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デジタル庁主催の AI ハッカソンに参加しました

2024 年 11 月 7 日に、デジタル庁主催で「AI ハッカソン、アイデアソン」が実施され、AWS も参加しました。デジタル庁から公開されているブログは以下をご覧ください。デジタル庁記事 1 デジタル庁記事 2 デジタル庁記事 3

本イベントには 2 つの主要な目的がありました。1 つ目は、AI エンジニアと行政職員の間にある「生成 AI で実現できること」に対する認知ギャップを解消すること。2 つ目は、人口減少に伴う行政職員の人手不足に対して、AI 技術を活用した実用的なソリューションを開発し、行政サービスの質を維持・向上させることです。本イベントには、AWS の他に東京都、GovTech 東京、CSP 各社様が参加され、デジタル庁や、イベントに協力機関として参加した東京都の職員の方々から寄せられる要望に対して生成 AI を活用し、合計 38 個のプロトタイプを作成しました。

AWS の技術で実現する行政デジタルトランスフォーメーション (以降 DX)

私たち AWS のエンジニアチームは、Amazon Bedrock をはじめとする最新の生成 AI 技術を活用し、デジタル庁・東京都の行政職員から提示された業務上の課題に対するプロトタイプの開発に取り組みました。AWS は、GUI で AWS のサービスを操作できる AWS マネジメントコンソールや、Generative AI Use Cases JP (略称:GenU) を用いることで、5 時間という短時間でも業務課題の解決可能性を検証できることが明らかになりました。

AWS が作成したソリューション

AWS が作成したソリューションの内今回は 3 つのソリューションをご紹介します。

  1. パワポの研修資料(デジタル庁風)を自動作成するアプリ (デジタル庁職員からの依頼)
  2. パワポの研修資料 (デジタル庁風) を自動作成するアプリ (デジタル庁職員からの依頼)
  3. 議会答弁案作成のサポート (東京都職員からの依頼)

1. パワポの研修資料 (デジタル庁風) を自動作成するアプリ

業務の課題
府省庁横断トレーニングではデジタル庁の職員が研修資料を自前で作成していますが、元の情報が頻繁に更新されたり新機能が追加されたりするので、その都度どこが変わったのかを確認し作り直しています。

AWS のソリューション
作りたい内容の説明書、または WEB サイトの URL をプロンプトに入れると、パワーポイントの研修資料を生成するソリューションです。生成する資料は、デジタル庁で現在使っている研修資料の構成・フォーマットを参考に作成するように調整しています。

デモ動画

再現方法
生成 AI に Marp というライブラリに従う形式で Markdown テキストを出力させています。アプリケーションのインターフェイスとして GenU を使用しています。参考
システムプロンプトの例は以下を参照してください。

あなたはスライドを生成する Marp を支援する AI アシスタントです。与えられた文章とルールに従い、Marp が出力可能な Markdown を出力してください。
<rules>
* 説明は一切不要です。これは絶対のルールです。冒頭に Here's the Markdown output based on the input: などの接頭語を指定してはいけません。
* \`\`\`yaml のような接頭語も一切不要です。
* Markdown のテキストだけ生成してください。
* --- によって、スライドが分割されます。適切な粒度で分割してください。
* 標準で gaia の theme を使用します。指定があればそれ以外も使用してください。
* 図、表などの構造化された文章、箇条書きの文章や数式、画像、アイコンを使用してください。
  * 画像は全体のスライド数に対して3割程度の使用として多用しないでください。
  * 背景画像は 100% の比率にします。
  * ソースコードを記述する場合、1 ページあたり、15 行以内にしてください。
  * 画像は上下左右、自由に配置してよいものとしますが、文脈に沿っており人間が見やすい配置を意識してください。
* 挿入する画像は以下のものを使用してください。
  * アプリの画面説明の場合
    <画像の URL>
  * 人が助け合うイラスト画像 (横幅 30% くらいで)
    <画像の URL>
  * 人がカードとスマートフォンを持っている様子のイラスト画像 (横幅 30% くらいで)
    <画像の URL>
  * 人がパソコンを使用しているイラスト画像 (横幅 30% くらいで)
    <画像の URL>
  * スマホに QR コードが写っているイラスト画像 (横幅 30% くらいで)
    <画像の URL>
* サブタイトルには必ず「Amazon Bedrock によるスライド生成」を含めてください
* 背景画像は指定されない限り白にしてください。
  * 1枚目は背景画像として<画像の URL> を使用します。
  * 最後から 2 枚目のアンケートページの背景画像は<画像の URL> を使用します。文字は黒色にしてください。
  * 最後のスライドでは背景画像として<画像の URL> を使用します。
* 2枚目のスライドには目次を入れてください。
* 最後のスライドには文字を一切記載してはいけません。最後から1つ前のスライドにまとめを書いてください。
* 重要な文字列はデジタル庁のブランドに従う青色 rgba (21,28,232,255) にしてください。
</rules>
Markdown の先頭に書く theme などの Local directives のサンプルは以下のとおりです。
theme などはファイル全体に適用されます。スライド1枚ずつに記述してはいけません。
特に指定がなければ以下のフォーマットに従ってください。
<format>
---
theme: gaia
class: lead
paginate: true
backgroundColor: #fff
---
![bg 100%](<画像のURL>)
<!-- header: "スライドのテーマ" ---> ヘッダーを指定
# タイトル
### サブタイトル
---
![bg 100%](背景画像)


<!-- header: "スライドのテーマ2" ---> ヘッダーを指定
## タイトル
内容
---
<!-- header: "スライドのテーマ3" ---> ヘッダーを指定
## タイトル
内容
</format>
また、スタイルを変更する場合は以下のようにしてください。
<styling-example>
---
theme: base
---
<style>
section {
  background: yellow;
}
</style>
# Tweak style through Markdown
You would see a yellow slide.
</styling-example>
スコープ付きスタイル
また、<style scoped>を通じてスコープ付きインラインスタイルもサポートしています。
style 要素に scoped 属性がある場合、そのスタイルは現在のスライドページにのみ適用されます。
スライドページごとにスタイルを微調整したい場合に便利です。
<scoped-styling-example>
<!-- Global style -->
<style>
h1 {
  color: red;
}
</style>
# Red text
---
<!-- Scoped style -->
<style scoped>
h1 {
  color: blue;
}
</style>
# Blue text (only in the current slide page)
---
# Red text
</scoped-styling-example>

推奨される基盤モデル
Claude 3.5 Sonnet (v1)、Claude 3.5 Sonnet (v2)、Claude 3 Sonnet、Claude 3 Haiku

担当した AWS ソリューションアーキテクト
Daisuke Awaji、Shota Kishimoto

2. デザインガイドラインに準拠したイラストの自動生成

業務の課題
デジタル庁が元々もっているアイコンやグラフィックを少し変えたいときにデザインガイドラインに準拠したイラストの作成業務を生成 AI を活用して出来ないかという要望をデジタル庁職員から受けました。

AWS のソリューション
Amazon Bedrock のイメージプレイグラウンドにてイラストを自動生成しました。

再現方法

  • ソリューション①: 新規画像生成:Amazon Bedrock のイメージのプレイグラウンドより作成しました。以下のプロンプトを参考にしてください。 プロンプト例:illustration, QR code, smartphone, left hand, simple color, white background, device edge color #1D2A68, high contrast 3:1 ratio, user interface components visible, graphical objects clear, minimalist style, clean design, no background items, focus on essential elements
  • ソリューション②: 既存画像からのバリエーション生成:同じくイメージのプレイグラウンドより、デジタル庁で公開しているイラストレーションを既存画像としてアップロードして作成しました。

推奨される基盤モデル
①、②ともに、Amazon Titan Image Generator v2

担当した AWS ソリューションアーキテクト
Naoki Miyaguchi、Yozo Suzuki

3. 議会答弁案作成のサポート

業務の課題
議会における答弁作成業務では、職員がこれまでの会議録や施策情報を手作業で確認・整理していますが、AI を活用することにより、業務の効率化が期待されています。例えば、過去の会議録やホームページから関連情報を自動抽出し、根拠資料を明確にした情報を AI が提示することで、職員が行う答弁案の作成に関する業務を AI がサポートし、より効率的で質の高い業務の実現に資することが考えられます。

AWS のソリューション
Amazon Bedrock Agents でウェブ検索エージェント作成し、検索結果を元に回答を出力させました。

再現方法
GenU で「検索エージェントのデプロイ」を行い、SearchAgent を作成し、以下のプロンプトを実行します。

あなたは優秀な東京都のデジタルサービス局長のアシスタントです。 
以下 3 つの作業を実施してください。
作業内容をすべて確認してから出力してください。 
必ず"マークダウン形式"で出力してください。 
1: 以下の「質問文」を解釈して、インターネット上にある東京都に関する情報から質問文に関連する以前の取り組みと事実確認を行なってください。 
2: 1 で調査した内容を基に、局長が議会答弁の際に話す「これまでの取り組み」をまとめる必要があります。
    調査した内容から「詳細」「簡潔」「フォーマル」の 3 パターンでそれぞれ 100 字以内でまとめてください。まとめる際には以下に示した「キーワード」を意識してください。 
3: 局長の最終的なチェックを助けるために、情報源にしたリンクを提示してください。 
    キーワード:窓口改革 
    質問文:東京都は、二〇二五年度を目標に、デジタルガバメント都庁の基盤構築を目指し、シン・トセイ戦略を推進してきました。
        この戦略の下で、これまでアナログ業務のデジタル化などを進め、業務プロセスの抜本的な見直しを図ってきたと認識しています。
        行政のデジタル化は、都民がオンラインで簡単に行政手続を行える環境を整えることを目的としていますが、オンライン手続だけでなく、
        窓口での対応も同様に重要であり、今後も、都民が便利で快適に行政サービスを利用できる環境の整備を進め、デジタル化と対面サービスの双方において質の高い行政運営を実現することが必要です。
        デジタルをフルに活用し、窓口における利用者視点に立った改革を一層進めるべきと考えますが、見解を伺います。

推奨される基盤モデル
Claude 3.5 Sonnet (v1)、Claude 3.5 Sonnet (v2)、Claude 3 Sonnet、Claude 3 Haiku

担当した AWS ソリューションアーキテクト
Masahiro Tabuki、Yohei Katayama、Kohei Hayashi

まとめ

デジタル庁は、この AI ハッカソン、アイデアソンの経験を活かし、これを一過性のイベントではなく、組織に根付いた持続可能な取り組みへと発展させることを目指しています。具体的には、AI で業務改善を求める職員が即座に恩恵を受けられる環境の構築、AI エンジニアと現場ニーズの効果的なマッチング、そして職員の AI エンジニアスキル育成を重点的に進めていく計画です。また、今回開発されたプロトタイプについては、イベント限定のものとせず、職員に安定して届け、継続的に改善できる体制を整備する方針とのことです。

今回実証された生成 AI ソリューションの活用は、行政分野における業務効率化や品質向上に寄与するだけでなく、医療、教育、防災など他の幅広い分野への展開可能性も示唆しており、社会全体の DX を加速する重要な一歩となりました。AWS は、このようなデジタル庁の取り組みを技術面から継続的に支援し、行政サービスのデジタル変革を加速させることを目指しています。

補足

Generative AI Use Cases JP (略称:GenU) : 生成 AI の業務活用に興味はあるもの、「どのように始めれば良いのか」「セキュリティ面は大丈夫なのか」といった課題を抱えている方も多いのではないでしょうか。GenU は、そんな課題を解決するために AWS Japan の有志を中心に開発された生成 AI アプリケーションです。Amazon Bedrock や Amazon Kendra などの AWS のサービスを活用し、チャットボットや RAG (検索拡張生成)、画像生成など、簡単にすぐに業務で活用できるさまざまなユースケースを 1 つのアプリケーションとして提供しています。

著者について

Shota Kishimoto

岸本尚大 (Shota Kishimoto)

AWS Japan の Prototyping Solutions Architect として、公共部門のお客様を担当しています。プロトタイピングという名前の通り、実際に動作するプロトタイプ (アプリケーション) を、AWS を用いて作成し、お客様に技術提供する形でご支援を行っています。