G-gen の杉村です。当記事では、Google(Google Cloud)が提供する生成 AI サービスである Google Agentspace を解説します。
概要
Google Agentspace とは
Google Agentspace とは、Google(Google Cloud)が提供する生成 AI サービスです。組織内に分散しているドキュメント、メール、チャット履歴などのデータを横断検索し、情報の発見を手助けします。また AI エージェント機能により、カレンダーの登録やその他のタスクなどを人間の代わりに行います。
Google Agentspace は、ブラウザで起動するウェブアプリケーションです。以下のような画面で、情報の検索や AI エージェントへの指示を行うことができます(画面は2025年3月現在、Early Access 時のもの)。

この画面はアシスタントと呼ばれており、Google ドライブや SharePoint などのデータソースへの検索や、アップロードしたファイルに基づく生成 AI への質問、画像の生成など、様々なタスクを実行できます。
また Google Agentspace のライセンスには、NotebookLM Enterprise もパッケージングされています。NotebookLM は、独自データをアップロードして生成 AI から利用できるウェブサービスです。ドキュメントを要約したり、分析したり、ポッドキャスト風の音声を生成することもできます。
Early Access(早期アクセス)
2025年3月現在、Google Agentspace は Early Access(早期アクセス)の段階であり、正式リリースされていません。試用するには、Google に対して申請が必要です。以下の応募フォームから応募するか、Google Cloud または販売パートナーのセールス担当者へ相談してください。
多様なデータソース
Google Agentspace の横断検索は、Google ドライブや Google カレンダー、BigQuery などの Google サービスのほか、Microsoft Teams、Outlook、SharePoint Online、OneDrive、Notion、Salesforce、Box、Slack など多くのサードパーティデータソースに対応しています。
Google Agentspace はこのような多様なデータソースを横断して、セマンティック検索(意味論検索)により、あいまいな言葉や自然言語での検索を可能にします。また、検索結果に応じてドキュメントを要約したり、人間の自然言語による質問に対して回答を返すこともできます。
対応しているデータソースの詳細は後述します。また以下の公式ドキュメントに記載されています。
主要機能
アシスタント
アシスタントは Google Agentspace のメインの画面です。
アシスタント画面では、接続したデータソースに対してドキュメントの横断検索が実行できます。検索機能は Google 検索の技術を活かしており、セマンティック検索(意味論検索)が行われます。あいまいな語句や、近い意味の語句で検索することができます。また、検索結果のドキュメントを利用して要約した回答を、生成 AI が生成します。人間のあいまいな言葉による質問にも、AI による回答が生成されます。

さらに、アシスタントには PDF、画像、ビデオなど、アップロードしたファイルを分析させることもできます。それに加え、自然言語の指示に基づいて画像を生成させるなど、Gemini ウェブアプリなどの生成 AI チャットアプリと似たようなタスクを行わせることも可能です。
- 参考 : Create assistants
アシスタントでは、登録したデータストアに基づいた生成が行われるほか、Google Search grounding を有効化することで Google 検索によるグラウンディング(根拠づけ)を行い、外部ウェブサイトに基づいた生成をさせることもできます。
アシスタントアクション(エージェント機能)
アシスタントアクションは、アシスタント画面で入力されたユーザーからの自然言語による指示に基づき、Google Agentspace が代わりに作業を行う AI エージェント機能です。
2025年3月現在、以下のコネクタに基づいたアクションが利用できます。
- Jira Cloud
- Workday
- Gmail
- Google Calendar
- Outlook email
- Outlook calendar
アシスタントアクションでは、例として Jira の issue の作成、Gmail や Outlook でのメール作成、Google カレンダーや Outlook カレンダーで予定を作成することができます。
また Google Agentspace は Dialogflow エージェントとの統合も可能です。Dialogflow は Google Cloud のフルマネージドサービスであり、エージェント機能を用いることでユーザーとの会話に基づいたアクションを行うことができます。Dialogflow エージェントを用いた作り込みにより、Google Agentspace がネイティブにサポートしていないアクションも実現できます。
Deep Research
Google Agentspace には Deep Research が用意されています。Deep Research は Gemini ウェブアプリにも実装されている機能で、インターネット上の複数のデータソースに基づいて深い調査を行い、詳細なレポートにまとめてくれます。
通常の生成 AI チャットアプリとは異なり、多段で詳細な調査と生成を行うため、回答の生成には数分間を要します。

NotebookLM Enterprise
NotebookLM Enterprise は、Google Agentspace のライセンスに含まれている生成 AI ノートブック機能です。
NotebookLM は Google が無償で提供している生成 AI ウェブサービスであり、アップロードしたファイルに基づいて、生成 AI が分析を提供したり、要約したり、新たな文章を生成したりできる仕組みです。また Google Workspace の多くのエディションには、組織向けの機能を強化した NotebookLM Plus が付随しています。
NotebookLM Enterprise では、無償版の NotebookLM と比較してエンタープライズ向けの機能が強化されています。また無償版の NotebookLM や Google Workspace に付属する NotebookLM Plus と異なり、NotebookLM Enterprise では利用者の Google アカウントは必須ではありません。Active Directory(Entra ID)等のサードパーティの IdP のアカウントで利用することができます。
NotebookLM Enterprise は、Google Agentspace に含まれていますが、スタンドアロンのプロダクトとして購入することもできます。

NotebookLM の基本的な使い方や NotebookLM Plus については、以下の記事も参照してください。
ライセンス
Google Agentspace の利用にあたっては、ユーザーごとにライセンスが必要です。ライセンスは手動または自動での割り当てが可能です。
手動割り当ての場合、ユーザーのメールアドレスに対して手動でライセンスを割り当てます。
自動割り当ての場合、権限を持つユーザーが Google Agentspace や Notebook LM Enterprise の画面に初めてアクセスしたときにライセンスが自動で割り当てられます。
なおライセンスはリージョンに紐づいており、Google Agentspace アプリを global と us のそれぞれに作成した場合は、それぞれのリージョンに対してライセンスが必要です。
ライセンスは月間サブスクリプション、年間サブスクリプション、3年間のサブスクリプションから選択して購入可能です。また、サブスクリプションの購入は Google Cloud コンソールから行うことができ、支払いは Google Cloud の請求先アカウントを通して行うことができます。
ライセンスには Agentspace Enterprise と Agentspace Enterprise Plus の2種類があります。
ライセンス名 | 含まれる機能 |
---|---|
Agentspace Enterprise | 検索のみ |
Agentspace Enterprise Plus | 検索・アシスタント |
2025年3月現在、Google Agentspace は Early Access 公開であり、費用等は公開されていません。Google Cloud や販売パートナーのセールス担当者にお問い合わせください。
利用可能なデータソース
ファーストパーティ
Google Agentspace の横断検索は、以下のような Google サービスのデータソースに対応しています。リストは2025年3月現在、公式ドキュメントに掲載があるものです。
- BigQuery
- Cloud Storage
- Google ドライブ
- Gmail (Public preview)
- Google サイト (Public preview)
- Google カレンダー (Public preview)
- Google グループ (Public preview)
- Google アカウント (Public preview)
- Cloud SQL
- Spanner (Public preview)
- Firestore
- Bigtable (Public Preview)
- AlloyDB for PostgreSQL (Public Preview)
- API 経由での JSON データのアップロード
サードパーティ
Google Agentspace の横断検索は、以下のようなサードパーティのデータソースに対応しています。リストは2025年3月20日現在、公式ドキュメントに掲載があるものです。なお、Additional allowlist
の記載があるものは、利用に当たり Google に追加の申請が必要です。
- Adobe Experience Manager
- AODocs (Additional allowlist)
- Asana
- Box
- Coda (Additional allowlist)
- Confluence Cloud
- Confluence Data Center On-premises
- DocuSign
- Dropbox
- Dynamics 365
- Entra ID
- GitHub (Additional allowlist)
- GitLab (Additional allowlist)
- HubSpot
- Jira Cloud
- Jira Data Center On-premises
- Marketo Cloud
- Microsoft Outlook (Additional allowlist)
- Microsoft Teams (Additional allowlist)
- Monday
- Notion (Additional allowlist)
- Okta
- OneDrive
- Salesforce
- ServiceNow
- SharePoint Data Center On-premises
- SharePoint Online
- Slack
- Trello
- WordPress
- Workday
- Zendesk (Additional allowlist)
認証情報
概要
Google Agentspace は、Google アカウントもしくはサードパーティ認証情報を用いて利用できます。またデータソースへの認証も、このログイン時の認証情報を用います。
Google アカウントによる認証情報を選択する場合、利用者は Google アカウントを使って Google Agentspace へログインできます。またデータソースへの認証も、Google アカウントの認証情報が使われます。例えば Google ドライブに対しては、Google Agentspace 利用者の Google アカウントの認証情報が使われるため、利用者が本来アクセスできないファイルは検索結果や要約結果に現れません。
サードパーティの認証情報を選択する場合、Active Directory(AD FS 利用)や Entra ID、Okta、OneLogin など、OIDC または SAML 2.0 に対応している IdP の認証情報を利用することができます。こちらの場合でも Google アカウントの場合と同様に、データストアに対しては、利用者の認証情報に基づいたアクセス制御が適用されるため、利用者が本来アクセスできないファイルは検索結果や要約結果に現れません。
シングルサインオン(SSO)設定手順
Active Directory や Okta など、サードパーティの IdP のアカウントで Google Agentspace を利用するには、Google Cloud の Workforce Identity 機能を用いて、OIDC や SAML 2.0 を使った認証情報の連携を設定します。
セットアップには、Google Cloud とサードパーティ IdP 側の両方で設定作業を行います。
Entra ID(OIDC 連携)を例に取ると、作業は以下のようになります。
- Entra ID 側
- アプリケーションの作成
- クライアントシークレットの生成
- Google Cloud 側
- Workforce Identity Pool の作成
- Workforce Identity Pool Provider の作成
- クライアントシークレットの登録
- OIDC 属性マッピングの設定
- Workforce Identity Pool に対して Google Agentspace を利用するための IAM ロールを付与
SSO のセットアップにあたり、Entra ID の場合、クライアントアプリケーションの作成を行うにはグローバル管理者またはアプリケーション管理者のロールが必要です。
詳細な手順については、以下の公式ドキュメントを参照してください。
- 参考 : Microsoft Entra ID との Workforce Identity 連携を構成してユーザー ログインを行う
- 参考 : Okta との Workforce Identity 連携を構成してユーザー ログインを行う
データソース追加手順
サードパーティのデータソースに接続するには、Google Agentspace と OIDC 等で連携するための設定をデータソース側に登録する必要があります。
詳細な手順は以下の公式ドキュメントに掲載されています。
例として、SharePoint や OneDrive 等の Microsoft 365 サービスでは、Microsoft Entra 管理センターで「アプリケーション」を作成し、API へのアクセス許可を設定したり、クライアントシークレットの発行を行います。

データソースの追加作業にあたり、Microsoft 365 の場合、クライアントアプリケーションの作成を行うため、グローバル管理者またはアプリケーション管理者のロールが必要です。
トラブルシューティング
Workforce Identity 連携やデータソースの追加が正しく完了し、Google Agentspace からデータソースへのクロール(取り込み)も成功しているのに、検索結果が出ないことがあります。


該当する結果が見つかりませんでした。別の検索語句をお試しください。
これは、Workforce Identity プールのプロバイダ設定において、ID 属性のマッピングが正しくないことにより、認証情報が正しく連携されず検索ができていない可能性があります。
Workforce Identity の公式ガイド(https://cloud.google.com/iam/docs/workforce-sign-in-microsoft-entra-id?hl=ja#create_the_microsoft_entra_id_workforce_identity_pool_provider)の記述では、推奨される属性マッピングとして以下が提示されています。
google.subject=assertion.sub, google.groups=assertion.groups, google.display_name=assertion.preferred_username
しかし、Google Agentspace の公式ガイド(https://cloud.google.com/agentspace/agentspace-enterprise/docs/identity#about)では、以下のマッピングが必要とされています。
google.subject=assertion.email google.groups=assertion.groups
google.subject
に対して assertion.email
を設定することで、ユーザーの認証情報が正しく連携されます。
杉村 勇馬 (記事一覧)
執行役員 CTO / クラウドソリューション部 部長
元警察官という経歴を持つ現 IT エンジニア。クラウド管理・運用やネットワークに知見。AWS 12資格、Google Cloud認定資格11資格。X (旧 Twitter) では Google Cloud や AWS のアップデート情報をつぶやいています。
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