アジャイル開発とは変化するビジネス要件に素早く対応するためのソフトウェア開発手法です。この記事では、その重要な一部であるアジャイルテストについて詳しく説明します。

アジャイルテストとは?

アジャイルテストとは、アジャイル開発手法におけるテストのアプローチで、開発の早い段階から連続的かつ反復的にテストを行うことを重視します。開発サイクル全体に渡りテストが組み込まれ、フィードバックが素早く反映されることで品質の向上とリスクの軽減を図ります。また、テスターと開発者の協力を推奨する点も特徴の一つです。

アジャイル開発が普及した背景と課題

アジャイル開発の普及に至った背景には複数の要因があります。まず、1990年代後半から2000年代初頭にかけて、インターネットの普及によりネットベースのビジネスが急速に成長しました。これにより従来型のウォーターフォールモデルでは迅速な対応が難しいと認識されるようになりました。新しくなるビジネス要件への短時間での適応が求められ、変化に素早く対応できるソフトウェア開発手法の必要性が高まったのです。

また、従来のウォーターフォールモデルでは、リリースまでに長期間を要し、その期間中に市場環境や企業のビジネス戦略が変わってしまうケースが多く見られました。そうすると、結果としてリリース時点でのソフトウェアが既に古くなってしまい、想定していたビジネス価値を提供できないという問題が生じていました。これらがアジャイル開発手法の普及を後押ししました。

しかし、アジャイル開発が普及するにつれて、いくつかの新たな課題も浮かび上がってきました。従来のウォーターフォールモデルでは、テストは開発の最後の段階に位置していましたが、アジャイルでは開発とテストが連続的に行われます。

この状況では、「短いリリースサイクル」と「頻繁な変更」という二つの要素が互いに関係し合っていますが、同時にトレードオフの関係にあります。

「短いリリースサイクル」は、素早く製品や機能を顧客に提供できる利点がある反面、「頻繁な変更」は、開発チームに対する負荷となる可能性があります。変更が迅速であるため、テストや品質管理の適切な実施が難しくなる場合もあります。

また、迅速なリリースが求められる状況では、品質の低いコードや設計がリリースされることがあります。この問題は「技術的負債」と呼ばれ、長期的に見るとソフトウェアの品質や開発効率を低下させる要因となります。

これらの課題に対応するため、新たなアジャイルテストの手法が生まれ、普及しました。

アジャイルテストのメリット

アジャイルテストは、アジャイル開発の特徴と共に、以下のようなメリットを提供します。

フィードバックの早さ

アジャイルテストは開発サイクルの初期から行うため、テスト結果に基づくフィードバックが非常に早く提供されます。これにより、問題が発見された際の修正コストが大幅に削減でき、品質向上に貢献します。

高い適応性

アジャイルテストは、ビジネスの要件が変わった際に即座に対応することができます。テスト計画は継続的に更新され、プロジェクト目標に対する柔軟な適応が可能となります。

意思決定の迅速さ

アジャイルテストでは、テスト結果に基づくデータ駆動型の意思決定が可能となります。これにより、品質の問題やリスクを迅速に認識し、必要な対応を計画することができます。

チームワークとコミュニケーションの改善

アジャイルテストは、開発者とテスターの協力を促す手法です。この方法を採用することで、コミュニケーションの改善が図られ、全体の開発プロセスが円滑に進むようになります。たとえば、テスターが開発サイクルの早い段階から関与することで、問題や要件に関する意見交換が促進されるなどの効果が期待できます。

問題の早期発見

アジャイルテストの手法と短い開発サイクルは、ソフトウェアの機能に問題がある場合に早い段階で見つけることが可能です。これにより、修正や改善のための追加作業を迅速に行うことができます。

以上のように、アジャイルテストは、開発プロセスの各段階で高い柔軟性と機能性を提供し、これに基づいた意思決定を可能にすることで、最終的な製品の品質を向上させることができます。

アジャイルテストのメリットの反面、以下のような気を付けないといけない点もあります。

  • 繰り返し迅速なフィードバックを得ることができる反面、詳細なドキュメント作成が後回しになることが多く、新メンバーが参加した際に問題が生じる可能性がある
  • アジャイル開発では頻繁にリリースが行われるため、適切なテスト自動化が求められるが、その導入や維持には手間やコストがかかる
  • リリースや開発の反復期間が短いと、テスト設計と実行のための時間が削られ、テストカバレッジが十分でなくなることがある
  • 新機能が頻繁に追加または変更される場合、テストの優先順位や範囲を決定することが難しくなることがある
  • アジャイル開発では頻繁な変更に合わせてテストケースを随時更新する必要があり、これが作業の負担になることがある

アジャイルテストとウォーターフォールテストとの比較

アジャイルテストとウォーターフォールテストは、開発とテストのプロセスに大きな違いがあります。

アジャイルテスト

連続的なフィードバック:
アジャイルテストでは、開発とテストが交互に行われるため、コードの品質に関するフィードバックをすぐに受け取ることができます。これにより、バグや問題が早期に発見され、修正が容易になります。

変更への柔軟な対応:
アジャイルテストでは、新たな要件や変更に対する柔軟な対応が可能です。アジャイルなアプローチでは、開発者とテスターが継続的にコミュニケーションを取りながら、テスト計画やテストケースを柔軟に更新していくことが重要です。これにより、変更に迅速に対応し、効果的かつ要求事項に適合した品質保証を実現することができます。

ユーザーフォーカス:
顧客のニーズやフィードバックを通じて、ユーザーストーリーや要件を明確にし、ユーザーが求める機能や改善を実現します。これにより、顧客との連携を強化し、より使いやすい製品を提供することが可能となります。

ウォーターフォールテスト

逐次的な進行:
ウォーターフォール開発では、ソフトウェア開発プロセスが段階的に行われます。各フェーズ(要件定義、設計、開発、テストなど)は明確に区切られ、一つのフェーズが完了すると次のフェーズに進みます。

変更の難しさ:
一度開発が始まると、新たな要件や変更を取り入れるのは困難で、かつコストがかかる場合があります。

開発終盤でのテスト:
テストは開発プロセスの終わり、あるいはリリース直前に行われるため、バグや問題が発見されても修正が難しくなる可能性があります。

総じて、アジャイルテストは変化の速い現代のソフトウェア開発に親和性が高く、ウォーターフォールテストは安定した要件と長期的な計画が可能なプロジェクトに適しています。

参考)【第1回】アジャイル時代に求められる「品質」とは何か?

さまざまなアジャイルテストの手法

ここでは、広く普及しているアジャイルテストと親和性が高いアプローチをいくつかご紹介します。

DevOps

DevOpsは開発(Dev)と運用(Ops)が連携して作業を行う考え方で、これにより開発からリリース、運用までのプロセスが連続的かつ無駄なく進められます。テストはこのサイクルの一部として自動化され、リリースの質と速度を上げる役割を果たします。

シフトレフト

シフトレフトとは、「品質保証のためのテスト活動を可能な限り開発プロセスの早い段階に取り入れる」アプローチのことです。早い段階で問題点をフィードバックすることで、大きな手戻りや未然にバグを防ぐことを目指します。シフトレフトを適切に行うと、ソフトウェアの品質向上に繋がるだけでなく、全体のテスト時間を短縮し、コストを抑える効果も期待できます。

テスト駆動開発

テスト駆動開発(TDD)は、まず要件を満たすテストを作成し、それに合格するプロダクトコードを書いていくソフトウェア開発手法です。TDDには、品質の高いコードの生成と、バグの早期発見と修正を容易にするなどの利点があり、信頼性の高いソフトウェアの開発に貢献します。

探索的テスト

探索的テストは、テスターが自身の経験と直感に基づきテストを進める方法です。予定されていたテストケースに捉われず、リアルタイムでテスト設計と実行が行われます。これにより、従来のテストでは見逃されがちなバグを発見することが可能となります。

上記のアプローチは、ウォーターフォールテストにおいても活用することは可能ですが、アジャイルテストにおいては、より親和性が高いとされ、多くのプロジェクトで採用されています。

アジャイルテストの4象限

アジャイルテストの4象限は、特定のテスト活動がプロジェクトにおいて何を目指し、どのような視点で行うべきかを明示するフレームワークです。以下の4つの象限が存在します。

象限1 – (技術面・開発チーム支援に焦点)

ユニットテストやコンポーネントテストなどのコードレベルのテストが含まれます。これらは主に開発者が行い、ソフトウェアの基本的な機能性と内部の品質を確認します。

象限2 – (ビジネス面・開発チーム支援に焦点)

この象限には一般的に機能テスト(手動/自動)、ストーリーテスト、プロトタイプ作成などが含まれます。これはビジネスエキスパートが行い、システムがビジネス要件を適切に満たすかを判定します。

象限3 – (ビジネス面・プロダクト批評に焦点)

ユーザー受け入れテスト(UAT)、探索的テスト、ユーザビリティテストなどが含まれます。これらのテストはエンドユーザーやステークホルダーが行うこともあり、システムがユーザーの期待に照らして適切に動作するかを評価します。

象限4 – (技術面・プロダクト批評に焦点)

この象限ではパフォーマンス、負荷、セキュリティ、互換性などをテストします。これにより、システムの非機能的な側面を評価し、技術的な限界を確認します。

これらの象限は個別に役割を持ちながら、全体としてソフトウェアの内外の品質を総合的に確保する指標になります。そして、各象限のテストはソフトウェア開発ライフサイクルのそれぞれの部分で実行され、独立していても相互に関連し合っています。

重要なことは、これらの象限が階層的な順序を表すものではなく、すべての象限のテストが全体として協力してソフトウェアの品質を確保するということです。

自動化ツールによるアジャイルテストの効率化

アジャイルテストでは継続的なインテグレーションと高速なフィードバックが求められます。そのため、テストの自動化は、アジャイル開発において非常に重要な要素となります。

自動化による主な利点

速度と効率

 テスト自動化ツールは、高頻度で繰り返されるテストケースを迅速に実行する機能を提供します。これにより、テストの実行に費やされる時間が大幅に短縮され、開発チームは早期にデバッグを開始できます。

一貫性と高い精度

自動化ツールはヒューマンエラーを排除し、テストケース間で結果の一貫性を保障します。

リグレッションテストの簡易化

新しいコードを追加または改修するたびに、全体のシステム動作に影響を与えることなく、変更が正しく統合されていることを確認するためには、頻繁にリグレッションテストを行う必要があります。このテストを効率的に実行するために、テストの自動化は有効です。

人気のある自動化ツール

Selenium

ウェブアプリケーションのテストに広く使用されるオープンソースのツールです。多言語対応しており、複数のブラウザでのテスト実行が可能です。

JUnit

Javaで書かれたアプリケーション向けにユニットテストを作成、実行するためのフレームワークです。

TestNG

JUnitから派生したテストフレームワークで、テストケースのグループ化、並列実行、テストケースの依存関係の定義など、高度な機能を提供します。

Cucumber

BDD(ビヘイビア駆動開発)スタイルのテストを作成、実行するためのツールで、テストケースを自然言語に近い形式で書くことができます。

Jest

JavaScriptのテストフレームワークで、スナップショットテスト、モック、統合されたアサーションライブラリなど、豊富な機能を備えています。

上記のようなツールの利用はアジャイルテストにおいて有効ではあるものの、全てのテストケースを自動化するべきだというわけではありません。テスト自動化はコストと時間を必要としますので、高頻度で繰り返し行われるテストや、人間による実行が困難または時間がかかるテストに対して優先的に自動化を検討すべきです。

アジャイル開発におけるテスト駆動開発とは

テスト駆動開発(Test Driven Development:TDD)は、まずテストを作成し、それに合格するプロダクトコードを書いていくソフトウェア開発手法です。テストケースを先に作成することで、要件を明確にし、品質を担保しながら効率的な開発を行います。

TDDは以下の繰り返しプロセスで構成されます。

1.「Red」テストの作成

まず、失敗するテストケースを書くことから始めます。このテストはまだ実装されていない機能を対象とするため、初めて実行すると必ず失敗します。この工程は要件を明確に理解していることを確認するためのステップです。テストツールにおいてテストが失敗すると赤色でエラー表示されるため、「レッド」と呼ばれます。

2.「Green」コードの実装

つぎに、テストを成功させるためのコードを書きます。ここで重要なのは、完璧なコードではなく、設定したテスト条件をクリアする「最小限」のコードを書くことです。

3.「Refactor」コードの改善

コードがテストに合格したら、コードをリファクタリングして整理し、冗長性を排除します。コードのリファクタリングは、小規模な段階で行うべきです。後回しにすると、プログラムが大きくなるにつれて修正が難しくなります。

このTDDのサイクルは、コードあるいは機能の一部分を書くたびに繰り返されます。これにより、アプリケーション全体が組み上げられます。

TDDでは、開発の初期段階からテストに着目し、コーディングの品質を向上させることを目指します。テストファーストのアプローチによって、開発者は繰り返しコーディングとリファクタリングを行いながらテストを実行します。これにより、開発段階で不具合を早期に検知し修正することが容易になるだけでなく、システムを理解するための手掛かりを提供し、作業における安心感を高めることができます。TDDは近年の短サイクルの開発プロセスにおいて特に有効であり、コーディングの品質向上に貢献する重要な手法として広く認識されています。

参考)テスト駆動開発(TDD)への招待

まとめ

アジャイルテストは、ソフトウェア開発プロセスの品質と効率性を改善する強力な手段です。現代のビジネス環境は絶えず変化し続けており、ソフトウェア開発においては柔軟に対応することが不可欠です。迅速なフィードバックを通して、顧客の要求に柔軟に対応するアジャイルテストは、このような状況下で非常に効果的なアプローチとなります。

また、開発チームとテストチームが協力し、テスト駆動開発やテスト自動化、探索的テストなどの先進的な手法を組み合わせることで、生産性や品質、顧客満足度の向上も期待できます。

この記事がアジャイルテスト導入のきっかけとなったり、チーム全体での実践を通じて品質向上と効率化を図る参考になれば幸いです。

<参考サイト・記事>

製造業にもアジャイル開発は有効?代表的な手法と成功要因

ウォーターフォール開発とアジャイル開発の違いとは?それぞれの特徴と使い分けのポイント

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