仙台X-TECHイノベーションアワード2026 ──「AI×人間の熱意」で付加価値の高いビジネスを見出す(前編)
技術横断型のイノベーションを軸に「日本一のAI-Ready都市・仙台を目指す」をミッションに2018年から進化を続けている「仙台X-TECHイノベーションプロジェクト」。 去る2026年2月27日には、2025年度の活動を締めくくる「仙台X-TECHイノベーションアワード2026」が行われた。その模様を前編・後編に分けてレポートする。
日本一のAI-Ready都市を目指す仙台は「人材育成」から「社会実装」のフェーズへ
アワード冒頭では、仙台市長の郡和子氏が、「本日のイベントが参加者にとって新たな出会いや発想の契機となり、仙台からイノベーションの波が大きく広がることを心より祈念したいと思っています」とビデオメッセージを寄せた。

次いで、仙台市経済局イノベーション推進部イノベーション企画課 課長の小池 伸幸氏が登壇し、「仙台X-TECHイノベーションプロジェクトは今年度で5年目を迎え、これまでに延べ3300名以上の人々に参加いただいている。仙台・東北から新しいチャレンジに果敢に取り組む企業が多いことを本当に嬉しく思っています」と挨拶した。
プログラムの最初は「私とAI」「AIで地域を変えられるか」「これからの人の役割」という3つのトピックをテーマに、オープニングトークが行われた。
登壇者
富士ソフト株式会社 常務執行役員CTO/日本ディープラーニング協会理事
八木聡之氏
渥美坂井法律事務所・外国法共同事業プロトタイプ政策研究所所長
シニアパートナー
落合孝文氏
東北大学 理事・副学長(企画戦略総括)・プロボスト・CDO
青木孝文氏
石巻専修大学経営学部教授
庄子真岐氏
モデレーター
株式会社zero to one 代表取締役CEO
竹川隆司氏
八木氏は、富士ソフトでCTOを務める傍ら、日本ディープラーニング協会(JDLA)の理事としてAIガバナンスやAIセキュリティを担当している。「企業がISO/IEC 42001(AIマネジメントシステムの国際規格)を取得するのは非常にハードルが高い。そのため、もっとライトにAIセキュリティに対する意識変革を図れないかという取り組みを進めています」と述べた。
仙台市出身である落合氏は内閣府の規制改革推進会議で、スタートアップ・イノベーションに関するワーキンググループの座長や、国のDX推進に関するデジタル行財政改革の政策参与を務めている。自身の法律事務所でも、社内におけるAI導入の責任者を担っており、ChatGPTなどの生成AIツールだけではなく、リーガル分野に特化したAIも積極的に活用しているという。
東北大学の副学長を務める青木氏は、トップカンファレンスの査読を行うなかで、「今は半年前の論文を引用するだけで『情報が古い』と判断されるほどAIの進化が著しい。それこそ、2年前の知識は『遠い昔』であり、数ヶ月単位の最新情報を追うことが不可欠になっている」と言及した。

アメリカは国家主導でAI開発を推進する「ジェネシス・ミッション」を立ち上げるなど、科学技術をめぐる世界的な競争が激化している。日本も「AI for Science」を掲げ、富岳などのスーパーコンピュータを総動員し、競争に追いつこうとしているわけだが、「常に高いアンテナを張って、最新技術を使いこなす姿勢が求められている」と青木氏は述べた。
庄子氏は観光を専門にしており、まちづくりのプレイヤーになる若者を育てるために、地域の関係者と協力しながらイベントを主催している。「AIの台頭によって、近年は学生が提出してくるレポートのレベルが上がった」と話す庄子氏だが、学生のレポートを見る際は「AIをどういう風に活用したか」「どうやってプロンプトを書いたか」などをチェックしているという。
ここで、竹川氏が「AI-Ready都市・仙台」の実現に向けて始動した仙台X-TECHイノベーションプロジェクトの5年間の歩みを紹介した。まず、G検定やE資格などの合格者は200名を超え、自治体別のランキングでも全国トップ10を争うほど、仙台・宮城エリアのAI人材育成は着実に進展している点を強調した。
そして、単なる座学に留まらず、地域の人材が地元の企業に伴走して課題解決を行う「PBL(課題解決型学習)」やワークショップを継続することで、「具体的な活用アイデアや事例が生まれる産官学共同のサイクルが定着しつつある」という。ここからは、育成した人材やアイデアをいかに実際の経済的成果や社会実装につなげていくかが、問われていると言えるだろう。
こうしたなか、庄子氏は、AIは「地域を変えられるか」というよりも「地域を変えたいと思う人や組織を後押しする存在」だと捉えている。

資格を取った先に何をやりたいのか。AIでどんなことを成し遂げたいかという明確な目的を持つことが重要になる。
八木氏も庄子氏に呼応するように、AIが人の仕事を「乗っ取る」のではなく、「夢を叶えるためのサポートツール」だと思っているという。「この地域を変えよう」という情熱があってこそ、AIによってその熱量が増幅され、結果として成果につながっていく。

青木氏は「デジタルで何かが変わるか」という問い自体がすでに遅れており、「AIによって人間や社会そのものが変容する『AX』の時代へと、私たちの認識と言葉をアップデートしていく必要がある」と語った。
落合氏は「地域を変えられるか」ではなく「変わらないと維持できない」と持論を展開した。人口減少によって医療や交通などの生活インフラが維持できない地域が急増し、人手不足のなかで地域を支えるためには、AIによる代替やサポートが早急に求められる状況なのかもしれない。
では、AI時代に人間が果たすべき真の役割は何なのか。
庄子氏は、テクノロジーによる「効率化」が常に正解なわけではなく、「人間がどこで、どのような価値を提供するのか」を考えることが重要だと説明した。AIやデジタルが普及するからこそ、事務的な処理を自動化するのではなく、感情や絆を大切にする場面では、人間ならではのコミュニケーションや働きかけが必要になると述べた。
青木氏は今の時代、AIは日進月歩で進化していき、かつ研究のスピードも一段と速くなっているなかで、「ビジョナリー」であることの大切さを説いた。AIの進化が突き抜けて速すぎるゆえに、後ろに続く組織や制度が“置いてけぼり”になっている現状に対し、行政の仕組みや会社の組織風土、ビジネスモデルなどを意識的に“前倒し”でアップデートし、進化のスピードに追いつかせる努力が必要だと話した。
落合氏は、日本の制度がテクノロジーの進化に対して10年くらい遅れていることに触れ、国がルールを決めるのを待つのではなく、現場のプレイヤーが自ら作っていくことが大事になると意見を述べた。一人ひとりが当事者として「どうすればうまくいくか」を考え、問いかけていくことが肝になるだろう。
しかしAIがどれだけ進化しても、一定のハルシネーションやミスは避けられない。だからこそ即座に非を認めて謝ったり、自ら事態を収拾したりできる—つまり「責任」を負えるのが人間独自の強みだと八木氏は語った。
PBLプロジェクト参加チームによるプレゼンテーション
その後、2025年度のPBLプログラムに取り組んだ企業によるプレゼンテーションが行われた。
株式会社稲井「フィッシュミール生産プロセス改善プロジェクト」

株式会社稲井は、養殖魚の飼料となるフィッシュミール製造事業のDX化に取り組んだ。フィッシュミールは養殖魚や動物の餌となる製品で、タンパク率65パーセント以上が製品化の基準となる。しかし、原材料である魚の種類や部位、その量が当日までわからないという環境下で、現場の経験と勘に依存した製造が続いていた。
チームは、「ノウハウの言語化・見える化」を最重要課題と位置づけ、AI予測モデルの構築による脱アナログ化に挑んだ。
過去の日報データを活用し、複数のアルゴリズムを比較検証した結果、タンパク質含有量に最も影響を与える要素が「出口水分量」と「出口ゲート」であることを特定。これまで言語化されていなかった熟練のノウハウを、客観的な管理指標として定義することに成功した。

一方で、手書き日報のデータ化が困難であるという課題も浮き彫りになった。これを受け、現在は日報の電子記録化へ切り替えを進めているという。
今後はWebフォームを通じて直接データを蓄積する仕組みを構築し、AIが動くための土台を整えつつ、蓄積したデータをもとに季節変動を考慮した長期的な検証を行い、製品のタンパク質含有率などの予測精度を磨き上げていくという。さらに高精度なモデルを用いて製造工程のシミュレーションを行い、これまで経験に頼っていた部分を客観的なデータとして「言語化・見える化」にも取り組んでいくそうだ。
そして、既存の原料管理システムとAIを連携させ、「原料入荷当日の生産予測」や「中長期の生産計画」を立てられる体制を目指していくとのこと。
株式会社清月記「地域No.1のライフエンディング・パートナーへ」

株式会社清月記の強みは、葬儀施行から仏壇・仏具販売、花の手配、仕出し料理提供まで一気通貫で内製化している点である。
葬儀業界は多死社会による需要増加がある一方、家族葬や簡易化の進行により葬儀単価が急激に下落している。さらに、核家族化や終活ニーズの多様化など、急速に変化する価値観への対応が課題となっていた。
そのため、顧客満足度の向上とLTVの最大化を目指し、AIチャットボットの開発・導入を提案した。
まずLTVの構成要素を分解したところ、無料会員の加入と葬儀単価の向上が最もレバレッジが利くと判断し、これらに寄与するものとして、「ご遺族に24時間寄り添えるAIチャットボット」の開発に取り組んだ。
実装はDifyプラットフォームを活用し、RAG構成のチャットボットを構築した。当初は社内マニュアルやFAQをそのまま登録したが、抽象的な回答やハルシネーションが発生したため、斎場データをマークダウン形式に変換してチャンク分割を最適化し、FAQを100問から300問に拡充した。その際、自社の強みや独自性も個別にインプットすることで、回答精度が大幅に向上したという。

最終的には、費用の問い合わせや斎場へのアクセス、宗教対応の可否など、顧客からの典型的な質問に対し、選択肢を提示しながら寄り添う回答を実現。現場社員からも高評価を得ているとのこと。
今後は、このチャットボットを起点に予約手配まで完結するエコシステムをプラットフォーム化し、地域の社会的課題を解決するグリーフケアを含めた社会インフラの構築を目指している。
株式会社北洲「AI活用によるユーザーフレンドリー実現へ」

注文住宅メーカーの株式会社北洲は「高性能住宅の技術力」、「顧客ニーズを実現するデザイン力」、そして「経験豊かな社員」という独自の強みを持っている。その一方で、高品質な住まいの価値を共有する難易度が高く「モデルハウスに行かないと伝わらない」という課題を抱えていた。
この課題を解決するべく、顧客フェーズを潜在顧客、顕在顧客、オーナーに分類。そのなかで、営業接点前の「いかに知ってもらうか」に焦点を当てた。
具体的には、モデルハウスを撮影スタジオとして開放する「ぬい活・推し活イベント」と、Google AI Studioを用いた「AIチャットボット」の導入を提案した。

前者はSNS映えする空間体験を通じて、20〜30代の潜在顧客との接点を作り、若年層への認知拡大を狙った。後者は、AIチャットボットによる最適な情報提供で、顧客ニーズに応じた商談への導線を作り、潜在顧客が営業担当者と接触する前の段階で、心理的ハードルを下げつつ魅力を伝える仕組みを実現した。
今後の展望として、AIに全てを任せるのではなく、人の感情に触れる「感情労働」の部分は人間が担い、AIはその判断を支援するという共生モデルを提示した。
次世代のスタンダードを切り拓き続け、誰も価値を見出していない技術革新に取り組んでいく姿勢をアピールした。
──後編に続く
SENDAI X-TECH
https://bd.techplay.jp/sendaixtech/
仙台市 SENDAI CITY : LIFE IS YOUR TIME.
https://lifeisyourtime-sendai.com/
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