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### 第35回 人工知能学会 金融情報学研究会(SIG-FIN)発表レポート リードデータサイエンティストの市川です。 今回は、昨年10月に発表した内容について説明させていただきます。 イベントの概要 本邦中古スマートフォン市場における買取価格形成の分析概要 1. 発表の位置づけ 2. 研究の目的 3. 使用データ 4. 分析方法 4.1 発売からの経過時間と買取価格の関係 4.2 為替変動の影響分析 4.3 XGBoostによる予測分析 5. 分析結果 5.1 経過時間は最も重要な価格形成要因 5.2 Apple製品は高い価格維持力を持つ 5.3 為替変動の影響は限定的ですが、iPhoneでは遅れて表れる可能性がある 5.4 XGBoostモデルは高い予測精度を示す 5.5 ストレージ容量の影響は非線形 5.6 モデルタイプの影響は相対的に小さい 6. 実務上の示唆 7. 社会的意義 8. 今後の課題 9. まとめ イベントの概要 人工知能学会 金融情報学研究会(SIG-FIN) は、人工知能学会の第二種研究会です。SIG-FIN は、ファイナンス分野における人工知能技術の応用を促進する研究会であり、機械学習、データマイニング、テキストマイニング、市場シミュレーション、投資支援、行動ファイナンスなど、金融に関わる幅広い研究テーマを対象としています。 詳細は上記リンクに譲るのですが、金融市場や金融実務に関わる課題に対して、人工知能分野の研究者と金融市場の現場で活躍されている方々が交流する、かなりユニークな研究会という認識です。近年、ファイナンス分野におけるAI活用への関心が高まっていることもあり、発表テーマもかなり幅広くなってきている印象です。 スケジュールは以下の通りでした。 日時:2025年10月11日(土)~12日(日) 開催形式:会場およびオンライン(Zoom使用)のハイブリッド開催 会場:慶應義塾大学日吉キャンパス 来往舎1階シンポジウムスペース 今回の第35回研究会は、土日の2日間にわたって開催されました。参加人数はおおよそ200人程度で、J-STAGE上では第35回金融情報学研究会として25件の研究会資料が公開されており、かなり発表数が多かったです。 こちらの研究会はありがたいことに、 各発表の研究会資料がJ-STAGEで公開されています 。 第35回は、人工市場、投資戦略、テキストマイニング、データマイニング、機械学習、生成AI・LLM活用など、金融とAIの接点にある多様な研究が発表されていました。 全体としては、従来からSIG-FINらしい人工市場・市場制度設計に関する研究に加えて、有価証券報告書、適時開示、決算説明、J-REIT物件情報などの金融テキストを対象にした研究が目立っていた印象です。また、LLMを用いた利益予測や決算サプライズ抽出、サステナビリティ記述の分類など、生成AI・LLMを金融データ分析に応用する研究も複数あり、金融分野でもLLM活用がかなり広がってきていると感じました。 本邦中古スマートフォン市場における買取価格形成の分析概要 今回発表してきました、「本邦中古スマートフォン市場における価格形成に対する機種ブランドと為替レートの影響」の概要を以下の通りまとめさせていただきます。 1. 発表の位置づけ 本発表は、日本の中古スマートフォン市場において、端末の買取価格がどのような要因によって形成されているのかを、実データに基づいて定量的に分析した研究です。特に、機種ブランド、とりわけApple製品とその他メーカー製品の違い、さらに米ドル/円為替レートの変動が中古スマートフォンの買取価格に与える影響に焦点を当てています。 スマートフォンは、現在では日常生活や家計に欠かせないインフラとなっています。個人保有率や世帯保有率はいずれも高い水準にあり、多くの人にとってスマートフォンは生活必需品となっています。一方で、近年は半導体価格の上昇、円安、インフレなどを背景に、新品スマートフォンの価格が上昇しています。その結果、消費者にとって端末購入にかかる負担は大きくなっており、新品の代替手段として中古スマートフォン市場の重要性が高まっています。 中古スマートフォン市場の拡大は、消費者に安価な端末選択肢を提供するだけではありません。企業にとっては、買取価格の設定、在庫評価、リース会計、将来価格の見積りなどの実務に関わる重要なテーマでもあります。また、端末が中古市場で再流通することで製品寿命が延び、新品製造や廃棄に伴う環境負荷の低減にもつながります。そのため、中古スマートフォンの買取価格がどのように推移し、またその価格がどのような要因によって変動するのかを明らかにすることには、実務面でも社会面でも大きな意義があります。 2. 研究の目的 本研究の目的は、日本の中古スマートフォン市場における買取価格の形成要因を明らかにすることです。具体的には、次のような問いに答えることを目指しています。 発売からの経過時間は、中古スマートフォンの買取価格にどのような影響を与えるのか。 Apple製品とその他メーカー製品では、買取価格の維持傾向にどのような違いがあるのか。 米ドル/円為替レートの変動は、中古スマートフォンの買取価格に影響を与えるのか。 iPhoneの買取価格を予測する際、どのような特徴量が重要になるのか。 先行研究では、中古スマートフォン価格の形成要因として、製品ランク、ストレージ容量、SIMロック、ネットワーク利用制限などの影響が分析されてきました。また、販売サービス間の価格差や、海外市場における中古スマートフォンの再販価値に関する研究も行われています。 しかし、日本市場を対象に、業者の買取価格を中心に据え、複数ブランド・複数機種を横断的に分析し、さらに為替レートのようなマクロ経済要因を組み込んだ研究は十分ではありませんでした。そこで本研究では、業者の月次買取価格を主な分析対象とし、ブランド、発売からの経過時間、為替変動、ストレージ容量、モデルタイプなどが買取価格にどのような影響を与えるのかを検証しています。 3. 使用データ 分析に用いられたデータは、一般社団法人リユースモバイル・ジャパンが公表した「主要端末の買取平均額の推移」です。対象期間は2018年1月から2024年6月までで、正会員9社の実績に基づく月次の平均買取価格が用いられています。 対象となる端末は、A・B・Cランクの使用済みかつ使用可能な個人向け買取端末です。未使用品や破損品は除外されています。元データにはスマートフォン以外のタブレットやウェアラブル端末も含まれていますが、本研究では端末名に基づいてスマートフォンのみを抽出しています。また、同一モデルであってもストレージ容量が異なる場合は、別系列として扱っています。 為替レートについては、FREDのデータを用いて、同期間のUSD/JPY月次平均レートを取得しています。これにより、端末ごとの月次買取価格データと、為替レートの時系列データを組み合わせて分析しています。 本研究では、中古スマートフォンの価値を把握するために、対象月の平均買取価格に注目しています。買取価格は、中古端末事業者が実際の需給、端末状態、在庫回転、検品基準、保証コストなどを踏まえて決定する価格であり、中古市場における実勢を反映しやすい指標です。小売価格やオークションの掲示価格と比べても、事業者側の実務的な判断が反映されている点に特徴があります。そのため、買取価格の分析は、中古スマートフォン市場の価格形成を理解するうえで有用です。 4. 分析方法 本研究では、大きく三つの観点から分析が行われています。 4.1 発売からの経過時間と買取価格の関係 第一に、発売からの経過月数と買取価格の関係を分析しています。各端末について、発売年月から対象年月までの経過月数を計算し、経過時間が長くなるほど買取価格がどのように変化するのかを可視化しています。 また、製品特性による違いを確認するため、Apple製品とその他メーカー製品を分けて比較しています。これにより、ブランドによって買取価格の維持傾向に差があるかどうかを検証しています。 4.2 為替変動の影響分析 第二に、米ドル/円為替レートの変動が買取価格に与える影響を分析しています。ここでは、単純に為替レートと買取価格を比較するのではなく、月次の買取価格の変化に注目しています。 これは、新製品の投入によって平均的な価格水準が見かけ上変動する影響を取り除くためです。具体的には、連続する2か月の両方に存在する製品群のみを対象とし、その製品群における平均買取価格の変化を算出しています。この方法により、製品構成の変化ではなく、既存製品の価格変化そのものを捉えようとしています。 為替については、過去1か月から6か月までの変化量を計算し、それが1か月から4か月のラグを置いて買取価格の変化にどのように関係するのかを検証しています。 4.3 XGBoostによる予測分析 第三に、iPhoneの買取価格を対象として、XGBoostによる予測分析を行っています。説明変数には、発売からの経過月数、3か月前の1か月間の為替変動、ストレージ容量ダミー、モデルタイプダミーが用いられています。 さらに、SHAPを用いることで、予測モデルにおいて各特徴量がどの程度重要であり、どの方向に影響しているのかを解釈しています。これにより、単に予測精度を確認するだけでなく、買取価格形成のメカニズムを説明することも試みています。 5. 分析結果 5.1 経過時間は最も重要な価格形成要因 発売からの経過月数と買取価格の関係を可視化した結果、全体として明確な右肩下がりの傾向が確認されています。これは、発売から時間が経過するほど、中古市場における端末の買取価格が低下することを示しています。 スマートフォンも一般的な製品と同様に、時間の経過とともに市場価値が減少していくことが確認されています。したがって、中古スマートフォン市場における最も基本的な価格形成要因は、発売からの経過時間であると考えられます。 5.2 Apple製品は高い価格維持力を持つ Apple製品とその他メーカー製品を分けて比較すると、両者の間には明確な違いが見られています。同じ経過月数で比較した場合、Apple製品はその他メーカー製品よりも高い買取価格を維持する傾向が示されています。 つまり、Apple製品、特にiPhoneは中古市場において価格が下がりにくく、高い価格維持能力を持っています。この背景には、Appleブランドの強さ、iPhoneに対する中古需要の安定性、OSアップデート期間の長さ、周辺アクセサリやエコシステムの充実などが関係している可能性があります。 5.3 為替変動の影響は限定的ですが、iPhoneでは遅れて表れる可能性がある 為替変動の影響については、Apple製品とその他メーカー製品で異なる結果が得られています。 Apple製品については、「3か月ラグ×1か月為替変化」および「3か月ラグ×2か月為替変化」において、5%水準で有意な正の相関が確認されています。これは、為替の直近1〜2か月の変動が、約3か月後のiPhoneの買取価格変化に弱い正の相関を持つことを示しています。 言い換えると、円安方向への為替変動はすぐに中古価格へ反映されるわけではありませんが、一定の遅れを伴って中古iPhoneの買取価格を押し上げる可能性があります。 一方、Apple以外の製品については、有意な相関は確認されていません。相関係数も全体的に小さく、Apple製品に比べて為替変動の影響を受けにくいことが示されています。 この違いの背景としては、Apple製品はグローバルな価格体系や米ドル建ての価格設定の影響を受けやすい一方で、Android端末では国内メーカーや多様な価格戦略が混在していることが考えられます。そのため、為替変動の影響がApple製品ほど明確には表れにくいと考えられます。 5.4 XGBoostモデルは高い予測精度を示す iPhoneの買取価格を対象として構築したXGBoostモデルは、高い予測精度を示しています。テストデータに対する決定係数R²は0.898、平均二乗誤差MSEは0.0020となっています。 これは、発売からの経過月数、為替変動、ストレージ容量、モデルタイプといった特徴量によって、iPhoneの買取価格を高い精度で説明できることを示しています。 SHAPによる特徴量重要度の分析では、最も重要な特徴量は経過月数となっています。経過月数は他の変数を大きく引き離しており、スマートフォンの中古価格を決める最大の要因が発売からの時間であることを改めて裏付けています。 次に重要な特徴量は為替変動であり、その後にストレージ容量、特に64GBであることが続いています。一方で、Pro、Pro Max、SE、mini、Plus、無印といったモデルタイプの影響は、経過月数や為替、容量に比べると限定的です。 5.5 ストレージ容量の影響は非線形 ストレージ容量については、単純に容量が大きいほど買取価格が高くなるわけではないことが示されています。 64GBのような低容量モデルは、現在のアプリや写真・動画利用に対して容量不足と見なされやすく、中古市場での評価が低くなりやすい傾向があります。一方で、512GBや1TBのような高容量モデルも、買取価格という観点では必ずしも有利ではありません。 発売時価格が高いため、絶対的な買取価格は高くても、購入時の価格差に見合うほど中古市場で高く評価されるとは限らないためです。中古市場の購入者は、高容量に対して新品時と同じだけの価格プレミアムを支払うとは限りません。 そのため、128GBや256GBのような中容量モデルが、中古市場において需要と価格のバランスが取りやすい容量帯として機能している可能性があります。 5.6 モデルタイプの影響は相対的に小さい モデルタイプについては、ProやPro Maxは買取価格にやや正の影響を与える一方、SEはやや負の影響を与える傾向が見られます。 ただし、モデルタイプの影響は全体として小さく、iPhoneの中古価格形成においては、モデル名の違いよりも、発売からの経過時間、為替、容量の方が重要であると考えられます。 6. 実務上の示唆 本研究の結果は、中古端末事業者、消費者、制度設計のそれぞれにとって有用な示唆を持っています。 中古端末事業者にとっては、買取価格の設定や在庫評価を行う際に、発売からの経過時間、ブランド、為替変動、ストレージ容量を考慮することの重要性が示されています。特に、Apple製品は価格維持力が高く、為替変動の影響も一定の遅れを伴って表れる可能性があるため、価格改定や在庫管理において注意すべき要素となります。 消費者にとっては、購入・売却のタイミングや機種選択を考える際の判断材料になります。たとえば、iPhoneは中古市場で価格が下がりにくい傾向があるため、購入後の売却価値を重視する消費者にとって有力な選択肢となり得ます。また、ストレージ容量については、必ずしも大容量モデルが中古市場で有利とは限らないため、価格と需要のバランスを考慮した選択が重要です。 制度設計の観点では、リース会計や端末購入プログラムにおいて、市場実勢に基づく価格見積りの重要性が示されています。中古端末の買取価格は、実際の市場で形成される価格を反映しているため、将来価格を見積もるうえで有用な参照情報となります。 7. 社会的意義 中古スマートフォン市場の拡大は、単に安価な端末を提供するだけでなく、循環型経済の推進にもつながります。端末が中古市場で再流通することで、製品寿命が延び、新品製造や廃棄に伴う環境負荷の低減が期待できます。 その意味で、本研究は金融、会計、消費者行動、環境政策の接点に位置づけられるものです。中古端末の価格形成メカニズムを明らかにすることは、事業者の価格設定や消費者の意思決定を支援するだけでなく、持続可能な資源循環を促進するうえでも意義があります。 8. 今後の課題 今後の課題としては、より詳細なデータを用いた精緻な分析が挙げられます。たとえば、端末状態、販売チャネル、地域差、在庫状況、需要動向などを組み込むことで、より実態に即した価格形成メカニズムを明らかにできる可能性があります。 また、本研究ではiPhoneを中心に詳細な予測分析を行っていますが、今後はAndroid端末に特化した分析も重要です。Android端末はメーカーやモデルの多様性が高く、価格形成の構造もApple製品とは異なる可能性があります。 さらに、スマートフォンは中古端末として再販売されるだけでなく、部品や材料としてリサイクルされる経路もあります。そのため、将来的には再販売市場とリサイクル市場の双方を含めた価値形成メカニズムの分析へ発展していくことが期待されます。 9. まとめ 本研究により、日本の中古スマートフォン市場における価格形成について、次の点が明らかになっています。 第一に、買取価格は発売からの経過時間によって強く規定されています。発売から時間が経過するほど買取価格は低下し、経過時間は中古スマートフォンの価格形成における最も重要な要因です。 第二に、ブランドの影響も大きく、Apple製品はその他メーカー製品よりも高い買取価格を維持しています。特にiPhoneは中古市場において価格が下がりにくく、高い価格維持能力を持っています。 第三に、為替レートの影響は存在するとしても限定的です。ただし、iPhoneについては、為替変動が約3か月程度の遅れを伴って買取価格に影響する可能性があります。 第四に、ストレージ容量は単純な線形関係ではなく、中容量帯が相対的に安定した価値を持ち、低容量・超高容量では価格が低下しやすいという非線形な構造があります。 以上の結果から、中古スマートフォン市場の買取価格は、発売からの経過時間を中心に、ブランド、為替、容量といった複数の要因によって形成されていることが示されています。これらの知見は、中古端末事業者の価格設定、消費者の購買・売却判断、制度設計、さらには循環型経済の推進において有益な情報となります。
株式会社タイミーでモバイルエンジニア (Android / iOS) をしている、みかみです。介護領域のグロース施策を中心に、AB テストや分析、マーケティングとの連携などにも取り組んでいます。 2026年4月16日に開催された RevenueCat App Growth Annual Tokyo 2026 (以下 RAGA) に参加してきました。 アプリ成長、サブスクリプション、AI をテーマにしたセッションの中から、個人的に印象に残った話をいくつか紹介します。 RAGA について RAGA (RevenueCat App Growth Annual) は、 RevenueCat が主催する「モバイルアプリ成長」をテーマにしたグローバルカンファレンスです。RevenueCat は、モバイルアプリのサブスク収益化プラットフォームを提供している会社です。 カンファレンスでは「 AI・サブスクリプション・アプリ成長 」をテーマに、プロダクト戦略やユーザー獲得、マネタイゼーション設計といったトピックが扱われていました。登壇者は Notion、ElevenLabs、Speak、YAMAP、SmartNews、Mirrativ、NOT A HOTEL といった国内外のアプリ企業の実践者で、経営層・CPO・CTO クラスが多かったのが特徴的でした。加えて RevenueCat Co-founder / CTO による基調講演もありました。 参加した目的 RAGA に参加したのは、アプリグロースに取り組む他社の現場の話を直接聞ける機会だったからです。日々の業務では、アプリの機能開発だけでなく、AB テスト・分析・マーケ連携にも取り組んでいます。エンジニアリングの先にあるグロース領域への関心も、最近広がってきていました。RAGA で扱われるトピックは、まさに自分の関心と重なる内容でした。 もうひとつ、AI に聞けばなんでも答えてくれる時代だからこそ、現場で一次情報に触れる機会を大事にしたいという考えもありました。後からまとめ記事や録画で追える情報も多いですが、一日を通して様々な実践者の話を続けて聞ける経験は、その場に行かないと得られないと思ったからです。 印象に残ったセッション RAGA は2トラック構成で、世界でアプリを成長させたリーダーが集う「 Global Track 」と、日本市場の実践者や世界進出を目指す起業家が登壇する「 Japan Track 」がありました。自分が参加した中で特に印象に残ったセッションを紹介します。 1. 原点回帰:iモードから現代のアプリ経済へ RevenueCat 共同創業者兼 CTO の Miguel Carranza さんによる基調講演では、日本のモバイル市場の歴史を起点に、現代のアプリ経済が直面する変化が語られました。基調講演の内容や RAGA Tokyo 全体の様子は ProductZine の詳細レポート に詳しいので、ここでは個人的に印象に残った点を中心に紹介します。 冒頭で印象的だったのは、現代のアプリ経済で当たり前になっている概念の多くが日本発だった、という視点です。1999 年の i-mode、絵文字、LINE など、日本のモバイル文化が今のアプリ経済につながっているという話から始まりました。 同時に、日本市場の大きさも具体的な数字で示されました。 日本は世界 3 位のアプリ市場 ユーザー一人あたりの年間支出は $166 2027 年にはスマホユーザーが人口の 94% に達する見込み 一方で、印象に残ったのは「市場が大きい」という話だけではありません。AI によってアプリを作るハードルが下がった結果、過去 4 年間で アプリの供給は7 倍に増え、市場には明確な分断が起きているそうです。上位 25% のアプリは収益を 80% 以上伸ばす一方で、下位 25% は 33% 減少しているという話もありました。 この話を聞いて、アプリ市場は「作れば伸びる」市場ではなくなってきているのだと感じました。AI によって作る力が広がるほど、作れること自体の価値は相対的に下がり、継続して使われる体験をどれだけ設計できるかがより重要になっていくのだと思います。 最後に取り上げられていた 「AI パラドックス」 も、その流れとつながる話でした。AI を組み込んだアプリは初期コンバージョンが強い一方で、解約が約 30% 早く、継続率に課題を抱えるケースが多いそうです。AI の新しさで一度使ってもらうことはできても、継続的な価値に落とし込めなければ LTV にはつながらない、という指摘として受け取りました。 アプリ市場というと、これまで漠然と「大きそうだな」くらいに捉えていましたが、今回の話を聞いて、規模の大きさ以上に競争の中身が変わってきていることを実感しました。ペイウォール設計やトライアル期間、継続率改善といった細部への投資が差を生むという話は、日々のグロース施策を考えるうえでもかなり示唆的でした。 2. 広告視点で考えるサブスクハックネタお披露目会 Repro の中野竜太郎さんと Alethne の坂本翔也さんが、 Adjust の高橋将平さんのモデレートで議論したパネルディスカッションです。広告運用・計測・クリエイティブ最適化など、アプリ成長を広告の視点から見つめてきた登壇者ならではの、現場感の強い話が詰まったセッションでした。 冒頭で出てきたフレーズが強烈です。 "CPI (Cost per install) だけ見る投資はナンセンス。" "エンゲージメントの時代じゃない、アクティベーションの時代だ。" 登壇者たちが共通して強調していたのは、 広告で獲得したユーザーの8割は Day 0 で離脱する という前提です。離脱を防ぐ鍵になるのが 「アハ体験」 、つまりユーザーがアプリの価値を実感する瞬間の設計です。リワードで引っ張ってくるのではなく、自社サービスのコア体験そのものをゲーム化していくのが大事だ、という主張でした。 もう一つ参考になったのが「マジックナンバー」と最適化トリガーの設計の話です。トライアル開始を成果イベントにするのは弱く、「7日間トライアルで辞める気のユーザーは2時間で消える」というデータがあるそうです。そこで、「2時間以上滞在したユーザー」や「特定アクションを N 回実行したユーザー」をマジックナンバーに設定したほうが、広告の最適化トリガーとしても成果が出やすいとのことでした。 AB テストや分析に取り組んでいる身として、「何をイベントとして計測するか」の解像度を一段上げるヒントになる話でした。単に画面遷移を計測するのではなく、ユーザーがそのアプリの価値を実感したシグナルとしてイベントを設計する、という視点が新鮮でした。 3. 激動の時代、日本発メガベンチャーはどのように世界で勝ちに行くのか SmartNews のホン・ランドンさんと Mirrativ の赤川隼一さんによるパネルディスカッションです。コミスマの坂本達夫さんがモデレーターを務めたこの回が、自分にとっては強く印象に残ったセッションでした。プロダクト・グロース・経営の観点から、AI の進化と激化するグローバル市場にどう立ち向かうかが議論されました。 特に印象に残ったのが、グローバル展開の戦略の話です。展開する国の数によって取るべき戦略は変わるそうです。1 カ国に絞るなら徹底した現地化が有効、多国展開なら同一プロダクトを広げて手応えのある市場に集中投資する、という対比でした。いずれにせよ、個別市場の局所最適ではなく、会社全体の収益最大化を基準に手段を選ぶべきだ、という話が腑に落ちました。 セッションの締めくくり、ランドンさんからの「AI 時代に変わるもの・変わらないものは?」という問いに対する赤川さんの答えが、一日で最も刺さった言葉でした。 "変わるもの = ほぼ全部。アンラーニングとスピードが勝負。変わらないもの = 現地現物。" 「優秀な PM は必ず現地でユーザーが迷う姿を観察する」という話でした。AI で機能開発のスピードが上がる時代だからこそ、ただ機能開発を進めるだけではなく、問いを立てる力や、現場やユーザーに直接聞きにいくことの重要性は、むしろ増しているように感じます。 おわりに 参加してみて改めて感じたのは、AI 時代だからといって仕事が 華やか になっているわけではない、ということでした。 各セッションで語られていたのは、AI を使いこなす派手な事例というよりも、その手前にある 地道な計測や粘り強い観察、ユーザーの一次の声を拾い続ける姿勢 だったと感じます。今回語られていた事例のどれもが、こうした地道さの積み重ねの上にあるということを、当たり前のようでいて改めて強く感じました。 AI でプロダクトの作り方は変わっていきますが、アプリを成長させるために向き合う対象は変わらず、むしろ AI が広がるほど、ユーザーをどれだけ深く読めるかがアプリの差として出やすくなっていくのかもしれない、と感じた一日でした。 カンファレンス後のアフターパーティーも独特でした。ライブや DJ セットを交えた構成で、日中のセッション合間にもスタンダップコメディが入るなど、国内の他のカンファレンスと比べても振り切り方が際立っていて、一日を通して印象的でした。
はじめまして。LINEヤフー株式会社の石井です。ヤフーのAndroidアプリにログイン機能を提供する社内向けのSDKの開発を担当しています。近年、ログインの簡単さやセキュリティなどの観点でパスキーが注...






















