【リクルート】複数事業の経営判断を加速する「事業KPIダッシュボード」構築の全貌
複数の事業を抱える企業において、経営層が各事業の状況を正確に把握し、迅速な意思決定を行うことは容易ではない。データはそれぞれの組織やシステムに散在し、指標の定義も統一されていない。深堀して分析するには数週間を要することもある。リクルート プロダクト戦略室 データ戦略グループの白子 佳孝氏は、この課題を解決した「事業KPIダッシュボード」の構築について講演した。「ホットペッパービューティー」、「じゃらん」、「SUUMO」など複数の事業を展開する同社は、いかにして経営判断を加速する環境を整えたのか、その全貌を紹介する。複数の事業を抱える企業において、経営層が各事業の状況を正確に把握し、迅速な意思決定を行うことは容易ではない。データはそれぞれの組織やシステムに散在し、指標の定義も統一されていない。深堀して分析するには数週間を要することもある。
リクルート プロダクト戦略室 データ戦略グループの白子 佳孝氏は、この課題を解決した「事業KPIダッシュボード」の構築について講演した。「ホットペッパービューティー」、「じゃらん」、「SUUMO」など複数の事業を展開する同社は、いかにして経営判断を加速する環境を整えたのか、その全貌を紹介する。
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事業統合で顕在化した3つの課題
株式会社リクルート
プロダクト戦略室 データ戦略グループ
グループマネージャー
白子 佳孝(しらこ・よしたか)氏
株式会社リクルートはかつて、複数の事業を別会社として運営していた。そこから、2021年のグループ内再統合を契機に、持続的な成長に向けた経営構造を大きく転換。 この新たな構造の下、複数事業を横断的に捉え、迅速かつ高精度な経営判断に資するため、月次KPIモニタリングによる経営層への報告体制を確立。しかし、運用開始から一定期間が経過した現在、経営の意思決定を支える情報提供の深化やプロセス全体の戦略的最適化が喫緊の課題となり、以下の3つの主要な論点が顕在化した。
課題1:横並びでの事業コンディション把握が困難
事業ごとに独自のフォーマットで報告していたため、事業間の比較が難しかった。また、経営に報告している指標と事業でモニタリングしている指標や定義が異なるケースもあった。
課題2:KPIが単体で報告されているだけで、構造的に事業コンディションを把握できない
もともとのKPIモニタリングでは、予約数やユーザー数など単体の指標を報告していたため、事業全体を構造的に把握するのが難しかった。そのため、本当に見るべき指標が抜けていたり、数字の変動要因までは分からない状態に陥っていたりした。事業担当者は頭の中で全体像を把握できても、経営層にとっては報告された指標しか見えず、全体像の把握は困難だった。
課題3:深掘りしたくても、すぐにはできない
経営判断に必要な数値が散在し、抽出・分析・レポートまでに数週間かかることも。さらに指標定義が統一されていないため、人によって出す数値が変わるという事態も発生していた。
これらを解消しない限り、迅速かつ正確な経営判断は困難だった。
経営判断の迅速化に向けた3つのアプローチ
経営判断の迅速化を図るため、白子氏らは3つの取り組みを実施した。
1:経営と事業の認識を統一する型を作る
まずは、経営層と事業が同じ指標を見て議論できるようにした。リクルートの事業は基本的にマッチングビジネスであり、マーケットプレイスビジネスモデル(通称「リボン図」)が共通している。このモデルに沿って、売上からの分解(クライアント/店舗)と、予約などのアクションからの分解(カスタマー/ユーザー)という構造で、全事業を横並びでモニタリングする形式に統一した。

さらに、経営層と事業責任者と議論を重ね、そもそもどのような指標を見るべきか全体設計を行い、各事業が使う指標とズレがないよう定義レベルでそろえた。例えば「新規」という言葉一つとっても、詳細な定義を一致させなければ、人や組織によって数値がずれる。論理定義・物理定義として整理することで、認識を合わせて議論できるようになった。

2:事業全体を見通すKPIツリーの構築
2つ目に、事業全体を構造的に捉え、一目で状況を把握できるようにした。経営層が見たいのは単体の指標だけでなく、売上とアクションのつながり、つまり全体像だった。ダッシュボード上でKPIツリーを構築し、クライアントサイドは売上(KGI)からCL指標(KPI)への分解、カスタマーサイドはアクション指標(KPI)からの分解を一つのダッシュボードで表した。また、実績と過去の傾向を同時に把握できるようにしている。これにより、事業ドメインに精通していない担当者を含めた関係者にとっても、指標間のつながりが視覚的・直感的に理解でき、変動要因も特定しやすくなった。

3:意思決定を加速するデータ基盤の整備
3つ目に、組織やシステムに散らばっていたデータを「BigQuery」に集約し、分析用のデータマートを作成した。構成はデータウェアハウスレイヤー(深掘り分析用)とデータマートレイヤー(ダッシュボード特化)の二層構造だ。データマートの作成だけでなく、指標定義やメタデータの整備により、データの深堀りや迅速な意思決定を後押しした。
ダッシュボードツールには「Looker Studio」を選定した。理由は3つ。UIの自由度が高くKPIツリー構造を表現できること、コスト優位性、そして、Google Groupを活用した柔軟な権限管理が可能なことだ。また、Looker StudioのExtractData機能により描画スピード1秒程度を実現している。
ただ、ダッシュボードを構築しても、利用されなければ意味がない。そこで、利用され続ける仕組みづくりに力を入れた。毎月、経営層や事業責任者が集まってダッシュボードをもとに議論する場を設けたことで、改善やネクストアクションにつながる会話が生まれ、指標が随時更新されていく循環が生まれた。
また、事業フェーズの変化に合わせてダッシュボードが進化し、常に最新の状態が保たれるようになった。ダッシュボードが、経営判断の基盤として組織に根付いていったのだ。
単なる経営報告が対話の場に 3つの成果
こうした取り組みによって、大きく3つの成果が得られた。
単なる報告から議論へ
単なる経営層への報告が、経営層と事業責任者が一緒に事業をより良くしていくための議論ができる場に変わった。各事業の状況が可視化されたことで、経営層からの的確なフィードバックも可能になった。
タイムリーな意思決定
事業計画の誤りを早期に発見し、誤った判断を未然に防げるようになった。投資効果をリアルタイムに追えるようになり、スピード感のある経営判断が可能になった。
属人化からの脱却
「秘伝のタレ」のように集計していた指標が明確化され、誰もが指標定義を理解した上でモニタリングできるようになった。人力だった報告資料作成業務をダッシュボードに置き換えたことで、コストが大幅に削減され、本質的な業務に注力できるようになった。
得られた3つの学び そしてAI活用へ
白子氏は今回の取り組みから得られた学びとして、3つ挙げた。
第一に、経営層が見たい全体像と各事業が使う指標を「統一された型」と「KPIツリー」で結びつけ、同じモノサシを使うことで認識齟齬を解消することの重要性。第二に、ダッシュボードという「ツール」だけでなく、それを活用する「人」と継続的に活用される「仕組み」があって初めて機能すること。第三に、データがすぐに手に入り、誰もが使いやすく、定義が統一された信頼できる状態になっていることの重要性だ。

今後の展望として白子氏は、「AIを使ったさらなる進化」を掲げた。データ活用における自動化を「属人化→型化→自動化」の3ステップで捉えると、今回の取り組みは経営のモニタリングの「型化」が完了したところ。次のステップでは、この型化されたアセットを使い、AIによって分析を自動化したいという。
「AIとの対話によって、事業コンディションの把握、要因分析、今後の見立てまでを一気通貫で行うことで、経営判断のスピードはさらに加速する。このAI活用がリクルートの優位性の一つになると期待しています」と白子氏。事業状況の把握から要因分析、今後の見立てまでを一気通貫で行う世界が、すぐそこまで来ている。
文=酒井 真弓
※所属組織および取材内容は2025年9月時点の情報です
株式会社リクルート
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