Laboro

Laboro.AIコラム

POSからの脱却。小売AIの進化と可能性

2021.8.31

概 要

人間にはできないような処理が可能とされるAI。さまざまな業界で、AIを活用したイノベーション創出に取り組んでいますが、近年、急速に活用が進められている業界の一つが小売業界です。今回のコラムでは、小売業界でAI導入を検討している方に向け、小売業界でのAI活用の現状や事例についてご紹介していきます。

目 次

急速に進む小売業界でのAI活用
小売業界がAI活用に期待できること
 ・需要予測・売上予測の精度向上
 ・発注業務の効率化
 ・顧客の店舗内行動の把握・分析
小売業界でのAI活用事例
 ・セミオート発注システム
 ・顧客行動を分析するAIカメラ
 ・棚割り画像認識
AIだけでなく、様々な可能性を吟味する

急速に進む小売業界でのAI活用

利益率を上げるための無理な経費削減や、ベテランの経験に頼った属人化した発注業務など、小売業界には旧態依然とした状況やさまざまな課題があると言われています。このような課題の解決手段として期待されているのが、AIです。

少し古いデータですが、2017年にアメリカのMarketsand Marketsが発表した調査レポート『小売業向け人工知能(AI)の世界市場:ソリューション別、用途別2022年予測』によると、2017年に9億9,360万米ドルであった小売業界向けのAI市場は、2022年までに50億3,400万米ドルまで成長すると予想されています。国内でも小売業界にAIを導入しようという試みは活発で、さまざまな事例が登場しています。

AIの定義はしっかりと定まったものはありませんが、人間の知能を模した機能を有したコンピュータのことを指し、近年、AIと言えば主に機械学習技術を活用したシステムを指します。機械学習は、一定のルールを与えることでAI自身にタスクに対する学習をさせ、そこにある規則性やパターンなどを学び取らせることで、認識や予測・推論といった処理を実現するための技術です。

AIは、人間では扱いきれないような膨大なデータを処理することに長け、ビックデータの解析を通して、これまでは発見できなかったような特徴を導き出すことが期待されています。例えば、次の項目でも触れますが、需要予測の正確性を向上させるといった活用はその一つです。

小売業界がAI活用に期待できること

AIを活用することで、小売業界にはどのような効果がもたらされるのでしょうか。

需要予測・売上予測の精度向上

AIは膨大なデータを学習することで、複雑に絡み合っている情報の中から一定のパターンを見つけ出すことを得意とします。無限にある説明変数を全て勘案することは不可能なため完全な予測は難しいとしても、従来よりも精度の高い需要予測・売上予測の実現にAIの活路が見出されます。

小売業界では、1980年頃からPOSやID-POSが用いられるようになり、膨大なデータが蓄積され、各種の分析に用いられてきました。しかし、これらデータはあくまで購入者の情報を示すものであり、購入していない人も含んだ需要を表すデータとは言い切れません。また、需要を予測するためには、天候や競合店舗の価格や販促施策、周囲の催事情報など、定量・定性情報を含む、多くの変数を勘案する必要があります。

AIを用いることで、購買履歴や顧客情報だけでなく、地域住民の特性、経済の状況、天候、カメラを用いた顧客の行動データなど、多数の変数から需要の増減を予測できる確度が高まっていきます。適切なタイミングでの適切な量の発注を可能にし、機会ロスの削減につながることが期待されます。

出典:BUSINESS INSIDER『AIは小売業に何をもたらすのか。マイクロソフトの事例から見えてきたもの』

発注業務の効率化

発注業務が属人化しているケースの場合、とくに発注のタイミングや量の決定を勘に頼らざるを得ず、正確性にバラツキが出るだけでなく、その成否の検証も難しくなっていきます。次の活用事例でもご紹介しますが、発注業務をAIに任せることによりワンボタンで発注できるシステムも存在するほか、陳列状況を画像情報からリアルタイム監視することで欠品状態を常時把握できるようにするシステムなど、一部業務を自動化させ、業務効率化に寄与する効果も期待されます。

顧客の店舗内行動の把握・分析

2010年代以降、AI技術の中でもとくに進歩が著しい技術領域が、画像認識の分野です。画像認識技術は、来店客の店舗内行動の把握のためにも用いられており、動線分析や店内ホットスポット・デッドスポットの検出、滞在時間の抽出、万引き犯などの不審者検出のほか、無人店舗でも用いられる顔認証決済などにも画像認識AIが用いられるようになっています。

とくに動線分析は、これまでは調査員を店内に立たせることによって把握することが主だったため、調査期間中の一時点でしか把握できない課題がありました。AI技術の活用はもちろんのこと、RFIDタグなどの各種センサー技術も用いることで、リアルタイムに常時店内の顧客行動を把握・分析できる環境が整えば、さまざな販売施策に活用できるデータを店舗側で取得できるようになっていくはずです。

小売業界でのAI活用事例

ここからは、代表的な小売業界でのAI活用事例をご紹介していきます。

セミオート発注システム

大手コンビニチェーンのローソンでは、大手コンビニチェーンの中では先駆けて、AIを活用した「セミオート発注システム」を2015年から導入しています。

ローソンのセミオート発注システムは、過去の販売状況やポイントカードから得られる会員データ、他店舗の販売状況、天候、気温など100にも上る指標を用い、AIが発注の推奨数を提案するという仕組みになっています。対象となるのはデザートやおにぎりなど消費期限の短い商品が中心であり、発注業務にかかる時間の削減に成功しています。

ローソンではセミオート発注システムの他、主に日持ちする商品を対象とした計画発注も行っており、商品に合わせて発注方法を使い分けています。売上アップのほか、無駄な廃棄物を抑制する取り組みとしても、このセミオート発注システムが活用されています。

出典:ローソン「廃棄物削減」
出典:ニュースイッチ「コンビニの収益を左右するAI発注、先行するのはどこだ!?」

顧客行動を分析するAIカメラ

Amazonを始めとしたECサイトが急速に普及し、今やインターネットでショッピングをすることが当たり前の光景になりましたが、売上比率としてはまだまだ実店舗のほうが大きな割合を占めています。一方、急速な成長に合わせてアクセス解析などのデータ取得・分析手法が比較的進化したECサイトと異なり、実店舗で取得されるデータと言えば、未だPOSデータが主となっているのが現状です。

実店舗での新たな顧客データの取得に向け、積極的なAI技術の活用を推し進めているのが、福岡県を中心にスーパーマーケットを展開しているTRIAL(トライアル)です。TRIALが積極的に導入を進めているのが、実店舗内の顧客の行動分析をAIで行おうという「リテールAIカメラ」で、このAIカメラを活用した一連のシステムでは、店内に複数設置されたリテールAIカメラで棚にある商品在庫や顧客の行動分析を行った上、「スマートショッピングカート」に設置されたデジタルサイネージに表示される商品提案CMを連動させ、より顧客に適したレコメンドを実現する取り組みが進められています。

出典:MONOist「『ECの世界をリアルで再現する』トライアルが関東初のスマートストアを開店」

棚割り画像認識

画像認識技術を用いて陳列棚の棚割りやディスプレイの状態を検知するAIシステムも数多く見られるようになってきました。その一つとして、サイバーリンクスが提供しているのが、NTTドコモのAI技術を活用した「棚SCAN-AI」です。

棚SCAN-AIはスマホ等のカメラで陳列写真を撮影することで陳列状況をデータ化できるシステムで、年間2~3万の新商品の画像をデータ化している膨大なデータベースとディープラーニング技術を活用し、さまざまな陳列状態での商品認識を実現しています。商品は真正面を向いた状態で陳列されているばかりではなく、傾いていたり、横を向いていたりということもあります。棚SCAN-AIでは、複数の角度からの商品写真を格納しているデータベースと写真を照合し、スマホ等で撮影するだけで陳列状態をデータ化できるとされています。

小売業者にとっては、店舗・商品ごとの欠品状態を確認して機会損失を防ぐ、あるいは本部からの陳列指示がどれだけ実行できているかを確認するなどの活用方法が期待され、また、メーカーや卸売業者にとっては、自社商品と他社商品の陳列シェアを正確に把握できる、さらには陳列計画を小売店に提案するための根拠として使用できるなどの活用が見込まれます。

出典:サイバーリンクス「棚SCAN-AI」

AIだけでなく、様々な可能性を吟味する

小売業界、とくに実店舗においては、その物理的な特性から顧客データの取得が難しく、POSデータ・ID-POSデータの登場以来、大きなブレークスルーは起きていなかったと言えるかもしれません。ですが、AI技術の登場と進化によって、画像認識AIを活用した顧客行動の取得、あるいは、今回はご紹介していませんが、音声認識AIによる店頭の声の収拾、需給を勘案したダイナミックプライシング(動的価格表示)の導入、運搬トラックの配送ルートの最適化など、様々なイノベーティブなAI活用法が見出されつつあります。

とはいえ、それらの多くはまだ実験段階にあるものが多く、十分に成果を出すまでに機能しているとは言えない状況です。小売業界という物理的な現場を伴う特殊な業界でAIの導入を検討するためには、まず自社・自店舗の課題を正確に把握し、その課題の解決のためにAIを活用することが本当に適しているのか、現状の技術で実現可能な部分はないか、センサーシステムなどその他の技術との組み合わせは必要ないかなど、様々な可能性を吟味することが重要になってきます。

当社Laboro.AIでは、AIでビジネス課題を解決するための方法として、個社ごとにオーダーメイドさせていただく「カスタムAI」の開発を事業としています。汎用的なパッケージAIやAIプロダクトの導入では十分な課題解決に至らなかった場合などには、あらゆる可能性を検討する段階に入っていると思われます。こうした際には、ぜひ当社メンバーとのディスカッションにお声掛けください。

カスタムAIの導入に関する
ご相談はこちらから

お名前(必須)
御社名(必須)
部署名(必須)
役職名(任意)
メールアドレス(必須)
電話番号(任意)
件名(必須)
本文(必須)

(プライバシーポリシーはこちら