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Laboro.AIコラム

AI×センサーで見通せ。「故障予知」から始まる未来

2022.6.7公開 2024.2.6更新

概 要

製造業では、製造される製品に現れる異常を発見することだけでなく、それらを製造している機械そのものの故障を未然に防ぎ、ダウンタイムを削減することが重要な課題の一つになります。故障を予防するために定期的なメンテナンスを行うことはもちろん大切ですが、近年、AIを用いて適切なタイミングで故障予知を行うことを目指した取り組みが増えてきています。

目 次

製造現場での保全の種類
 ・予知保全
 ・予防保全
 ・事後保全
AIを用いた故障予知のアプローチ
 ・「教師あり学習」アプローチの故障予知
 ・「教師なし学習」アプローチの故障予知
故障予知の事例
 ・太陽光発電での故障予知
 ・ドローン×センサーによる故障予知
 ・故障前兆を正解率 9 割で判定できる AI モデルを構築
 ・港湾クレーンの異常発生を高精度で予測
 ・故障時のトラブル対処
故障予知AI導入のポイント
 ・故障予知は次の世界への第一歩

製造現場での保全の種類

製造現場での重要取組事項としては、製造ラインの保全、つまり機械・設備を「保護して安全を守ること」を通して、生産計画を滞りなく達成することです。そして実施するタイミングによって分類ができます。

予知保全

製造装置などが故障する予兆を検知し、適した保全を行うことを「予知保全」と言います。本コラムのテーマであるAIによる故障予知はこの予知保全の一種で、各種センサーで収集された画像データや時系列データなどをAIで分析することで行われます。予知保全が万全になるにつれて、故障によるダウンタイムを回避したり、部品を適切な時期に交換できたり、作業員の危険をあらかじめ除去したりといった対応が可能になってきます。

予防保全

製造ラインを常時監視する予知保全に対し、決められた時期に点検・メンテナンスを行うのが「予防保全」です。文字面は似ていますが、実施するタイミングが大きく異なります。予防保全は一般的には決められた時期に点検を行い、製造ラインの寿命を伸ばし、重大事故を予防することが目指されます。スケジューリングしやすく効率良く保全を行えるという点が特徴です。

事後保全

予知保全や予防保全と違い、故障が起きた後に保全を行うのが「事後保全」です。どれだけ素早く故障を検知できるか、そして復旧までの時間をどれだけ短くできるかがポイントとなります。近年では、製造装置の何かしらのトラブルによって比較的短い時間ラインが停止してしまう、いわゆる「チョコ停」を早期発見するための監視AIの活用も多くも見られるようになってきました。

AIを用いた故障予知のアプローチ

故障予知に関して、AIの学習手法の違いから二つのアプローチを説明します。

「教師あり学習」アプローチの故障予知

例えば製造機械の故障を予知する場合、故障の前兆と捉えられる現象が一定であれば、基準値を設定して、それを超えた際にアラートを発するといった基準値ベースの検知が可能かもしれません。しかし実際の製造現場では、前兆が必ずしも一定ではなく、ベテランの匠の目でしか判断できないようなケースも存在します。

現在のAI技術で主として用いられる機械学習は、AIに大量のデータを入力させることでその特徴パターンを認識させ、次に与えられる未知のデータが学習したパターンとどの程度類似しているのかを推論することを得意とします。そのため、基準値を数値で示すことが難しいケースや、「なんとなく」の見た目や聞いた感じでしか分からない直感的な判断が求められるケースで、AIは効果を発揮しやすいとも言われています。

そして、AIにデータのパターンを認識・予測させるための学習手法は、「教師あり学習」と「教師なし学習」に大きく分けられます。教師あり学習は、正解となるタグ(ラベル)を付与したデータを学習させ、その特徴やパターンを習得させる手法です。撮像の環境が一定であることなどの条件が伴いますが、大量かつ整理されたデータがあるほど、正常と異常の境界をより正確に判断できる可能性が高まっていきます。

「教師なし学習」アプローチの故障予知

正解ラベルが付与されていないデータを用いる、あるいは正解となるデータを十分に集めることが難しい場合に用いられる学習手法の一つが、教師なし学習です。あらかじめ正解をラベル付けして学習を施す教師あり学習と違い、ある一定の特徴や基準に基づいてデータ群を分類・クラスタリングすることを目的に用いられる学習手法です。

近年、故障予知の領域においても教師なし学習を用いたアプローチが増えています。国内製造業が世界最高峰の品質の高さを誇る裏返しとして、「異常」「故障」に関するサンプルが少なく、正解データの収集が難しいということが背景にあるためです。正解データを保有していることが前提となる教師あり学習アプローチが進められないケースが少なくないということにもなります。そこで、正常値からどれくらい離れているかを分析することで異常度を判定するための手法として、教師なし学習によるアプローチが期待されているというわけです。

なお、故障予知や異常検知の領域で用いられる教師なし学習の代表的なアルゴリズムとしては、データの特性や目標とする精度や処理スピードに応じて以下のようなさまざまな方法が用いられています。
・正常データの分布に対して入力されたデータがどれだけ乖離しているかを算出・判定する「Hotteling’s T-square法」「混合ガウス分布モデル」
・異常な状態のデータが少なくても比較的機能しやすい1クラス分類を目的とした「SVDD(Support Vector Data Description)」
・データ群に見られる主成分を分析することで正常・異常を判断する「PCA(Principal Component Analysis:主成分分析)」
・通常のPCAよりも外れ値の影響を受けにくい「Robust PCA(ロバスト主成分分析)」
・いわゆるクラスタリングとして用いられる「k-means法」
・ニューラルネットワークの一つ「RNN(Recurrent Neural Network:再帰型ニューラルネットワーク)」と次元圧縮を組み合わせた「再帰型オートエンコーダ」

参考:Laboro.AIコラム「『教師あり学習』『教師なし学習』とは。文系ビジネスパーソンのための機械学習

出典:日本機械学会論文集「再帰型オートエンコーダを用いた振動データによる工場設備の故障予測手法の提案」

故障予知の事例

故障予知AIの活用事例を6件取り上げます。

太陽光発電での故障予知

金沢市で太陽光発電所を運営するRYOKI ENERGYが開発したのが、太陽光発電所の主要設備であるパワーコンディショナーの故障を予知するシステムです。このシステムではパワーコンディショナーを構成する主要機材に振動や温度などを感知するセンサーを設置した上で、取得されるデータに異常があった場合に通知が届く仕組みになっています。

出典:日本経済新聞「太陽光発電パワコン、AIで故障予知 金沢の菱機工業」

ドローン×センサーによる故障予知

太平洋セメントが2022年から本格運用を始めているのが、工場設備の故障予測システムです。ドローンによる設備表面の異常検知に加え、センサーで取得された時系列データを解析することで、故障の予兆をより精度高く見極める仕組みです。セメント製造のプロセスでは、1400℃もの超高温での焼成が伴う非常に設備負荷が大きい工程が含まれています。そこでこのシステムでは、ドローンによる表面部分のヒビや摩耗の検知に加えて、さらには振動系や温度計などのセンサーを用いることで、より早い段階での故障予知が実現されています。

出典:日経クロステック「セメント製造の心臓部をドローンで監視、最大手の太平洋セメントが故障予測DX」

故障前兆を正解率9割で判定できるAIモデルを構築

工業用ポンプの製造・販売などを手掛けるみつわポンプ製作所では、ポンプの故障を予知することで能動的に顧客提案を行い、販売後の顧客接点の創出やソリューション化につなげることで、売り切りのビジネスモデルからの脱却が目指されていました。そこで、各種センサーデータのAI分析によるポンプの故障予知の技術検証や、AI分析に適したデータの種類・蓄積方法の検討に取り組み、特定のポンプ故障環境下においを正解率9割で故障前兆を判定できるAIモデルの構築したほか、今後のAIモデルの構築・運用に適した分析手法とデータ体系を定義することに成功しています。

経済産業省「AI導入ガイドブック 製造業へのAI予知保全の導入

港湾クレーンの異常発生を高精度で予測

太陽ホールディングスなどは、港湾でコンテナ貨物などの積み卸しをする巨大なクレーン「ガントリークレーン」の予知保全で、AIを活用する取り組みを進めています。ガントリークレーンは通常、定期的な保守点検で異常の有無が判定されますが、定期点検の合間に発生する故障の兆候の発見遅れなどで、突発的な故障が発生するリスクが懸念されています。同社らは、この課題を解消するために運転ログデータ・探索的データ分析作業に基づく「異常検知・異常発生予測」手法を選定してAIプロトタイプを構築し、データ解析を実施。その結果、異常発生を90%の精度で30分前に予測できることに加え、重大な故障発生については71%以上の精度で24時間前に予測可能であることを確認するに至っています。

日本海事新聞「ファンリードなど、ガントリークレーン、AI活用で予知保全

故障時のトラブル対処

故障そのものを予知・検知するということだけでなく、故障時の対処にAIを活用する取り組みも生まれています。有機顔料などを製造販売するDICは、熟練者同などの故障対応を可能にすることを目指した「Prism」というAIシステムを開発しています。トラブル発生時に作業員がその事象に関連する文章や単語をタブレットに入力すると、類似度の高い過去のトラブルや対処方法をデータベースから探し出して提示するというもので、熟練者のトラブル対応ノウハウを若手に継承していくことが目指されています。

出典:日経クロステック「熟練者のようなトラブル対処をAIで実現 類似度順に結果を表示」

故障予知AI導入のポイント

故障予知で鍵を握っているのは、AIという技術にも増して、センサーあるいはセンシング技術であるということが、上の事例からも見えてきます。AIという技術そのものは入力されたデータを分析する役割に留まるため、特に製造業や建設業をはじめとする物理的なオフライン環境を伴う業種・業界においては、いかに機械の状態を正確に把握し、それをデータとして取得・変換できるかが、故障の予兆を捉えられるかどうかに直接的に関わってきます。つまり、故障予知という保全分野は、AIだけで実るものでは決してなく、センサーとの共同進化によって発展していく領域だといえます。導入時にはこの共同進化に事業や会社としての成長が加わえられるかを十分に検討すべきでしょう。

故障予知は次の世界への第一歩

近年、「デジタルツイン」や「メタバース」という言葉がよく聞かれるようになってきました。リアル空間とサイバー空間が連動するこうした新たな世界の接点となるのが、まさにリアル情報をデジタル情報へと変換するセンシング技術であり、またそれを分析・解析・予測するAIという技術です。単に「故障予知」と聞くと、一つの機器や設備に閉じた世界に感じられてしまいますが、この故障予知から始まる「センサー×AI」による取り組みは、実は現実世界をサイバー世界へと転換することへとつながる、大きな始まりの一歩になっているのです。

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