社内に薬剤師資格を持ったメンバーが複数人いることですね。『Musubi AI在庫管理』のユーザーは薬剤師の方々です。プロダクトを磨いたり、無駄な機能を削ったりしていくうえで、ユーザーに近い視点や考え方を把握できることほどありがたいことはありません。
さらに、薬剤師出身のPdM(Product Manager)もいますからね。「医療」「薬局・薬剤師」というのは専門性の高いドメインですが、カケハシの場合は薬剤師メンバーが監修したプログラムやユーザー薬局を訪問する機会もあり、理解しやすい環境だと言えるのではないでしょうか。

鳥越:たしかに、機械学習をゴリゴリ回すよりも、薬剤師さん目線の「ここはこうしたほうが良い」という意見が精度を生むこともあり得ますからね。業界に特化しているサービスだからこそ、薬剤師さんの考えを適切に理解できることは強みですね。

藤本:機械学習系のプロジェクトって、活用できるデータがないことで行き詰まってしまうことがありますよね。それがカケハシだと社内に薬剤師メンバーがいるおかげで、たとえば処方せんの情報を活用したい場合には「この処方せんは、こういう疾患に対する処方せんである」というふうに専門的な内容を読み解いてくれるので、それをもとにデータをつくることができるんです。本当に助かっています。
蓑田 和麻
蓑田:それに、分析後の定量的な評価は僕らのほうである程度できるとしても、定性的な評価までは完全にできませんからね。「本当に使いやすくなっているのか?」を、薬剤師さん目線で評価してくれるのはありがたいです。

患者さん、薬局、医薬品流通、社会保障……AIは医療をどう変えうるか?



鳥越:では、我々が所属するmirAIチームについても改めて紹介しましょう。エンジニアリングマネージャー1名、データサイエンティスト6名、機械学習エンジニア8名の組織です。私としては、事業づくりに関心の高いメンバーが多い印象を受けています。

mirAIチームが関わっているのは、主に3つの領域です。

1つ目は、カケハシの主力サービスである『Musubi AI在庫管理』を活用し、薬局さんだけではなく、医薬品卸会社さん、製薬会社さんと連携し、業界のサプライチェーン全体を改善していくSupply Chain Management領域です。一般的な消費財と異なり、医薬品は基本的に在庫を切らしてはならないもの。それ特有の難しい問題もありますが、やりがいもそのぶん大きいです。チームの半数以上がこのプロジェクトに関わっています。

2つ目は、患者さんと医療サービスの関わりをより効果的にサポートする、Patient Engagement領域です。一例をあげると、薬剤師さんが患者さんの服薬状況をフォローすることのできる『Pocket Musubi』というプロダクトの活用や、薬剤師さんが患者さんに対して行なう服薬指導を通じて、「患者さんが、服薬や治療などを途中でやめてしまう」という課題の解決を目指しています。患者さんへの貢献はもちろん、生活習慣病の予防や健康寿命の延伸による社会保障費の適正化というマクロ視点での課題解決にもつながり得る、意義ある取り組みだと思っています。

3つ目に、生成AI活用を軸として、事業領域を限定しない社内横断プロジェクトを進めています。業界からの期待も大きく、直近で注力しているテーマの一つです。

さて、AIの技術活用の実例として、需要予測はポピュラーなテーマですよね。なかでもカケハシならではの特徴や面白さって、お二人はどんなところにあると思いますか?



藤本:『Musubi AI在庫管理』でいえば、やはり医薬品というものの特殊性や、薬局の業務システムであることからくる複雑さですね。
たとえば抗がん剤や希少疾患に対するものなど医薬品には非常に高額なものがあり、一部の医薬品の在庫管理が薬局経営に大きなインパクトを与えることもあります。
さらに慢性的な疾患に対して欠品があったら困るものもあります。コンビニでおにぎりの欠品であれば、「代わりにパンを」という話になりますが、医薬品ではそういうわけにはいきませんからね。
また、薬剤師さんが普段の業務のなかでスムーズに、かつ納得感のあるシステムとして使えるようにするために、医薬品の需要の発生構造を十分に考慮したモデルとすることも大事です。具体的には、医薬品の需要は患者さんの来局が起点となるので、患者さんの来局予測と来局した後の処方量の予測に分解し、多層的に予測しています。

鳥越:たしかに、ユーザー薬局さんにお伺いして調剤室のなかを拝見すると、「●●さま来週来局」「●●さま引っ越し」といった付箋がたくさん貼ってあり、薬剤師さんも患者さん単位で必要となる医薬品の分量を把握されていますよね。既存の薬局業務のプロセスへのリスペクトは忘れず、それを機械学習で強化するような仕組みにできると、納得感も生まれやすいですよね。
薬剤師さんの業務プロセスを機械学習でサポ-トしていくことは容易ではありませんが、それによって薬剤師の皆さんがより創造性の高い業務に専念できるようになるのであれば嬉しい限りです。蓑田さんはどうですか?

蓑田:薬局ごとに、在庫管理に対する目標は異なりますよね。例えば大手チェーンでは在庫の適正化に対する意識が強く、小規模・個店薬局の場合は欠品リスクに対する意識が強いことが一般的です。それぞれの薬局のニーズにあった最適化が必要であり、その特殊性もチャレンジし甲斐のある部分の1つです。 

では、僕からも。Patient Engagement 領域について、鳥越さんの目にはどんなふうに見えているんですか?

鳥越:より患者さんに近いテーマなので、医薬品や患者さんの心理をより深く知る必要がありますよね。薬を飲むのをやめてしまう要因は「症状が落ち着いてきたから飲まなくても大丈夫かな」といったものから、「副作用が出てしまっている」というものまで千差万別です。それぞれの要因に合わせてアプローチを考え、検証していくところがとても面白いですね。

これからどうなるカケハシ? 高まるmirAIチームへの期待と信頼



蓑田:AIの活用について、社内の期待が日々大きくなっているのを感じています。そして、mirAIチームを「機械学習やデータ解析の専門家」として信頼してくれていることも。

藤本:そうそう、もともと携わっていなかった案件について、PdMから相談を受けることも出てきましたよね。もちろんまだまだこれからではありますが、つねに期待を感じられるエキサイティングな環境であることは間違いないと思います。

鳥越:カケハシは、医療という日本が抱える大きな社会課題の解決をミッションに掲げていますよね。一人の社会人として、私はまずその点に強く共感しているんです。
その上で、機械学習エンジニアやデータサイエンティストとして、カケハシがこれまでデータを中心に統合された複数のプロダクトを展開し成長してきたこと、そしてデータの活用と連携が今後ますますキーになっていくことに魅力を感じています。データを扱うmirAIチームの伸びしろの大きさを考えると、ワクワクしてきますね。

蓑田:同意です。僕も、カケハシが本質的な社会課題に取り組んでいることに強く共感しています。目先のちょっとした利益を求めるのではなく、事業を通じて、たとえば医薬品の流通における最大の問題である供給不安という課題を解決しようとしていたり。

藤本:その通りですね。社会的に意味のあるゴールに貢献しようとしている点は、カケハシの大きな魅力の1つだと思います。

「社会の未来、カケハシの未来」mirAIチームに合う人、合わない人

鳥越:では最後に、お二人がどんな人と一緒に働きたいと考えているのか聞かせてください。

藤本:カケハシでは1〜2年ほど前からデータ分析基盤を導入しています。どんどん活用して開発サイクルを整えていきたいのですが、そのためにはアーキテクチャレベルで大きな再構築が必要です。簡単ではありませんが、難易度の高いことにチャレンジしたい方には理想的な環境だと思います。

蓑田:ひとつのソリューションにこだわらない方と一緒に働きたいですね。「こういうことをやりたい」「こういう技術を使いたい」ではなく、「こういう問題を解決したい」と“課題ファースト”で方法を選択していける方が、今のカケハシにはフィットするはずです。



鳥越:「mirAI」というチーム名には「業界や会社の未来をつくる」という意味が込められています。カケハシの次のチャレンジにおいて、特に期待されるポジションの一つです。
未知の課題に取り組んで事業をつくることはもちろん、機械学習の品質、AI倫理、データセキュリティやガバナンスなど取り組みたい課題がたくさんあります。
データサイエンティストであれば、既存のデータやプロダクトに対して「改善します」という視座よりも、データやプロダクトがないところから「戦略を考えます」という視座で取り組むことのできる方に、ぜひお会いしたい。
エンジニアであれば、「品質への強いこだわり」と「社会に深く貢献するシステムへの共感」をあわせもつ方。安定ではなく、未知へのチャレンジにこそ魅力を感じるような方と、ぜひご一緒したいですね。

……と、気持ちが乗ってしまい、インタビューするつもりがいろいろと語ってしまいました(笑)。お二人とも今日はありがとうございました。一緒にmirAIチームを、そしてカケハシのこれからを盛り上げていきましょう!



<プロフィール>
鳥越 大輔
データサイエンティスト/機械学習エンジニア マネージャー
大学院修了後、大手金融機関、金融系シンクタンクにおいて、金融数理技術の研究開発・コンサルティングや、投資業務に従事。その後、株式会社メルカリに入社。金融領域のAI/機械学習チームの責任者を務め、AIを活用した与信事業、不正対策、UI/UX改善やマーケティング強化、社内横断のLLM活用に取り組む。2024年5月にカケハシ入社し、現職。趣味は今年から始めた空手と、音楽鑑賞。

蓑田 和麻
2016年、株式会社リクルートホールディングス(当時)に新卒入社。リクルート各社にIT機能を提供するリクルートテクノロジーズにて、機械学習を活用したR&Dプロジェクトに従事。自然言語処理を活用した原稿校閲プロダクトや強化学習をWebログに適用した新たなソリューションを開発、提供。その後、2020年に水道×AIのSAASを提供しているベンチャー企業に参画し、データサイエンティスト責任者としてアルゴリズムの開発や事業体へのコンサルティング業務に従事。2023年にカケハシに参画し、AI在庫のアルゴリズム改善や新規事業におけるデータ周りの実装を担当。趣味は麻雀。

藤本 佳宏
2005年、EDA(Electronic Design Automation)関連製品を主力とする独立系システム会社に新卒入社。半導体におけるマスク製造プロセスの効率化に関する研究、業務Webアプリの製造(フロントエンド、バックエンド)を経た後、機械学習を使ったソリューションを行う部署を立ち上げ、部署全体のリードを担当。2021年、カケハシに入社。AI在庫管理のMLエンジニアとして予測部分のアルゴリズムの精度向上や品質向上、新機能実装に貢献。趣味はピアノ。


機械学習エンジニアの職務内容はこちらをご参照ください
https://hrmos.co/pages/kakehashi/jobs/1830241041007575040