こんにちは、インターネットゼミの中西(@whywaita)です。

インターネットゼミは「インターネット」について日々研究を行っているゼミです。
「インターネット」には多くの意味合いが思い浮かぶと思いますが、ゼミとしては特定の定義に限定せず広く各個人のインターネットについて研究を進めています。

インターネットゼミについてはこちらの記事をご覧ください。

インターネットゼミ開講のお知らせ

今回はSpaceX社が提供している「Starlink」について動作検証を行いましたので、検証結果をご報告します。

Starlinkは、宇宙空間に存在する衛星を経由してインターネットを提供する製品です。

元々遠洋向けの船などには衛星を経由したインターネットが提供されていましたが、非常に高価(数十万〜数百万)な製品でなかなか個人用途では縁が無いものでした。
しかしStarlinkは初期購入のハードウェア料金が36,500円、月額6,600円という驚くべき安さで衛星通信インターネットを提供しています。

現在国内でインターネットを利用する際には光ファイバーを介した物理的な接続がほぼ必須になっていますが、Starlinkの登場により安価にどこでもインターネットを利用できるようになりました。
具体的にはキャンプ場や車での移動中などインターネットがなかなか確保できない場合にもインターネットが利用可能です。

また、被災地など光ファイバーが断線した地域などでもインターネットを提供することができるようになります。
日本ではKDDIがau通信網のバックホール回線としてStarlinkを利用することを発表しています

実際に購入して使ってみた

というわけで購入してみました。でかい。2023年2月現在は製品が変わっておりもう少しコンパクトなモデルが届くそうです。

Starlinkの外箱に人が立っている様子。人の腰ほどのサイズになっている。

というわけで、弊社のオフィスであるAbema Towers前のエリアで実際に設置し作業を行いました。

Starlinkを開梱している様子

屋外には残念ながらコンセントがないため、100V電源を給電出来るポータブル電源などを使うことでアンテナを起動させることができます。今回はEcoFlow社のRIVER 2というモデルを購入し実験を行いました。

なお、実験中に観測した消費電力は45W〜60Wほどでした(RIVER 2の消費電力表示で確認)。アンテナを温めることでアンテナの上に積もった雪を溶かす”Snow melt”機能があったので Pre heat モードにしてみましたが、ほんのり暖かくなったような気もするものの実際には雪が積もっていなかったからかそれほど消費電力に変動はありませんでした。

Starlinkを設置した様子

実験当初はオフィスから数mだけ離れている箇所で実験を行っていたのですが、
残念ながらStarlinkが衛星と通信することはできませんでした。

Starlinkが通信する対象の衛星は特定の方向に設置されており、その方向への見通しがなければ通信を行うことができません。
Starlinkが提供するモバイルアプリを用いることで、自分が立っている場所がどのぐらい衛星と通信することが可能なのかを確認することができます。

次の画像は最初に実験した地点で実際に試験してみた様子です。赤い部分(衛星と通信が行えない方向)が80%ほどを占めており、ほぼ通信が行えません。

Starlinkアプリで計測したアンテナの受信状況。悪い。

そこでビル敷地内でも徐々にビルから離れ、実験を行っていた時間帯に衛星がありそうな方角への見通しを確保したところ比較的安定して通信を行うことができました。

次の画像における①、②、③の順に実験場所を移動させました。

Satrlinkを設置した場所について示している画像です。1はビルの近く、2は少しビルから離れたところ、3はビルから更に離れたところです。

次の画像は③の箇所で計測した、衛星との通信状況を示した画像です。先の画像と比べて青い部分が増え、安定した通信が行えるようになったことが確認できます。(それでももっと良い場所を探すべき、という表示は出ていますが……)

Starlinkアプリの電波状況の画面。先ほどよりは改善している。

「インターネット」への接続

早速インターネットに接続できたので、やはり最初に試すのはスピードテストですね。

複数のスピードテストを試したところ、様々な結果が得られました。本来正しく比較するためには複数回の計測が必要ですが、今回は簡易的に1度ずつ計測しています。そのためあくまで参考程度に参照ください。

  • Google Internet speed test: Download 76.5 Mbps, Upload 6.16 Mbps, Latency 177ms
  • Starlinkアプリ内蔵のスピードテスト: Download 14Mbps, Upload 6.9 Mbps, Latency 34ms
  • iNoniusスピードテスト: Download 28.7 Mbps, Upload 11.5 Mbps, RTT 198ms, Jitter 6.78ms

サービスによってかなり速度に差が出ていることが分かりますが、1番遅くとも10Mbps以上の通信速度が確保されておりある程度のインターネットブラウジングであれば問題がなさそうです。
光ファイバーを用いたインターネット通信と大きく差があるのはやはりレイテンシでしょうか。「この通信は海を越えているから遅い」なんて話がある世界で宇宙まで行って返ってきているのですから、当たり前かもしれませんね。
Jitterの値は6.78msと良いわけではありませんがそこまで悪くない値を計測しています。

ただ、スピードテストやいくつかの通信をしている最中にインターネット通信が不安定になるタイミングが何度かありました。これは衛星との通信が不安定になり、一時的にインターネット接続が提供されていなかったものと考えています。
衛星(と地球)は常に動き続けているため、その方向や向きを合わせることが非常に重要です。
Starlinkアンテナも衛星の位置に合わせて向きを変更しますが、それでも対処しきれないパターンがあるのではないかと思われます。

今回は渋谷のビルが建ち並ぶエリアの少し開けたところでの実験となりましたが、実際に24時間安定した通信を行う場合は屋上など全方向に開けた場所にアンテナを設置する必要がありそうです。

コマンドを使ってネットワークを観測

次に、いくつかのコマンドを用いてどのようなインターネット構成になっているのかを観測してみます。

インターネットゼミが運用する AS63790 へのtracerouteコマンドの実行結果を掲載します。

$ traceroute -I -a x.x.x.x
traceroute to x.x.x.x (x.x.x.x), 64 hops max, 72 byte packets
 1  [AS0] starlinkrouter (192.168.1.1)  9.166 ms  1.120 ms  0.672 ms
 2  [AS0] 100.64.0.1 (100.64.0.1)  29.289 ms  36.255 ms  56.348 ms
 3  [AS0] 172.16.248.32 (172.16.248.32)  41.011 ms  42.001 ms  47.763 ms
 4  [AS14593] 149.19.109.14 (149.19.109.14)  62.497 ms  23.764 ms  37.271 ms
 5  * * *
 6  [AS0] be3093.rcr51.b060372-1.tyo01.atlas.cogentco.com (154.24.11.137)  40.370 ms  25.634 ms  29.171 ms
 7  [AS174] be3050.ccr72.tyo01.atlas.cogentco.com (154.54.91.213)  27.110 ms  27.073 ms  26.316 ms
 8  [AS174] be2894.ccr41.lax04.atlas.cogentco.com (154.54.1.21)  130.456 ms  136.875 ms  125.154 ms
 9  [AS174] be3271.ccr41.lax01.atlas.cogentco.com (154.54.42.101)  132.144 ms  137.077 ms  125.277 ms
10  [AS174] be3243.ccr41.lax05.atlas.cogentco.com (154.54.27.118)  129.249 ms  138.564 ms  125.317 ms
11  [AS174] 38.19.140.218 (38.19.140.218)  130.184 ms  125.042 ms  138.662 ms
12  [AS2497] osk004bb01.iij.net (58.138.88.125)  142.814 ms  136.737 ms  140.620 ms
13  [AS2497] osk004ip57.iij.net (58.138.106.166)  126.581 ms  130.300 ms  134.767 ms
14  [AS2497] 210.130.146.150 (210.130.146.150)  287.713 ms  277.613 ms  279.717 ms
15  * * *
16  * * *
17  * * *
18  * * *
19  * [AS63790] x.x.x.x (x.x.x.x)  1350.054 ms  291.926 ms

Starlink本体から AS14593 (Space Exploration Technologies Corporation つまり SpaceX社)
としてインターネットに接続し、そこから弊ASに接続されているようです。

Google Public DNS へのtracerouteコマンドの実行結果も合わせて掲載します。

$ traceroute -I -a 8.8.8.8
traceroute to 8.8.8.8 (8.8.8.8), 64 hops max, 72 byte packets
 1  [AS0] starlinkrouter (192.168.1.1)  12.548 ms  0.948 ms  0.710 ms
 2  [AS0] 100.64.0.1 (100.64.0.1)  36.419 ms  37.312 ms  25.004 ms
 3  [AS0] 172.16.248.32 (172.16.248.32)  28.367 ms  29.785 ms  30.418 ms
 4  [AS14593] 149.19.109.14 (149.19.109.14)  31.578 ms  32.788 ms  22.932 ms
 5  [AS7527] as15169-2.ix.jpix.ad.jp (210.171.224.95)  47.915 ms  38.046 ms  30.644 ms
 6  [AS15169] 108.170.242.129 (108.170.242.129)  34.035 ms  36.145 ms  27.872 ms
 7  [AS15169] 142.250.226.9 (142.250.226.9)  58.733 ms  36.075 ms  30.452 ms
 8  [AS15169] dns.google (8.8.8.8)  33.500 ms  24.501 ms  30.502 ms

IX事業者であるJPIXを経由することで、弊ASと比較して少ないhop数で接続できているようです。
他にも日本国内を拠点とするチームメンバーのASにtracerouteを行いましたが、そちらのASもJPIXを経由し少ないhop数で接続できていました。

まとめ

今回はStarlinkを購入しその所感などについてまとめてみました。

ある程度見通しがとれる山間部や車で移動した地点などではある程度有用に使えそうなことが分かった一面、都市部のベランダなどでは衛星が移動する都合上「ベランダで開けている方向に衛星があるタイミングのみ通信できる」という点も分かりました。

また、日本国内へのインターネット接続にはまだ難点も多くありそうです。インターネットゼミASがJPIXへ接続させていただいた際には再度Starlink経由での接続を確認してみたいですね。

今後はまた他の場所での動作試験を行った場合どうなるのかについて検証をしてみたいと思います。

宣伝

2023年3月24日にサイバーエージェントグループをインフラから支えるチーム CIU (CyberAgent group Infrastructure Unit)が第4回データセンター見学会を開催を開催します。残念ながらこの記事が公開されるころには締切が過ぎてしまうようですが、参加希望の声が多ければ追加開催も検討されるとのことなので、ぜひTwitterなどでお声がけください。