石野 耀久

AppSheetとGeminiで加速するノーコード開発:Google Cloud Next '25セッションレポート

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Google Cloud Next '25では、ノーコード開発プラットフォームAppSheetの進化、とくにGeminiとの連携強化が大きな注目を集めました。本記事では、このセッションで発表された最新情報を、日本のエンジニアの皆様に向けて技術ブログ記事として詳しく解説します。

Google CloudのシニアソフトウェアエンジニアMaria Castaneda氏、シニアプロダクトマーケティングマネージャーRachel氏、グループプロダクトマネージャーMatt Zito氏が登壇し、ビジネスユーザーがコーディングなしでAI対応ソリューションを迅速に構築できるAppSheetの力と、Geminiがそのプロセスをいかに加速させるかを明らかにしました。

多くの企業でデジタルトランスフォーメーション(DX)が急務となる一方、IT部門のリソースは限られています。AppSheetのようなノーコードプラットフォームとAIの組み合わせは、現場のニーズに即したソリューション開発を可能にし、エンジニアがより戦略的なタスクに集中できるよう支援することで、イノベーション推進の鍵となりつつあります。

主要ポイント

このセッションで特に注目すべきポイントは以下の3点です。

  • Gemini in AppSheetによるインテリジェント化:画像からの情報抽出やテキスト分類といったAIタスクを、ノーコードでアプリに組み込めるようになり、開発プロセスが大幅に効率化されました。
  • エンタープライズシステム連携の強化:Google Cloud統合コネクタ(数週間以内にGA予定)やGmail統合により、SAP、Jira、ServiceNowなど既存の基幹システムや業務ツールとの連携が格段に容易になります。
  • ガバナンスと管理機能の向上:新しい管理コンソールやユーザーパスライセンスにより、企業全体でのAppSheet利用を安全かつ効率的に管理・統制できるようになりました。

技術詳細

Gemini in AppSheet:ノーコードAI活用の実現

セッションのハイライトは、AppSheetに統合されたGeminiの機能デモでした。Rachel氏が誤って壊してしまったスマートフォンの写真を撮るだけで、以下のプロセスが自動的に実行される様子が示されました。

  1. 画像からの情報抽出:AppSheetアプリがスマートフォンの写真から「画面が破損している」という状況を読み取ります。
  2. Geminiによる分類:Geminiがその状況を分析し、「ハードウェアの問題」「画面破損」といった事前に定義されたカテゴリに自動分類します。
  3. 自動化ワークフローの開始:分類結果に基づき、ITサポートへのチケットが自動作成され、適切な担当者への割り当て、承認依頼(Google Chat経由)までが一気通貫で行われます。

この一連の流れは、コードを一行も書かずに 実現されています。アプリ作成者(AppSheetでは「クリエイター」と呼ばれ、ビジネスユーザーやIT部門の開発者が該当します)は、AppSheetのエディター上で、以下のような直感的な設定を行うだけです。

  • 抽出ステップ:入力として画像を指定し、抽出したい情報(例:問題の説明)を自然言語で指示します。
  • 分類ステップ(新機能):抽出した説明を入力し、事前定義されたカテゴリ(例:ハードウェア問題、ソフトウェア問題)に分類するようGeminiに指示します。

さらに、エディター内で各AIタスクのテスト実行が可能になり、試行錯誤しながら最適な設定を迅速に見つけられるようになりました。このGemini in AppSheetソリューションは、すべてのAppSheet Enterpriseプランの顧客が利用可能になっています。

エンタープライズ連携の強化

AppSheetはこれまでもGoogle SheetsやExcel、SQLデータベースなど多様なデータソースに接続できましたが、エンタープライズ領域での活用をさらに促進するため、以下の連携機能が強化されました。

  • Google Cloud統合コネクタ(数週間以内にGA予定):SAP、Jira、ServiceNowといった主要なエンタープライズシステムとの連携が可能になります。これにより、たとえば現場で撮影した検査画像から車両情報を抽出し、自動的にJiraチケットを作成するといった高度な自動化がノーコードで実現できます。
  • Gmail統合(新機能):受信したGmailをトリガーとしてAppSheetの自動化プロセスを開始できます。デモでは、外部ベンダーから部品注文に関する追跡番号や配達日が記載されたメールを受信すると、Geminiがその情報を自動的に抽出し、関連するITサポートチケットを更新するユースケースが紹介されました。
  • Googleサイトへの埋め込み(新機能):作成したAppSheetアプリをGoogleサイトに安全に埋め込めるようになりました。これにより、社内ポータルなどからユーザーが簡単にAppSheetアプリにアクセスできます。

ガバナンスと管理機能の向上

企業規模でのAppSheet活用が広がる中で、ガバナンスと管理の重要性が増しています。これに対応するため、以下の機能が提供されます。

  • AppSheet管理コンソール(GA):アカウントの使用状況監視、アクティビティログの確認、データ損失防止(DLP)ポリシー設定などを一元的に行える管理画面です。まもなくAIタスクの消費量に関する詳細情報も提供される予定です。
  • ユーザーパスライセンス(新機能):ライセンスを持たない外部ユーザー(ベンダーなど)と安全かつ費用対効果高く連携するためのライセンスモデルです。特定のアプリへのアクセス権のみを付与できます。
  • Agent Assist連携:Googleのエンタープライズ向け検索・支援ツールであるAgent AssistからAppSheetアプリを検索・利用できるようになります。これにより、組織内でのアプリの可視性と利用率向上が期待できます。

 

直近のAppSheetの新機能リリースについて

セッションの中では 直近のAppSheetの新機能リリースについても整理して発表されました。

さまざまな魅力的な新機能が、リリース済み・プレビューリリース中・近日プレビューリリース予定の3つのステータスに分けて発表されました。

AppSheetのリリースノートから詳細を確認することができるので、気になる機能があったらチェックしてみましょう。

 

AppSheetの新機能

リリース状況

機能

Full GA(リリース済み)

GoogleサイトへのAppSheetアプリの安全な埋め込み

AppSheet User Pass License

AppSheetデータベースがテーブルあたり100万行をサポート

画像データへの高度な描画機能

Google Workspace以外のグループに対するガバナンス

Enterprise Plusユーザー向けのグループベースのライセンス管理

Public Preview Now(プレビューリリース中)

Automation AIタスクのインラインテスト

Gmailのアプリへの統合

Gemini in AppSheet - ファイル(PDF)からのフィールド抽出

Gemini in AppSheet - 画像からのフィールド抽出

Gemini in AppSheet - 分類

モバイルデバイス向けAppSheetアプリの新デザイン

Public Preview Soon(近日プレビューリリース予定)

管理コンソールでのAI利用状況のモニタリング

AppSheet用統合コネクタ - SAP

AppSheet用統合コネクタ - Salesforce

AppSheet用統合コネクタ - ServiceNowコネクタ

AppSheet用統合コネクタ - Jira Cloudコネクタ

AppSheet用統合コネクタ - BigQuery

AgentspaceにおけるAppSheet

 

顧客事例と開発のヒント

セッション後半では、早期プレビューに参加した顧客企業によるパネルディスカッションが行われ、具体的な導入効果が共有されました。

  • Seegrid(Clayton Mathis氏):IT部門での機器受け入れプロセスにAppSheetとGeminiを活用。従来はヘルプデスク担当者が手作業で出荷ラベル情報をスプレッドシートに転記していましたが、スマートフォンのカメラでラベルを撮影するだけで情報抽出・記録が可能になり、週あたり数時間の工数削減エラー削減を実現しました。
  • AppSheetパートナー(Camron Lupton氏):ある顧客は、PDF抽出や分類のために複数のツール(Zapier、DocuSign、AI サービス) を組み合わせて月額$2,000以上を費やしていましたが、AppSheet とGeminiの統合により、追加コストなしで、かつわずか30秒程度の設定で同様の機能を実現できた事例を紹介しました。

まとめ

今回のGoogle Cloud Next '25のセッションは、AppSheetがGeminiとの統合により、単なるノーコード開発プラットフォームから、インテリジェントな自動化ソリューションを誰もが迅速に構築できるプラットフォームへと大きく進化したことを明確に示しました。

日本のエンジニアにとって、この進化は以下の点で大きな意義を持ちます。

  • DXの加速:現場の業務課題を、ビジネスユーザー自身がAIを活用して迅速に解決できるようになり、DXの推進力が向上します。
  • 市民開発の推進とIT部門の負荷軽減:IT部門はガバナンスの確保とプラットフォーム管理に注力しつつ、現場主導でのアプリ開発を安全に支援できます。これにより、エンジニアはより高度で戦略的な業務にリソースを集中させることが可能になります。
  • 既存システムとの連携強化:統合コネクタにより、既存のエンタープライズシステムを最大限に活かしながら、業務プロセスの効率化・自動化をノーコードで進めることが可能です。

写真から情報を読み取って分類・登録する業務、メールの内容に応じて処理を分岐させるワークフロー、外部パートナーとのデータ連携など、AppSheetとGeminiの組み合わせは、身近な業務改善から全社的なプロセス改革まで、幅広いシーンでの活用が期待できます。エンタープライズ向けの管理機能も強化されたことで、より安心して組織的に導入を進められるでしょう。ぜひ、これらの新機能を活用し、ビジネス課題解決の新たな可能性を探ってみてください。

AppSheet導入で検討・お悩みの際は、Google認定プレミアパートナーの吉積情報株式会社まで、お気軽にご相談ください。


※Google CloudおよびGoogle Cloudの製品・サービス名称はGoogle LLCの商標です。
※SAPはSAP SEの商標です。
※SalesforceはSalesforce, Inc.の商標です。
※JiraはAtlassian Pty Ltdの商標です。
※ServiceNowはServiceNow, Inc.の商標です。
※ExcelはMicrosoft Corporationの商標です。

石野 耀久
石野 耀久
吉積情報株式会社、アプリケーション開発部に所属。Google Apps ScriptやAppSheet等を用いたアプリケーション開発について、日々勉強中
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