Laboro

Laboro.AIコラム

潜在意識も刺激する、AIを用いたレコメンデーション

2023.6.2
株式会社Laboro.AI リードマーケター 熊谷勇一

概 要

顧客に商品やサービス、コンテンツをおすすめする「レコメンデーション」。実店舗やウェブサイトを問わず、その形態はさまざまです。レコメンデーションエンジンが使われ、AIも多く活用されてきました。最近ではChatGPTを使ったレコメンデーションの在り方も注目され始めています。その基礎的技術や活用例を解説します。

目 次

レコメンデーション、レコメンドとは
 ・パーソナライズ、カスタマイズとの違い
レコメンデーションの中心技術:協調フィルタリング
 ・ユーザーベースの協調フィルタリング
 ・アイテムベースの協調フィルタリング
 ・コンテンツベースフィルタリング
 ・レコメンデーションの評価
  ・オフライン評価
  ・オンライン評価
ChatGPTによるレコメンデーション
レコメンデーションのメリット
 ・ユーザーの満足度が向上する
 ・クロスセルによる購買金額の上昇
 ・言語に依存しなくてもできる
レコメンデーションの弱点:コールドスタート問題
レコメンデーションの活用
 ・Google
 ・Amazon
 ・YouTube
 ・TikTok
 ・スーパーマーケットのレジカート広告
 ・AI旅行提案サービス
 ・献立のレコメンド
 ・潜在ニーズ探索によるレコメンド
売上増を実現するには「伴走」が必要

レコメンデーション、レコメンドとは

レコメンデーション、あるいはレコメンドとは「recommend(おすすめする)」という言葉の通り、商品やサービスを顧客におすすめすることを指します。例えばECサイトで「あなたにおすすめ」といった具合に商品画像がいくつか表示されるのが当たります。

レコメンデーションを行うことで、顧客に購買を促すことができます。一方、過度なレコメンデーションは迷惑がられ、かえって機会を損失してしまう場合もあります。

パーソナライズ、カスタマイズとの違い

レコメンデーション・レコメンドに似た言葉に、パーソナライズやカスタマイズがあります。これらとの違いをきちんと認識し、レコメンドをよりはっきりさせましょう。

パーソナライズは、顧客一人ひとりの属性や興味関心、購買履歴に応じて最適な情報やサービスを提供する手法や仕組みを意味します。不特定多数の顧客に向けて広告を打ったり、同じ内容のダイレクトメッセージを発送したりするのではなく、顧客一人ひとりに合わせて提供する情報を変化させます。それにより、情報をより深く届け、より多くの顧客獲得を狙う在り方です。

パーソナライズとレコメンドとの違いは、前者が一人ひとりの行動データを基に情報提供するのに対し、後者は複数のユーザーの購買履歴などを基に同時購入率の高い商品などをおすすめとして表示する手法です。

一方、カスタマイズは、情報を受け取る側が自分の好みに合わせて欲しい情報を使いやすいように設定する在り方を指します。レコメンドやパーソナライズが誰にどんな情報を送るかは情報提供側調整してするのと逆です。例えば、あるECサイトが複数のメールマガジンを発行している場合、受け取る側がどれを購読するかを選択できることがカスタマイズに当たります。

レコメンデーションの中心技術:協調フィルタリング

ECサイトなどでのレコメンデーションは、レコメンデーションエンジンという仕組みによって選定され、表示されています。このレコメンデーションエンジンの手法の代表が、「協調フィルタリング」です。

例えばAmazonでは、他のユーザーの購入パターンを使って商品をおすすめしていると見られています。このように、他ユーザーの行動パターンやアイテムの類似性を対象のユーザーと比較するレコメンドシステムが協調フィルタリングです。「似ているユーザー」を購入履歴やレーティングから導き、「ユーザー同士」あるいは「ユーザーとアイテム」を結び付けることで実装されます。

それらを踏まえて、協調フィルタリングは「ユーザーベース」と「アイテムベース」に大別できます。

ユーザーベースの協調フィルタリング

対象ユーザーの行動分析を基に他のユーザーに対する類似度を算出し、類似度が高いユーザーが分かると、その類似ユーザーが購入した商品を対象ユーザーにレコメンドする仕組みです。ユーザーの類似度を求める際は、ピアソンの相関係数がよく使われています。

ピアソンの相関係数とは、二つの確率変数の間の類似度を指す統計的指標のことで、-1から1の間の実数値を取り、1に近いときは二つの確率変数の間に正の相関、-1に近いときには負の相関があり、0に近いときには相関がないとします。

アイテムベースの協調フィルタリング

訪問ユーザーの行動分析を基に商品(アイテム)同士の類似度を算出する手法です。商品Aを購入したユーザーが商品Bも購入しやすいと分かると、商品Aを購入したユーザーに対して商品Bをレコメンドします。アイテムの類似度を求める際は、コサイン類似度がよく使われています。

コサイン類似度とは、二つのベクトルが「どのくらい似ているか」という類似性を表す尺度で、二つのベクトルがなす角のコサイン値のことです。この計算によって値が-1~1の範囲に正規化され、以下のように整理されます。
・コサイン類似度が1ならば、なす角が0度で、同じ向きのベクトル、つまり「完全に似ている」
・コサイン類似度が0ならば、なす角が90度で、独立/直交した向きのベクトル、つまり「似てもないし、似ていなくもない、どちらにも無関係」
・コサイン類似度が-1なら、なす角が180度で、反対向きのベクトル、つまり「完全に似ていない」

コンテンツベースフィルタリング

さらに、協調フィルタリングとは別に、あるユーザーの購入履歴やプロフィールなどから、そのユーザーの個人的な嗜好を見つけて商品やコンテンツを薦める手法として「コンテンツベースフィルタリング」があります。協調フィルタリングとは違い、他ユーザーのデータは使用しません。例としては、「筋トレが好き」とプロフィールに記載しているユーザーに筋トレ関連のグッズを勧めることなどが挙げられます。

レコメンデーションの評価

レコメンドの評価は「対象者にとって本当に欲しいもの」であるかどうかの観点から行われます。評価のための指標は多く存在し、それぞれ異なる軸での長所・短所があるため、レコメンドの目的に応じて決定する必要がありますが、大きく分けて「オフライン評価」と「オンライン評価」の二つがあります。

オフライン評価

利用者の行動履歴のみを使ってレコメンドを評価する方法です。以下の流れで実施します。
①行動履歴を学習データとテストデータに分ける。
②学習データについてレコメンドを行う。
③レコメンド内容とテストデータを比較して精度を算出する。

利用者と実際に関わる必要がなく低コストで実施できますが、レコメンドが購買に与えた影響について正確な評価ができません。レコメンドがなくとも購買した可能性を評価できないからです。

オンライン評価

一方、オンライン評価とは、実際のサービスに導入し、利用者の反応を見ることでレコメンドの評価を行う方法です。オフライン評価と違ってレコメンドが購買に与えた影響を評価することができます。

オンライン評価の例として、以下の手順を取る「A/Bテストアルゴリズム」があります。
①対象の利用者を二つのグループに分ける。
②それぞれのグループに「既存のレコメンドシステム」と「新しいレコメンドシステム」を採用する。
③結果を比較してレコメンドを評価する。

ChatGPTによるレコメンデーション

これまでレコメンデーションはAI技術の一つとして述べてきました。ここでいったん元の意味である広く「推薦すること」に戻ってみると、ChatGPT上での質問に対する回答もレコメンデーションになり得ることが分かるでしょう。

カカクコムグループが運営するグルメレビューサイト「食べログ」は、2023年5月6日に日本で初めてChatGPTプラグインを開発・提供し、ChatGPT上の飲食店探しのための質問に対し、候補店の情報を提供するというレコメンデーションを実現しました。

レコメンデーションのメリット

効果的なレコメンデーションを行うことで、以下のようなメリットがあると考えられます。

ユーザーの満足度が向上する

レコメンデーションを行うことで、ユーザーの潜在的な興味を引き出し、自覚していなかった需要を喚起できる可能性があります。「自分では気付かなかったが、言われてみれば確かに大事だ」といった満足感を得てもらうことが期待できます。

クロスセルによる購買金額の上昇

例えばECサイトで商品をカートに入れたときや、決済の直前・直後、商品到着時など、適切なタイミングでのレコメーデーションが新たな購買につながれば、顧客1人当たりの購買金額、ひいては全体の売り上げの増加が期待できます。

言語に依存しなくてもできる

レコメンデーションの方法によっては、言語に依存せずにレコメンデーションを実現できることがあります。例えば、動画サイト上のショート動画やSNS上での画像、アパレル、音楽など、提供者の母語を必ずしも理解しなくても利用できる商品・サービスでは、幅広く導入されています。

レコメンデーションの弱点:コールドスタート問題

ここまでいいことづくめに見えてきたかもしれませんが、レコメンデーションにも弱点があります。代表的なのは「コールドスタート問題」です。協調フィルタリングにおいてユーザーベースにせよ、アイテムベースにせよ、ユーザーや購買履歴を基に類似度を計算しています。逆に言えば、それらのデータがあまりない状態、例えば立ち上がったばかりのECサイトでは、レコメンデーションを実施するのに十分なデータを持っていない状態が起こり得ます。これをコールドスタート問題と言います。

レコメンデーションの活用例

レコメンデーション、特にWebサイトにおけるレコメンドエンジンが実際にどのように活用されているかを以下にご紹介します。

Google

Googleは、クラウドサービス「GCP」の中で「Recommendations AI」というレコメンドエンジンを提供しています。ユーザーの閲覧や購買行動をデータとしてクラウドに蓄積し、趣味嗜好を分析した上でよりニーズに沿った商品をレコメンドできるように成長していきます。バイアスや季節的な変動の補正もできるとしています。

Amazon

Amazonのショッピングサイトでは機械学習を用いたレコメンド機能が搭載されており、「…を買った人は、こんな商品も買っています」というテキストとともに他の商品が表示されるのを見たことがある人は多いでしょう。Amazonのクラウドサービス「AWS」では、Amazonで使われているレコメンドエンジンと同等のサービスを自ら設計できる「Amazon Personalize」というサービスを提供しています。学習に必要なデータは自前で用意する必要がありますが、専門的な知識がなくてもカスタマイズが可能としています。

YouTube

ユーザーの表示画面に自動的に出てくるおすすめや関連動画を順位付けするYouTubeのアルゴリズムは、更新を繰り返してきました。特に2015年からはディープラーニングを採用し、動画の尺、エンゲージメント(視聴者の反応数÷再生回数×100)、総再生時間、チャンネル登録者数の成長率、視聴回数、キーワード、平均視聴時間、クリック率を重視していると発表しています。

TikTok

ショート動画投稿サービスのTikTokは短期間で爆発的な人気を獲得したアプリであり、日本でも影響力のあるユーザー数を持つに至りました。その躍進を支えている要因の一つに、先進的なレコメンデーションシステムがあります。

投稿されている動画やユーザーの好みを分析して動画を推薦する点では多くのレコメンドエンジンと同じです。しかし他に先んじて導入したのが、まずアプリを開くといきなり誰かの投稿動画がいきなり再生され始めることです。画面に検索ボックスはなく、ランダムに動画が流れ、ユーザーは次から次へと動画を見ていくことになります。気になった動画に「いいね」をしたり、保存したりするうちに、AIがユーザーの行動を分析し、動画の好みを学習し続けています。

すべての投稿動画は一定数のユーザーのおすすめフィードに表示するようにしています。さらに、そうした動画の再生時間が長かったり、いいねが多くついたりすると、より多くのユーザーのおすすめフィードに表示するようにしています。これにより、登録したばかりやフォロワーが少なかったりするユーザーの投稿動画でもバズる可能性を生み出しています。これにより、レコメンデーションのコールドスタート問題を解消しているだけでなく、新規ユーザーが参加・継続しやすい状況もつくっています。

スーパーマーケットのレジカート広告

九州を中心にスーパーマーケットをチェーン展開するトライアルホールディングスは、店内で利用するレジカートに付属しているタブレット端末に広告を配信する実験に取り組みました。同社はこれまで蓄積した270億件の購買データを活用して独自開発したレコメンデーションシステムを基に、レジカートを使うお客ごとに最適なクーポンを配信しました。例えば、「お客が棚から牛乳を取り、カートに取り付けられたタブレット端末で商品バーコードをスキャンすると、他の飲み物のクーポンが表示されたため、お客は対象商品に思わず手を伸ばした」という効果を狙っています。

AI旅行提案サービス

ユーザーの希望や条件を基にAIが適した旅行情報を提案するサービスにAVA Travelがあります。2019年に上市したβ版では、海外約100都市からユーザーに合わせた旅行先を提案しました。現在は国内外合わせ約400の旅行先から好みに合わせて提案しています。2021年に開始した正式版では、現地での具体的な観光スポット、ホテル、体験、レストランまで、ユーザーごとにおすすめ順で提案することを可能としています。

献立のレコメンド

Laboro.AIが開発を支援した事例として、味の素様が提供している献立提案アプリ「勝ち飯®AI」があります。

「勝ち飯®AI」では、アスリートに必要な栄養素を得られる献立を機械学習でレコメンドします。これにより、食事によるパフォーマンス向上を目指す「部活生」の親の「どのような献立を作ればサポートできるのか分からない」という悩みの解決を目指しています。

この事例についてさらに詳しくは、以下のページをご覧ください。
アスリート向け献立提案「勝ち飯®AI」 | 株式会社Laboro.AI

潜在ニーズ探索によるレコメンド

Laboro.AIが開発を支援したもう一つの事例として、ドライブの行き先を提案するカスタムAIがあります。ユーザーとの対話を通して好みの行き先を分析し、AIがレコメンドします。従来であれば行き先を決めるために時間を使って調べ物をしていたユーザーが、レコメンドによって簡単に行き先を決定できたり、思いもしなかった新たな行き先を楽しめたり…といった効果が期待されます。

この事例についてさらに詳しくは、以下のページをご覧ください。
潜在ニーズ探索によるAIレコメンド|AIプロジェクト事例 | 株式会社Laboro.AI

売上増を実現するには「伴走」が必要

レコメンデーションはもはや当たり前に導入されている機能であり、商流の邪魔にならなければ導入を積極的に検討すべきでしょう。顧客1人当たりの購買額や全体の売り上げを伸ばせる可能性があるのは前述の通りです。しかし、どの特徴に着目し、どのようなレコメンデーションをすれば売上増に結び付くかを検討するのは容易ではありません。売り手側から見て興味深いレコメンデーションを実現できたとしてもそれが購買につながらない可能性もあります。

その点において、当社の「カスタムAI」の開発では、どの売上を強化すべきかのビジネスコンサルティングからはじめ、AI導入のロードマップの策定、商品・サービス特性に合わせた最適なレコメンデーションシステムの設計、その導入によるビジネス運用フローの検討、サービスインした後のフォローまで伴走することができるため、より売上増に貢献するためのレコメンデーショの導入を支援させていただくことが可能です。そして、そこで実際にお客様に伴走するのが、ビジネスコンサルティングとAIコンサルティング両面のノウハウに長けた当社独自のAIコンサルタント「ソリューションデザイナ」です。より効果的なレコメンデーションシステムの導入に向けては、ビジネス・AI双方での支援を強みとする当社にぜひご相談ください。

出典

ECのミカタ「パーソナライズとは?必要とされる理由や取り入れるメリット、活用する上での注意点」

BigData tools「【ECで活用】機械学習におけるレコメンデーションの基礎を解説!

実験医学online「Pearsonの相関係数

@IT「コサイン類似度(Cosine Similarity)とは?

Qiita「レコメンデーション入門3 レコメンドの評価

Tablelog Tech Blog「日本初の挑戦〜食べログによるChatGPTプラグイン開発の舞台裏

Google Cloud「Recommendations AI

AWS「【AWS グラレコ解説】「あなたへのおすすめ」はどう生成するの ? Amazon Personalize で簡単に実現する方法をグラレコで解説

マーケドリブン「【2022年版】YouTubeアルゴリズム仕組み変わった?

日経クロストレンド「マーケターはTikTokの革新学べ AIでサジェスチョン革命

日経エンタテイメント!編『TikTokショート動画革命』

日本経済新聞「カゴメとトライアル、データに基づく広告配信実験で成果

PR TIMES「AI旅行提案サービス『AVA Travel』が正式リリース

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