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「なぜ作るのか」「なにを作るのか」にAIはUX設計プロセスにどう寄与するのか
株式会社ニジボックス
UXディレクション室
室長 吉川 聡史氏
ニジボックスからは、組織で重要な意思決定フローと、想いを込めたものづくりの未来を探しているという吉川聡史氏が登壇した。
前職は漫画家であったという吉川氏は、ニジボックス入社後、イラストレーター、アニメーター、デザイナーなどクリエイティブな領域の業務に携わった後、ディレクション業務も経験。現在はUXデザイナーとWebディレクターが所属するUXディレクション室の室長を務める。
本セッションでは、生成AIを活用したUX設計について解説した。まずは失敗例について「いきなり打ち手(答え)を求めてしまうこと」だと述べるとともに、ChatGPTでの具体的なやり取りの紹介を行った。
その上で「なぜ作るのか。なにを作るのか。AI活用者自身が組織における意思決定者に対し、説明できない状態であることが問題です」と、失敗理由も併せて述べた。
そして、このようなイントロダクションを踏まえた上で、改めて組織における意思決定について詳しく解説していった。
組織において意思決定がなされる場合、一般的には達成したいゴールやKPIを掲げ、実現に向けてどのような課題があるかの仮説を構築するなど、現状を理解した上で打ち手を考察し、実施していく。
ただし、打ち手は何でもいいわけではない。コストは適正であるか、蓋然性は高いかどうか、打ち手を講じたプロセスは納得度のあるものであったかどうか、などの課題がある。まさに先の失敗例とは真逆で、組織における意思決定者が納得できる要素が必要不可欠だからだ。
では、冒頭で紹介した失敗例とは異なり、意思決定者に対し納得度のあるプロセスはどのように生み出せばよいのか。吉川氏は数字などの定量データに基づく根拠、ユーザーの声や現場の暗黙知といった定性データの両方を踏まえた上で、なにをなぜ作るのかが説明できることが重要だと、改めて述べた。
その上で、このような納得してもらえる自分の思考プロセスを可視化することも重要だ。その自分の思考プロセスをAIに再現させることこそ、UX設計におけるAI活用の大切なポイントだと、続けた。
例えば、調査、整理、考察、創造といった流れであるが「あくまで一例であり、人それぞれ色々なやり方があると思います」とも補足。その上で、「当然ですが、各フェーズでAIに求める役割も、活躍度合いも異なってきます」と、語った。
さらに調査・整理フェーズは、AIが活躍できるフェーズだという。具体的には調査における補助を、RAG(Retrieval-Augmented Generation)などの技術を用いて、AIが行う。あるいはユーザー調査やUXリサーチなど、人が行った調査結果をAIが整理する、といった活用だ。
対して考察フェーズは、「AI活用が一番難しい」と、吉川氏は語る。そのためあくまでAIの活用は、人間の考察に対する補助的な役割に留めておくべきだと、続けた。
創造フェーズも同様だ。考察フェーズと同様に、AIでは手に入らない現場の暗黙知が大きな要素となってくるからだ。そこで同フェーズにおいてもAIは、あくまで思考の補助などサポート役に徹する。
吉川氏は、説明したようなUX設計におけるAI活用の骨格(勘所)を理解することが重要であり、理解していれば、プロンプト自体はそこまで気にすることなく、気軽に入力すればいいとも述べた。
冒頭の事例を再び挙げ、今度は調査フェーズにおけるプロンプトに限定していることを説明。調査に必要な前提情報からAIに質問してもらうことなど、具体的なプロンプトの内容や意識すべきことを紹介した。
UX設計における主体者は人であり、AIは各思考プロセスを創り上げる上でのサポートツールであること。繰り返しになるが、それぞれの領域におけるAIの役割を理解した上で適切に活用すること。
「このようなAIの使い方を最大限活用することで、より高速かつ高品質なアウトプットが可能になります。そしてこのようなUX設計におけるAIの使い方こそが、現時点の組織における最適解だと考えています」
吉川氏はこのように述べ、セッションを締めた。
【Q&A】参加者からの質問に登壇者が回答
登壇セッションが終わった後は、イベント参加者からの質問に登壇者が回答する、QAセッションも行われた。抜粋して紹介する。
Q.「調査・整理」フェーズでAIを活用した際のハルシネーションについて
吉川:ハルシネーションも含めて、自分の考えとして説明できる状態にまで持っていくことが重要だと思います。例えば、データの信頼性を知見者にファクトチェックしてもらうとか。最終的に自分が自信を持って起案できる状態でいることが重要だと思います。