KAKEHASHI Tech Blog

カケハシのEngineer Teamによるブログです。

PMF後にありがちな「何のためのプロダクト?問題」を解決したのは、North Star Metric だった

こんにちは! 「Musubi AI在庫管理」(AI在庫管理)プロダクトマネージャーをしている山田です。

突然ですが、機能追加や改修が続き、そのプロダクトが「誰に、どんな価値を提供するものなのか」、曖昧になっている状況にモヤモヤを感じたことはありませんか?

その課題、「North Star Metric」(NSM)という指標を定めることで解決できるかもしれません。今回は、私たちが一年近くの時間をかけて取り組んだNSMの取り組みを具体的なエピソードを踏まえてご紹介したいと思います。チームの規模が拡大し、メンバー間の目線合わせや一体感に課題を感じている方の参考になってくれると嬉しいです。

そもそもNorth Star Metricとは何か?

航路を示す北極星のようにプロダクトの目指す未来を示すもので、私自身はKGIと顧客価値の両方を捉えた “それさえ追っていけば間違いない単一の指標” と理解しています。

NSMが明確になることにより、たとえば目の前の課題解決を繰り返すなかで、プロダクトの本質的な価値を見失うようなリスクを避けることができます。

具体的な定義や説明はさまざまな記事で紹介されていますので、ぜひご覧になってみてください。

▼参考記事 【アジャイル指標】NSMがプロダクト価値向上の鍵(North Star Metric)| Hello Scrum

「Musubi AI在庫管理」が解決すべき2つの課題

私が担当している「Musubi AI在庫管理」は、薬局向けに展開している医薬品の在庫管理システムです。

独自の需要予測アルゴリズムによって、過剰在庫や欠品リスクのない最適な発注量を導出。従来の経験や勘に依存した管理課題を解決するものとして、高精度の需要予測がユーザー薬局に高い評価をいただいています。

Musubi AI在庫管理 - AIの力で「カンタン」在庫管理

一方で、よりマクロな医薬品の流通という視点でみると、ニュース等でも多数報道されている「医薬品の供給不足」という問題が存在しています。

背景には複合的に絡み合うさまざまな課題がありますが、その一つにあるのが、欠品リスクを回避するための薬局個々の対応です。

供給が不安定な中、多くの薬局が普段の発注数以上の医薬品を確保しようと考えます。その結果、“あるところにはあるが、ないところにはない”という偏りが生じ、需給バランスの全体最適が維持できなくなっているのです。

先ほど「Musubi AI在庫管理」の提供価値を薬局の医薬品在庫・発注の最適化とご紹介しました。

さらに、この需要予測アルゴリズムにより薬局個々の需給バランスを最適化することができれば、社会全体での需給バランスの最適化にもつながる可能性があります。

この可能性も、「Musubi AI在庫管理」が目指すべき未来なのです。

目の前の機能開発とプロダクトビジョンとのジレンマ

2021年9月のローンチ以来、「Musubi AI在庫管理」はPMFをひとまずの目標とし、PMFの達成以降は主に大規模法人での活用を想定した機能開発が中心になっていきました。

しかし、私自身はその方向性に少し違和感を感じていました。大手向けの機能開発による事業成長と、前述した社会課題の解決という未来が、一つにつながっていないように感じられたのです。

顧客の要望に応える機能開発を積み上げていくことと、プロダクトが目指す課題解決や未来の姿を併せて示すことのできる“一つの指標”の必要性を感じるようになりました。

また、プロダクトに関わるチームが役割ごとに再編され、一貫したユーザー体験に基づくプロダクト設計〜デリバリーの難易度が上がったことも違和感の要因の一つです。

アプリ開発、アルゴリズム、セールス、CSなど役割ごとに細分化したチームの目線をもう一度ひとつにするためにも、チームの垣根を越えて共有できる一つの指標が必要でした。

その指標となったのが「NSM」です。

指標としての正しさ以上に大切だった、NSMの策定プロセス

プロダクトのNSMをどう策定するか。プロダクト指標という性質を考えると、PdMが検討・策定し、NSM向上の施策にいち早く取り掛かるという選択肢もあります。

しかし、私たちが求めているのは、チームが迷うことなく向かうべき未来に突き進んでいくための、共通かつ唯一の指標です。PdMの独断で決めた指標を、すべてのメンバーが心から信じられるでしょうか。

策定のスピード以上に重要なのは、プロダクトに関わるメンバーそれぞれに考える機会を持ってもらうこと。

多少時間がかかったとしても、少人数のグループに分かれて何度も議論の時間をとり、メンバーが納得できる指標となるようブラッシュアップを重ねることに振り切るべきだと判断しました。

その結果、どんな変化が生まれたか。いろいろとありますが、何より大きかったのが、セクションの垣根をこえたコミュニケーションが圧倒的にスムーズになったことです。機能別のチームに横断的な連携がみられるようになり、課題だった「一貫したユーザー体験設計」に手応えを感じられるようになりました。

策定したNSMについても、「プロダクトに関わるあらゆる人にとって当たり前の共通指標になっている」「目指すべき未来が定量的に表されたことで、今が良い状態なのかそうでないのか判断しやすい」といった声があがっており、私としても改めて“プロセス”にこだわって正解だったと実感しています。

いま進んでいる道の先に、プロダクトの未来がある

最後に、「Musubi AI在庫管理」のNSMの活用と今後の展望にふれておきたいと思います。

「Musubi AI在庫管理」のNSMを上げるには、アルゴリズムに基づく発注量のレコメンド(おすすめ発注)をどれだけ活用していただけるかが肝となります。

ユーザーヒアリングにより課題を特定し、デザイナー、エンジニアとともに要件定義した機能をリリースするも、思うような結果は得られず。

そこで、見えていない課題を特定するべく、チーム一丸となってユーザー接点を爆増させる取り組みがスタート。

そこで得られたインプットをもとに、ユーザーの利用ハードルの仮説を立案。CSから現場フィードバックをもらい、データサイエンティストから必要なデータを抽出してもらったりと、職種横断でプロジェクトを進めていきました。

こうして言葉にすると、プロダクト開発の教科書的には当たり前のことをやっているに過ぎないのですが、実際にはその当たり前こそが難しいのです。そういう意味では、NSMという指標と策定プロセスによって、理想的なプロダクト開発のあり方を取り戻すことができたと言うこともできるかもしれません。

今では、「最終的に目指したいのはこういうユーザー体験だよね」「こういうマイルストーンがあるといいかも」「こんなアイデアはどう?」などなど、PdMだけでなくさまざまなメンバ-から声があがる機会も。

また、たくさんの顧客とのヒアリングを深める中で、医薬品供給の全体最適という問題が想定以上にインパクトの大きな課題であることを身をもって実感することができました。その課題認識をすべてのメンバーが共有し、エンジニアやデザイナ-、データサイエンティストなど様々なメンバーと一緒に、目指すべき未来を見据えた議論を進めているところです。

NSMのきっかけとなった私自身の違和感は完全に解消し、“私たちのプロダクト”に対するワクワクがむしろ以前よりもっと大きくなっていることに気づきました。「Musubi AI在庫管理」をどう進化させていけるのか、顧客や社会にどんな価値を届けていけるのか、今後のプロダクトの成長がますます楽しみです。

最後に

今回の記事を通じて、NSMのこと、「Musubi AI在庫管理」や医薬品流通という社会課題のことなど、少しでも興味をお持ちいただけたら嬉しいです。

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