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株式会社 Adansons /
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仙台で胎動する

スタートアップエコシステムが育む

東北大発AIベンチャー

東北から、世界をリードするテック系ベンチャーが次々と生まれている。背景には東北大学で研究が進む数々の先端技術と、その技術で起業する教員や学生の気運の高まり、さらには徐々に形作られつつある仙台ならではのスタートアップ・エコシステムがある。東北大学名誉教授が開発した新しいAIアルゴリズム「参照系AI」を用いて二人の東北大学生と東北大学教授が立ち上げたAIスタートアップから、その動きを追った。

東北大学の数学者が開発したAIに感動した
二人の学生が起業

2019年6月に始動したAdansons。代表取締役CEOの石井晴輝は東北大学工学部で学ぶうち、社会に役立つ研究成果や最先端の技術が事業化されず、世の中に出ないまま資金難で途絶えてしまう現状に課題を感じるようになった。2018年に東北大学の研究で得られた複数の知的財産を事業化する会社を立ち上げたのち、「将来間違いなく必要とされるような、そんな技術を一点突破で世界に出す必要性を感じていた」と話す。

そんなとき出会ったのが、数学者であり医学博士である東北大学の木村芳孝名誉教授だった。木村教授は独自に開発したアルゴリズムで、母体のお腹の表面から胎児の心電のみを抽出してリアルタイムで計測する技術を確立し、医療に応用していた。それはこれまでAIが抱えてきた課題を解決する、まったく新しい機械学習アルゴリズムだった。

「木村教授と話して、ああ、これはめちゃめちゃ世の中に必要だなと。そして、数学の裏に哲学があった。彼が色々物事を見ている視線、考え方の迫力にシンプルに感動して。そういう、ロジカルとエモーショナルの二つの理由がありました」

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石井は副社長兼CTOとして、同じ工学部の後輩でAIアプリの開発にも取り組んでいた中屋悠資に声をかける。「特徴だけ聞いたら異次元で信じられないような性能だった」と振り返る中屋。「でも石井さんや木村教授に話を聞いて、どうやら本当そうだ、と」

中屋は数学を研究してきた高校時代から「人の能力にコンピューターを組み合わせて、人間の可能性を広げる」ことに関心を持ってきた。「大学に入って、一部の医師だけが持つ特殊な技術が他の医師でもできるようになるような『医療の神の手』をつくりたいと考えるようになりました。参照系AIで、そのゴールが目指せるのではないかと思ったんです。そして何より、石井さんの熱意に押されました」

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安心して命を預けられる、まったく新しい
次世代型AIを

AIは世界中で開発が進むにつれ、誤った情報や偏った情報を学習した結果の誤判断や、それによる現実的な危険が生じることがわかってきた。例えば2018年にアメリカで自動運転車が歩行者をはねた事故は、「歩行者は歩道にいる」という先入観から車道上の歩行者を想定できず、被害者を「歩行者」と認識できなかったことが原因のひとつだと言われている。なによりAIの判断の過程は「ブラックボックス」であり、人に見えないという大きな課題がある。「今のAIにはまだまだ安全ではないところがある。もっと安全で人が安心して使えるものを外に出さないといけない」と、石井は語る。

Adansonsは現在、製造業や医療、建設業など多数の分野の企業や大学と実証実験を進めている。心拍や血圧といった体のサイン(バイタルデータ)はノイズが多いデータの典型といわれており、参照系AIの強みを特に生かせる分野だ。同社は東北大学病院とともに、医療データのAIによる解析の研究を進めている。

振動解析やプラントの異常検知にも活用を進めており、作業現場などで人間が気付けない微細な異変の検出や、熟練の職人の感覚に頼っていた危険性の判断につなげ、人の命を守る後押しをしたいという。誰でも安心して使える「人に寄り添う」AIを通じて、「安心して命を預けられるAIをつくる」のが、二人の究極の目標だ。

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仙台のスタートアップエコシステムは
「まだ半周。だから面白い」

東北大学の学生として、事業をスタートした二人。最先端の分野を専門に学ぶ同大や東京大学のインターン生らとチームで取り組んでいることも、学生ベンチャーならではのユニークな強みだ。石井は「インターンのメンバーが、ビジネスってこんなものでいいんだ、って話していて(笑)。今までイメージがなく怖かった『起業』への意識の変化が身の回りで起きているのが、いいなと思います」と、周りの学生の変化を語る。起業を後押ししてくれた大学への思いも深く、二人は「将来、自分たちが得たものを東北大学に還元したいし、しなければいけない」と口をそろえる。

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仙台の街は研究や大学、経済や行政の主要施設がコンパクトにまとまっており、キーパーソンとの距離も近い。創業時には仙台市のファンド「MAKOTOキャピタル」の出資を受けたAdansons。仙台市では2019年に仙台スタートアップ・エコシステム推進協議会が設立されるなど、官民のバックアップ体制も徐々に整いつつある。大学の研究力、投資家、起業家、行政といったプレイヤーたちが「スタートアップ・エコシステム」を今まさに形成しつつある仙台。「東京都、東京大学なんかはエコシステムが2~3周しているけれど、仙台はいま半周くらい。これから回りだすのが、仙台の面白いところなんです」と、石井は語る。

大都市よりも早くピークを迎える少子高齢化社会と人口減少への強い危機感もあり、労働力不足解決のカギたりえる参照系AIに込める期待は大きい。「僕らの時代は少子化で、少ない仲間と労働力で世の中を支えないといけない。高齢者が増えて、医療も危機を迎える中、医師の皆さんはもっと患者さんに説明する時間が欲しいと言っている。『参照系AI』の技術で手間や負担を省いて、人の力を安心に費やせるようになれば」

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株式会社Adansons

東北大学発のAIスタートアップ。従来のAIの欠点を克服する参照系AI(特許出願中)を通じ、
必要な技術の社会実装、皆が安心して暮らせる社会の実現を目指す。