与信モデル更新マニュアルを作成した話

この記事は、Merpay Tech Openness Month 2023 の14日目の記事です。

はじめに

こんにちは。メルペイの機械学習エンジニアの @fukuchan です。私の所属している機械学習チームでは、お客さまの与信枠の決定に関わる機械学習モデル(以下、与信モデル)の開発と運用を行っています。現在、機械学習チーム及び与信管理部では「与信モデル更新マニュアル」を作成し、このマニュアルを元に与信モデルの更新判断を行っています。
本記事では与信モデル更新マニュアルを作成するに至った背景やその内容の一部を紹介します。

背景

メルペイスマート払いは、利用した分を翌月以降に柔軟に支払うことができる与信サービスです。メルカリ・メルペイ上での取引や決済等の利用実績に基づいて、お客さまごとに適切な与信枠を提供しています。

お客さまの与信枠は定期的に更新しています。お客さまへの価値提供・メルペイのビジネス発展において、与信枠及び与信モデルの更新(※)は非常に重要で影響が大きい変更です。そのため、与信モデルの更新においては、モデルのアウトプットをさまざまな観点で分析し、ビジネスチーム、リスクチーム、プライバシーチームやプロダクトマネージャーの方等、多くの方々の目で点検しリリースに至っています。
※与信モデルの更新とは、モデルの問題設定を大きく変えず最新のデータに適応するための再学習と、モデルそのものをリニューアルする再開発の両方を指します。

近年、ありがたいことにメルペイはますます多くのお客さまにご利用いただいています。与信サービスもメルペイスマート払いだけでなく、メルカードメルペイスマートマネーもリリースを迎え、多様化しています。サービスの多様化にともなって、与信枠決定に関わる与信モデルの重要性が以前にも増して高まってきました。与信モデルの更新においては、多様な事業KPI・お客さま体験等、以前よりも多くの観点を考慮・点検しており、リリースの意思決定に時間を要していました。慎重な点検を行い与信の品質を担保することが重要である一方で、与信モデルの改善サイクルを早め、与信の品質改善を迅速に行うことも重要です。

今回の取り組みでは、与信の品質を担保しつつ与信モデルの更新の意思決定をより迅速にすることを目的に、与信モデル更新マニュアルを作成しました。

今回の取り組み

与信モデルの更新基準を明確にし更新の意思決定をより迅速にするため、与信モデル更新マニュアルを作成しました。その中で定めている項目をいくつか紹介します。

リリース判断のための評価指標と収益試算

与信モデル更新時の評価のために、機械学習モデルそのものに関する性能評価に加えて、事業KPIやお客さま体験等の観点まで踏み込んで評価指標を整理しました。

この事業KPIに関する評価指標の1つには「収益試算結果」を含んでいます。この指標は与信モデルのアウトプットを事業の収益性観点での指標に変換したもので、今回の取り組みでその変換ロジックを新たに作成しました。与信モデルの更新が収益性に与える影響の試算ができるようになり、機械学習チームだけでなく、ビジネスチーム、リスクチームやプロダクトマネージャーの方など他チームの方ともコミュニケーションしやすくなりました。結果、与信モデルリリースの意思決定もしやすくなりました。

リリース後のモニタリング指標

リリース判断のための評価指標に加えて、リリース後も継続的にモニタリングする指標を定めました。以前も与信モデルのリリース後に与信管理部全体で多くの指標をモニタリングしていましたが、今回の取り組みで改めて機械学習チームがフォーカスしてモニタリングしていく与信モデルそのものに関する指標と事業KPIに関する評価指標を明確にしました。
現在これらの定めた指標に関して、機械学習チームが定期的にモニタリングを行っています。また与信事業の主要な計数を報告する場にて定期的に報告しています。

与信モデル更新の契機

与信モデルの更新を行う契機となるイベントを定めました。
イベントの例としては以下です。
新商品導入時
与信のフレームワークの変更時
モニタリング指標の定期モニタリング結果に基づき、事前に定めた基準に触れた時
事業戦略に応じて与信モデルの更新の判断をした時

与信モデルの更新を行う契機となるイベントを定めることで、与信モデルの更新の検討タイミングが明確になりました。

モデル更新の手続き・タイムライン

与信モデル更新の手続きとタイムラインを明確にしました。以前も与信モデルの更新を行う際には、さまざまなチームが参加する社内会議にてモデルの更新内容とモデルのアウトプットに関する検証結果を協議し、モデル更新を行うという流れがありました。今回の取り組みで改めてその流れをマニュアルにまとめ、明確にしました。加えてリリースの時期から逆算して、いつ決議する必要があるか、いつモデル開発・改善を行う必要があるかを具体的なタイムラインと共に明確にしました。

マニュアルの所在・管理体制

メルペイでは強固なガバナンス体制とすべく、さまざまな規程やマニュアルが決裁権限者とともに構造的に管理されています。今回作成したマニュアルについても、紐づく上位規程、マニュアルの所管やマニュアル改廃の決裁者を明確にしました。

おわりに

与信モデル更新マニュアルを作成するに至った背景やその内容の一部を紹介しました。与信モデル更新マニュアルでは評価指標や更新フローを整理しており、中でも特に評価指標において収益試算結果を採用することで、他チームとのコミュニケーション、与信モデルの更新の意思決定もしやすくなりました。今後もサービス規模拡大に伴って今回の取り決めた事柄の内容は変わりうるので、適宜アップデートし運用していきます。事業影響の大きい機械学習モデルを取り扱う方にとって、今回の取り組みが参考になれば幸いです。

謝辞

与信モデル更新マニュアルを作成するにあたり多くの方にご協力いただきました。機械学習チームのみなさんをはじめ、ビジネスチーム、リスクチーム、データアナリストの方々にこの場を借りて御礼申し上げます。

明日の記事は@r_yamaokaさんです。引き続きお楽しみください。

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