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ふりかえりとmiroと非同期コミュニケーション

皆様こんにちは。XI本部 AIトランスフォーメーションセンターAI製品開発グループの福竹と申します。

本記事はISID Techblogの2022年アドベントカレンダー12/23の記事となります。しかしクリスマスどころか2022年の営業日も残りわずかですね。皆様の2022年はいかがでしたか? もう残り少ないですが、ここらで2022年を「ふりかえって」おきたいところですね?(強引なアイスブレイク)

という訳で本記事のテーマは「ふりかえり」です。

今年一年、執筆者はオンラインホワイトボードツールのmiroを使って、開発チームで「ふりかえり」を行うことがよくありました。この試行錯誤の中で、特に企画側として意識するようになったTipsや課題意識について、本記事では共有したいと思います。あくまで私個人のTipsであり、チーム状況や志向性によって適用できる/できないはあるかと思いますが、このテーマに関心のあるかたへのアイデアや考察につながれば幸いです。

はじめに:ふりかえりとは

チームの活動をより良くするために、チームで企画・実施するプラクティスです。特に「KPT」「FUN/DONE/LEARN」など、アジャイルレトロスペクティブに端を発するアクティビティを、本記事では想定しています。アジャイルの文脈で生まれたプラクティスですが、チーム活動であれば何にでも汎用的に使えます。入門編については、昨年の拙記事をご参考にどうぞ。

はじめに:miroとは

オンラインホワイトボードツールの一つです。

https://miro.com/

同様のツールにはGoogle Jamboard、Microsoft Whiteboard、MURAL、Appleフリーボード、あたりが挙がります。本記事の主眼ではないので細かく触れませんが、個人的に「2022年ベストバイ」の一つに挙げたいくらい気に入っているツールです。本記事の内容はmiroなしでも実践できるものを含みますが、お手元にmiroがあると、より実践が近付くと思います。

前置きはこのくらいにしましょう。ここからは実際のTipsや課題意識について、実際にふりかえりを企画〜実施する時にステップに沿いながら書いていきます。基本的なプロセスは、昨年の記事でも引用したふりかえりガイドブックが下敷きにありますので、お持ちの方はご参考にしてください。

事前:ふりかえりのアジェンダを設計する

チームの状況にもよりますが「大きめのリリースも終わるし、ここらで次に向けて改善できる所がないか考えたいな」のようなシチュエーションは多いと思います。となると関係者にMTGを設定して、アジェンダを決めておく所から始まるでしょう。かっこよく言えば『ふりかえりの設計』です。

目的を明確に決めて、スコープを想起できるよう工夫する

アジェンダを設計するにあたり、最初に「なぜ、ふりかえりをやるんだっけ?」という目的は言語化しておきましょう。そして目的から逆算した時の「意識してほしいスコープ」を決めておきましょう。例を挙げます。

  • (目的)製品Aの大きめのリリースが完了した。メンバの功績を言語化するとともに、次のスプリントで活かせそうなアイデアを考えておく。
  • (スコープ)前回のふりかえり実施後から、リリース当日までの製品Aに関するアクティビティ

こうしてスコープが明瞭になっていれば、例えばこういった工夫ができます。

  • 期間中に取り組んだ製品Aのバックログ、バーンダウンチャート、前回のふりかえり完了時のmiroボードを用意しておこう。アジェンダの最初に、これらを見てもらえる時間も追加しておこう。

メンバの状況にもよりますが、事前ワークのない「ふりかえり」であれば特に効果的だと思います。

バッファを見込んだアジェンダを組む

次にアジェンダを組みます。ワークの選び方は割愛しますが、慣れたフレームワークや、後述の参考資料からピックアップしていくことになるでしょう。やりたいワークが決まったら、当日のアジェンダを組むことになります。

この時、アジェンダには必ずバッファを入れましょう。Keep/Problem/Tryで例を挙げます。

  • Keepをmiroに書く:5分
  • 書かれたKeepを読む:10分
  • Problemをmiroに書く:5
  • 書かれたProblemを読む:10分
  • Tryをmiroに書く:5分
  • 書かれたTryを読む:10分

よし!45分!と考えそうになりますが、少なくとも私の場合、この通りになったことがありません。参加者の状況にもよりますが「Problemを読むのに時間がかかる」「Tryを書くのに時間がかかる」なんてことはよくあると思います。なので合計45分でも、思い切って60分取ります。あとは、重要な議論の時間が広がりやすいProblemやTryの時間を先に増やしておくのもいいでしょう。ここで作った余裕を、当日うまく使います(後述)。

miroのテンプレートを活かして、ホワイトボードを設計する

アジェンダが決まったら、事前にmiroのホワイトボードに、当日使うボードを作る必要があります。この時、なるべくイチからは作らず、miroのテンプレートを利用しましょう。自作してもいいのですが、ボードの自作は結構楽しく、時間泥棒です。暇な時以外はやめておきましょう。

コミュニティのテンプレートであるMiroverseも有用です。Miroverseは長年英語のボードしかありませんでしたが、ここ最近は日本語のテンプレートも出始めています。ふりかえりガイドブック著者の森さんがKPTのテンプレートを公開してくれています。

Miroverse:KPTふりかえり(日本語)

余談ですが、miroverseには面白いボードも多く、これまた時間泥棒です。ついでなので、私がいつか、訓練されたマグルの集まりで使ってみたいと思っているボードの例を紹介します。

Miroverse:Harry Potter Retrospective

最後に、ここで用意したテンプレートは、編集をロックしておきましょう。ロックしておくことで、メンバが誤って背景のアイテムを消したり、変更してしまったりを防ぐことが出来ます。

事中:ふりかえりをファシリテートする

さて、当日です。企画者がファシリテーターも兼任するケースは多いでしょう。皆がmiroにやってきます。事前に作ったアジェンダを手元に、ふりかえりを開始します。

Bring everyone to meを要所で使う(乱用しない)

miroには、参加者全員の画面を強制的に自分の見ている範囲に移動させるBring everyone to meという機能があります。アジェンダの説明やBoard内の誘導には、こちらを有効に使いましょう。ただ「最初の説明」「議論の導入」の時など限られたタイミングだけで使うのがおすすめめです。『メンバーが迷子になることを防ぐ』目的にとどめて使うほうが、参加側には負荷がかからないように思います。

意識して非同期コミュニケーションの時間を作る(コメント機能を活用する)

チームの慣れ具合にもよるのですが、miroボードを前にワークしている時は「喋らない時間」を意図的に設けたほうが総コミュニケーション量を増やせます。全てを発話で済ませるのではなく、miroのコメント機能を有効に使いましょうKPTの例であれば、次のようなイメージです。

  1. Keepをmiroに書く
  2. 他のメンバのKeepを読み、コメントを入れる時間を作る
  3. Keepをピックアップして発話に入る。どうしても時間がない時はコメントを見ながらピックアップ対象を絞る。

付箋の内容をあえて発話してもらう事で参加を促したいケースは、この限りではありません。ただ、チームメンバーがワークに慣れている等の状況では、このステップを踏んだほうが時間単位でできる議論の量は増えます。

タイマーを意識的に使う(無実にしない)

miroにはタイマー機能があります。これも是非活用しましょう。タイマーが0になると、アラームでボードを見ている人全員に時間を知らせることができます。

ただタイマーの設定については、アジェンダの時間枠を杓子定規に設定するよりは、議論の様子を見て柔軟に設定時間を変えたほうが効果的です。どういうことかというと、「この議論はまだ続きそうだな」と思ったら、いたずらに終了のタイマーを鳴らさず、タイマーの時間をそっと追加してしまうのです(ここで最初に作ったバッファを使います)。

この方法がベストであるかは残り時間などの状況にもよります。いっぽうで、頻繁にアラームの音が鳴ってしまうと、それはそれで参加者がアラームの音を気にしなくなる(無実になる)傾向にあります。全体を時間内にきれいに収めるためにも、タイマーは意識的にアジェンダが切り替わってほしいタイミングでのみ鳴るようにしましょう。

事後:ふりかえりを、やりっぱなしにしない

無事ふりかえりの時間が終わりました。miroボードにメンバーの色々な思いが書き出され、議論も白熱し、良い感じの達成感が残ります。ちょっと消化不良に終わった? そんな時もあります。また挫けずやってみましょう。

折に触れて使う(コンテキストを呼びだすショートカットにする)

使ったホワイトボードは実施日が分かるようにしておき、折に触れて「この時こんな議論があったと思うんだけど」と思い出す時に使いましょう。ホワイトボードツールの良い所は、議論の過程が、直感的に理解しやすいホワイトボードの形で残ることです。特に定期的なふりかえりの場合、前回のふりかえりボードが同じホワイトボード上にあると非常に便利です。ボードを見ただけで当時のコンテキストをある程度呼び出せるので「前回はこう考えてたけど、結局こうなったな」といった仮説検証的な思考を自然とメンバに想起できます。

また、こういった状態を作るためにも、付箋へのコメント機能は有効活用しておきたい所です。意識してコメント機能を使っていれば、おそらくパッと見て気になった付箋には、コメントが残っているでしょう。議論の過程も残っているとなおよいです。

収束の段階で出てきたアイデアの種は、無理に皆でまとめない

発散→収束の収束のプロセスで、ふと単純なToDoにはなっていない、イデアめいた付箋が生まれることがあります。こうしたアイテムは無闇にToDoに落としこまず、議論の過程をコメントに書くに留めて、そのまま残してよいと思います。例が出しづらいですが、例えば「AをBと組み合わせてみる」みたいな、まだ妥当性がわからない、実験めいた記述のものが該当するかもしれません。

なぜそうするかというと、こうしたイデアめいた内容をグループワークの限られた時間内で無理にToDoに落とし込もうとすると、工夫の余地を削った平均値的なものに収束してしまう事が多いからです。なので焦って言語化するよりは、挙がった議論の過程だけ残しアイデアの種に留めておきたいのです。実際のところ本当に面白いアイデアは、書いた当人が後日、おもむろにやりはじめたりします(これは弊チームの場合かもしれません)。

(ふりかえりとは少し異なりますが)このあたりは最近読んだ妄想する頭 思考する手 想像を超えるアイデアのつくり方 という書籍でも、アイデアづくりの文脈で近い考え方が示されており、非常に共感できました(第3章2節「ブレストはワークしない」)。ご興味が有れば、是非。

おわりに

いかがでしたか?(定型文)

ワークの文脈はチームの数だけありますし、どこまで一般的に適用できるノウハウとなっているかはチームそれぞれかもしれません。ただ私達の試行錯誤が、少しでも同好の士のご参考となっていれば幸いです。

そのまま宣伝ですが、こういった試行錯誤を日々重ねながら、AI技術の社会実装をAIトランスフォーメーションセンターでは進めています。新卒、中途問わず一緒に働いてくださる方を募集しており、ご興味が湧いた方はAITC採用サイトも是非御覧ください。カジュアル面談の申込みもお受付しています。

さらに宣伝ですが、私個人もスクラムマスターとして日々修行しており、今年はチームメンバーと共にアジャイルとスクラムによる開発手法という書籍の翻訳出版をしました。鈍器一歩手前の分量ですが、とても良い本ですので、ご興味が有れば是非手にとってみてください。

では。メリー・クリスマス!🎅

参考文献:ふりかえりのアジェンダを組む

執筆:@fhiroaki、レビュー:@hashizume.hidekiShodoで執筆されました