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統合的アプローチで実現する安全管理: AWS の労働者安全ソリューションが職場を守る

世界中で年間約 395 万人の労働者が非致死的な負傷を負っているため、企業は統合的で予防的な安全対策の必要性を認識するようになってきました。企業は全体的に安全な作業環境を提供し、事故やケガのリスクを軽減し、従業員の健康を向上させることを目指しています。従来の縦割り方式では、全体的な問題の可視性が制限されるため、重要な洞察が見落とされ、企業の事故の根本原因の究明、安全対策の立案、改善点の理解が難しくなります。また、政府による環境と安全に関する規制が強化されたことから、企業の事業活動全体で環境・健康・安全 (EHS) ソリューションの導入が進んでいます。

この投稿では、職場の安全をより統合された戦略へと変革するトレンドを探り、業界における特定の課題にフォーカスし、「設計段階でのリスク予防」を起点とした統合的なアプローチにより、Amazon がいかに安全を中核に組み込んでいるかを説明します。

安全性の傾向と課題

企業が直面する重要な課題の 1 つは、様々な作業環境、さらには同じ現場や機能の中でもさまざまな労災リスクが存在することです。例えば、建設現場では、高所からの転落や機器関連の怪我などの労災があります。製造施設では、化学物質への曝露や機械関連の事故のリスクに注意する必要があります。危険度の高い発電所での目視検査は危険を伴います。業界を問わず、侵入検知や標準的な運用手順に準拠していないことは、従業員の安全性を脅かすことにつながります。これらは従来、特定の問題のみを対処する狭い範囲のソリューションを展開することしかできず、1 つのリスク分野から得られた知見を他のリスク分野の理解に活用することはできませんでした。

一方で、IoT (モノのインターネット)、コンピュータビジョン (CV)、機械学習 (ML)、仮想現実 (VR)、生成 AI などの技術が、作業安全の新しい可能性を生み出しました。例えば、CV による作業環境や機器の継続監視、安全事故やリスク発生時の迅速な検知、没入型 VR シミュレーションによる従業員の教育などです。企業は従業員の身体的安全性のみならず、ウェルビーイングの重要性も認識するようになっています。適切なツールを従業員に提供することで、生産性が向上し、ストレスが軽減され、ウェルビーイングを促進する職場環境を育むことができます。

もう一方で、特定の使用ケースのみを導入するのではなく、より広範な安全管理の枠組みに基づいて実施し、それぞれのユースケースから得られる知見を統合・関連付けて中央の安全データモデルに集約することで、安全データの収集、分析、活用の最適化が可能になります。この統合的アプローチにより、意思決定の精度が向上し、組織全体におけるより良い協力とコミュニケーションが可能になります。

本ブログでは、実世界のデータと視覚的なナビゲーションオーバーレイを組み合わせることで、Amazon がどのように統合的な安全管理アプローチを構築しているのかを詳しく紹介します。本アプローチにより、従業員が職場の安全上の課題を包括的に理解し、対応を加速できるよう支援しています。

例: 建設・エンジニアリング業界 – 統合された安全アプローチを積極的に検討している業界が建設・エンジニアリング業界です。この業界では、安全と効率が成功プロジェクトの基盤となります。危険には、高所作業や重機の運転から、複数の協力業者の管理や現場の安全確保まで、様々なものがあります。着工から引き渡しに至るまでの各建設フェーズでは、工期やプロジェクト予算に直接影響する様々な懸念事項があります。そこで、建設安全の多面的な性質に対処するため、統合された安全フレームワークとソリューションがとても重要になります。インシデントに対処するためだけでなく、予防を目的として、現場の継続的な監視、従業員の訓練、コンプライアンス管理を、シームレスなデータモデルに統合するよう設計されています。

IoT センサーにより、構造上の危険、機器の故障を監視し、許可されたスタッフのみがサイトにいることを確認しながら、サイトのあらゆる場所の運用状況を可視化できます。このような制御と監視により、安全対策が単に準備されているだけでなく、積極的に施行されることが保証されます。また、どのようなソリューションであっても、安全規制の順守を効率化する必要があります。特に建設業界のように、規制が厳しいだけでなく常に変化している分野では、なおさら重要です。この分野の企業は、最新の研修と自動化されたコンプライアンス報告で、基準を満たすだけでなくそれを上回るレベルを保証しなければなりません。業界全体で統一された安全設計を導入することは、稼働停止時間の短縮、生産性の向上につながり、何より重要なのは、より安全で効率的な環境を実現することです。

例: 半導体業界 – もう一つ、作業者の安全性において特有の課題を抱える業界が半導体業界です。この分野では、精密さと安全性の両立が不可欠とされています。クリーンルームや半導体製造施設では、わずかなミスも許されない環境で作業が行われます。汚染管理は、従業員を化学物質への暴露や機器の危険から守ることと同じくらい重要です。ここでも、これらの業界特有の課題に対処するためには統合されたアプローチが不可欠です。統合されたアーキテクチャにより、環境を継続的に監視し、早期に危険を検知することができます。没入型環境での包括的な従業員教育を、半導体製造ならではの独自のプロトコルに合わせてカスタマイズできます。これにより、汚染を予防的に防ぎ、迅速に事故対応でき、製品の完全性と従業員の安全性の両方を確保できます。

IoT 技術を使えば、クリーンルームの環境を連続的に監視し、粒子、ガス、その他の汚染物質を厳しい制限内に抑えることができます。さらにコンピュータビジョンを使えば、個人用保護具の着用状況を管理できます。また、化学物質の流出や機械の事故への安全対策を行え、半導体製造に求められる厳格な基準を維持できます。

AWS を活用した労働安全対策ソリューション

AWS の Workforce Safety ソリューションは、モジュール型でありながら統合された安全管理の枠組みを導入することで、顧客の労働災害を減らすのに役立ちます。これらのソリューションにより、企業は安全な作業環境を実現し、安全プロトコルの順守を改善し、安全性のコンプライアンスと監査のニーズに効果的に対応するための洞察を得ることができます。

これらのソリューションは、AWS の IoT、AI/ML、コンピュータビジョン、データモデリングの機能に基づいたスケーラブルなアーキテクチャを構築できるようにし、統合された専門パートナーのソリューションと連携して労働安全のあらゆる側面に対応します。これにより、お客様は、コンピュータビジョンを使用した非準拠の検出や、生成 AI を使用した複数の標準運用手順、安全マニュアル、ガイドの検索、または機器の運用リスクの検出など、特定の課題に対処できます。さらに、この知見を中央の安全データモデルに取り入れることもできます。これにより、お客様は、労災リスクを軽減するための複数のワークフローを作成し、低レイテンシーの監視とアラートを設定し、機械学習ベースのモデルを使用して運用全体での潜在的なインシデントを検出できるようになります。

以下は、統合された安全データモデルに導入および統合できるユースケースの例です:

  • 安全パターンと傾向を発見する  — ビジュアル方式でデータのパターンと傾向を監視し、リスクを特定し、安全プロトコルの改善、コンプライアンスと監査のニーズに対処します。
  • 過去のデータを使って施設の危険エリアを特定する — 安全管理者やサイト設計者向けに、過去の安全データと事故データを没入型ビジュアル環境に重ね合わせ、危険エリアを特定し、事故のリスクを軽減する施設設計を行います。
  • 危険な作業環境を特定し対応する — ウェアラブルデバイスと安全センサーを使用して、作業者に危険な作業環境を通知し、直ちに対応できるようにします。
  • 中央集約型の報告を可能にする — 中央集約型の報告と文書化を実現し、規制要件の順守状況の把握と対応を容易にします。
  • 作業者の訓練を強化する — リスクのない仮想環境で、最新の標準作業手順 (SOP) に基づいた訓練を作業者に実施し、教育時間を短縮し、作業者の安全性を高めます。
  • 現地での点検の必要性を削減する — IoT センサーからリアルタイムの運用データを収集することで、現地での点検の必要性を削減し、安全問題の解決を迅速化します。
  • 作業者が安全プロトコルを守っていることを確認する — コンピュータビジョンベースの AI モデルを使用して、個人用保護具 (PPE) を着用していない作業者など、安全規定違反を検出し、安全プロトコルの遵守を確認します。

今後の展望

組織の労働者の安全性を高めるために、リスク観測や記録が数百ページから数千ページにも及ぶ可能性があります。バーチャル視察中は、適切なデータソースを検索して特定するのに貴重な時間を費やす場合があります。マニュアル、研修資料、その他のコンテンツとは別に、センサーは潜在的な事故 (温度、ガス漏れ、振動など) の継続的なデータを収集します。また、AI/ML のコンピュータビジョンモデルを搭載したビデオカメラは、インシデント (PPE の不備や違反の検知など、規定に準拠していない場合) を検出して警告を出すことができます。データに基づく洞察がなく、全ての安全上の懸念を一元的に把握できない場合、さまざまなインシデントを理解し対応するには時間がかかります。また、影響力のある改善を定義するのは難しくなります。そこで、関連する全てのデータソースを統合し、AI/ML と共に AR/VR を活用して、ナレッジベースを構築し、組織内のチームがすぐに利用できるようにすることをお勧めします。

作業者の安全を守るためのソリューションガイダンス

AWS は、企業が従業員の安全性に関するベストプラクティスに従えるよう、ソリューションガイダンスを開発しました。このガイダンスには、次の内容に関するリファレンスアーキテクチャが含まれます。1) データの取り込み、2) データのストリーミングおよび処理、3) データの可視化および通知です。

  1. データの取り込み: IoT、ビデオ、PLC、文書から現場でのデータ取り込みを可能にし、CV およびロボティクス機能のためのエッジコンピューティングを提供します。
  2. データのストリーミングおよび処理: 産業機器、ビデオフィード、IoT デバイスからの運用データをエッジ上で取り込み、処理します。その後、データを整形し、中央集約型のデータレイクにストリーミングします。
  3. AWS IoT SiteWise およびデータレイクからデータを取り込み、作業者の健康と安全指標を監視するためのダッシュボード、3D 可視化、リスクマッピングを提供します。また、キュレーションされたデータセットから直接データの探索と分析を可能にします。

AWS Workforce Safety Solution Guidance

AWS Workforce Safety ソリューションガイダンス

導入事例: Amazon 労働者の健康と安全

Amazon の信頼性と保守エンジニアリング (RME) および労働者の健康と安全 (WHS) は、AWS サービス (例えば AWS IoT TwinMaker) およびパートナー企業の Matterport を利用することで、Amazon のフルフィルメントサイトでの潜在的な安全上のリスクを特定し、これに対処する「設計段階でのリスク予防」プログラムを実施しています。過去の安全データを組み込んだ実際の作業環境のデジタルレプリカを作成することで、WHS は事故や怪我につながりかねない設計上の欠陥を突き止めることができます。例えば、現場のメンテナンス担当技術者のアクセスに関する問題を特定し、現場設計の段階でその問題に事前に対処することができます。このプログラムにより、WHS は Amazon 従業員の安全と健康を確保し、将来的な継続的な改善に向けた道筋をつけることができます。

Amazon WHS は、施設の詳細なデジタルツインの作成に Matterport の技術を活用しました。Matterport と AWS のパートナーシップと、AWS IoT TwinMaker などの AWS サービスとの統合により、顧客は Matterport の 3D モデルに運用データを “バインド” し、ダイナミックに接続された最新のデジタルツインを作成できる無駄のないワークフローが実現しました。

“Amazon の拠点において、作業空間のデジタルレプリカを作成し、設計段階でのリスク予防 (Prevention through Design) を実施することで、潜在的な安全性やメンテナンスアクセスの課題を特定し、対策を講じる能力が向上します。実際の作業環境をシミュレーションし、過去の安全データを組み込むことで、これまでメンテナンス作業の妨げとなっていた設計上の欠陥を特定し、解決することが可能になりました。これにより、技術者の安全を最優先し、設計の見直しや改善の機会を提供できます。さらに、この技術は設計上の欠陥による危険箇所の特定にも役立ち、職場全体の安全性を大幅に向上させています。また、遠隔でのリスク評価やオンラインでの運用管理が可能になり、コスト削減と業務効率化の両面で大きな効果をもたらしています。”Shreya Hegde, シニアプロダクトマネージャー(テクノロジー), Amazon Reliability and Maintenance Engineering (RME)

Matterport Digital Twin 3D Scanning

Matterport と AWS IoT TwinMaker を活用した施設のデジタルツイン

Matterport scan of digital twin

Matterport と AWS IoT TwinMaker を活用した施設のデジタルツイン

上の画像は、インタラクティブな Matterport 3D デジタルツインのスナップショットを表示しています。AWS IoT TwinMaker と統合されると、これらの Matterport モデルはセンサーやその他のデータにリンクできるため、施設の監視や労働者の健康と安全のための強力なプラットフォームになります。

Matterport について

Matterport の空間データプラットフォームは、AWS IoT TwinMaker と統合されており、企業が健康と安全プロトコルを改善するのを大きく支援できます。この統合ソリューションは、IoT センサーからのリアルタイムデータを組み込んだ詳細な 3D デジタルツインを提供することで、リモートでの継続的な監視とバーチャルな詳細な検査が可能となり、危険な環境への実際の立ち入りを最小限に抑えることができます。さらに、環境状態のリアルタイムアラートと分析情報を提供することで、予防的な労災管理を支援します。また、没入型の仮想トレーニングプログラムを提供し、従業員を実際のリスクにさらすことなく、緊急事態への備えや作業空間の把握ができるようにします。事故の際には、詳細なビジュアルデータと文書化により、徹底した調査と分析を可能にします。さらに、規制順守と報告を合理化し、健康と安全基準の遵守を確実にするとともに、安全チーム、マネジメント、外部監査担当者間での意思決定とコミュニケーションを改善します。

まとめ

この記事では、複数の安全活用事例に対する統合的アプローチの重要性と、統合された労働者の安全改革の一部となるキーテクノロジーについて説明しました。また、Amazon の RME と WHS がデジタルツインのアプローチで「設計段階でのリスク予防」など、さまざまなユースケースを解決していることにも触れました。デジタルツインの没入型可視化は、「私が見ているものを見せる」ことで、運用チーム内でのコミュニケーションとナレッジ共有を改善できます。これにより、問題を特定し、より効果的に解決するプロセスを最適化することもできます。

デジタルツインに関するサービスやパートナーシップの詳細については、労働者の安全ガイダンスをご覧ください。AWS IoT TwinMaker や AWS IoT SiteWise についての情報へアクセスすることもできますし、AWS と Matterport のパートナーシップについてさらに深く知ることもできます。Matterport のソリューションについて直接問い合わせたい場合は、Matterport に連絡してください。


著者について


Yibo Liang は、AWS においてエンジニアリング、建設、不動産業界を支援するインダストリー・スペシャリスト・ソリューションアーキテクトです。IoT、データ分析、デジタルツインに強い関心を持っています。

Pallavi Chari は、AWS において 産業向け IoT アプリケーションとデジタルツインの Go-To-Market をリードしています。18年以上にわたり、世界有数のテクノロジー企業とともに製品戦略や提案業務に携わってきました。IoT、エッジコンピューティング、5G 接続、AI/ML などの技術を活用し、産業分野の顧客やパートナーの変革を支援し、ビジネス価値を創出してきました。経済学の学位を持ち、経営学修士(MBA) を取得しています。

Jon Olmstead は、Amazon の開発チームと緊密に連携し、職場の健康と安全に特化した AWS の主要顧客を支援しています。AWS に入社する前は、Caesars Entertainment のデジタルマーケティングエグゼクティブを務め、Zappos では複数の Web 開発チームを率いた経験を持っています。現在は ワシントン州のベインブリッジ島に在住し、家族との充実した時間を大切にしながら、島内のトレイルランニングを楽しんでいます。

Shreya Hegde は、Amazon RME のシニアプロダクトマネージャー(テクノロジー) として、AWS、職場の健康・安全、そしてピープルエクスペリエンスチームと連携しています。ソフトウェア開発者としてキャリアをスタートし、スケーラブルなエンタープライズ製品の構築に対する情熱からプロダクトマネジメントへ転向しました。過去 17 年間で、航空業界、ヘルスケア系スタートアップ、収益管理企業、米国政府プログラム向けの技術製品を手がけてきました。また、女性のテクノロジー分野での活躍を支援する強い信念を持ち、Austin の Lean In(非営利団体)のサークルリーダーとしても活動しています。

Katie Lameti は、Matterport において グローバル AWS パートナーシップを統括しています。AWS 内のチームや Amazon Partner Network 内のさまざまな組織と連携 し、Go-To-Market 戦略を策定。顧客がデジタルツインソリューションを構想し、調達・導入・スケールできるよう支援し、ビジネス価値の創出を促進しています。

この記事は Delivering an integrated approach to safety: How AWS workforce safety solutions make work safer の日本語訳です。IoT Consultant の正村 雄介が翻訳しました。