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Amplify Hosting がスキュー保護を発表
Web アプリケーションの開発とデプロイにおける一般的な課題は、クライアントとサーバーリソース間のバージョンのずれです。2025 年 3 月 13 日、AWS Amplify Hosting にデプロイされたアプリケーション向けのデプロイメントスキュー保護機能(更新期間中の新旧バージョン混在時のシステム安定性を確保する機能)を発表できることを嬉しく思います。この機能は、アプリケーションのデプロイ中にエンドユーザーがシームレスな体験を得られるよう支援します。
課題
現代の Web アプリケーションは、多数の静的アセットとサーバーサイドコンポーネントからなる複雑なシステムであり、これらすべてが連携して動作する必要があります。1 時間に複数回のデプロイが一般的となっている世界では、バージョンの互換性が重要な懸念事項となります。新しいデプロイが行われると、ユーザーのブラウザにキャッシュされた古いバージョンのアプリケーションが、更新されたデプロイメントからリソースを取得しようとします。これにより、404 エラーや機能の破損が発生する可能性があります。
この課題は、クライアントとサーバーのバージョンのずれによってさらに複雑になり、それは 2 つの一般的なシナリオで現れます。1 つ目に、ユーザーがブラウザタブを長時間開いたままにすることが多く、アプリケーションの古いバージョンを実行しながら、更新されたバックエンドサービスとの対話を試みるケースがあります。2 つ目に、モバイルアプリケーションでは、自動更新を無効にしているユーザーが古いバージョンを無期限に使用し続ける可能性があり、バックエンドサービスが複数のクライアントバージョンと同時に互換性を維持する必要があります。
これらのバージョン管理の課題は、適切に対処しなければユーザー体験とアプリケーションの信頼性に大きな影響を与える可能性があります。以下のシナリオを考えてみましょう。
- ユーザーがアプリケーション(バージョン A)を読み込む
- 新しいバージョン(バージョン B)をデプロイする
- ユーザーのキャッシュされた JavaScript が、バージョン A にのみ存在していたアセットを読み込もうとする
- 結果:機能が壊れ、ユーザー体験が悪化する
スキュー保護の仕組み
Amplify Hosting は複数のクライアントセッション間でリクエスト解決を賢く調整し、意図したデプロイメントバージョンへの正確なルーティングを確保します。
1. スマートアセットルーティング
リクエストを受け取ると、Amplify Hosting は以下の処理を行います。
- リクエストの元となったデプロイメントバージョンを識別します
- リクエストを識別されたアセットのバージョンにルーティングして解決します
- ハードリフレッシュは常にユーザーセッションで最新のデプロイメントアセットを提供します
2. 一貫したバージョンの提供
システムは以下を確認します。
- 単一のユーザーセッションからのすべてのアセットが同じデプロイメントから提供されます
- 新しいユーザーセッションは常に最新バージョンを取得します
- 既存のセッションは、リフレッシュされるまで元のバージョンで動作し続けます
スキュー保護の利点
スキュー保護がもたらす利点は以下の通りです。
- 設定が不要:人気のあるフレームワークですぐに使用可能です
- 信頼性の高いデプロイメント:デプロイメントのずれによる 404 エラーを排除します
- パフォーマンス最適化:レスポンスタイムへの影響を最小限に抑制します
ベストプラクティス
スキュー保護はほとんどのシナリオを自動的に処理しますが、以下を推奨します。
- アトミックデプロイメントを行う
- ステージング環境でデプロイメントプロセスをテストする
スキュー保護の有効化
スキュー保護は各 Amplify アプリごとに有効化する必要があります。これはすべての Amplify Hosting アプリのブランチレベルで行われます。詳しくは Amplify Hosting のドキュメントを参照ください。
1. ブランチを有効にするには、App settings をクリックし、次に Branch settings をクリックします。次に、有効にしたいブランチを選択し、Action タブをクリックします。
図 1 – Amplify Hosting ブランチ設定
2. スキュー保護を有効にするには、アプリケーションを一度デプロイする必要があります。
注意:スキュー保護は、従来の SSRv1/WEB_DYNAMIC アプリケーションを使用しているお客様は利用できません。
価格:この機能に追加コストはなく、Amplify Hosting が利用できるすべてのリージョンで利用可能です。
チュートリアル
始めるには、以下の手順に従って Next.js アプリケーションを作成し、スキュー保護を有効にしてください。
前提条件
始める前に、以下がインストールされていることを確認してください。
- Node.js (v18.x 以降)
- npm または npx (v10.x 以降)
- Git (v2.39.5 以降)
Next.js アプリの作成
スキュー保護の動作を確認するために Next.js アプリを作成しましょう。
1. TypeScript と Tailwind CSS を使用した新しい Next.js 15 アプリを作成します。
2. デプロイメント ID を持つフィンガープリントされたアセットをリストする SkewProtectionDemo コンポーネントを作成します。以下のコードを使用してコンポーネントを作成してください。
注意:Amplify はNext.js アプリのフィンガープリントされたアセットに、UUID に設定された dpl
クエリパラメータを自動的にタグ付けします。この UUID は、他のフレームワークでも AWS_AMPLIFY_DEPLOYMENT_ID
環境変数を通じてビルド中に利用可能です。
3. 次に、各リクエストに X-Amplify-Dpl
ヘッダーを送信して API リクエストがデプロイメントの一貫性を維持する方法を示す DeploymentTester コンポーネントを作成します。これにより、Amplify は正しい API バージョンにルーティングできます。以下のコードを使用してコンポーネントを作成してください。
4. 次に、X-Amplify-Dpl
ヘッダーを使用してリクエストがどのデプロイメントから来ているかを識別する API ルートを作成し、Amplify がデプロイメント中にバージョンの一貫性を維持するために API リクエストをルーティングする方法をシミュレートします。以下のコードを使用して API ルートを作成してください。
5. クライアントコードからアクセスできるようにするため、Amplify デプロイメントの環境変数を追加します。
6. 変更を GitHub リポジトリにプッシュします。
- 新しい GitHub リポジトリを作成します
- 変更を Git ブランチに追加してコミットします
- リモートオリジンを追加し、変更をアップストリームにプッシュします
アプリケーションを Amplify Hosting にデプロイする
以下の手順に従って、新しく構築したアプリケーションを AWS Amplify Hosting にデプロイしてください。
- AWS Amplify コンソールにサインイン
- Create new app を選択し、リポジトリソースとして GitHub を選択します
- Amplify が GitHub アカウントにアクセスすることを許可します
- 作成したリポジトリとブランチを選択します
- App settings を確認し、Next を選択します
- 全体の設定を確認し、Save and deploy を選択します
スキュー保護を有効にする
Amplify コンソールで、App settings に移動し、次に Branch settings に移動します。Branch を選択し、アクションドロップダウンメニューから Enable skew protection を選択します。
図 2 – Amplify Hosting ブランチ設定
次に、デプロイメントページに移動し、アプリケーションを再デプロイします。アプリケーションに対してスキュー保護が有効になると、AWS Amplify はその CDN キャッシュ構成を更新する必要があります。したがって、スキュー保護を有効にした後の最初のデプロイメントには最大 10 分かかることを想定してください。
図 3 – Amplify Hosting アプリのデプロイメント
デプロイされた Next.js アプリにアクセスする
Amplify コンソールの Overview タブに移動し、ブラウザで Amplify が生成したデフォルトの URL を開きます。これで、アプリのフィンガープリントされたアセットのリストとデプロイメント ID が表示されるはずです。
図 4 – Amplify Hosting アプリ設定 – ブランチレベル
図 5 – デモアプリのホームページ
スキュー保護のテスト
Next.js アプリケーションを Amplify にデプロイすると、各デプロイメントには一意のデプロイメント ID が割り当てられます。この ID は、バージョンの一貫性を確保するために、静的アセット(JS, CSS)と API ルートに自動的に挿入されます。実際の動作を見てみましょう。
- アセットフィンガープリント:各静的アセット URL (JavaScript ファイルや CSS ファイルなど)には、現在のデプロイメント ID を示す「?dpl=」パラメータが自動的に付加されます。例えば「main.js?dpl=abc123」のような形式です。これにより、ブラウザは常にアセットの正しいバージョンを取得できます。
- API ルーティング:
Test Route
ボタンは、Amplify がどのようにして API リクエストをルーティングするかを示しています。クリックすると、/api/skew-protection
エンドポイントにリクエストを送信します。リクエストは現在のデプロイメント ID に一致するX-Amplify-Dpl
ヘッダーを使用するため、正しい API バージョンへのルーティングが保証されます。
これは、デプロイメント中であっても、ユーザーがバージョンの不一致を体験せず、各ユーザーのセッションが最初に読み込んだバージョンと一貫性を保つことを意味します。これにより、クライアントとサーバーのバージョンが一致しない場合に発生する可能性のあるバグを防止します。
自分で試してみよう
- 現在のブラウザタブを開いたままにして、
Test Route
をクリックして、 API バージョンとデプロイメント ID が一致することを確認します。 api/skew-protection/route.ts
で異なる CURRENT_API_VERSION を持つ新しいバージョンをデプロイします。- 新しいシークレットウィンドウでアプリケーションを開きます。
- 動作を比較します。
- 元のタブは古いバージョンを維持します
- 新しいシークレットウィンドウは新しいバージョンを表示します
- 各タブのアセットと API コールは、それぞれのバージョンと一貫して一致します
- 両方のウィンドウで
Test Route
を繰り返しクリックしてみてください。それぞれが一貫して対応するバージョンにルーティングされ、複数のバージョンが同時に稼働している場合でも Amplify がセッションの一貫性を維持する方法を示しています
- 動作を比較します。
図 6 – スキュー保護の動作の比較
これは、デプロイメント中にアプリケーションの複数のバージョンが実行されている場合でも、Amplify が各ユーザーセッションのバージョンの一貫性をどのように維持するかを示しています。
おめでとうございます。Amplify Hosting 上の Next.js アプリケーションデプロイメントでスキュー保護を正常に作成して検証しました。
クリーンアップ
App settings に移動し、次に General settings に進み、Delete app を選択して、AWS Amplify アプリを削除します。
次のステップ
- アプリケーションのスキュー保護を有効にしましょう
- この機能についてもっと学ぶには、ドキュメントをお読みください!
本記事は Amplify Hosting Announces Skew Protection Support を翻訳したものです。翻訳は Solutions Architect の都築が担当しました。
著者について
Matt Auerbach, Senior Product Manager, Amplify Hosting
Matt Auerbach is a NYC-based Product Manager on the AWS Amplify Team. He educates developers regarding products and offerings, and acts as the primary point of contact for assistance and feedback. Matt is a mild-mannered programmer who enjoys using technology to solve problems and making people’s lives easier. B night, however…well he does pretty much the same thing. You can find Matt on X @mauerbac. He previously worked at Twitch, Optimizely and Twilio.
Jay Raval, Solutions Architect, Amplify Hosting
Jay Raval is a Solutions Architect on the AWS Amplify team. He’s passionate about solving complex customer problems in the front-end, web and mobile domain and addresses real-world architecture problems for development using front-end technologies and AWS. In his free time, he enjoys traveling and sports. You can find Jay on X @_Jay_Raval_