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AWS for SAP をジャンプスタート : SAP S/4HANA Fully-Activated Appliance の自動デプロイで Fit&Gap 分析や PoC を加速

概要

SAP RISE を介した SAP S/4HANA の実装や AWS 上でのネイティブな実装は、長期にわたるタイムラインと複雑さを伴うため、企業にとって大規模な取り組みとなります。SAP 導入プロジェクトの成功要因は、シンプルなビジネスプロセスの検討と主要業務課題の整理であり、適切に管理されたシステム環境において調整作業や徹底したテスト、そして包括的な研修プログラムを通して組織変化を繰り返す必要があります。

本番環境の実装が始まるずっと前から、お客様やパートナー企業は、AWS 上に非運用 SAP S/4HANA システムを展開して、パフォーマンスと機能を評価したいとお考えかもしれません。この事前準備を行う事で、Fit&Gap 分析の実施や、本番ワークロードを移行する前に AWS サービスがビジネスプロセスをどのようにモダナイズできるかを検討できるようになり、結果的に強力なビジネスケースを確立する支えとなります。
このような評価用に、SAP では「Fully-Activated Appliance (FAA)」と呼ばれる、サンドボックス、概念実証、範囲決定、Fit&Gap 分析などの非運用環境向けにプリパッケージ化された SAP S/4HANA システムを提供しています。
このシステムには、SAP Best Practices に基づくデモシナリオが既に用意されており、利用可能な全ローカライズに対して SAP Best Practices のグリーンフィールドアクティベーション用にクライアントが別途用意されています。

SAP S/4HANA FAA は、主に 2 つの方法でデプロイできます。

SAP Cloud Appliance Library (SAP CAL) の操作

最速で最も簡単な方法は、次のとおりです。SAP CAL を使用すれば、AWS 上にアプライアンスを約 1 時間から 2 時間で展開できます。SAP CAL には、すぐに使用できる事前に構成済みのシステムテンプレートが用意されています。ただし、SAP CAL を利用する場合、展開された SAP 製品の SAP ライセンスが必要であることにご注意ください。アプライアンスを 30 日以上使い続ける予定の場合は、次の 2 点を考慮する必要があります。

  • アプライアンスに組み込まれた SAP 製品のライセンスが必要です
  • SAP Cloud Appliance Library のサブスクリプションが必要です

SAP Cloud Appliance Library システムは、アプライアンス作成を開始した S-User に関連付けられた組織のライセンスとサブスクリプションのステータスを検証します。
最初の 30 日間を過ぎた後のアプライアンスの有効化には、必要なライセンスの正常な検証と、有効な SAP Cloud Appliance Library サブスクリプションが条件となります。

詳細については、SAP Cloud Appliance Library FAQ および ライセンスの FAQ を参照してください。

カスタムインストール

既に SAP のライセンスをお持ちで、インフラストラクチャにより細かい制御が必要な場合や、特定の AWS アカウント構造に合わせる必要がある場合は、自身の AWS 環境にアプライアンスを手動でセットアップするオプションがあります。
この方法では柔軟性が高まりますが、より高度な技術力と時間を要し、通常、セットアップには数日を要します。

SAP の業務アプリケーションソフトウェア SAP S/4HANA Finance Accounting and Analytics (FAA) のインストールプロセスは、標準の SAP インストールとは異なり、「評価版を使った段階」でユーザーが機能面で難しいと感じる複数の技術的ステップが含まれています。しかし、このブログではより効率的な代替手順を紹介します。
ここでは、AWS Launch Wizard を使用した自動化インストール方法について説明し、デプロイ時間と手間を 2 時間以内に短縮する方法を概説します。

このブログの目的は、このストリームライン化されたアプローチが、SAP S/4HANA の初期探索段階と導入を加速する方法を説明し、組織が AWS での RISE with SAP またはネイティブな SAP S/4HANA ジャーニーを進める手助けをすることです。

主要な検討事項

  • カスタムインストールオプションでは、特定の AWS アカウントの構造と管理コントロールに合わせて設定をカスタマイズできます。
  • この方法では、システムに対する完全な管理権と包括的な構成制御を与えられます。
  • この方法は、データガバナンスポリシーが厳格な組織や、固有のインフラストラクチャニーズのある組織に適しています。
  • どの方法を選んでも、事前にベストプラクティスが設定された SAP S/4HANA 環境と、評価、テスト、概念実証用のサンプルデータやデモシナリオを提供します。
  • AWS Launch Wizard を活用すれば、SAP S/4HANA FAA のセットアップ時間を数日から 2 時間以内に短縮できます。

前提条件

アーキテクチャ

このストリームラインされたインストールアプローチを実現するため、必要なデプロイメントファイルが含まれる GitHub リポジトリを積極的に管理しています。サポートされるバージョンや詳細なインストール手順については、こちらを参照してください。

Content of GitHub repository for automated SAP S/4HANA FAA deployment

図 1: SAP S/4HANA FAA 自動デプロイのGitHub リポジトリ

Architecture overview

図 2: アーキテクチャの概要

インストール手順

SAP S/4HANA FAA をインストールするには、次の手順に従ってください。

まず、SAP Software Download Center から SAP S/4HANA FAA インストール メディアと SWPM をダウンロードしてください。次に、これらのファイルを Amazon S3 バケットにアップロードします。Amazon S3 バケットの名前は “launchwizard-” で始まる必要があります。

SAP S/4HANA FAA export files

図 3: SAP S/4HANA FAA エクスポートファイル

SAP Software Provisioning Manager (SWPM) file

図 4: SAP Software Provisioning Manager (SWPM) ファイル

Structure of directories for necessary installation files

図 5: 必要なインストールファイルのディレクトリ構造

次に、この場所から post_deploy_s4h_faa.sh スクリプトをダウンロードします。
このスクリプトを開いて、次の 3 つの重要なパラメーターを設定してください。

  1. s4h_faa_exports: SAP S/4HANA FAA の .ZIP ファイルを保管した S3 URI パスを設定します。
  2. s4h_swpm: Software Update Manager の.SAR ファイルを置いた S3 URI パスを設定します。
  3. s4h_version: インストールする SAP S/4HANA FAA のバージョンを選択するために設定します (現在は 2023_FPS00 のみサポート対象です)

post_deploy_s4h_faa.sh ファイルで調整が必要な変数が強調表示されています

図 6: 調整が必要な変数が強調表示された post_deploy_s4h_faa.sh ファイル

これらの変更が完了したら、post_deploy_s4h_faa.sh スクリプトを SAP インストールメディアが入った同じ S3 バケットにアップロードします。ファイルは post_deploy ディレクトリに格納してください。

これで AWS コンソールにアクセスし、SAP S/4HANA システムをデプロイしたいリージョンを選択します。

How to select your AWS region

図 7: AWS リージョンを選択する

AWS Launch Wizard サービスに移動し、単一インスタンスのデプロイのみの AWS インフラストラクチャのセットアップを開始してください。SAP S/4HANA をホストするのに十分なメモリとストレージを確保するために、少なくとも R[5 | 6 | 7]i.8xl の EC2 インスタンスサイズを選択してください。
詳細については、AWS Launch Wizard User Guide を参照してください。SAP S/4HANA のインストールパッケージは、コンソールと AWS CLI の両方でデプロイをサポートしています。AWS CLI を使用する場合は、デプロイ前に サンプル JSON 仕様ファイルをダウンロードし、お客様のニーズに合わせてカスタマイズすることができます。

この処理の際、post_deploy_s4h_faa.sh スクリプトを、デプロイ後の設定スクリプトとして指定してください。

Post-deployment configuration script form

図 8: 配置後の構成スクリプトフォーム

SAP アプリケーションソフトウェアのインストールフォーム

図 9: SAP アプリケーションソフトウェアのインストールフォーム

デプロイプロセスが正常に完了すると、指定されたホスト上で SAP S/4HANA FAA 2023 FPS00 にアクセスできるようになります。

デプロイには約 60 分から 90 分かかる見込みです。進捗状況は “/root/install/post_deploy.log” のデプロイログを確認してモニタリングできます。
デプロイが完了すると、ログにパスワードを含む SAP システムの詳細が表示されます。

SAP S/4HANA system details in post_deploy.log

図 10: post_deploy.log 内の SAP S/4HANA システム詳細

参考費用

AWS Launch Wizard は、SAP デプロイの動的なコスト見積もりを提供します。
EC2 インスタンスタイプを選択した後、EC2 やストレージなどのコアサービスの概算の月額料金の内訳を確認できます。
構成を変更するたびに、この見積もりはリアルタイムで更新されるので、デプロイ前にコストを最適化できます。

以下の表は、米国東部 (バージニア北部) リージョンで推奨されるインスタンスサイズに基づく概算価格を示しています。

SAP S/4HANA FAA デプロイメントの参考費用
リソース 説明 金額 (USD/月)
コンピューティングインスタンス インスタンスタイプ: r6i.8xlarge 1471.68 USD
ストレージボリューム ボリュームタイプ: gp3 124.16 USD
ボリュームタイプ: st1 51.20 USD
月額費用 1647.04 USD

EC2 インスタンスを夜間や週末など使用しない時間に非アクティブ化することで、さらにコストを削減することができます。これは、AWS Systems Manager for SAP により実現できます。

まとめ

AWS Launch Wizard を使用して SAP S/4HANA の評価と実装プロセスを効率化するには、次のステップを実行できます。

  1. GitHub リポジトリにアクセスして、自動化パッケージを確認する
  2. AWS コンソールに移動して、Launch Wizard を開始する
  3. 説明された自動化された方法を使って、SAP S/4HANA FAA のデプロイを開始する

この手順に従うことで、SAP S/4HANA FAA と AWS が提供する幅広い機会を探索できる環境が、すぐに構築できます。
このようにすれば、組織は適切な判断を下すことができ、RISE on AWS と Native SAP on AWS の導入を加速できるでしょう。

翻訳は Partner SA 松本が担当しました。原文はこちらです。