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Laboro.AIコラム

「強いAI」と「弱いAI」。AIが人間を超えるかが分かる分類

2022.12.28
株式会社Laboro.AI リードマーケター 熊谷勇一

概 要

AIに関する話題の中で、AIが人の心を持つかどうかで分類する「強いAI」「弱いAI」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。AIが自身よりも賢いAIを作り出して人間がはるかに及ばない知性が誕生する「シンギュラリティー(技術的特異点)」が訪れるという仮説も聞いたことがあるかもれません。これらはお互いに関係がある考え方です。一見、AIの産業応用にはあまり関係がなさそうに思えるかもしれませんが、これらもしっかり知ることにより、成果をより生み出すAIを構想する助けになります。

目 次

AIが十分に知的かどうかを判定する方法
 ・強いAI
 ・弱いAI
「強い弱い」と視点が異なる「汎用型AI」と「特化型AI」
 ・汎用型AI
 ・特化型AI
実際に使われている「弱いAI」の事例
 ・AlphaGo
 ・外観検査
 ・レコメンド
人間を超える知性が生まれる「シンギュラリティー」とは
「弱い」かつ「特化型」だからこそのAI開発

AIが十分に知的かどうかを判定する方法

AIが十分に知的かどうかを判定する方法としては、英国の数学者アラン・チューリングが1950年に発表した「チューリングテスト」が有名です。チューリングテストでは、人間から投げかけられるいくつかの質問に対して文章で回答させます。この返答が人間によるものか、AIによるものか判別ができないようであれば、そのAIは人間と同じくらい知的である、つまりAIとして完成されていると評価されます。

このチューリングテストに異を唱えたのが米国の哲学者のジョン・サールです。彼が1980年に発表した論文の中に「中国語の部屋」という思考実験があります。この思考実験では、ある部屋に英語しか分からない人に入ってもらいます。部屋の中には中国語の質問に答えるための完璧なマニュアルがあり、中にいる人は中国語での受け答えができます。受け答えを繰り返すと、部屋の外の人は部屋の中の人が中国語を理解していると判断するでしょう。しかし実際には、中国語を理解していることにはなっていません。同様の能力を有するAIはチューリングテストに合格するだろうが、だからといって本当に知能があると言えるのだろうか、という議論を投げ掛けたのです。

そしてサールは、「AIが人間のように知的であるかどうか」を区分した言葉として「強いAI」「弱いAI」も提唱しました。

強いAI

強いAIは「適切にプログラムされたコンピューターは人間が心を持つのと同じ意味で心を持つ。また、プログラムそれ自身が人間の認知の説明である」という意味です。もちろんですが、現在、2022年現在、強いAIと呼べるAIは登場しておらず、その兆候も登場していません。

フィクションに出てくるような、例えば聞いた言葉の意味を理解して気の利いた返事をしたり、言葉だけでなく表情などからも人間の感情を読み取って同情し、一緒に涙を流したりできるAIは、正に強いAIだと言えます。人間と変わらないコミュニケーション能力を持ち、物語の中で人間との交流をしていきます。

弱いAI

一方、弱いAIは「コンピューターは人間の心を持つ必要はなく、有用な道具であれば良い」と考えられています。

現在登場しているAIはすべて、弱いAIです。例えば、チャットボットは質問を投げれば返答をくれますが、中のAIが人間のように思考して返答しているのではなく、膨大な学習に基づいて言語を機械的に認識し、機械学習の結果として正解としている返答をしているに過ぎません。

だからといって全く役に立たないわけではありません。チャットボットの例では、問い合わせ内容を定義したり、それに基づいて適切なウェブページや担当者を案内したりすることで、人手や心理的なコストを減らしてくれています。

出典:猪狩宇司ら『深層学習教科書 ディープラーニング G検定(ジェネラリスト)公式テキスト 第2版』
  :小林亮太、篠本滋『AI新世 人工知能と人類の行方』

「強い弱い」と視点が異なる「汎用型AI」と「特化型AI」

「強いAI」「弱いAI」と視点が異なる比較として、「汎用型AI」「特化型AI」があります。汎用型AIは人間のように複数の問題を解決できる能力を持ったAIを指し、特化型AIは一つの問題解決に特化しているAIを指します。

汎用型AI

汎用型AIは複数の問題を解決できるAIを指しますが、肝となるのは、人間のように過去の経験から学習してさまざまな問題にも対処できる点にあります。人間がプログラムしたこと以外にも対応できるようになることから、汎用型と呼ばれます。ご想像の通り、現在、汎用型AIは登場していません。

強いAIとの違いは「どの観点でAIを区分するか」という点にあります。強いAIは、AIに知性があるかどうかという点で弱いAIと区別しており、AIが知性を持つことで強いAIとなります。汎用型AIは、複数の問題に対応できるかどうかという点で特化型AIと区別しており、知性があるかどうかは見ていません。

特化型AI

特化型AIは特定の問題を解決できる能力を持ったAIのことを指し、原則として、人間がプログラムした以上のことはできません。2022年までに登場しているAIと呼ばれるものは、すべて特化型AIです。弱いAIとの違いは、強いAI・汎用型AIの違いと同様に、知性の有無を見ないことです。

仮に知性があって特定の問題を解決できるAIが登場したら、特化型に分類されるでしょう。しかし、特定の問題が解決できるのに、他の問題にそれを応用できないのは、果たして知性があると言えるのか、という議論が出てくるかもしれません。

出典:猪狩宇司ら『深層学習教科書 ディープラーニング G検定(ジェネラリスト)公式テキスト 第2版』

実際に使われている「弱いAI」の事例

ここでは、実際に運用されている弱いAIの事例を3種類ご紹介します。

AlphaGo

弱いAI、かつ特化型AIの代表例としてよく知られているのが、囲碁の世界的プレイヤーを次々と打ち負かしたことで衝撃を与えた「AlphaGo」です。AlphaGoはAIの技術の中でも強化学習の代表的モデルだとされており、勝利という「報酬」のために囲碁の打ち筋を学習し、人間では勝てない領域にまでなりました。

AlphaGoが登場したのは2015年のことで、2017年に当時最強だと言われていた棋士、柯潔(カケツ)に勝利したことで人間との対局を引退しています。AlphaGoが衝撃だったのは、囲碁がボードゲームの中でも特に局面が多くて難しく、AIが人間に勝つことはできないと考えられていたためでした。

AlphaGoはその後改良され、40日の学習でAlphaGoに勝てるようになった「AlphaGo Zero」、囲碁以外のボードゲームにも対応し8時間の学習でAlphaGo Zeroに勝てるようになった「AlphaZero」と続いています。

その後、米アルファベット傘下のAI開発企業である英ディープマインドが2020年に、AlphaGoの進化形として、チェスや囲碁、将棋、テレビゲームなどについて事前に一切知識を与えなくても人間のトッププレーヤーを上回る腕前でプレーできる汎用ゲームAI、「MuZero」を2020年に開発しています。このMuZeroはさらに、2022年にYouTubeの動画圧縮アルゴリズム開発に応用され、同じ品質の動画を送信するのに必要となるビットレートを4%削減する成果を出したと発表されました。ディープマインドは一方、プログラミングコンテスト(競技プログラミング)で人間の平均点を上回るようなプログラムを生成できるAIである「AlphaCode」も2022年に発表しています。AlphaGoシリーズは以上のようにゲームを超えて進化していますが、ゲーム以外の用途があってもタスクは人間が指定しているので、汎用型AIとは言えず、特化型AIです。さらに、知能があるわけではありませんから、弱いAIであると言えます。

出典:日経クロステック「最強囲碁AIから核融合へ、深層強化学習の応用広げるディープマインド

Laboro.AIでも、この強化学習を用いて最適化問題を解くことを目指したソリューションを開発しているほか、強化学習を用いて建設物の揺れを制御する研究開発を大林組と進めています。
組み合わせ最適化ソリューション
プロジェクト事例:建設物の制震制御

外観検査

AI技術の中でも活用が広がっているものの一つが、画像認識です。大量の画像を学習することで、画像の中に写っているものが何かを判断して分類したり、不良品を検知してアラートを出したりしてくれます。

画像認識の活用例の一つが、工場などで使われている外観検査です。例えばインフラの劣化箇所を検出するメンテナンスでは、膨大な量の確認箇所があり、目視だけだと見落としの可能性があります。AIを活用すれば、そうした大量の検査を効率化したり、作業品質のばらつきを低減したりでき、その上で最終的には人間が判断するという確認体制を築くことができます。

Laboro.AIによる外観検査のソリューションについてはこちらもご覧ください。
不良・異常検出ソリューション
インフラ設備の劣化箇所検出

レコメンド

利用履歴などに基づいて次のおすすめを提示する「レコメンド」も、AIの活用が進んでいる分野です。

レコメンドには例えば、購買履歴や動画視聴履歴などを入力として顧客一人ひとりに向けて次のおすすめを表示したり、過去の成果から売り上げにつながる商品を提案したりするといった例があります。企業がマーケティングに活用するものもあれば、企業のマーケティングでの活用として、ECサイトやアプリなどでの活用が進んでいます。

レコメンドのAIが特に活用されているマーケティング分野については、下記のコラムで詳しく解説しています。
答えのない、マーケティング×AIの世界への挑戦

人間を超える知性が生まれる「シンギュラリティー」とは

「強いAI」と近い話題として、AIの能力が人間の能力を超える「シンギュラリティー」があります。シンギュラリティーは日本語では「技術的特異点」と呼ばれ、AIが自身よりも賢いAIを作り出せるようになり、より賢いAIが無限に作り出される状況が生まれて、AIの進化が指数関数的に加速し、人間では到底想像もできないような高度な知性が誕生することを指します。

シンギュラリティーの到来を主張している一人である、未来学者で実業家のレイ・カーツワイルは、このようなシンギュラリティーは2045年に到来すると予言しています。シンギュラリティーは「AIが人間より賢くなる瞬間」と捉えられることもありますが、カーツワイルの主張では、AIが人間より賢くなるのは2029年。AIが自分自身よりも高い性能のAIを開発できるようになり、性能の進化が爆発的に進み、人間が認識できないほどの知性が誕生するのが2045年だとされています。

しかし、シンギュラリティーは到来しないという説もあり、実際にAIがどのように進化していくかは、今のところ断言できません。

出典:猪狩宇司ら『深層学習教科書 ディープラーニング G検定(ジェネラリスト)公式テキスト 第2版』

「弱い」かつ「特化型」だからこそのAI開発

SFのように人間を超越するような知性を持つAIがシンギュラリティーによって誕生するかどうかは分かりませんが、強いAIが登場する兆候は今のところありません。だからといってAIを利用せずに仕事や生活をすることはもはや不可能なほど、AIは社会に取り入れられています。

この状況の中で重要なのは、そうしたAIはすべて弱いAIかつ特化型AIであることです。特に特化型であることに着目すれば、何を解決すべき課題とし、その課題をどうスマートに解決するAIを開発して取り入れるかという考え方が重要になります。これをビジネス分野でのAI活用と考えれば、ビジネス上で解決したい課題を明確化し、成果目標を定めた上で、そのためのソリューションとしてAIをデザイン(設計)する「ソリューションデザイン」という検討プロセスと、課題ごとの個別最適な開発に基づく「カスタムAI」が欠かせないということです。

AIは万能のツールのように捉えられることが少なくありませんが、現時点のAIはかなり単機能なツールであり、弱くて、特化したことしかできないのが実際です。そのため、こうした限定的な機能しか持たないAIの導入成果は、当然ながら設計や使い方によって大きく左右されます。だからこそ、一つひとつのビジネス課題に最適なかたちでAIの開発を行うことが重要なのです。

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