参加者からの質問に多数回答「リモート環境下で立ち上げたスクラムチームの苦労話」(後編)

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新型コロナウイルス感染症の対策として、多くの企業がリモートワークを導入している。アバナードでも全員が在宅勤務へと変更になった。リモートワーク環境下でアジャイル開発経験のないメンバーを集め、スクラムチームをどう立ち上げ、うまく軌道に乗せていったのか。その「苦労話」と手法をアバナードでアジャイルコーチを務める高橋直樹氏が語った。
参加者からの質問に多数回答「リモート環境下で立ち上げたスクラムチームの苦労話」(後編)

デイリースクラムに関する問題と改善案

デイリースクラムに関する第一の問題は、オンラインは場が固くなること。改善策としては、雑談から入ってリラックスさせること。

第二の問題は懸念事項の見落とし(ただの儀式化してしまっている)。改善策としてはスプリントゴール達成のために何をするかを常に考えさせておくこと。他人の状況に目を配ること、少しだけ先のことも考えておくこと(問題の発覚は早いほうがよい)、誰からも何も出ないときは再度確認することなどだ。

「『困っていることは何もない』と言われても、『本当にないのか?』『今困っていなくても明日困ることはないのか?』と聞くと結構出てくることがあります。停滞しているデイリースクラムがあれば、ぜひ再確認をトライしてください」(髙橋氏)

第三の問題として、時間内に終わらないということが挙げられるが、ディスカッションなどが必要な場合は別途やることがポイントなのだという。

スプリントレビューに関する問題と改善案

まずは「スプリントレビューがステータスミーティングになってしまう」という問題が挙げられる。

「この改善案としては会がこなれるまでは必ず最初に釘を刺すこと、脱線しないようスクラムマスターがうまくファシリテートすることです」(髙橋氏) アバナード2

アバナード株式会社 アジャイルコーチ 髙橋 直樹氏

また、聞いている側からすると、内容がいま一つ入ってこないという状況が起こりがちだ。そのための改善策として、プレゼンのストーリーをちゃんと考えておくことが重要だと髙橋氏は言う。

「どんな流れでやれば、このプロダクトが魅力的に伝わってステークホルダーが投資をしてくれるのか、ということを考えてプレゼンをすることです。また簡単でもいいからデッキを用意することもお勧めです。書くことで思考も整理されます」(髙橋氏)

スプリントレトロスペクティブに関する問題と改善案

第一の問題点は良かったことが出ないこと。その改善案としては、お互いを褒めること。また自分がうまくできたことをシェアすること。そうすることでみんなの役に立つことがあるからだ。

第二の問題点は事象について話しただけで終わってしまうこと。大事なのは問題の本質をとらえることで、それが効果的なアクションにつながる。起きたことではなく問題の本質についてちゃんとみんなで話し合うこと。

第三の問題点はついつい開発寄りの反省をしてしまうこと。仕事のやり方がうまくないと、良いサービスは作れない。もっとうまいやり方がないか、といったファシリテートをしてプロセスの改善をしていくことが重要だ。

第四の問題点は前回のふりかえりが活かされてないこと。この改善策としては最初に良かったことは維持できているか、解決されていない問題は残っていないか。トライできなかったことはないか、とおさらいをすること。

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「これまで話したようにリモートワーク環境でもやるべきことを当たり前にやれば、スクラム開発は十分できます。新型コロナの感染状況が落ち着いても、もはや元に戻す理由はありません。現状に適応し最善の策を考えること。これが重要になると思います」(髙橋氏)

今後の課題として、第一に自宅環境は人それぞれなので、会社としてもサポートが必要になること

「高速なネット環境、外部モニター、ヘッドセット、快適な椅子などがあれば、より作業効率は上がります」(髙橋氏)

第二にオフィス離れに伴うオフィスの縮小が発生すると、集まる場所がなくなる可能性がある。

「たまには集まりたいというニーズが生じるので、フリーアドレスやフリスペースの充実、コワーキングスペースの法人契約などもお勧めします」(髙橋氏)

第三に小さな子どもがいる家庭は、保育園が閉鎖されると仕事にならないこと。

「これの解決策は今のところありません。個人や組織だけではなく、社会全体で考える問題と言えるでしょう」(髙橋氏)

【Q&A】参加者から寄せられた質問を紹介

オンライン参加者からは多くの質問が寄せられた。そのいくつかを紹介する。

Q.スクラム経験がないメンバーで新規スクラムチームを組んだばかりで、公開ローンチの時期は決まっています。こういった場合、価値ある順で取り組んでいってもローンチするまで顧客には届かないので、開発者目線で作りやすい順でPBIを組み替えてもよいものでしょうか。

髙橋:作りやすい順での組み替えはダメです。アジャイルやスクラムは不確実性の高いものをトライアンドエラーし、フィードバックを貰いながら、改善することでより良くしていく、つまり「フィードバックループを回す」という開発手法でもあります。

フィードバックループが必要ないのであれば、そもそもスクラムでやる必要がないかもしれません。顧客に届かないにしろ、ステークホルダーなどフィードバックをもらえる人がいるなら、価値ある順で取り組み、フィードバックを元に改善しながら最終的に作り上げていく方が良いと思います。

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Q.周囲の理解もなく、経験もないのでスクラムを学びたいがなかなか腰が上がりません。モチベーションを上げるには、メンターが必要なのでしょうか。

髙橋:周りの理解がないから腰が重いというのであれば、フットワークを軽くしてください(笑)。周りに理解者がいなくても、この分野はコミュニティ活動が活発な分野なので、理解者はたくさんいます。とにかく一歩外に踏み出し、そこで仲間を作っていきましょう。そこで刺激を受けるとよりモチベーションが上がってくると思います。

Q.スクラムは開発メンバーが毎週タスクに追われて休めない、メンバーの満足度が低くなってしまうことはないでしょうか。

髙橋:最初に断っておくと、毎週タスクに追われて休めないのは、スクラム外の話です。参考までに我々のキャパシティコントロールについて紹介いたします。まず、自分たちのフォーキャストを出す必要があります。そのためには、ベロシティを正確に出せるようにすること、スプリントごとのバーンダウンの振れ幅を小さくすること意識してやっています。

ベロシティが上がり、見積もり精度が高くなると、予定が立てやすくなり、チームは休暇の影響を受けにくくなります。例えば、誰かが休んだ分、チームの生産力が5%落ちるのであれば、スプリントで選択するストーリーポイントを5%落とす、というように予定を立てることが出来ます。しかしながら会社が理解してくれない、ということもあると思います。適度に休暇を取り、良い精神状態を保つ、ということは仕事をする上で非常に重要です。会社としてサポートしてもらえるように交渉してください。

また、スクラムがうまく回り、自分たちの成長を実感していれば、メンバーは生き生きと仕事をします。こういったことから、チームの満足度が低いのは、休めないといったことだけが原因ではないかもしれませんね。

Q.スクラムイベントでは発言者が偏るケースもよくあります。話をしないメンバーをどう巻き込めばよいのでしょう。特にオンラインになってからそういうケースが目立ちます。

髙橋:これもオンラインに限った話ではありません。普段の会議室の中でも、一言も発さない人もいます。ではどうやって巻き込むか。メンバーがそれぞれみんなに気を配ることです。

会話がうまく回っていないのであれば、メンバー内で誰か俯瞰的に見て回すことができるのが理想ですが、できないのであれば、スクラムマスターに同席してもらい、ファシリテートしてもらうことで特定の人に発言が偏らないようにするのが良いと思います。

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Q.チーム内で技術的格差があります。できる人なら1ポイントでも未経験者では5ポイントになることもあります。それを解決する方法はありますか。

髙橋:おそらくストーリーポイントのことを言っていると思います。まず、ストーリーポイントは誰かのものではなくチームのモノであることを理解する必要があります。ある人は1ポイントを消化することが出来る、ある人は5ポイントを消化できるとすると、このチームは6ポイント消化できるというだけのことです。これがチームのベロシティになります。

ベロシティを高めるために、1ポイントしかできなかった人をもっとできるようにすることは必要です。例えばペアプロ、といったようなアジャイルなプラクティスを活用するとか、携わる仕事の内容、仕事の仕方といったことを皆で考え、サポートすることが必要でしょう。

Q.紹介された以外でお勧めのツールはありますか。

髙橋:お勧めはエコーキャンセリング機能がついたマイクスピーカーです。ヘッドセットを使って耳が痛くなる人にはお勧めです。

Q.ウォーターフォールしか経験のないリーダーにアジャイル、スクラムのプロジェクトに変えるうまい説得の仕方について教えてください。

髙橋:結論からいうと、言葉による説得の仕方は特にありません。例えば、どこかのチームの小さなプロセスの中でアジャイル的にやってみる、そしてうまくやっている感を見せるというやり方もあります。人間は見たものでしか判断しないところがあるので、説得力のあるモノ、または実績を持って説得に臨むことが必要です。

Q.実戦経験は実践するしかないのでしょうか。

髙橋:そうですね。実際に演習をして、いけると思った人を実戦投入しても、うまくいかないことも多いからです。実戦経験は実践するしか得る方法はありません。その為には、最初の失敗や開発速度の遅さを許容する、といったようなアジャイルを実践するための土壌をマネジメント層は整備し、そういう文化を醸成していくことが大事になると思います。

Q.コミュニケーションの量や質の変化で工夫していることについて。

髙橋:普段より話し方やスピードに気をつけています。目の前にいないだけで、普通の言葉でもトゲを感じたりすることがあるからです。落ち着いて相手の話を聞き、落ち着いて言葉を選んで話す。そしてちゃんと伝わったかどうかを意識することです。リモートになったからコミュニケーションの量が減る、ということも聞かれますが、私はおしゃべりなので、誰かにかかわらず気軽に話しかけていますのでそもそもあまり変化がありませんが(笑)

そうできない人もいるので、それは周りが気づいてあげるしかないと思います。例えばお昼を食べながら会話しようと、心理的ハードルを下げてあげる。そうすると相手からも話しかけやすくなると思います。

もちろん、いきなり話しかけるのはよくない場合もあるので、話しかける際にはチャットを送る、などの工夫は必要です。Teamsではスケジュールが入っていない人はグリーンになっているので、ステータスの確認が容易にできるのも便利です。

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Q.1週間スプリントから、2週間スプリントに切り替えるタイミングの見極めについて。

髙橋:ベロシティが上がり、なおかつバーンダウンの振れ幅が小さくなっている、という状態になれば、こなれてきているということなので、2週間に延ばしても良いと思います。とはいえ、バーンダウンが安定してから2~3スプリントぐらいは様子をみましょう。

Q.1週間スプリントで、祝日があると稼働日数が減ります。そういった場合、どのように対応すればよいでしょう。

髙橋:例えば5日のスプリントに対して4日しかないのであれば、自分たちのキャパシティを平均値の8割とし、スプリントプランニングを行います。GWのように1週間の内稼働日が1日しかないような場合は、前か後ろの週につけて、1つのスプリントにします。その際に増えた分の日数を考慮に入れて、キャパシティを計算すると良いでしょう。

Q.基本的に開発環境構築はどういうストーリーで記載しますか。

髙橋:PBIはストーリーであった方がいいというのは間違いありませんが、全部ストーリーで書けるわけではありません。特に開発環境はストーリーで書けないことが多いと思います。そういうものは簡潔に書く。ただし、使うかも、という理由で用意することは原則に反するのできちんと考えましょう。

Q.スクラムに慣れていない人の個別のフォローは必要でしょうか。

髙橋:チームの底上げのためにはもちろん必要です。チームとしての理想は、誰が何をやっても同じ状態(クロスファンクショナルチーム)になること。スキル格差があると、計画通りにいかないことが多々あります。その為、ベロシティを落とさないようバランスを取ることを意識しながら、確実にその人をフォローしてあげましょう。尚、私の場合、最初のスプリントから、スキル不足の人を鍛える、といったことはあまりしません。

スプリントが進み、少しベロシティが上がってくると、今までよりやれることが増えているので、その差分を少し育成に充てることが出来ます。そうすることで、チームの速度を落とすことなく、その人のスキルも向上し、チームとしてできることが増えていくでしょう。

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