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Laboro.AIコラム

AI導入企業の初の過半数越え。
高品質AIモデルを支えるデータセントリックとは

2022.11.17
株式会社Laboro.AI リードマーケター 熊谷 勇一

概 要

「AI導入は当社には早い、まだ様子見だ」とは言っていらない状況になってきました。日本企業はなんとなくも含めて「導入が遅い」と言われてきたが、過半数の53%が既に導入していることが判明。いつまでも導入を検討しないと、業界内での競争力低下につながるかもしれません。AI導入が進んでいる背景と、特に「データセントリック」について解説します。

目 次

米国並みに追いついた日本企業のAI導入率
 ・日本企業の53%がAIを導入
 ・AI活用が進んでいる企業ほど、自社の社員で推進している
AIの民主化は機械学習がカギ
 ・AIの民主化とは
 ・民主化を推進する機械学習
AI導入を加速させる「データエクスチェンジ」と「データセントリック」
 ・データエクスチェンジとは
 ・データセントリックとは
  ・データセントリック活用事例
まとめ

米国並みに追いついた日本企業のAI導入率

PwC Japanグループは2022年1月、日本企業のうち売上高500億円以上でAIを導入済み、または導入検討中の企業の部長職以上300人と、米国企業の幹部1000人にウェブアンケート調査を実施しました。その結果、日本企業のAI導入率が米国並みに追いついたことが分かったのです。

日本企業の53%がAIを導入

2021年までの同調査では米国と日本のAIの活用度合には乖離が見られていましたが、2022年の調査ではその差がほとんどなくなりました。米国では導入企業(「前者的に広範囲にAIを導入」または「一部の業務でAIを導入」している企業)が2021年は55%、2022年は53%と微減したところを、日本では43%から53%と10ポイントも増えたのです。 さらに日本企業のうち「AI未導入企業」が41%から36%に、「AI準備中企業」が16%から11%にそれぞれ5ポイント減少し、AI導入企業に移行しているのが見て取れます。 2022年の日米企業を比較すると、「AI未導入企業」は米国27%に対し日本36%と、未着手の企業比率に若干の差はあるものの、「AI導入企業」で見ると2ポイントしか差がなく、日本が米国に追いついたと言える状況になりました。

AI活用が進んでいる企業ほど、自社の社員で推進している

AI導入推進は、社員によるものか、外部委託先によるものかで大別されます。社員自身で推進することがいわゆる「内製化」です。内製化の度合いに関して、AI導入企業とAI準備中企業の間で顕著な差がありました。AI導入企業の方が内製化率が高い結果になったのです。AI活用が進んでいる企業ほど、自社の社員で推進しているということです。

出典:PwC「2022年AI予測(日本)

AIの民主化は機械学習がカギ

日本企業でAI導入が進んでいる一方、AIが注目されてさまざまな分野で活用が進んでいく中で「AIの民主化」という概念があります。ここに、日本企業でAI導入が広まった背景を見ることができるかもしれません。  

AIの民主化とは

AIの民主化は2017年3月に、米国スタンフォード大学教授からグーグルに転じていたAI研究者のフェイ・フェイ・リーが初めて示した概念とされています。簡単に言えば「AIを誰もが使えるようにする」ということです。その後グーグルだけでなく、さまざまなICT(情報通信技術)企業がこの概念を掲げるようになりました。

なおリーは、サバティカルとよばれる長期休暇を利用してグーグルで働いており、休暇が終了した2018年秋にスタンフォード大学教授に復帰しています。

民主化を推進する機械学習

近年、AIの一つの分野である機械学習が活用しやすくなってきており、それがAI全体の民主化を促しています。 機械学習を利用する方法には、①アプリケーション(特定の作業をするためのソフトウエア)を利用する、②プラットフォーム(コンピューターが動作する基本的な環境)を利用した上でアプリケーションを開発して利用する、③フレームワーク(システム構築するための基盤、あるいはサービスを提供するための基盤となるソフトウエア)を利用した上でアプリケーションを開発して利用する、の三つがあります。①から③に行くにしたがって開発の自由度が高まる半面、より高度な知識が必要になります。 しかし近年では、オープンソースのフレームワークやクラウド事業者の計算能力が利用できるようになり、機械学習ひいてはAIそのものの活用のハードルが下がってきています。これこそがAIの民主化です。そうした中では、例えば、自社の競争力の源泉となるAIの開発は、完全に内製化したり、学習データだけは自前で用意したりして、優位性を保てます。逆に競争力を気にせずにAIを活用したい場合は、既存の学習済みモデルを利用する手があります。

出典:総務省「令和元年版 情報通信白書

AI導入を加速させる「データエクスチェンジ」と「データセントリック」

日本企業でAI導入が増えた別の理由に、「データエクスチェンジ」と「データセントリック」があるかもしれません。近年使われるようになってきたこれら二つの言葉の意味もぜひ押さえておきましょう。  

データエクスチェンジとは

データや大規模なファイルを組織間やシステム間で交換する仕組みのことです。ユーザーの属性や行動履歴などのオーディエンスデータを企業間で交換することもできるので、特にマーケティングで生かされています。データエクスチェンジのプラットフォームを提供する事業者が、データを提供するパートナーと契約し、データを保有します。データを利用したい企業は、データエクスチェンジの事業者と契約するだけで、パートナーが提供するデータをプラットフォームを通じて利用できます。

データエクスチェンジで取引するデータのことを「2ndパーティデータ」と呼び、一般的には「個人が特定できないセグメント」として提供されます。データエクスチェンジは広告プラットフォームと連携されているため、ターゲティング広告にも簡単に利用できます。データパートナーにとっては、自社のビッグデータを収益化できるプラットフォームにもなるということです。
このデータエクスチェンジにより、各企業が消費者の属性や行動履歴といったリアルなデータを幅広く集めて活用できるだけでなく、AIモデルの内製開発にも生かせるようになるのです。

出典:G2”Data Exchange
  :デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム「データエクスチェンジとは

データセントリックとは

「データ中心のAI(DCAI:Data-Centric AI)」のことで、従来通りのモデルやアルゴリズムを偏重するアプローチよりも、データに焦点を定めたアプローチの方が大切であるとする、AIの開発方法に関する考え方です。

この考え方の根拠として、たとえ比較的少ないデータ量であったとしてもクリーンで高品質なグッドデータの方が、ノイズの多いビッグデータよりも良い性能を発揮することが示されています。

データエクスチェンジが活発になる背景に、このデータセントリックAIがあります。「高品質なデータで高品質なAI開発をする」と言うのは簡単ですが、実際に高品質なデータを集めたり整形したりするにはさまざまなコストがかかります。それ対して、大量かつ多様なデータの中から必要なデータを選べる環境として威力を発揮するのが、データエクスチェンジなのです。

出典:ITmedia「データエクスチェンジを加速させるデータセントリックとは?
  :日経BPムック『倫理、説明、データ利用、23の注目事例から学ぶ正しいAI導入』  

データセントリック活用事例

京セラ傘下のRist(リスト)は、製造業の現場が主体的にAIを開発できる支援サービスを始めています。このサービスではデータセントリックAIを活用し、専門的なエンジニアがいなくてもAIの精度を上げられるとしています。 例えば製品の良・不良を検品する画像解析AIを開発する場合、一般的には、学習用の画像は最低でも100枚程度が必要で、ひび割れや傷など「不良」は人間が決めます。この際の定義の曖昧さがAIの精度低下につながり、エンジニアがモデルの改善を繰り返す必要があります。

そこで、複数の人が画像を見て、判断が一致しない画像を抽出し、一致するようにルールを定める作業を繰り返してデータの質を高めることができます。これがデータセントリックAIです。顧客側の作業は複雑化し負担は高まりますが、逆にエンジニアの関与が少なくなるため開発コストを抑えられる利点があります。顧客側の負担増は、内製化の度合いの高まりと言い換えられるでしょう。

出典:日本経済新聞電子版「京セラ系リスト、現場主体のAI開発支援サービス

まとめ

データセントリックAIを活用すれば、AI導入が従来と比べて低コストで実現できるかもしれません。さらに内製化ができればコストもさらに下がりますが、開発を任せられる人材が社内にいることが前提となる上、ビジネス成果に直結するAIの開発が本当に実現できるかについては、また別の難しさが出てきます。データセントリックという考え方が近年話題になっていることには注目しつつ、コスト重視の内製化か、より専門的な技術重視の外部委託かは、慎重に判断する必要があります。 特に、企業の競争力に関わるような難易度の高いAI開発プロジェクトでは外部の専門ベンダーの技術力に期待が寄せられます。ですが、外部委託を検討する際にも注意が必要です。言われた通りにつくるだけの「YESマン体質」のベンダーが少なからず存在する中、AIとビジネスの両面でしっかりと伴走ができるパートナーと組むことが、本当に開発したいAIを実現する早道です。

Laboro.AIでは、AIを最適なビジネスソリューションとして設計するためのプロセスとして「ソリューションデザイン」という独自のコンセプトを提唱し、AIというテクノロジーとビジネスをつなぎ合わせるための長期的な伴走サポートを提供しています。下記もご覧の上、ぜひお問い合わせいただければ幸いです。
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