サイバーエージェント メディア事業のテクニカルマネージャーが語る、エンジニアのキャリアパス
1998年に設立された株式会社サイバーエージェントでは、メディア事業、広告事業、ゲーム事業で多くのプロダクトを開発、運営している。
テクノロジーが根幹であるともいえる同社において、エンジニアはどのようなキャリアを歩んでいるのだろうか。
本稿では、サイバーエージェントのテクニカルマネージャーとして約400名のエンジニアをマネジメントする藤原聖さんにお話を伺った。
藤原聖(ふじわら・さとる)/株式会社サイバーエージェント メディア統括本部 テクニカルマネージャー。1982年生まれ。東京大学卒。2011年に中途でサイバーエージェントへ入社。
400名のエンジニアをマネジメント
―― まず、藤原さんが貴社でどのようなプロジェクトに携わってきたのかご紹介いただけますか?
藤原 私は2011年に中途でサイバーエージェントへ入社しました。エンジニアとして入社しましたので、当時求められていたのはエンジニアリングのスキルです。
ただ、その頃は新たなプロダクトを立ち上げるチャンスもたくさんあった時期だったんですね。私はレシピ投稿SNS「ペコリ」というプロダクトの新規立ち上げに、エンジニアリーダーとして参加しました。入社してからしばらく経った時期です。
―― 自ら志願してマネージャーになったのですか?
藤原 いえ、手を挙げたわけではありませんでした。弊社では、適性を見て人員を配置する文化がありますので、新規案件の立ち上げの際にはマネジメントができそうな人がアサインされることが多い印象ですね。
「ペコリ」の後は、「Amebaブログ」のスマートフォン向けネイティブアプリの開発チームでAndroidチームのリーダーを担当しました。さらにその後は映像配信プラットフォーム「FRESH!」というプロダクトの立ち上げに参加しました。
これら3つのプロダクトに関わった後、2016年の9月からはテクニカルマネージャーという役職を務めています。
―― 現在、藤原さんはテクニカルマネージャーとして、どのようなミッションを担っているのですか?
藤原 弊社のエンジニア組織は、メディア事業、広告事業、ゲーム事業の大きく3つに分かれているんですね。各事業の担当役員がある程度の自由度を持って組織を編成しています。
その中でメディア事業に関わる約400名のエンジニアを、テクニカルマネージャーとしてマネジメントするのが私の役割です。人事担当もと協力しながら採用や社内異動に関する人事業務や、エンジニアの成長に貢献するような技術的な交流の促進に取り組んでいます。
―― 実際の開発チームはどのように作られているのでしょうか?
藤原 メディア事業の中にいくつものプロジェクトがあります。
例えば、新規プロダクトの開発を行う際には、3名か4名くらいのエンジニアに、デザイナーと企画職の人間が1人ずつ加わってチームを編成します。このくらいの小さなチームでスモールスタートさせることが多いと思いますね。
―― どのような手法で開発されていますか?
藤原 全社として決まった開発手法はありません。チームごとに相談して、チームがやりやすい方法に改善しています。各チームにはエンジニアリーダーがいますので、その人が決めたり、メンバー全員で意思決定したりと様々なパターンがありますね。
私が直近で経験したチームの例ですと、スクラムを採用していました。スプリントごとに機能開発をして、スプリントレビューを行うというフローですね。あわせてKPTによる振り返りを行い、その振り返りで出てきたTryを、また次のスプリントで改善していくという工程ですね。
チームによってはリモート開発も積極的に採用しています。
「飲み会幹事」は優秀なエンジニア?
―― 現在のテクニカルマネージャー職にはご自身で望んで就かれたのですか?
藤原 そうですね。「組織が抱えている課題を解決したい」とずっと考えていてそれを上司や役員に相談したところ、「やってみれば?」と推してもらえた次第です。
私はチームに所属していた頃から、採用とか教育といったマネジメントの分野が好きだったんですね。ですから、そのときから積極的に採用にも携わっていたんです。
でも、私が採用に関わったエンジニアが退職してしまうことがあって、これが私にとって大きなインパクトでした。組織課題の解決に専念したいと思うきっかけの一つでした。
―― それでは現在は完全にマネジメント業務のみを行っているのでしょうか?
藤原 初めはコードレビューを行なったりしていましたが、現在エンジニアリングは行なっていません。とはいえ、元々エンジニアですから、エンジニアリングを自分で行いたい気持ちは当然持っています。
会社としても、エンジニアはスペシャリストとしてキャリアアップしていくことを推奨する文化があるんです。周りのエンジニアを見ても、スペシャリストに寄ったキャリアパスを選んでいる人が多いですね。
私のようなキャリアは、弊社では珍しいです。今後エンジニアリングにに戻ることも十分あると思っています。
―― 以前のようなプロダクトを開発するチームでのマネジメントと、現在のような大きな組織のマネジメントを経験して感じたことを教えてください。
藤原 開発の現場では、エンジニア同士が共通言語を持っています。ですから、いいプロダクトを作ろうというベクトルで合わせやすかった部分はありますね。現在の環境では、日々反省することばかりです(笑)。
今は様々なプロジェクトを横軸で見なければいけません。エンジニアだけでも約400名と組織の規模が大きいので、なにかひとつものごとをやるにも、コミュニケーションをとるにも大変だと感じることは多くありますね。
エンジニアはコードを書けば、それで理解してくれます。でも、異なるバックグラウンドを持った人同士だとそれぞれのベクトルが少しずつ違った方向を向いているので、よく話し合うことが重要だと強く感じています。
―― ビジネス職などエンジニア以外とのコミュニケーションではどのような点に苦労されているのでしょうか?
藤原 共通言語がない点ですね。エンジニアにとっての当たり前は、例えば人事担当にとっては当たり前ではありません。
私自身もチームにいたときにはよくやってしまっていたのですが、他の部門に「エンジニアが扱いやすいツール」を薦めたり、「マークアップ言語ぐらい書いてよ」と伝えたりします。そうすれば、もちろん反発が来ますよね(笑)。
共通言語を持たないエンジニア側と他の部門がお互い寄り添うことが大切だと思いますので、私が橋渡しになれればいいですね。
―― 貴社ではエンジニアにスペシャリストとしてのキャリアを推奨する文化があると伺いました。藤原さんはエンジニアリングのスキルさえあれば、マネジメントのスキルは不要だと思いますか?
藤原 私は、エンジニアにはマネジメントスキルがマストで必要だと思っています。
「ものづくり」をしている会社では、エンジニアにもリーダーシップを発揮する場面が必ずあります。ですから、特にキャリアアップを目指しているエンジニアにとって、リーダーシップを取る能力は必須だと思うのです。
エンジニアとして成功していくには、ある程度のリーダーシップ能力を備えてスペシャリストになるというキャリアが素晴らしいのかなと個人的にも考えています。
―― それは「チームにマネジメント力を持った人が必要」というわけではなく、「チームメンバー全員にマネジメント力が必要」ということでしょうか?
藤原 メンバー全員がリーダーシップを持っていたほうが、チーム開発はうまく回ると思います。
よく社内では飲み会のたとえ話をするんですよ。
―― 「飲み会」ですか?
藤原 飲み会の幹事ができる人は、飲み会の参加メンバーとしても優秀だと思っているんです。幹事の経験があれば、出欠の返事がなかなか来ないことや、ドタキャンがいかに辛いかわかっていますよね。だから、自分が参加者の立場でもそういった行為はしないんです。
これはチーム開発でも同じです。リーダーとして優れている人はつまり、メンバーとしても優れた人です。ですから、全てのエンジニアにリーダーシップのスキルが必要だと私は考えています。
―― 最後に、どのようなエンジニアが貴社に合っていると思うか教えてください。
藤原 弊社ではエンジニアに関わらず「素直な人」「変化に強い人」を求めています。
もちろん、それはエンジニアにも言えることです。技術はどんどん移り変わっていくため、まずその変化に柔軟に適応できること。そして、新しい技術を導入した際には、必ず議論が生まれますが、そういったコミュニケーションがうまく取れること。このような素養があって、技術的な成長を求める人と一緒に働けたら嬉しいですね。