CVPR2023で登場したNeRF論文を紹介

目次

はじめに

こんにちは、イノベーションセンターのメディアAIチームです。普段はコンピュータビジョンの技術開発やAI/機械学習(ML)システムの検証に取り組んでいます。6月18日から22日にかけて、コンピュータービジョン分野におけるトップカンファレンスのひとつであるCVPR2023が開催され、NTT Comからは現地とオンラインで参加しました。本記事ではCVPRで登場したNeRFに関する論文をいくつかご紹介します。

NeRFの概要と最近の課題

NeRF1はニューラルネットワークベースの微分可能な3次元レンダリング手法で、3次元位置と視線方向の入力に対して色と密度を返すNNモデルを使いボリュームレンダリングを行います。物体のさまざまな方向からの写真をデータセットとしてこのモデルを学習することで、未知の視点からのレンダリング(novel view synthesis)が可能になります。

2020年にNeRFが提案されてから非常に多くの改善や拡張が提案されており、CVPR2023では約40本のNeRF関連論文が採択されました。これらの論文で提案されている内容は以下のように分類されます。

  • 計算時間やメモリ使用量を軽減する
  • 学習したモデルを改変したり、複数のモデルを統合する
  • 屋外のように距離制限がないシーンを撮影する
  • 透過や反射などの表現力の向上
  • 時間方向への拡張
  • 悪い撮影環境(光源変化や他物体の写り込み、不正確なカメラ姿勢など)に強くする

この中で特にモデル軽量化と表現力向上、そして不正確なカメラ姿勢への対策の3つのテーマについて、私たちが面白いと思った論文をピックアップしてご紹介します。

モデル軽量化に関する論文

オリジナルのNeRFモデルは9つの全結合層を含んだ多層パーセプトロン(MLP)であり、レイトレーシングの際に何度もこのモデルのforward関数を計算するので、レンダリングに時間がかかるという問題がありました。公式の実装によると、モデルサイズは5MBと小さいものの、GPU推論で画像を1枚レンダリングするのに最大30秒、学習には1日かかるとあり、実際の活用には困難が伴います。このレンダリングや学習の計算時間を短縮するために提案された手法をいくつかご紹介します。

PlenVDB: Memory Efficient VDB-Based Radiance Fields for Fast Training and Rendering 2

MLPの計算時間を削減するために、高次元の特徴量を3次元グリッド状に保持し、レンダリング時は入力座標を元に特徴量を参照して残りの計算を軽量なMLPで計算するという手法が提案されています。これはグリッドベース手法と言われ、さまざまな手法が提案されています。 グリッドベースNeRFモデルの特徴として、グリッド全体に対して意味のあるデータが含まれている部分が少ないというものがあり、このスパース性を計算速度の改善に繋げたのがこの論文です。VDBと呼ばれるデータ構造を採用しており、効率的に3次元データを格納できる一般的なデータ構造であるoctreeよりも高速な要素アクセスが可能です。

また、VDBのGPU実装であるNanoVDBを活用することで、iPhone12のようなモバイル環境で720pのレンダリングを30FPSで実行できるとしています。

こちらは公式実装をA100 GPUx1で実験した結果です。NanoVDBを使わなくてもかなり高速にレンダリング可能であることがわかります。

model filesize train time rendering time PSNR↑
mic 59.6MB 33min 2.7s 33.18
drums 100MB 34min 2.98s 25.39
materials 175MB 37min 2.05s 29.59

Masked Wavelet Representation for Compact Neural Radiance Fields 3

スパースなデータを取り扱う手法として、データ構造を工夫する以外にデータを圧縮するという方法があります。ECCV2022で発表されたTensoRF4はテンソル分解と呼ばれる次元削減手法を用いて、3次元データを2次元行列と1次元ベクトルとの外積の和に分解しています。この手法はデータ構造を工夫する手法とは異なり、メモリ使用量や学習済みモデルのファイルサイズを軽減できます。 本手法はこのTensoRFをさらに軽量化するために、TensoRFモデル内の2次元行列をウェーブレット基底で表現しデータを圧縮することを提案しています。また、非ゼロ部分を示すマスクを学習させることで、95%以上の値が0であるスパースなパラメータを学習できたとしています。

こちらは公式実装をA100 GPUx1で実験した結果です。

model filesize(圧縮前) filesize(圧縮後) train time rendering time PSNR↑
mic 63MB 551KB 85min 17s 33.30
drums 67MB 989KB 62min 17s 25.46
materials 78MB 1013KB 96min 13s 29.57

この実験で示されているように、学習済みモデルには非常に強力な圧縮をかけることができており、スパースなパラメータを学習できていることがうかがえます。

MobileNeRF: Exploiting the Polygon Rasterization Pipeline for Efficient Neural Field Rendering on Mobile Architectures 5

本手法ではボリュームレンダリングを行わず、テクスチャ付き三角メッシュを学習するため、一般的なレンダリングエンジンの最適化の恩恵を受けることができます。学習は既存のNeRFと同様に日単位の時間がかかってしまうものの、レンダリング時はモバイル環境でもリアルタイムに動作します。また、モデルがメッシュで表現されているため、モデルの変形や合成、削除などを一般的な3DCGにおける頂点操作で行うことも筆者は示唆しています。 以下の節で論文の画像を用いながら学習とレンダリングの概要を説明します。

Rendering

原論文 Figure 2 から引用

学習済みモデルは三角メッシュと特徴量空間におけるテクスチャマップ、そして軽量なMLPからなります。

まずGPUのレンダリングバッファを用いて特徴量空間におけるレンダリング画像を生成します(図c)。そして各ピクセルに対してMLPを適用することでRGB空間における画像を生成します(図d)。この一連の処理はWebGLで実装でき、プロジェクトページではモデルを表示するHTMLが公開されています。

Training

原論文 Figure 3 から引用

学習開始時に、まずグリッド状に組まれた初期メッシュを用意します。そしてそのメッシュの頂点位置と、特徴量と透明度を予測するMLP、特徴量から色を予測する軽量なMLPをNeRFの手法で最適化します。ここで特徴量と透明度については光線の位置のみを入力とし、軽量なMLPは特徴量と光線方向を入力としています。そのため光線方向に依存しない特徴量と透明度は、学習が済んだ後テクスチャマップにベイク(bake)できるため、PNG画像として保存されます(Rendering図のb)。

Limitation

この手法には半透明な物体を表現するのが難しいという欠点があります。 デモページでドラムのモデルを表示した結果が次の画像です。膜の部分がうまくレンダリングできていないというのが見てわかると思います。

表現力の拡張に関する論文

K-Planes: Explicit Radiance Fields in Space, Time, and Appearance 6

グリッドベースのNeRFモデルの軽量化手法であるTensoRFでは3次元空間を平面とベクトルに分解したのに対し、本手法では xy 平面、 yz 平面、 zx 平面の3つの平面の組に分解することを提案しています。これは高次元の空間を扱うNeRFモデルにも適用でき、例えば時間経過で物体が変形するシーンにおいても、空間 xyz の3軸と時間 t の1軸から選んだ6組の平面( xy,yz,zx,tx,ty,tz )で学習できるのが特長です。学習時間も比較的短く、既存手法のDyNeRF (CVPR2022)が8GPUで1週間かけていたサンプルを、1GPUで4時間に短縮できています。

原論文 Figure 1 から引用

ABLE-NeRF: Attention-Based Rendering With Learnable Embeddings for Neural Radiance Field7

NeRFで表現が不得意な物体として光沢のある表面、透明な面が挙げられます。NeRFのボリューメトリックレンダリングで輝度は各点の密度σと点のサンプリング間隔δに影響されますが、NeRFで各点のσは視線方向によらず固定されています。これによって、NeRFは異なる角度で透過特性と反射特性の両方を示す表面点の色を予測することが困難であり、その結果「濁った」外見になってしまうという課題があります。ABLE-NeRFではAttentionベースのネットワークを利用し、Learnable Embeddingsの導入によって間接照明効果を捉えることで解決しています。

Attention-based Volumetric Rendering

ボリューメトリックレンダリングにおいて点の重みは自身の重みと、光線上に存在する前の点の重みに依存します。NeRFでは光線上の点の重みをσとδに基づいて割り当てていましたが、ABLE-NeRFではTransformerモデルのAttention計算によって個々の点の重みを決定します。

ここでは与えられた光線に対して、mip-NeRF8 で説明されているIPE(Integrated Positional Encoding)でエンコードされた、光線に沿ったボリュームの円錐台を N 個サンプリングします。各円錐ボリュームは、Embeddingブロックを通過して、ボリューム埋め込み v_i を生成します。( i はカメラからの光線に沿った位置)また、ViT9のclassトークンと同様に、同じ次元のRayトークン(R)をシーケンスに付加してTransformerで処理します。

Attentionの際はMaskを利用し、ボリューム埋め込みが注目する対象を自分自身とRayトークン、光線に沿って前方にあるボリュームだけに限定します。

Learnable Embeddings

ABLE-NeRFでは、他の光源から放射される間接照明効果を捉えるため、光線に沿ったボリュームを超える外部光源に対する問い合わせプロセスとしてLearnable Embeddings(LE)を組み込んでいました。

LEはViTのclassトークンと同様に静的な照明情報を保存するために使用される学習可能なネットワーク・パラメータ(メモリ・トークン)です。学習プロセスにより、シーンの照明情報がメモリとして符号化されます。推論の際、ボリューム埋め込みはLEとのCross Attentionを介して潜在空間にマッピングされ、その後、視線方向トークン(Viewトークン)でデコードされます。視線方向トークンはカメラポーズを16バンドでフーリエ符号化し、線形層でLEと同じ次元にマッピングしたものとなっています。

ABLE-NeRFの構成は下図のようになっています。AB Transformerは光線に沿ったボリュームの直接照明を出力し、LE Transformerはボリュームの視線依存の照明を出力します。2つに分離することでオーバーフィッティングを防ぐことができるようです。2つの出力を組み合わせるため、sRGBに変換する固定マッピング関数を適用して最終的な出力を得ています。

原論文 Figure 2 から引用

結果

こちらは公式実装 をA100 GPUx8で実験した結果(レンダリング時はA100 GPUx1)です。

model train time rendering time PSNR↑
mic 25h 59s 36.84
drums 25h 59s 26.87
materials 25h 59s 35.46

この実験で示されているように、PSNRでは上の圧縮モデルの精度を上回っており、特に光沢表現が多いmaterialsで優れた精度を示しました。しかし、学習に非常に時間がかかっています。これは光線に対してAB Transformer、LE TransformerでAttention計算を繰り返し行うので計算量が膨大であるためだと考えられます。

カメラ姿勢のずれの解決に焦点を当てた論文

Local-to-Global Registration for Bundle-Adjusting Neural Radiance Fields10

カメラ位置と姿勢が正確でない場合、レンダリングの際に歪みが生じてしまいます。そのため、bundle adjustmentsにより、カメラの位置と姿勢を正確に推論し、レンダリングの改善をします。 L2G-NeRFでは、2つの手法を組み合わせたアプローチの提案をしています。まず、異なる画像間で対応するピクセルを合わせる処理をDNNの学習により最適化され、ピクセルごとに最適なアライメントを見つけることができます。次に、グローバルアライメントではピクセルごとの対応関係に基づいて、異なる視点からの画像を重ね合わせるために画像の剛体変換のパラメータを推定しています。これにより、異なる視点からの画像を正確に重ね合わせることができレンダリングの際に生じる歪みを改善できます。下の図を見るとL2G-NeRFが他の手法と比較し、カメラ姿勢の最適化が適切にされていることがわかります。

原論文 Figure 8 から引用

最後に

本ブログでは、私たちが興味を持ったCVPR2023の論文についてご紹介しました。NTT Comでは、今回ご紹介した分野に限らず、画像や映像、さらには音声言語も含めたさまざまなメディアAI技術の論文調査や研究開発に今後も積極的に取り組んでいきます。


  1. Ben Mildenhall, Pratul P. Srinivasan, Matthew Tancik, Jonathan T. Barron, Ravi Ramamoorthi, Ren Ng. NeRF: Representing Scenes as Neural Radiance Fields for View Synthesis. In ECCV2020
  2. Han Yan, Celong Liu, Chao Ma, Xing Mei. PlenVDB: Memory Efficient VDB-Based Radiance Fields for Fast Training and Rendering. In CVPR2023
  3. Daniel Rho, Byeonghyeon Lee, Seungtae Nam, Joo Chan Lee, Jong Hwan Ko, Eunbyung Park. Masked Wavelet Representation for Compact Neural Radiance Fields. In CVPR2023
  4. Anpei Chen, Zexiang Xu, Andreas Geiger, Jingyi Yu, Hao Su. TensoRF: Tensorial Radiance Fields. In ECCV2022
  5. Zhiqin Chen, Thomas Funkhouser, Peter Hedman, Andrea Tagliasacchi. MobileNeRF: Exploiting the Polygon Rasterization Pipeline for Efficient Neural Field Rendering on Mobile Architectures. In CVPR2023
  6. Sara Fridovich-Keil, Giacomo Meanti, Frederik Warburg, Benjamin Recht, Angjoo Kanazawa. K-Planes: Explicit Radiance Fields in Space, Time, and Appearance. In CVPR2023
  7. Zhe Jun Tang, Tat-Jen Cham, Haiyu Zhao. ABLE-NeRF: Attention-Based Rendering with Learnable Embeddings for Neural Radiance Field. In CVPR2023
  8. Jonathan T. Barron, Ben Mildenhall, Matthew Tancik, Peter Hedman, Ricardo Martin-Brualla, Pratul P. Srinivasan. Mip-NeRF: A Multiscale Representation for Anti-Aliasing Neural Radiance Fields. In ICCV2021
  9. Alexey Dosovitskiy, Lucas Beyer, Alexander Kolesnikov, Dirk Weissenborn, Xiaohua Zhai, Thomas Unterthiner, Mostafa Dehghani, Matthias Minderer, Georg Heigold, Sylvain Gelly, Jakob Uszkoreit, Neil Houlsby. An Image is Worth 16x16 Words: Transformers for Image Recognition at Scale. In ICLR2021
  10. Yue Chen, Xingyu Chen, Xuan Wang, Qi Zhang, Yu Guo, Ying Shan, Fei Wang. Local-to-Global Registration for Bundle-Adjusting Neural Radiance Fields. In CVPR2023
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