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AWS を活用した大規模人流シミュレーションの事例

本ブログ記事は、KDDI株式会社 ソリューション事業本部 DX推進本部 スマートシティ推進室 PFデザイングループリーダー 中嶋優氏と、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 新谷 が共同で執筆しました。本実証実験に関する詳細なレポートは こちら をご覧ください。

はじめに

住民に安心安全な暮らしを提供し、まちの持続的な価値向上に繋げるために、民間主導によるまちの賑わい創出、維持管理、防災などの実装を通じたエリアマネジメントが活発化しています。高度なまちづくり実現のために AWS クラウドを始めとしたテクノロジーを導入し、スマートシティの取り組みを加速する動きも国内外で行われています。一方で、エリアマネジメントに関わるステークホルダーは多く、安定的な財源確保も課題となりやすいことから、合意形成に時間を要することもあります。

KDDI株式会社(以下、KDDI)含む実施事業者(他:東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)、東急不動産株式会社、株式会社日建設計)は、3D 都市モデルを活用した大規模誘導・避難シミュレーションによって防災計画の計画検証や合意形成をサポートする実証実験を行いました。その中で、KDDI は、国土交通省が主導する 3D 都市モデルの整備・活用・オープンデータ化プロジェクトである PLATEAU のデータを活用し、Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) G4dn インスタンス上の Unreal Engine 4 で 1 万人を超える避難シミュレーションを実現しています。また、Amazon QuickSight・Amazon AppStream 2.0 等のマネージドサービスを駆使して、関係者が簡単にシミュレーション結果を参照するための仕組みも構築しました。結果として、関係者との討議の中で、まちづくりや防災業務、議論の可視化に対して有用性を確認する事ができています。

本ブログでは、KDDI の寄稿により「防災エリアマネジメントDX」の取り組みを技術的な観点からご紹介します。

KDDI の防災エリアマネジメントDX の取り組み

KDDI は、JR東日本が手掛ける「TAKANAWA GATEWAY CITY」の都市計画・まちづくりに参画し、「防災」を切り口にしたエリアマネジメント DX の実証実験を行いました。防災は潜在リスクが把握されにくいことから、重要性が認識される一方で、合意形成が困難かつ成果を実感しづらいという理由から取組が停滞しやすいといえます。そのため、 3D 都市モデルを活用した大規模誘導・避難シミュレーション環境を整備し、災害時の潜在リスクや避難誘導計画を 3 次元的に可視化することによって、防災計画の計画検証や合意形成をサポートすることを目標としました。

アーキテクチャ

本実証実験では 1 万人を超える大規模な人流シミュレーションを行う環境を構築しました。シミュレーション実行環境として、NVIDIA T4 GPU を搭載した Amazon EC2 の g4dn.4xlarge インスタンス上に Unreal Engine 4 を構築し、セキュアで高性能なリモートデスクトップ環境を NICE DCV で実現しています。AWS を活用することで、事前の厳密なサイジングをすることなくインスタンスタイプを変更しながら試行錯誤し、最適化できることが利点の一つでした。

また、多くの都市計画策定関係者と協議するために、シミュレーション結果を共有する仕組みが必要でした。本実証実験では、シミュレーション結果のログを QuickSight で可視化するとともに、AppStream 2.0 を活用してリプレイシステムを整備し、関係者が容易に結果を参照できる仕組みを構築しています。以下では、技術的なポイントをいくつかご紹介します。

大規模人流シミュレーションのための最適化

本実証実験では、3D 都市モデルを Unreal Engine に取り込み、シナリオ要件に合わせて属性毎に異なる歩行速度とサイズを設定したキャラクターを、1 万人規模でシミュレーションする必要がありました。しかし、当初はキャラクターの移動処理において、Unreal Engine のデフォルト実装では GameThread の処理がボトルネックとなりパフォーマンスが出ない状況にありました。そのため、Visual Studio を利用できる Microsoft Visual Studio AMI を採用し、Unreal Engine 自体の実装に一部手を入れています。 具体的には、移動処理を TaskGraphThread で実行しマルチスレッド化することで、タスク待ち状態で活用されていなかった CPU リソースを有効活用する追加実装を行いました。これによって、GameThread のボトルネックを解消し、フレームレートを改善することに成功しました。また、キャラクターもアニメーション処理を削減し軽量化することで更に負荷を軽減する対応も行っています。なお、Visual Studio は後述するリプレイ操作や、ログ・リプレイファイルの Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) へのアップロードと AWS Glue ジョブ実行など Blueprint だけで実現できなかった部分の実装にも活用しました。

シミュレーション結果の分析と可視化

避難に要する時間を可視化し、また人の密集度から移動に時間がかかった要因を抽出できるように、シミュレーション結果の分析環境を整備しました。分析フローとして、まずキャラクターの毎秒の座標・移動開始時間・移動完了時間・属性情報などのログを Unreal Engine から Amazon S3 にアップロードします。そして、Amazon Athena で移動完了時間の集計を行うとともに、計測エリアの面積とキャラクター面積・到達人数に基づき、AWS Glue によって密集度を計算しています。これらの計算結果は、QuickSight によって、時系列に沿った密集度の推移グラフや、移動完了時間毎のゴールした人数グラフとして可視化しています。実証実験では、密集度と移動完了時間の閾値を超過した場合にリプレイ動画を確認し、移動時間が長くなった原因の考察や危険な場所の有無を確認するという検証を行っていましたが、このような分析環境も AWS のマネージドサービスを活用することで容易に構築し、開発工数を削減することができています。

移動経路上の密集度

ゴールエリアの密集度

移動完了時間の分布

Amazon AppStream 2.0 によるシミュレーションリプレイ環境の提供

各社の都市計画策定関係者が、シミュレーション結果を参照しながら協議できるようにする必要がありました。そのため、シミュレーション完了時に出力できる Unreal Engine のリプレイファイルを、Amazon S3 経由で AppStream 2.0 から再生して再現可能な環境を構築しています。グラフィックスを多用するシミュレーションのリプレイ環境も、AppStream 2.0 の グラフィック G4dn インスタンスによるクラウドレンダリングとストリーミングを駆使することで、容易に関係者が参照できるようになっています。Unreal Engine のクラウドレンダリングの仕組みである Pixel Streaming を活用するのに比べて、環境構成がシンプルになり構築の労力が小さいことと、ストリーミング配信用のインスタンス管理・運用面においても、AppStream 2.0 が容易だったため採用しました。

AppStream 2.0 上のリプレイ画面

今後に向けて

今回の実証実験を通じて、3D 都市モデルを活用した大規模人流シミュレーションが防災業務活用や議論の底上げに繋がるという一定の効果を観測することができました。KDDI は、今後も技術的改善を重ねてより大規模にシミュレーションを実現可能にしていきたいと考えており、AWS SimSpace Weaver の活用も検討しています。また、防災以外にもユースケースを創出することでビジネス拡大に繋げていくことが今後の目標です。

まとめ

本ブログでは、KDDI株式会社による AWS を活用した大規模人流シミュレーション事例をご紹介しました。ご紹介した主要なサービスは以下のとおりです。

Amazon EC2 G4 インスタンス : 画像分類、オブジェクト検出、音声認識などの機械学習モデルをデプロイしたり、リモートグラフィックワークステーション、ゲームストリーミング、グラフィックレンダリングなど、グラフィックを多用するアプリケーション向けの、業界で最も費用対効果が高く用途の広い GPU インスタンスです。G4 インスタンスは、NVIDIA GPU (G4dn) または AMD GPU (G4ad) を選択して使用できます。

Amazon QuickSight : 非常に高速で使いやすいクラウド対応のビジネス分析サービスで、組織内のすべての従業員が可視化の構築、アドホック分析の実行、およびデータからいつでも、どのデバイス上でもビジネスインサイトを迅速に得ることを容易にします。

Amazon AppStream 2.0 : 安全性、信頼性、拡張性に優れたアプリケーションストリーミング、SaaS 変換、および仮想デスクトップのサービスです。Graphics Design、Graphics Pro、Graphics G4、Graphics G5 というインスタンスファミリーを活用することで、ユーザは GPU 負荷の高いアプリケーションに任意のコンピュータからいつでもアクセスすることができます。

著者

中嶋 優
KDDI株式会社 ソリューション事業本部 DX推進本部 スマートシティ推進室 PFデザイングループリーダー

新谷 歩生
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 技術統括本部 エンタープライズ技術本部 通信・メディアグループ
通信ソリューション第三部 シニアソリューションアーキテクト