「自動運転UX創造チャレンジ」アイデアソン——未来のモビリティ体験をみんなで考えた

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「自動運転UX創造チャレンジ」アイデアソン——未来のモビリティ体験をみんなで考えた
自動運転の普及によって生まれる膨大な余暇時間、あなたならどう使う? 生成AI、データ利活用、IoT、VR、ARなど、 活用する技術はなんでもOK!——そんなアイデアソンが注目を集めている。自由な発想で次世代移動体験をデザインして欲しいと呼びかける経済産業省が主催。自動車技術会(JSAE)と自動運転用OSSを開発しているティアフォーが運営を担当した。2月15日、全国から100名近くが集まった本選の模様をレポートする。

自動運転を楽しいものにするには豊かなアイデアが必要だ

自動運転の社会実装普及に向けては、未知の技術への不安が技術普及の障壁となることが考えられる。しかしその懸念を払拭するだけの豊かなアイデアと人に優しいUI/UXがあれば、人々は必ずそれを使ってみたくなるもの。

「自動運転UX創造チャレンジ」は自動運転の車内で提供できるサービスのアイデアと、それを実現するHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)について議論するアイデアソンだ。

2024年12月に参加希望者向けのオリエンテーションで幕を開けたアイデアソンは、1ヵ月にわたる予選審査を経て12の個人・団体チームを選出。審査は、電動モビリティシステム専門職大学准教授でジャーナリストの川端由美氏、株式会社ティアフォーのソフトウェアエンジニア牛島秀暢氏、Mobility Dock株式会社 CTOの中尾裕樹氏の3氏が担当した。

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2月15日、東京・日比谷国際ビルで開催された本選では、冒頭、経産省製造産業局自動車課モビリティDX室長の伊藤建氏が挨拶に立ち、以下のように語った。

「自動運転の社会実装は日本以上に世界が速い。私自身、米国西海岸や中国で自動運転タクシーなどに乗車したことがある。日本でもこの動きを先取りする形で自動運転のUX開発の機運を盛り上げる必要がある。みなさんの柔軟で斬新なアイデアをぜひ聞かせてほしい。それが将来の布石になると嬉しい」(伊藤氏)

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観光、グルメ、ショッピング、弱者の利用シーンなどにさまざまな提案

プレゼンタイムに登壇したのは、予選を勝ち抜いた12のチームだ。そのアイデアは多岐に及んだが、観光、グルメ、ショッピングなどに自動運転を活用するアイデアがいくつかあった。

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例えば、飲食店と消費者を直接つなぐデリバリーシェフは、自動運転のキッチンカーに料理を注文すると、移動中のシェフが調理した出来たて料理を家までダイレクトに届けてくれるというもの。フードデリバリー利用者の、届くまでに時間がかかる、料理が冷めているなどの悩みと、根を生やした店舗を持たずに営業したいシェフ側の課題の双方を解決するものだ。

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観光需要では、福島第一原発の被災地などを巡る復興ツーリズムに自動運転のレンタカーを活用するアイデアも披露された。ここでは生成AIがガイド役を担い、車窓の風景を地点ごとに震災前後と比較して見せることで、復興の歩みをたどることができる。

技術的観点というよりも、従来の観光バスや観光タクシー事業をどうアップデートするかという、ビジネスモデルの構築に重きをおいたプレゼンだった。

同様に観光分野では、都市部のパワーカップルを対象に、思い立ったらすぐ自動運転車に飛び乗り、移動しながら計画を立てるゼロスタートの旅行提案が興味を惹いた。目的地や日程も周辺スポットも、みんなAIが提案してくれて、まるでゲームをしているような感覚で旅を楽しめる。

上得意客に密着した百貨店の外商サービスをAI販売員とCG画面で再現するショッピング体験カーは、足腰が不自由で外出もままならない方や、店員との対面は苦手だがショッピングは楽しみたいという人に向けたサービスだ。

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何らかのハンデをもつ人たちこそ、自動運転技術とそのUXの普及を待ち望んでいるのかもしれない。病院がない無医地区を巡回する自動運転診療車という事業構想も課題は共通している。

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遠隔診療と訪問診療をハイブリッドにしたようなメディカルサービスで、これが実現すれば、「患者が病院に行く時代は終わり、病院が患者のもとにやってくる時代がやってくる」と提案者は力説する。

運転好きでも楽しめる、説明可能なAIによる自動運転

審査員からは個々のプレゼンについて、技術的観点、実装方法、ビジネスモデルの構築という点から質問やアドバイスがあった。白熱のプレゼンテーションを終え、いよいよ奨励賞、優秀賞、最優秀賞の発表だ。以下、3賞の提案内容と受賞者プロフィールを紹介する。

■奨励賞:FeelEng-Lab「理解できる!!自動運転提供サービス」

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FeelEng-Labは、筑波大学感触工学研究室のことで、今回はそこから修士課程1年生3名のチームが応募した。チームが課題として捉えたのは、自動運転のブラックボックス化と自動運転への依存。自動運転では車が急停止したり、車線を変更したりするが、なぜそれをしたのかというAIからの説明責任が不十分だとドライバーは不安に感じ、移動体験の納得感が低下する。

自動運転に依存するあまり、交通ルールの理解や運転スキルが低下するのも問題だ。これに対し提案したのは、アプリを通じて自動運転の判断理由を可視化するサービスだ。

「いま車線を変更したのは救急車両が近づいてくるからです」などとAIが理由を説明するだけでなく、「説明するのは本当に危ないところだけでいい」など乗客の知りたい情報のリクエストも受け付けてくれる。

AIが乗客を理解し、乗客もAIを理解することで、自動運転と人が共存する世界が広がる。AIの模範的な自動運転を理解することで、乗客は自らのドライビングスキルの向上を意識するようにもなるかもしれない。

アプリに広告を掲載することでユーザーの利用料は無料。スポンサー企業は利用者目線の納得感を集めたデータや解析情報を今後の自動運転サービスの拡充に役立てることができる。

チームリーダーは今西三四郎君。彼がアイデアを漏らすと、最初は他の二人はキョトンとしていたそうだ。というのも今回提案したアイデアの着想は今西君がクリスマスのサンタ役の親とそれを受け入れる子どもたちの関係を例に、「親子がクリスマスを楽しめる背景には、サンタ役の親の説明責任と、いつかは正体を聞けば答えてくれるという子どもの安心感がある。自動運転にも、運転の理由を聞けば答えてくれる関係があったほうがよりその関係を楽しめるはず」などという難解なレトリックを繰り出したからだ。

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特にアプリ開発担当の阿部瑚南君は幼いころからクルマ好きであり、「自動運転が普及しても自分は絶対ハンドルを手放さない。」とまで断言した。そんな人にも、一度は使ってみようと思わせる工夫が、今西君の頑張りどころだった。

ビジネス的な視点からビジネスモデルをブラッシュアップしたのが鳥谷部孝大君だ。彼も将来は自動車業界を目指す。いま自動車業界はSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)の時代に突入しているのだ。

自動運転UXなどソフトウェア開発エンジニアは引く手あまただ。今回のアイデアソンでその面白さにハマった3人。数年後の自動車業界では欠かせない人材になっているかもしれない。

デザイナーだから発想できる、時空を超えた観光体験

次は優秀賞を獲得した作品を紹介しよう。

◎優秀賞:GEEK EGG「時空超越車」

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車が丘陵地に近づくと、スマートグラスには戦国時代の合戦シーンが映し出される。武将たちの鬨の声も遠くに聞こえてきた。「WOW! We are in OKEHAZAMA. Where is Nobunaga ?」——対象ペルソナは日本の歴史に興味をもつ外国人女性旅行者。彼女が乗っているのは観光スポットで利用者を歴史物語の世界に連れて行ってくれる自動運転の「時空超越車」だ。

提案したのは、愛知県に本社を置く、自動車部品メーカーのデザイナーチームだ。

「自動運転の世界では車の中のUI/UXってどうなっていくのか考えておいてくれ」とは、完成車メーカーからよく言われること。ただ僕らはみんなデザイナーで、直接ソフト開発をすることはない。

社内にソフトウェアエンジニアはたくさんいるけれど、今回はデザイナーチームだけでどこまでやれるか、それを目標にしました」と語るのは、リーダーの井之口さんだ。

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地元の愛知は歴史遺産も豊富。歴史に興味を持つインバウンド旅行者も多い。「しかしこの辺りは、昔は……とガイドがいくら説明しても、今はビルが林立していたり住宅地だったりしてピンと来ない。

ならば、VRやARのスマートグラスで歴史映像を重ねたりできれば臨場感が湧き、リピートにつながる」と市場調査担当のりかさん。「桶狭間に近づくにつれて、気づくと自分が甲冑を身に付けていたり、合戦の血の匂いがしていたり、まるで自分が戦国武将に成りきって進軍している気分になれるはず」と、ビジネスモデル担当の陶山さんも言う。

会社の許可を得て、忙しさの合間をぬってのアイデアを発想する。「甲冑の重さを今のVRで出すのは難しいけど、車のシートを圧迫させればなんとか可能かも」というように、「自動運転にはリアルタイムに地形を読み取るLiDARが必須だ。

時空超越車でもLiDARの情報を瞬時にARに渡して画像を生成する仕組みが欠かせないけど、そのタイミングが重要だよね」とか、何やら楽しそうな議論をまとめ、システムデザインに落とし込んだのが山田さんだ。

社内には自動車を模したシミュレータ設備がある。その利点を活かして今回の提案のための簡単なフレームモックをつくり、立体音響のイマーシブ検証などをしていることも、審査員からは高く評価された。

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「普段使わない脳みそをフルに使った感じがありました。メンターからのアドバイスや、他のチームの発表など、実際にこの会場に来ることで発想の幅がさらに広がる感じがしました。それは社内でのUXデザイナーの担当領域の拡大や信頼性醸成にもつながるもの。これからも自動運転UXについては実証を続けて、業務につなげていきたい」(井之口さん)

ゲーミフィケーションと人力車の意外な出会い

最優秀賞を獲得したのは、以下の作品だ。

◎最優秀賞:岩国プログラミングクラブ「マイクラ ワクワクAI 人力車で巡る錦帯橋観光」

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山口県岩国市のNPO団体、岩国プログラミングクラブでは普段は Scratch や micro:bit を使って子供たちが楽しみながらプログラミングの学習や創作をしている。鳥辺裕香さんの本業はシステムエンジニアだ。自分のスキルを活かして地元に貢献したいという思いから1年前にこの任意団体を立ち上げた。

今回は、クラブのメンバーである弟の鳥辺雄一さん(医療業界のサービスエンジニア)と、同じくメンバーで高校2年生の娘・紗弥香さんを誘い、自動運転UXにチャレンジした。

「きっかけは2024年に隣接する周南市で行われた自動運転バスの実証運行をみんなで体験したこと。これを岩国の観光振興に役立てられないかという発想が生まれました」(裕香さん)

提案内容は、人気のサンドボックスビデオゲーム「Minecraft(マイクラ)」と低速の自動運転車を結びつけ、利用者に錦帯橋など市内の観光スポットを巡ってもらうというもの。まずマイクラで錦帯橋を含む観光地を再現し、バーチャル空間で観光ルートを体験できるようにする。その後、実際の自動運転車に乗ることで、ゲームとリアルの観光体験をリンクさせる。

観光に自動運転車を使うというアイデアは今回のアイデアソンでもよく見られたが、マイクラとのシームレスな連動というところに、このチームのUXの特徴がある。

「マイクラは人気ゲームなので、錦帯橋を自動運転で観光できると知れば、その情報をSNSで拡散してくれる人たちがきっといるはず。」「自動運転は現在のさまざまな実証試験でも時速20kmの低速運行しか認められていない。しかし、この低速を活かして観光ルートの魅力を最大限に引き出せるのでは?」というのが次の発想だった。

「ゴルフ場を自動で走っているゴルフカーあるでしょ。あれみたいに、人が引かずに動く人力車があれば面白いんじゃない?」と提案したのは高校2年生の紗弥香さんだ。

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現在、錦帯橋周辺では人力車の運行はほとんど見られない。京都や浅草のように、人力車観光が根付いている地域ではないため、既存の車夫との競合の懸念も少ない。錦帯橋を案内するだけでなく、地域の飲食店や土産物屋にも客を運ぶ。地域の観光事業者との連携がもちろん鍵になる。

苦労したのは提案をイメージする画像作り。「生成AIに作らせようと思ったけれど、人力車がうまく認識されなかったのか、最初はなぜか未来っぽい宇宙船みたいなデザインになってしまって」と裕香さん。「観光用の馬車っぽくしたくて “かぼちゃの馬車みたいに” と指示を出したら、本当にシンデレラのカボチャの馬車が出てきて、一面カボチャ畑になっちゃって(笑)」と雄一さん。そこから和風の要素を取り入れ、ようやく現在のイメージ案にたどり着いた。

遠慮のない率直な意見交換が、画像だけでなくビジネスモデルを磨きあげた。

自動運転が人々に豊かな未来を約束するためには、安全・安心走行だけでなく、AIとのインタラクティブなやりとりや、Out-Car からのさまざまなサービスやエンタテインメント・コンテンツの提供が欠かせない。

その間を仲介するHMIは自動運転社会実装の成否を握るといっても過言ではない。今回のアイデアソンはそのUXを磨く第一歩となるものだったといえよう。

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「モビリティDXプラットフォーム」(以下、「本プラットフォーム」という。)は、「モビリティDX戦略」に基づき、我が国のSDV、自動運転等のモビリティサービス、データ利活用領域の競争力強化に向けた取組みを推進していくための、様々な企業・人材・情報が集積・交流する新たなコミュニティです。 本プラットフォームにおいては、①人材獲得・育成に関する取組(コンペティションの開催や学習講座の提供)、②企業間の情報共有や連携促進(定期的な情報発信、イベント・ワークショップの開催を行います。これらの取組によって、我が国のモビリティDXを推進し、グローバル競争に勝っていくことを目指しています。 なお、本プラットフォームの運営に係る一連の事務局機能は、公益社団法人自動車技術会が受託しています。

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