新しいチームでインセプションデッキを作成してみた

こんにちは。エンジニアの中畑(@yn2011)です。8 月から千葉県民になります。

先日、新チーム発足にあたり、チームビルディングのワークショップとして有名なインセプションデッキの作成にチャレンジしました。その際に改めてインセプションデッキについて勉強し直したのですが、実際にチームがどういった経緯で、どのようにインセプションデッキを作成したか、という具体的な事例の公開が少ないなと感じました。

そこで今回は、私達が① なぜインセプションデッキを作成し、② どのようにワークショップを進めたのか、③ そして何が得られたのかについて書きたいと思います。

なぜインセプションデッキを作成したか

新チーム発足

新プロダクトの開発が決まり、ビジネスチームが先行して企画と要求の洗い出しを行っていました。ある程度の整理が完了したため、デザイナーとエンジニアが合流し、本格的に開発を始めていくぞ、という経緯で新しいチームが形成されました。

したがって、ここで言う「チーム」とは、特定の職種のみで構成されたチームではなく、ビジネスのメンバーやデザイナー等プロダクト開発に必要な全ての職種を含むチームです。

ちなみに、エンジニア同士、ビジネスのメンバー同士はこれまでも同じチームで仕事をしていましたが、エンジニアとビジネスのメンバー同士はほぼ一緒に仕事をしたことがありませんでした。

何が課題だったか

デザイナーとエンジニアは途中からビジネスチームに合流したわけなので、これから開発するプロダクトの目的やプロジェクトとして何を重要視しているのか等をしっかり理解できていませんでした。したがって、プロダクトの要求事項が書かれたドキュメントを読んでも、それが適切なのか、なぜ必要なのかという部分の理解や納得度が低い状態でした。

また、プロダクトの開発を始めるためには、要求を要件に落とし込んだ上で初回にリリースをする範囲(MVP) を決める必要もありました。

どうするか

この 2 つの課題について、チームメンバーと相談し、インセプションデッキを作成することと、ユーザーストーリーマッピングを行うことで課題を解決することになりました。(なお、この記事ではインセプションデッキについてのみ取り扱います)

しかし、やろうというのは簡単ですが、実際に私がインセプションデッキ作成のワークショップを企画するにあたり、いくつもの課題に直面することとなりました。とても現場感溢れるものです。

例えば時間の面では以下の課題がありました。

  • 参加して欲しい関係者は 15 人以上で、全員が参加可能な日程の調整が難しい
  • 既に多くの予定が組まれていて、1 時間以上の時間の確保が難しい
  • プロダクトのリリース日は大まかに決まっていたことから、できるだけ早く完了させなければいけない

これらの制約から、インセプションデッキは 10 個の項目で構成されていますが、重要だと思ういくつかの項目を選択し、それ以外の項目は検討対象から外しました。そして、ワークショップは 1 回 1 時間で、複数回に分割することとして、何とか全員参加のワークショップ実施の見通しを立てることができました。ちなみに、参加可能なメンバーだけで実施して後で結果を共有する、といったやり方はせず極力全員参加に拘りました。インセプションデッキは結果と同じぐらい構築過程の議論が大事だと考えていたためです。

また、内容の面では以下の課題がありました。

  • インセプションデッキのワークショップを実際にファシリテートした経験のあるメンバーがいない
  • そもそもインセプションデッキを知らないメンバーも多い

これらについては、私が書籍や Web から情報を得つつ創意工夫して実施していくことになりました。

どのようにインセプションデッキを作成したか

検討の結果、ワークショップのアジェンダは以下になりました。かなり厳選し、最低限必要だと思う 3 つの項目のみを選びました。

  1. 自己紹介
  2. インセプションデッキの説明
  3. 我々はなぜここにいるのか
  4. エレベーターピッチ
  5. トレードオフスライダー

分割してワークショップを行うことにしていたので、初回は「我々はなぜここにいるのか」までで、次回に残りのアジェンダを消化しました。

では、それぞれどのように進めていったのか、当日の様子と合わせてお伝えしていきます。(「自己紹介」、「インセプションデッキの説明」については一般的なものなので省略します)

なお、付箋を使いたいことと、原則在宅勤務のため Miro を使用してオンラインで実施しました。

我々はなぜここにいるのか

「我々はなぜここにいるのか」は、プロジェクトの目的について認識を合わせるためのワークショップです。

最初に個人ワークの時間を取って、1 人ずつ自分の考えを付箋に書いてもらいました。その後に共有の時間を取り、ファシリテーターが補足や質問と、似ている意見のグルーピングをしていきました。

こちらが実際のワークショップの結果です。

image

グルーピングは難しいですが、大きくは定性的なものと定量的なもので 2 つに分けました。上の図では 3 つに分かれていますが、定性のものを更に 2 つに分割しています。

例えば、定性的な目的は「ユーザに〜という価値を提供する」等で、定量的な目的は「利用率 x % 向上」等です。

基本的にどの意見も間違っているということはないのですが、どうしても定性的なものほど達成できたかどうかを判断しにくく解釈にもブレがあります。定量的で、達成できなければプロジェクトが解散になるものはどれか と問い直すことで、明確な目的を探していきました。ここは前提となっているインプットの差もあるので、ビジネスチームの方々にリードして決めて頂きました。ただし、今回はこの時点では具体的な数値までは盛り込めませんでした。ひとまずはプロジェクトが向かっていく方向の認識を合わせることが大事なので、計測可能な指標であるならば良いのかなと思います。

エレベーターピッチ

エレベーターピッチは、事前に用意されたテンプレートを埋めることで、プロダクトの骨格を明らかにするワークショップです。

ちなみに、通常 エレベーターピッチは 1 プロダクトに対して作成しますが、今回は関連するプロダクトが複数存在していたので同じ時間に複数のエレベーターピッチを作成しました。複数プロダクトを同時に開発する必要があったのです(現実は教科書通りにはいかないということが実感できます)

エレベーターピッチの進め方としては、テンプレートの項目を 1 つずつ埋めていく方法を取りました。1 つの項目毎に、個人ワーク → 共有 → グルーピング → 最終的な答えという手順を踏みました。(初めは、一気に全ての項目を埋めてもらい 1 人ずつ共有してもらったのですが、付箋の整理がしにくいのと、最初の項目の認識が合っていないと後半の内容も異なってくるのでやり方を変えました)

こちらが実際のワークショップの結果です。右の付箋が個人ワークで書いて頂いたもので、左の赤い付箋が整理した結果です。

エレベーターピッチの様子

エレベーターピッチで意見が分かれやすかったのは「ユーザは誰なのか」と「差別化要素は何なのか」でした。定義が難しいからなのか、経験上この部分が曖昧なままプロダクトの開発が進行することも多いので最初に確認できるのはこのワークショップの利点だと感じました。

トレードオフスライダー

トレードオフスライダーはプロジェクト(プロダクト)で何を大切にするかの優先順位を決めるワークショップです。

今回はプロダクトというよりは初回のリリースまでに時間を区切ったプロジェクトとしての優先順位として検討しました。

けっこう悩みましたが、進め方は以下にしました。(付箋をドットシールとして利用するイメージです)

  1. 個人ではなく職種ごとに色分けした付箋を利用する(エンジニアなら黄色等)
  2. 個人毎に自分の職種に該当する付箋を利用して、1 番優先順位が高いと思うものに投票
  3. 次に 1 番優先順位が低いと思うものに投票
  4. 投票結果を元にプロジェクトとしての合意を形成する

こちらが実際のワークショップの結果です。今回は都合により予算は検討から外しました(予算の増減が実質的に不可)

トレードオフスライダーの様子

スライダーの各項目は、スコープ、時間、品質等の言葉が使われますが、必要に応じて言い換えを行うことによって参加者の認識齟齬を防いでいます。

個別の要素の評価値が 2 なのか 3 なのかといった部分はあまり議論せず、重要なものについてざっくりと認識を合わせました。優先順位が中間のものについては、正直あまりプロジェクトの進行中に意識されることは少ないと思ったためです。また、個人毎ではなく、職種毎にしたのは参加人数が多いためです。職種毎の傾向を大まかに把握した方が効率良く議論できると考えました。

トレードオフスライダーによって、リリースの期日に対するステークホルダーの温度感等、プロジェクトの制約について全員の認識を揃えることができるのは利点だと感じました。また、プロジェクト中盤での機能追加や方針変更に対して、トレードオフスライダーの優先順位に従って意思決定や議論を行える点も魅力的です。

インセプションデッキをやってみてどうだったか

インセプションデッキのワークショップの終了後に、参加者の方々から感想を頂きました。

Slack で頂いた感想
  • インセプションデッキの作成がどういったものか知ることができた
  • ワークショップ形式で議論ができたことによって、プロダクトについて理解が深まったり認識齟齬があることに気づけた

といったポジティブな感想を頂きました。インセプションデッキによって、当初の課題であった「プロジェクトの目的や何を重要視しているのかの理解不足」を補うことに貢献できたと言えそうです

また、プロダクトについてもエレベーターピッチによって複数観点から議論することで、以前より理解が深まりました。テンプレートが決まっていることによって、観点漏れが少ないのと、質問しにくいことも全て議題に乗せることができるのも良かったです。次の工程であるユーザーストーリーマッピングを行うための最低限の共通認識の形成にも役立ちました。

一方で

  • 発言に偏りがある
  • ツールの使い方には少し戸惑った
  • 最終的なまとめをもう少ししっかりやりたい

といった意見も頂けました。

発言の偏りについては、私のファシリテーション能力が足りていないのと、ワークショップの時間にゆとりを持たせることができなかったことも一因だと思います。時間に追われていて、進行を優先しすぎていました。

ファシリテーションの際には、インセプションデッキを完成させることだけが目的ではなく、全員でフラットな議論をすること・共通の認識を作ることも意識することが大事という学びがありました。

また、最初に Miro の使い方に慣れる時間や、最後にインセプションデッキ全体を振り返る時間も考慮したアジェンダを作成するとより良いものになりそうです。

まとめ

新チームの発足にあたり、インセプションデッキの作成を行うに至った経緯と、ワークショップの実施方法、その結果得られた成果や知見について書きました。

新しいプロジェクトを始める際や既存のプロジェクトの方向性が曖昧になってしまっていると感じられている方は、インセプションデッキの作成に挑戦してみると何らかの手がかりになるかもしれません。

最後までお読み頂きありがとうございました。