合同会社makigai(マキガイ)の貝瀬です。2024年6月からスクラムマスターとして、介護/障害福祉事業者向け経営支援サービス「カイポケ」に関わる組織やプロセスの改善を支援しています。
カイポケリニューアルプロジェクトにおけるLeSS(Large Scale Scrum:大規模スクラム)の適用範囲の広がりとともに、スクラムマスターも組織化しました。2025年1月に、スクラムマスターの1人である福田がファシリテーターとなり、LeSSの実践当事者を集めて座談会を実施したので、その模様をお届けします。
それぞれの立場からみた変化、変化の前後で感じたこと、今後の組織に期待していることなどを聞かせていただきました。
座談会は非常に盛り上がったため複数回に分け、Part1となる本記事では、LeSSの導入から導入後初月までのお話を紹介します。
LeSS導入時の経緯やマネージャー視点でのふりかえりは過去記事をご参照ください。
人物紹介
- キム ダソム(以下、キムPO)
- エリアプロダクトオーナー
- 田村 恵(以下、田村PO)
- エリアプロダクトオーナー
- 原野 誉大(以下、原野EN)
- エンジニア
- 伊達 大晃(以下、伊達EN)
- エンジニア
- 福田 尚亮
- スクラムマスター兼ファシリテーター
- 貝瀬 岳志
- 全体のスクラムマスター兼本記事の執筆者
LeSS導入時の印象や期待
—— LeSSの導入に伴ってどのような印象や期待があったのか。まずはプロダクトオーナーの目線から聞かせてください。
キムPO:元々スクラムは導入していたんですけど、私の担当エリアの中でもワークフローが我流になっている部分がありました。ワークフローが組織横断で統一されていく点を最初に期待していました。バラバラになっていることでコミュニケーションのズレが生じていると感じていたので、導入前よりは少なくなるのではないかという期待ですね。
田村PO:スクラムイベント内では完結しきれない、チームを跨いだコミュニケーションが多かったと感じていましたが、そこにかかるコミュニケーションコストが下がっていくことを期待していました。また、私の担当エリアではPBI(Product Backlog Item)の管理方法もチームごとに独自の方法で管理されていました。エリア全体をみる立場としては、ある程度統一されることで、認知コストが下がる点にも期待していました。
—— エンジニアの二人からも同様にLeSS導入時の印象や期待を聞かせてください。
原野EN:LeSSが導入される前の前段として、7月くらいからスクラムイベントのやり方や体制がすごく変わってきていて、大体1ヶ月半くらい立って安定してきたところにまたやり方が変わるのかと、当時は感じていました。現在進行形でもそれは感じていますが、ただそれ自体はネガティブな感情ではなく、右足を出したら次は左足を出す、といったような受け止め方をしていました。もう一点、LeSSが導入される以前からプロジェクトリード(注釈:組織内で独自に定義した役割)という役割を任されていたのですが、最初の期待値よりも上がってきていているのを感じていました。
—— プロジェクトリードは、組織の変化をチームに浸透していくハブみたいな役割もあったんでしょうか?
原野EN:そうですね。当時はそのような期待があったように感じます。チームとチーム外とのコミュニケーションハブを担っていた部分もあったので、新しいやり方を導入するたびにどのようにチームに説明して進めていけばいいのかを考える機会が多くなったと思います。
伊達EN:自分はプロジェクトリードではありませんでしたが、すでに大きめの組織だったので、LeSSを導入していくという話を聞いたときに、今までのやり方を変えていく上でのハレーションは起きないのか?ということも含めて、楽しみに感じていました。
—— 良い意味で驚いていますが、皆さんポジティブな話ばかりですね。
キムPO:マイナスではないんですけど一点あげると、LeSSの導入にあたって貝瀬さんがまとめて下さっていた会議体の拘束時間を見てやばいなと思いました。個人的には、結果的に拘束時間はグンと下がったと感じています。ただ、固定で開かれる会議体が目の前に可視化されたのを見て、当時はめっちゃ拘束されるじゃん!と感じていたことを思い出しました。
原野EN:自分の場合は、スクラムやLeSSのイベントと、その他の会議で開発の時間がなくなるな、みたいな状況でした。既存の会議にアドオンになるので最初は時間もコストもかかりそうな印象を持っていましたが、関係者間で合意されているならいいのかなと思っていました。仮に開発速度が遅くなったとしても何か言われそうな雰囲気はなかったので、その点はポジティブでしたね。導入前の会議体は徐々にリファインメントなどのイベントにマージされていったので、自分の拘束時間も徐々に減っていったと思います。
LeSS導入後初月に起きた変化
—— ここまでは、LeSS導入前または導入過渡期のお話を聞かせていただきました。実際にLeSSを導入してみて、9月というタイムボックスでのお話を聞かせてください。
原野EN:自分の場合はプロジェクトリードという役割を担っていたことで、LeSS系の全部の会議体に出たり呼ばれたりすることが大きな負担でした。10月以降にプロジェクトリード廃止の動きがあったので、自分の負担はチームに分散されていくことになっていきましたが。
—— 実際にLeSSを導入した後で会議の拘束時間はどうなりましたか?
キムPO:さっきも少し話したのですが、結果的に拘束時間は減りました。固定枠は増えたんですが、臨時開催されていた会議体が複数チームプロダクトバックログリファインメントやオーバーオールプロダクトバックログリファインメントなどの会議体に吸収されていった結果かと思います。
原野EN:慣れていくにつれて、いつどこで何を会話すべきかの目星もつけやすくなりましたね。
キムPO:チームにとっては、スプリントプランニングをしやすくなる効果もあったようにと思います。突発的に発生するミーティングでも、優先順位と自分たちのキャパシティを踏まえて、今このまま話を続けるべきなのか、用意されているイベントの中で話すべきなのかというコミュニケーションが増えた点をポジティブに感じています。
—— LeSS導入前の課題としてあった、チーム間のコミュニケーションロスのようなものに対して良い影響があったんでしょうか?
キムPO:すごく良い影響があったと思います。LeSS導入前の7月・8月あたりでは、とあるPBIの開発に着手することを決めた後、蓋を開けてみたら、他のチームと話して決めないといけないことが出てきたり、先に依存関係を解消しないと進められないことが分かったりと、チーム間を跨いだ課題が私の担当エリアで頻発していました。このオーバーヘッドが原因で、当初立てた計画どおりに進まないケースもかなりありました。同タイミングでPRD(Product Requirements Document)の作成プロセスが整備された影響もあるんですけど、LeSSの導入により複数チームで会話する機会が公式に設けられ、早い段階で依存関係とか結合度合いの確認ができるようになったので、後からオーバーヘッドが発覚することや、不確実性が内在する状態でスプリントを実施する度合いがかなり減ったかなという印象があります。
田村PO:私の担当エリアから他エリアに調整・確認したいことがでてきても、相手が大変そうな時期だと遠慮が先走ってしまうことがありました。エリア間の調整の機会が公式に設けられたことによって、そういった遠慮をする必要がなくなったのは大きいかなと思います。
—— 導入の初月からまさに狙い通りの変化が起きているなという印象を受けました。逆にLeSSを導入した影響で気になるようになったことや、うまく行かなくなったことなどがあれば教えてください。
原野EN:これまで目を瞑っていたようなことが表に出てきた感覚があります。ポジティブなニュアンスなんですが、表に出てきて会話ができるようになった分、スケジュールやリリースターゲットを意識して、向き合う必要が出てきたのかなと思います。今までチームやエリアを跨いで横断的に見えなかったものが見えるようになった結果、気にする対象や視点も広がったのかなと思います。
キムPO:LeSSの導入はワークフローだけではなく組織設計を考えるきっかけになりました。当時はフロントエンドとバックエンドでチームを分けていたので、LeSSを実践するにあたってフィーチャーチーム(注釈:顧客中心のフィーチャをエンドツーエンドで創出できるチーム)が理想だというのは理解しつつも、どうやって変えていけばいいのかをかなり考えました。また、LeSS導入前から定義されていたエリアやドメイン、プロダクトマネージャやプロダクトオーナーなどの役割などをどう捉え、再定義するのかなども考えるきっかけになりましたね。
原野EN:スプリントバックログだけでなくプロダクトバックログもチーム単位でバラバラだったので、どの単位で何を管理するのかという課題も出てきましたね。
—— 9月は出尽くした感じですかね。ではそろそろ10月のお話にうつっていきたいと思います。
まとめ
今回はLeSS座談会で扱ったトピックのうち、導入から導入初月までのお話を紹介しました。私も当日の座談会に同席していましたが、当時の雰囲気を振り返ることによる新たな気づきもあったようで、非常にポジティブな雰囲気でした。続編についても鋭意執筆中ですので公開をお待ちください。