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「感じよいオンライン」を実現するUXを目指す
株式会社良品計画
ITサービス部コマースサービス 個客サービス推進課
小林 舞氏
良品計画からは、広告代理店を経て2023年に良品計画に入社し、現在は無印良品のネットストアのフロントエンド領域のリアーキテクトを担当する、フロントエンドエンジニアの小林舞氏が登壇した。
良品計画が中期経営計画の中でも掲げている、「感じよいオンラインの提供」を実現するために、無印良品らしいUXを実現する、独自の取り組みについて紹介を行った。
良品計画では普段から従業員が商品や接客について、「これは無印っぽい」「これは無印っぽくない」とのコミュニケーションを、頻繁に交わしているという。
入社以降、このようなシーンや実際の言葉を聞く機会が多くあった小林氏は改めて、「無印らしさ」について、深く考えるようになった。
小林氏の頭に浮かんだのは「シンプル」「丁寧な暮らし」「自然」といったキーワードであり、自然においては30年以上取り組んでいるキャンプ事業やキャンプ研修がきっかけでもあったと、振り返った。
キャンプ研修では最後に無印らしいキャンプについて意見を交わす場があり、経験値などによって回答が異なるが、どれもその人にとっては無印らしさであり、「無印らしさに答えはない」といった結論に至ったと語る。
では、明確な答えのない「無印らしさ」をどのようにオンラインで表現していくのか。小林氏は「つなぐ」「フォークではなく箸」というキーワードを挙げた。
良品計画は素材の選定から商品開発、実際の製造、物流、店舗やECでの販売、リサイクルまで、自社製品のすべての工程を自分たちで手がけるSPA企業である。
そのため「無印のネットストアはただ商品を買ってもらうECではない」と、小林氏は語る。
ネットストアで買ってもらわずとも、webの商品カタログとしてネットストアを使ってもらってもらったり、近くのお店に行く時に欲しい商品の在庫があるかを調べる在庫検索として使ってもらってもらったり、ネットストアで商品を買ってもらうということを目指すのではなく、お客様とお店を「つなぐ」ことをネットストアを通して実現しようとしていると、小林氏は続けた。
良品計画では、小林氏のようなソフトウェアエンジニアにも、商品開発や物流、店舗での接客研修なども行われているという。そしてそのような体験からアイデアが生まれ、ネットストアに新たな機能が実装されたこともある。
個々の商品に振り分けられ、商品のパッケージに印字されている識別番号を、ネットストアでも表記するという配慮だ。オンラインで商品を購入する顧客にとって、この番号は必要ない。
だが、リアル店舗での購入を検討している顧客が、オンラインの商品画面をスマホで撮影し、その画像を店舗で店員に見せる機会が多いことから、店舗で素早く商品を見つけ出すために、オンラインでも商品番号を載せているのである。
良品計画では無印良品のお店に立つ際に3つの大事な考え方がある。ネットストアはその内の「うつわ」に該当し、店舗で商品が置いてある棚を意識する客がいないという体験が、同じく重要な考え方だという。
この「うつわ」を作る上で意識しているのが「フォークではなく箸」という考え方で、フォークは刺すという目的を簡潔に達成できるような「これがいい」形であり、対して箸は、必要な部分以外を全て削ぎ落としているが、刺したり切ったりすくったり、あらゆる目的に沿える「これでいい」形をしている。良品計画は、この箸のような「色々な目的に寄り添うための必要十分な最低限の機能を備える」ことを目指している。
UXデザインというと、オンラインであれば購入というゴールに向かい、ユーザーストーリーやカスタマージャーニーマップを設計することが多いが、良品計画は、商品の購入だけでなく、店舗の在庫検索やWebカタログの機能など、さまざまな目的に寄り添えるようなUXを追求していると、小林氏は語る。
「私たちが目指しているのは、周回遅れのトップランナーです。一番乗りになるようなスピードは重視しなくても、安定したいいものを取り入れ続ければ、周回遅れの中でのトップランナーになり、それは我々にとって一番大事な品質をお客様にお届けできると考えています。実際、何を取り入れ、何を削ぎ落としていて、お客さまとどのようにつながろうとしているのか。ぜひ、見てもらいたいと思います」(小林氏)
【Q&A】参加者からの質問に登壇者が回答
登壇セッションが終わった後は、イベント参加者からの質問に登壇者が回答する、QAセッションも行われた。抜粋して紹介する。
Q.答えがない「無印らしさ」だが、ある程度の社内基準はあるのか?
小林:「これがいい」ではなく「これでいい」、ということが体現できているかどうかがある程度の基準になるかと思います。売り手側の意思を押し付けていないかどうかを、日々意識しています。