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Laboro.AIコラム

EC需要の裏側に。物流危機を救う、AIのチカラ

2021.4.30公開 2024.2.9更新

概 要

2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、消費者の購買スタイルは大きく変化しました。買い物においてECサイト利用の割合が増加し、伴って物流業界が担う役割もますます重要になってきています。

しかし、「2024年問題」が叫ばれるなど、物流業界には人手不足をはじめとした課題が横たわっていることも事実です。その解決方法として期待されているテクノロジーがAIです。物流の現状や課題、物流にAIを導入するメリットや導入事例を紹介します。

目 次

物流業界の現状と課題
 ・EC市場の拡大と、物流需要の増加
 ・物流業界の課題
  ・運び手の人材不足
  ・過酷な労働環境
  ・「2024年問題」
物流対策の今後
 ・物流設備の大型化
 ・物流システムの一元化
 ・AIの活用
AI導入で物流にもたらされるメリット
 ・倉庫管理業務のコスト削減
 ・運送ルートの最適化
物流×AI 活用5事例
 ・物量予測精度向上で人員配置も改善
 ・物流倉庫のピッキングロボットを支えるAI
 ・不在配送問題の解消に向けたAI活用
 ・荷物の領域推定AI
 ・バーコード以外からの商品情報の読み取り
AIが物流危機を救う

物流業界の現状と課題

モバイル端末の普及や新型コロナウイルスの影響を背景に、特に一般のコンシューマ市場においては、買い物におけるEC利用率が急増しており、伴って物流の役割がさらに重要性を増してきています。そこで、まずは電子商取引の割合を表す「EC化率」の推移を確認していきましょう。

EC市場の拡大と、物流需要の増加

スマートフォンをはじめとするモバイル端末の世帯保有率は96.8%であり、実店舗へ行かずインターネットを経由したECでの買い物はほぼ誰もができる状況にあります。

経済産業省が発表している「電子商取引に関する市場調査」によれば、2022年のBtoC市場での物販系のEC化率は(リアル販売も含めた商取引全体のうちEC取引が占める割合)は9.13%と、実はそれほど大きな割合を占めているわけではありません。しかし、BtoC市場における物販系、サービス、デジタルの全ての分野を合計したEC市場規模は22兆7449億円、前年比で9.91%という、近年では最大の増加ペースで伸長しており、購買スタイルとして成長し続けています。

一方で、業種別のEC化率を見ると、「書籍、映像・音楽ソフト」で52.16%、「生活家電、AV 機器、PC・周辺機器等」で42.01%、「生活雑貨、家具、インテリア」で29.59%と高い商品カテゴリーがある一方、「食品、飲料、酒類」が4.16%、「化粧品、医薬品」は8.24%と、特に試食・試用といった品定めなど、実体験に基づく購買が重視されたり、そもそも販売に免許や許可が必要で参入が比較的難しかったりするカテゴリーでは高くないなど、商品特性に応じてバラツキがあります。

とはいえ、例えば対面販売の義務が残っていた一部の薬のネット販売は、ビデオ通話による服薬指導を条件に2025年以降に厚生労働省によって認められます。市販薬は全面的にネット販売が解禁されることになり、EC化が大いに伸びるカテゴリーと捉えられるかもしれません。

出典:総務省「情報通信白書 令和3年版」
   経済産業省「令和元年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)」
   日本経済新聞「市販薬ネット販売、全面解禁へ ビデオ通話での指導条件」

物流業界の課題

こうした背景もあり、物流に対する市場需要が高まる傾向にある一方、物流業界は大きな課題に直面しています。

運び手の人材不足

日本の人口は2008年から減少に転じ、少子高齢化も背景に国内の生産人口は減少の一途をたどっています。どの業種でも人材不足が叫ばれるようになりましたが、物流業界も例外ではなく、その根幹を担うトラックドライバーの不足が課題になっています。

トラックドライバーの高齢化も懸念されており、全産業で見た場合の就業者の平均年齢42.9歳と比較すると、中型・小型トラックのドライバーは45.9歳、大型トラックのドライバーでは48.6歳と、比較的高めであることが報告されています。さらに、担い手不足も深刻化しており、29歳以下の就業者の割合を見てみると、全産業の16.6%に対し、道路貨物運送業では10.2%となっており、若い働き手の確保が難しい現状にあることが見えてきます。

過酷な労働環境

人材不足、担い手確保の難しさの背景として考えられるのが、労働環境の過酷さで、トラックドライバーの年間労働時間は、中小型・大型トラックともに2600時間にもなることが報告されています。この数字は、全産業の平均2124時間と比較すると、2割以上も多くの時間に業務に従事していることになります。その反面、年間所得額は全産業の1割ほど低い金額だとされています。今後さらに多くの需要が見込まれる物流業界ではありますが、実際の運び手の方々のこうした厳しい状況を改善しなければ、現場をさらに苦しい状況へと追い込んでしまうことにもつながり兼ねません。

「2024年問題」

上記の問題を総合して現在言われているのが、「2024年問題」です。2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制と改正改善基準告示が適用され、労働時間が短くなることで輸送能力が不足し、「モノが運べなくなる」可能性が懸念されていることです。例えば日本郵便は、同年4月から一部地域で「ゆうパック」や速達郵便物の配達を半日から1日遅らせることと、現在7区分ある「ゆうパック」の配達時間帯のうち「20時-21時」を10月1日から廃止して6区分とすることを発表しています。

出典:総務省「情報通信白書 令和2年版」
   トラック運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト「統計からみるトラック運転者の仕事」
   ロイター「日本郵便、「ゆうパック」などの配達を半日―1日遅く 24年問題に対応」

物流対策の今後

これまで触れてきた問題は、制度なども関わる慢性的な問題であり、短期的に解決することは簡単ではありません。しかし、業界全体としては次のような改善策が考えられます。

物流拠点の大型化

商品在庫を保管しておくための倉庫や一時預かりのための管理センターなどを含む物流拠点は、近年、ますます大型化してきています。集荷箇所をできるだけ一極化させることで、流通の効率化はもちろんのこと、ドライバーの運行距離が短くなり、労働時間の短縮へとつながることが期待されます。

物流システムの一元化

物流拠点と同様に、主に輸送、保管、荷役、包装、流通加工という五つの工程で構成される物流システムを一元化することも、重要な対策の一つです。それぞれを独立して管理することによって発生する無駄をなくし、例えば倉庫管理、配送ルートの最適化、荷物の追跡などがさらに進めば、ドライバーの負担軽減にもつながっていくはずです。

AIの活用

ITの一部であるAI技術は、デジタルと相性が良いのが当然である一方で、物流業界のような物理現場とも相性が良いとされています。これまでITが入りにくかった物理現場で、画像認識、自然言語処理、音声認識といったさまざまなAI技術の活用が期待されています。

AI導入で物流にもたらされるメリット

現時点のAI技術用いて物流業界にもたらされるメリットは、大きく二つ考えられます。

倉庫管理業務のコスト削減

物流全体のコストはドライバーの収入にも当然影響するため、コスト削減は重要な取り組みの一つです。特に物流でコストがかかる領域の一つが、倉庫管理です。例えば、入庫時点で運ばれてくる荷物を目視で確認し、貼り付けられたラベルをリーダーで読み取り、倉庫管理システムに入力していく作業は、人による膨大な労力がかかるだけでなく、ヒューマンエラーが発生するリスクも懸念されます。

そこで近年導入が進んでいるのが、AIの画像認識技術を活用した入庫管理です。一定のルールに応じた分類タスクはAIが得意とする領域であるため、入庫商品を自動識別し、所定の保管先に分類するといったシステム構築も取り組まれています。

運送ルートの最適化

トラックドライバーの長労働時間の原因に、荷待ち時間や載積効率が挙げられています。宅配便の時間指定配達サービスが普及する一方で、再配達率はいまだ12%に上ります。また、1台のトラックに積まれる荷物は荷台の4割程度、6割の積載量は使い切れていないといった報告もあります。

こうした運送効率化の対策の一つとして、運送ルートをAIが提案する取り組みが進められています。大量のデータから最適解を見つけ出すことを得意とする機械学習技術を活用し、荷物の配送先の割り当て、配送の順番、配送先と次の配送先までの経路、配送先の在宅時間・営業時間、ドライバーの人数・労力などを考慮した最適なルートを提案するという試みです。

物流×AI 導入5事例

物流業界で実際にAIを導入し、一定の効果を発揮している事例を紹介します。

物量予測精度向上で人員配置も改善

総合食品卸売業の加藤産業では「物量予測&シフト調整システム」を活用しています。取り扱う物量の予測について、AIは強みとする計算速度と直近実績を加味した予測をし、人間はAIが苦手とする例えば小売店の特売・新規開店といった変動要素の加味や、違和感を覚えるAI予測値の補正といった役割を担っています。その結果、物量予測精度の向上だけでなく、管理者業務の負荷削減、属人化していた業務プロセスを統一できたことによる人員配置計画の標準化などの効果も得られたとしています。

出典:経済産業省「物流管理へのAI技術の有効活用」

作業編成へのAI導入

NECは物流倉庫で稼働するピッキングロボットの精度向上と学習時間の大幅な短縮を可能にする「ロボット制御AI」を開発したと発表しています。このAIでは、ある行動の結果として実世界で何が起こるかを現実に試すことなく予測することを可能にする技術「世界モデル」を応用しており、試したことのない作業条件でも失敗の少ない動作を自律生成・実行できるとしています。例えば、学習したものと異なるサイズ・形状かつ不規則に置かれた物品に対しても、的確につかんで所定の位置と向きで置けるようになるという具合です。

出典:LNEWS「NEC/ロボットが常識を学習、ピッキング成功率95%達成」

(*画像はイメージであり、実際の写真ではありません。)

不在配送問題の解消に向けたAI活用

前述の通り、宅配便における不在配送は全宅配件数の12%を占め、それに基づく具体的なデータは見当たりませんが、かかる走行距離や労働力が少なくないことは、想像に難くないでしょう。

佐川急便と日本データサイエンス研究所などは、この不在配送の減少をAI活用により解消する研究を進めています。具体的には、個人宅の電力データの稼働を専用のスマートメーターで受信して在宅か不在かを予測し、そのデータを基にAIが効率的な配送ルートを示すというシステムの運用です。

不在配送問題の解消は、ドライバー不足や労働者の負担軽減に加え、CO2排出量の減少など、多くの問題の解決につながる重要な取り組みの一つです。

出典:国土交通省「宅配の再配達の発生による社会的損失の試算について」LNEWS「佐川急便/電力データで在宅予測、不在配達率20%改善に成功」

荷物の領域推定AI

東芝は、不規則に積み重なった荷物を通常のカメラで撮影した画像から、個々の荷物の領域を高精度に推定できるAIを開発。この領域推定AIを、自動荷下ろしロボットなどの物流ロボットに搭載することで、荷下ろしやピッキング作業を正確かつ効率的に行うことに成功しています。

荷下ろしやピッキング作業の自動化を考える場合、従来、荷物の領域特定に3次元センサーを使用する手法がありましたが、センサー導入自体のコストと事前学習用のデータ収集の負担が高いという課題がありました。通常のカメラ画像をもちいるこのアプローチであれば、大幅なコスト削減につながります。

2020年に行われた実証実験では、推定精度を従来方式から45%改善するという、世界トップレベルの性能を達成しています。

出典:TOSHIBA 「通常のカメラの画像から個々の荷物の領域を世界最高精度で推定するAIを開発」

(*画像はイメージであり、実際の写真ではありません。)

バーコード以外からの商品情報の読み取り

荷物の商品ラベルに記載されている文字情報とバーコードを同時に読み取れるAI技術を開発したのがこちらの例です。その読み取り精度は、活字の場合95%以上で、読み取った情報をそのままデータベースなどに登録することも可能になっています。

商品の入出庫時の在庫登録業務や検品業務など、これまで目視確認に頼っていた情報のチェックを自動化し、管理・登録業務を大幅に削減することが見込まれます。

出典:ECのミカタ「Automagiがスマホで撮影してバーコードと文字情報を一括登録できる新技術を開発」

AIが物流危機から救い出す

その需要が伸びる一方、物流業界は運び手に関わる大きな課題を抱えています。物流現場をより快適な環境へと変革させ、ドライバーの負担を軽減する、あるいは新たな担い手の確保へとつなげていくことが急務になっています。今回は、物流業務に直接関係する部分のAI活用を中心に紹介しましたが、自動運転をはじめ、あらゆる周辺領域がこのAIという可能性あるテクノロジーを活用し、業界構造の新しい姿をつくっていかなければなりません。

「すべての産業の新たな姿をつくる」、これをミッションに掲げるLaboro.AIでは、まさにこうした業界全体に関わる課題の解決を、AI技術を用いてご支援させていただいています。

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