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株式会社
フィリップス・ジャパン
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課題先進地域・東北から、

世界の医療課題のソリューションを生み出す

オランダに本社を置く医療機器大手のフィリップスは2019年、仙台市に日本初となるヘルスケアのイノベーション拠点「Co-Creation Center」を立ち上げた。グローバル企業である同社はなぜヘルスケアソリューションの「共創」の場として仙台市を選び、この場所から何を世界へ発信しようとしているのか。

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世界のヘルスケア課題を解決する
イノベーション拠点として選んだ仙台

医療機器やヘルスケア製品で世界的シェアを誇るフィリップス。同社は2019年5月、日本初となる医療・健康分野のイノベーション拠点「Co-Creation Center(CCC)」を仙台市に設立した。「共創(Co-Creation)」を掲げる拠点を設けたことについて、同社Head of Co-Creation Centerの相澤仁はそのねらいをこう語る。

「これまでは自社で基礎研究を進め、自前の経営資源で商品開発するのが主流でした。しかし、ヘルスケアの課題が多様化した現代では、そのソリューションはもはや一つの会社で開発・提供できるようなものではないのです。」

世界保健機関(WHO)によると、世界で亡くなる人のうち、生活習慣病やがん、呼吸器疾患などの「非感染症疾患」で亡くなる人の割合は7割にもおよぶ。「2030年までに30億の人々の生活を向上させる」とのグローバルな目標を掲げるフィリップスが解決しなければならない課題の一つは、多くが人々の生活習慣に起因する「慢性疾患」なのだ。

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「慢性疾患は病院にいってワクチンを打って隔離して治療する、という性質のものではなく、生活を変容させなければいけないもの。つまり病気と対峙するのが病院ではなく、地域や家になるんです。家や地域で病気を治そうとする根本的なアプローチは私たち一社だけでは実現できず、自治体や企業と手を携えて地域事情に合ったさまざまなソリューションを生み出すことが必要になります」

日本の総人口のうち65歳以上の人の割合は28.1%(2019年)で世界最高だ。中でも東北地方は過疎化と高齢化が著しく、世界がこれから直面することになるさまざまな医療課題を真っ先に経験する「課題先進地域」とも呼ばれている。そこで集中的に慢性疾患を中心とするヘルスケア課題の研究開発を進めれば、今後世界各地に応用できる先進的なソリューションが生まれる可能性がある。これが、東北・仙台に拠点を設けた理由の一つだ。

研究を加速させるポジティブな要素も重なった。東北地方は一生を故郷で過ごす人が多く長期間の医療データが追跡可能という、就職や進学で人が集まる首都圏にはない利点がある。同時に、900以上の医療・福祉施設が参加する宮城県の医療ネットワーク「MMWIN」や高い研究力を誇る東北大学の存在も設立の後押しになった。だが最終的な決め手として響いたのは仙台市との「ビジョンの共感」だった、と相澤は振り返る。

「レガシーではなく、新しいものを目指している。そういう方たちと化学反応を起こしていけば一歩先を行けるかもしれない、と感じました。」

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企業や地方自治体と革新的なソリューションを
「共創」する場所に

ヘルスケア分野でのイノベーションを生み出すために仙台市中心部に開設されたCCCのコンセプトは「異業種が集う場」「知を創りだす場」「技術を体感する場」。幅広い業種の人々が意見交換したり新技術を体験したりすることで化学反応を起こし、新しい発想が生まれる「触媒」のような場所を目指している。オープンして一年間で約400の企業や団体が施設を訪れ、仙台市ヘルステック推進事業にもパートナーとして貢献するなど地域との連携拠点にもなっている。

CCCに在籍するクリニカルスペシャリストやデータサイエンティストは、全国のさまざまな企業や自治体と共同で革新的なヘルスケアソリューションの開発を進めている。例えばゼネコンが進めるまちづくりの設計に協力し、人々の生活環境の充実や幸福度の向上につながる仕組みを考案。住民たちが健康な生活を送るため、運動ができる公園などの設計や動線を考えたり、運動量を自動で測定できる設備を備えたホテルを建設して宿泊客の健康増進につなげたりと、ヘルスケアの視点を導入することで慢性疾患を予防できるようなまちづくりの提案をしている。

慢性疾患は罹患・完治がはっきりしている感染症と異なり病状の境目がなく、長期的な「付き合い」が必要という特徴もある。そこで活躍するのが、AIによるデータ解析のモデルを作り上げるデータサイエンティストだ。例えば家庭で日々の体調を計測しデータを送信できる「スマートハウス」で退院後の患者の病状をモニタリングできれば、「具合が悪くなって初めて病院へ行く」という仕組みを「来院が必要なときに病院から声をかける」形に転換することができる。データ収集と分析を用いて一人ひとりの生活に根ざした個別具体的なライフスタイルを提案できるようになるのが、同社の目指す新しい医療のあり方だ。

「我々はメディカルではなく『ヘルスケア』と意識して言っている。いかに個々人の行動変容をデザインし、病気にならなくて医療費がかからないサイクルを設計していくか。生活習慣から予防、治療までを一気通貫で考え、一人ひとりの暮らしやQOLに合わせた形でヘルスケアを提供していくことが理想です。」

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仙台から生まれる「クロステック」を、
世界へ発信

「新しい事業において非常に重要なのは、自由な発想をすること。従来のやり方や論理から物心両面で距離をとることです」と、相澤は語る。日本法人の本社・東京と離れた仙台という地で、CCCは既存の社内のアプローチや枠組みにとらわれない新しい発想で柔軟に研究開発やプロジェクトを進めている。

CCCで活動を開始して約1年、開設当初は気付かなかった魅力も発見したそうだ。「フットワークの軽い中小IT企業が想像以上に多いことに驚きました。新しい発想が交差するクロステックの真髄はIT技術ですから、身軽で従来にないものをつくる意欲のある中小企業の多さにポテンシャルを感じます。大企業の拠点が置かれる地域という側面もあり、地域の特性を新鮮に感じました」

今後はCCCをより地域に開かれた場にするべく、研究開発を進めていく考えだ。仙台市の中だけにとどまるのではなく、日本の課題、世界の課題のソリューションをCCCから送り出す。クロステックを加速させ、課題先進地域から先進的なソリューションを発信する「化学反応の触媒」としてのCo-Creation Centerの活躍が期待される。

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株式会社フィリップス・ジャパン

オランダに本社を置くヘルステック企業ロイヤルフィリップスの日本法人。人々の健康を改善し良好な結果をもたらすための包括的なソリューションを提供するというミッションのもと、革新的なヘルスケアサービスの開発・研究を行っている。Co-Creation Centerは、日本初のイノベーション施設として2019年5月に開設された。