【開催レポート】「”まちGrowth Hack!”アイデアソン2025」データと発想で仙台市クリスロード商店街を活性化!
近年、仙台市では「せんだい都市再構築プロジェクト」を通して仙台駅前エリアが再開発され、にぎわいを見せています。その一方で、中心部商店街への来訪者は減少傾向にあります。そこで今回は、商店街の人流を増やし、店舗の売上アップにつなげるアイデアを提案する「”まちGrowth Hack!”アイデアソン2025」を開催。当日の様子をレポートします!テクノロジーで仙台市中心部商店街を活性化させよ!アイデアソンを開催

「データと発想で、仙台市クリスロード商店街をもっと行きたくなる場所に変える1日」をテーマに、「”まちGrowth Hack!”アイデアソン2025」が、2025年8月30日(土)に東京都千代田区で開催されました。本アイデアソンは、仙台市のIT人材UIJターン推進事業の一環で開催されており、参加者に仙台の魅力を伝え、仙台で働く具体的なイメージを持ってもらうことも大きな目的となっています。

会場には仙台市となんらかの縁がある、あるいは仙台市に関心の高い20〜50代まで幅広い年齢層の参加者が集結。プロジェクトマネージャーやITエンジニア、ITコンサルタントなどIT人材のほか、学生やビジネス人材計約30人が一堂に会し、A〜Hの8チームに分かれてアイデア創出にチャレンジしました。
さらに仙台市に拠点を置く企業3社(株式会社NTTデータ東北、匠ソリューションズ株式会社、株式会社ワイヤードビーンズ)の人材も各チームに混じってアイデアソンに参画。仙台市や商店街のことについてよく知る人材として、参加者とともに知恵を出しあいました。
アイデアソンの審査員を務めたのは、仙台市に拠点を置く企業・組合のプレイヤー3名。クリスロード商店街振興組合 専務理事・岩本 富貴(いわもと・ふじき)氏、公園や公共施設、オフィスなどの空間を創造する株式会社ミヤックスの社長室Manager・星川 智洋(ほしかわ・ともひろ)氏、そしてAIサービスやソフトウェアの開発事業を推進する株式会社GROWTH JAPAN TECHNOLOGIES 代表取締役・我妻 裕太(わがつま・ゆうた)氏の3名です。

仙台市経済局イノベーション推進部 イノベーション企画課長の小池 伸幸(こいけ・のぶゆき)氏は開会の挨拶で、「お持ちのスキルを発揮して、自由な発想で、自由なご提案をいただきたいです。仙台市の職員、商店街メンバーなど仙台市のプレイヤーがたくさん来ているので、交流しながら仙台市でITを軸にプロジェクトを動かしたり働いたりするイメージを持っていただけると幸いです」と参加者にエールを送り、アイデアソンの幕が上がりました。
「課題先進地域」仙台市が頭を悩ませる現状と課題とは?
まず、参加者には前提知識として仙台市の現状と課題が共有されました。

仙台市では近年「せんだい都市再構築プロジェクト」が推進され、駅周辺に商業施設やオフィスビルが立ち並んでいます。開発が進んだことで駅周辺では人流が増えた一方、仙台市中心部にある6つの商店街では生活様式の変化も相まって通行者数が減少傾向にあり、人の流れをいかに確保するかが大きな課題となっています。

長年にわたって商店街運営に携わってきたクリスロード商店街振興組合の岩本氏は、「全長285メートルのアーケードを持つ商店街は、東北随一の通行量を誇り、観光資源が豊富。プロスポーツ団体との連携など、活用できる資産は多様です」と話します。
一方で、個店の減少、後継者不足、通行量の減少傾向など課題も複数挙げられました。それらに加えて「商店街単体の課題としては、30〜40年のアーケード維持管理コストの増加、イベントのマンネリ化、ネット購入の影響によるテナント需要の変化があります」と時代の流れによる課題も明らかにしました。
岩本氏は「皆さんから良いアイデアがあれば、早ければ2025年10月、11月から早速実行したい」と、具体的な実装への強い意欲を示し、参加者のアイデアに大きな期待を寄せました。

続いて、同商店街にある1942年創業の二輪総合販売店・株式会社 早坂サイクル商会の代表取締役・早坂 武(はやさか・たけし)氏からは、街中店舗としての挑戦と課題が共有されました。
同店は、自転車からバイク、近年需要が高いという電動キックボード、さらに自転車関連製品まで幅広い製品を扱う専門店。2025年9月現在は仙台市をはじめ、東北エリアで13店舗を展開しており、クリスロード商店街に仙台中央店を構えています。
仙台中央店は、5フロアがある大型店舗。だからこそ「高品質な自転車を1階に展示すると、気軽に買える商品がないのでは、と思われてしまう」敷居が高いイメージが付いていることが悩みの種。また「商店街で現物確認後、ネットで購入する光景を目の前で見た」として、ショールーミング現象による実店舗の厳しい現実も共有されました。
早坂氏は「皆さんの知恵と店舗データでタイムリーな施策が打てるのでは、という期待を胸に今日はここに来ています。アドバイスをいただき、ぜひ今後に生かしたいです」と参加者からの提案を参考に、次なる施策を考えたいと話しました。
データドリブンな商店街運営にチャレンジする「まちテックPROJECT」
アイデアソンでは「データと発想で」がタイトルに掲げられている通り、参加者は「まちテックBI」や「SENDAIデータダッシュボード」で公開されているデータを利用しながら仙台市クリスロード商店街をもっと行きたくなる場所にアップデートするアイデアを考えます。
ここで株式会社ミヤックスの星川氏が、仙台市でデータを活用したTECH事例として「まちテックPROJECT」を紹介しました。

このプロジェクトは、「まち×IT」をキーワードに、仙台市の魅力向上と地元商店街が儲かる仕組みをつくることが目的です。特徴は、まずKPIを設定し、それを実現するために技術を活用する点。具体的には仙台市中心部商店街全体にセンサーやカメラを設置して人流データを取得し、可視化ダッシュボードを作成しています。このデータをもとに効果的な施策を企画・運用し、効果測定することで、来訪者増加と各店の売上向上を目指しています。
具体的な成果も紹介されました:
- 「バン・バル・仙台」
商店街店舗で夜間時間帯の売上が下がる課題に対し、夜の歓楽街に隣接する一番町四丁目商店街で数カ月間にわたり特定の日にバル企画を実行。夜間時間帯の人流が3%増加したことが確認できた
- 「昼飯あります」ポップ施策
あるおにぎり屋では、朝は行列ができるが昼の売上が落ちる課題があった。これに対して「昼飯あります」のポップを店頭に配置したところ、商店街の昼の人流は減少しているにも関わらず、昼食時間帯の売上が上昇したことが確認できた

ここで、参加者にアイデアソンのテーマが発表されました。
今回のアイデアソンでは、仙台市内に住んでいる人をターゲットに以下の2つのテーマから取り組みたいものを選択してIT・デジタルの要素を加味して「1年以内に実現可能で”試したくなる”提案」にチャレンジします。
A案:クリスロード商店街で買い物したくなる”しかけ”をつくれ!
B案:ハヤサカサイクル@仙台中央店で買い物したくなる”しかけ”をつくれ!
多様なアプローチでアイデアを練り上げる2時間20分

12時55分、「仙台市Growth Hack オー!」という掛け声とともにアイデアソンが始まりました。

冒頭5分間、まずはチーム内で自己紹介からスタート。「仙台」という共通のテーマがあるメンバーばかりとあってか、場が一気に温まります。

自己紹介後は、いよいよ2時間20分のグループワークへ。この時間でアイディエーションと3分間のピッチに向けた準備を行いました。
付箋を使ったアイデア出し、データの分析、生成AIとの壁打ち、「Google Maps」での商店街ストリートビュー確認、現地関係者への直接ヒアリングなど、各チームのアプローチはさまざまです。

ワーク中は、審査員の3名や仙台市職員のほか、クリスロード商店街進行組合の方々が各チームを回り、参加者からの質問に答えたり、情報を提供したりとより良いアイデア創出をサポートしました。
「ハヤサカサイクルの主な客層は?」
「商店街では、こんな施策をやったことありますか?」
などと商店街とハヤサカサイクルの現状や課題をさまざま深掘りし、チームで1つの提案をまとめていきます。

グループワーク中盤には、参加者に配られた仙台市のおみやげ「牛たん風味プレッツェル」「どら茶ん ずんだ生クリーム」を頬ばってリフレッシュする人もいました。
仙台市クリスロード商店街にもっと行きたくなる提案を3分間ピッチ!
あっという間にグループワークの時間が終了。ここからは、各チームがデータ分析・リサーチ、ディスカッションを経てまとめた仙台市クリスロード商店街にもっと行きたくなる提案を3分間のピッチでプレゼンしました。
ここからは、各チームの提案を紹介します。
A案:クリスロード商店街で買い物したくなる”しかけ”をつくれ!
まずは、「A案:クリスロード商店街で買い物したくなる”しかけ”をつくれ!」に取り組んだチームのピッチから紹介します。

Bチーム:「ARフォトで家族の思い出&お買い物ポイントゲット!」
Bチームは、商店街の通行量が少ない平日14〜16時の滞在時間延長に着眼したアイデアをプレゼン。商店街限定のARカメラアプリを活用し、子どもが前のめりになってママと店舗巡りすることで滞在時間を延ばす仕組みを提案しました。

Dチーム:「クリスロードで発見!朝時間」
Dチームは、20〜30代のビジネスマン層をターゲットに、朝の時間帯の集客を目指すアイデアを提案しました。具体的には、朝営業している店舗や混雑状況がリアルタイムで知れる商店街のデジタルマップの開発を挙げました。

Fチーム:「壁マップ前での催事を起点としたクリスロード商店街の動線強化」
Fチームは、2025年2月に閉店したイオンモール跡地にある巨大な壁面を活用し、商店街のマップを貼り出して催事を通じて商店街来訪を習慣化させる取り組みを提案。デジタルやスマホでのポップアップ告知も検討されました。

Hチーム:「クリスロードはヘルシーロード」
Hチームは、商店街を健康推進型コンセプトに変え、住人に商店街でのランニング・歩行を推進する施策を提案しました。安全性に考慮して、商店街の歩行者が少ない早朝と夜の時間帯限定のランニングゾーンを整備。ウォーキング・ランニングするだけで商店街店舗でお得に使えるポイントが付与され、集客・消費UPを目指す取り組みです。
B案:ハヤサカサイクル@仙台中央店で買い物したくなる”しかけ”をつくれ!
続いて、「B案:ハヤサカサイクル@仙台中央店で買い物したくなる”しかけ”をつくれ!」に取り組んだチームのピッチを紹介します。

Eチーム:「自転車を愛する人へのライフスタイル支援」
Eチームは、生粋の自転車好きライダーではなく、専門店で買い物するほどでもない中間層をターゲットとした施策をプレゼンしました。自転車レコメンド生成AIを開発・提供し、購入目的に応じた推奨自転車に加え、趣味・嗜好・ライフスタイルに応じたサイクルスタイルやコミュニティも提案するサービスです。そのなかで、商店街にあるアパレル・雑貨店の商品を紹介し、商店街全体で売上アップを目指す、という内容です。

Aチーム:「”入口改革”〜親しみやすさと情報伝達〜」
Aチームは、よりさまざまな層に店舗へ来てもらうための施策として店舗入り口を改革する案をピッチ。主婦層取り込みには「子どもから」というアプローチで、デジタルサイネージ設置による親近感向上と、子どもが遊べるタッチ式デジタル広告の設置を提案しました。

Cチーム:「ランニングバイク講習から始まる自転車のライフサポート戦略」
Cチームは、2025年の夏に猛暑や親世代が多忙で自転車の乗り方を教える時間がないなどの状況から子ども向け自転車の売上が低下しているデータを受け、「ゼビオアリーナ仙台」でのランニングバイク教室を提案しました。仙台市在住の大学生が講師となり、体験型ゲームクリア後に「こども免許証」を発行します。商店街共通ユーザーIDで行動・購入履歴を蓄積し、マーケティング活用につなげる施策です。

Gチーム:「朝食付きキッズ自転車教室でタッチポイント創出!」
Gチームは、土日の朝7〜8時にハヤサカサイクル店前のアーケードで子ども向け自転車教室を開催する施策を提案しました。周辺店と連携した朝食の提供とアプリ上でのスタンプカード機能により定期来店を促進。商店街の朝の空白時間の活用と転勤族のコミュニティ形成も狙います。
優勝はGチーム「朝食付きキッズ自転車教室でタッチポイント創出!」
全チームのピッチが終わると審査員が審査室に移動し、厳正な審査に入りました。

審査基準は、以下の5つ▼
1.課題設定
・商店街や店舗の状況に対して、適切に課題設定がされているか
2.提案内容
・豊かな発想による独創性のあるものか
・デジタル技術の特徴を生かしたアイデアになっているか
・設定したターゲットや課題に対して提供価値が明確になっているか
・実現に向けたハードルや留意点について検討されているか
3.社会的必要性
・仙台市内の人々の生活が豊かになるアイデアかどうか
4.【商店街審査】現場実装度
・「やれそう」「すぐ試せそう」と思えるか
・商店街・店舗側が取り組みやすい仕掛けか
5.【IT審査】データ・技術活用度
・提示データ(BI、人流データ、オープンデータ等)を効果的に活用しているか
・デジタル技術の特性を活かし、課題解決に直結する設計になっているか
本アイデアソンでは審査員票と同時に参加者からの投票も得点に入るため、会場でもどのチームに投票するか熱心に考える姿が見られました。
16時35分、事務局からの「まずは熱いディスカッションができた自分たちに大きな拍手を送りましょう」という言葉で会場が拍手に包まれ、いよいよ結果発表へ。

優勝は、Gチームの「朝食付きキッズ自転車教室でタッチポイント創出!」(35点)!
続く2位はCチーム「ランニングバイク講習から始まる自転車のライフサポート戦略」(17点)、3位はHチーム「クリスロードはヘルシーロード」(11点)と発表されました。

審査員の岩本氏は、Gチームの評価ポイントとして「とても具体的で、明日からでもすぐに実現に向けて動けそうなパッケージ提案だったと思います。満場一致でした」とコメント。続けて「まずは魅力ある街づくり。まずやろうよ、実行していこうよ、という気持ちです。実現に向けて、検討を始めます」と、実装への強い意欲を示しました。

我妻氏は、「3時間でここまでアイデアが出ることに驚きました。自転車講習会のアイデアは、早坂さん自身も悩んでいたとのこと。この後実現に向けて話が進んでいくと思う」と評価しました。
またハヤサカサイクルの早坂氏は「子どもの来店が増えるのが嬉しいです」と話し、「店だけでなくアーケード全体のことを提案してくれたので、理事会で実現に向けて検討したいと思います」と、早速実行に向けて前向きなコメントがありました。
優勝チームインタビュー「私自身がほしいと思うサービス」

優勝チームのメンバーにインタビューしたところ、優勝を勝ち取れたポイント3つが浮かび上がりました。
まず、アイデア創出の過程では「データが多すぎてどこから手をつけていいか分からず最初の方は悩みました」と苦労を明かしながらも、チームメンバーの一人が「私自身がほしいと思うサービス」だと感じる母親目線のニーズから着想を得たことが提案の軸になったと明かしました。
また、「すぐに収益化できた方がいいかな」という実現性を重視し、「商店街全体を巻き込み、舞台として活用する」ことで「個人店の一取り組みにとどまらず、コラボが膨らんで広がりやすい」アイデアを目指したと説明しました。
そして何より「年代も職業も目線も違って、いい感じに混ざって役割分担ができた」として、IT企業のSE、地域活性化に従事する人材、母親、学生など多様なバックグラウンドを持つメンバー構成が、具体的で実現可能性の高いアイデア創出につながったと笑顔を見せました。
アイデアから実践へ。懇親会で深まる参加者交流と未来への期待

アイデアソン終了後には懇親会が開催され、アルコールやピザを片手に参加者同士の交流が行われました。

なかには、「もし今回のアイデアを実行されるのであれば、ぜひ協力させてほしい」と仙台市プレイヤーに声をかける参加者もいて、今後の共創につながるコラボレーションに向けて名刺交換する様子が見られました。
このアイデアソンのためにわざわざ仙台市から来京した参加者も数名いて、異なるバックグラウンドを持つ参加者が仙台市の魅力や今後の可能性について語り合う時間となりました。

約6時間にわたるイベントは最後まで盛り上がり、懇親会終盤では全体で記念撮影。
会場の熱気が冷めやらぬまま、参加者たちは名残惜しそうに会場を後にしました。
今回のアイデアソンは、データを活用した課題解決アプローチと、実際の現場担当者との協働により、「すぐに取り組めそうな」実践的なアイデアが提案されました。特にいくつかのアイデアが実装検討に向けて進むなど、「仙台市でITを軸にプロジェクトを動かして地域を活性化する」という観点で、大きな意義を持つイベントとなったのではないでしょうか。
仙台市IT人材UIJターン推進事業
https://bd.techplay.jp/techdrive-sendai
取材・文=宮口 佑香(パーソルイノベーション)
撮影=刑部 友康
※所属組織および取材内容は2025年9月時点の情報です。
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