【ランサーズ×メルカリ モデレートbyアカツキ】プロダクトをつくってスケールさせる秘話 −サービス立上者によるtips共有とパネルディスカッション−
6月21日(火)19時30分より「【ランサーズ×メルカリ モデレートbyアカツキ】プロダクトをつくってスケールさせる秘話 −サービス立上者によるtips共有とパネルディスカッション−」が開催されました。
業界を牽引する「ランサーズ」と「メルカリ」の講演ということで、参加者は200名を超えました。
イベント前半には、ランサーズ株式会社の代表である秋好陽介さん、メルカリの執行役員であり子会社の株式会社ソウゾウの代表も務める松本龍祐さんのおふたりに、「プロダクトの立ち上げ」「スケールのさせ方」に関してTipsを共有いただきました。
講演のテーマはそれぞれ下記の通り。
「プロダクトをつくってスケールさせる秘話」
ランサーズ株式会社 秋好 陽介さん(@redhat)
「新規サービスの作りかた」
株式会社ソウゾウ 松本 龍祐さん(@Ryo_mats)
さらに、イベント後半には、株式会社アカツキの代表である塩田元規さん(@shiota_entre)をモデレーターに迎えてパネルディスカッションを実施します。
それでは早速、秋好さんのTipsからスタートです!
プロダクトをつくってスケールさせる秘話
秋好陽介(あきよし・ようすけ)/ランサーズ株式会社 代表取締役社長CEO。学生ベンチャー、ニフティ株式会社での経験を経て、2008年にランサーズ株式会社を設立。好きなトイレは、渋谷ヒカリエ11Fのトイレ。
ランサーズ株式会社の秋好さんによる講演では、
- ランサーズの概要
- 立ち上げ期のTips
- スケジュール期のTips
が共有されました。
依頼件数100万件超えのクラウドソーシングサービス
様々なビジネスシーンで耳にする「クラウドソーシング」。しかし、ランサーズが設立された2008年当時、「市場はほぼなかった」と秋好さんは言います。
以前より、時間と場所にとらわれない働き方を創出したいと考えていた秋好さんは、企業と個人のニーズをオンライン上でマッチングさせるクラウドソーシングに可能性を感じ、事業を展開していきました。「ランサーズ」は現在では依頼総額900億円弱、依頼件数は100万件を超えるまでに成長しています。
「ランサーズ」の他にも、個人の得意なものやスキルを売買できる「ランサーズストア」、登録クリエイターによって企業の課題を解決する「Quant(クオント)」といったプロダクトもリリースされています。
「立ち上げ期」の3つの戦略
創立の2008年から2012年くらいまでを秋好さんは「立ち上げ期」と捉えます。
当時はリーマンショックの影響の真っ只中。事業に関してプレゼンしても9割の人には理解されなかったといいます。秋好さんは顧客自身に「自分事化」したイメージを持ってもらえなかったことが原因のひとつと分析します。
そこで、秋好さんは「ユーザーに響くUX」から逆算した施策を実施。まずは、「2万円でロゴが50案集まる」を売りにし、徹底的にロゴのコンペサービスに特化します。これにより、 NHKやYahoo!ニュースで取り上げられ、認知度を高めることができました。
しかし、メディアに取り上げられるも肝心のマッチング案件数は思うほど伸びません。こうした状況を打破すべく「立ち上げ期」に秋好さんが意識した戦略は下記の3点でした。
・薄いクラスタは見ない
単に登録者数などを見るのではなく、高頻度で継続して使ってくれているコアユーザーを重要視します。
・因数分解リリース
施策を細かく分解し、それぞれの効果を検証します。
・ドミナント展開
前述のようにまずは「ロゴ」に特化し、そのノウハウを活かせる分野を「イラスト」「キャラクター」「Webデザイン」「LP」「サーバ」のように少しずつ展開していきました。
「スケール期」の4つの戦略
こうした戦略が功を奏し、2013年には13億円の資金調達を行います。開発チームの規模は5倍となり、新サービスを続々開発していく「スケール期」に移っていくのです。「スケール期」では次の4点を戦略的に行ったと秋好さんは言います。
・空中戦と地上戦のバランス
広告やCMばかり打って(=空中戦)認知を最大化しようとしてもUXが悪くなる。一方、プロダクトの改善(=地上戦)ばかりしていては効果的な成長の伸びが見込めない。つまり、「空中戦と地上戦のバランス」をとっていくことを意識的に行いました。
・潜在ニーズの顕在化
「立ち上げ期」とは違い、顕在化しているニーズのマッチングをしているだけではサービスがうまくスケールしていきませんでした。そこで、秋好さんは顧客が潜在的に持つニーズをヒアリングなどで顕在化し、マッチングの増加を図りました。そして、それを営業活動ではなく、プロダクト上で行えるよう落とし込んでいったのです。
・フローとストックの両観点を持つ
プロダクトを分析するうえで、ユーザーが登録してから成約までのフローを追いがちです。しかし、ストックの観点で見ることも大事だと秋好さんは言います。コアなユーザーの行動を逆引きで計算し、どうやって登録したのかなどを分析するということです。 例えば、「Facebook」では1週間以内に7人と友だちになることが重要なKPIだと言われてます。ランサーズにおいては、ヘビーユーザーであるロゴデザイナーが、1か月以内に1回以上必ずマッチングすることを重要視しました。
・プロダクトごとの本質的なKPIを探す
このようにプロダクトごとで重要なKPIや戦略、顧客セグメントが異なっていきます。そのため、「スケール期」でなすべきことはプロダクト独自の「秘伝のタレ」のような「本質的なKPIを見つける」ことだと秋好さんは言います。
最後に、プロダクトの「立ち上げ期」「スケール期」を通して、「プロダクトマネージャーはどのような役割を果たせばいいのか?」という問題に、秋好さんは「究極的には(作り手主導の)プロダクトアウトではダメです。個人と法人の市場のニーズを汲み取り、システムやビジネスの観点から実現可能な方法でプロダクトとしてアウトプットすることがプロダクトマネージャーの仕事」とまとめました。
新規サービスの作りかた
松本龍祐(まつもと・りょうすけ)/ 株式会社ソウゾウ代表取締役社長兼株式会社メルカリ執行役員。数千万のDL数を誇る女性向けカメラアプリ「DECOPIC」の提供で知られる株式会社コミュニティファクトリーを、2012年にヤフー株式会社へ売却。同社アプリ開発室本部長を経て、2015年5月よりメルカリに参画。新規事業を担当する子会社株式会社ソウゾウの代表取締役社長に就任。
続いては株式会社ソウゾウの松本龍祐さんの講演。松本さんからは
- メルカリとソウゾウの紹介
- 「メルカリ アッテ」の紹介
- 新規プロダクト立ち上げTips
が発表されました。
メルカリの子会社「ソウゾウ」
日本最大のフリマアプリ「メルカリ」を提供している株式会社メルカリは、2013年2月に成立されました。2013年7月にリリースされた「メルカリ」は現在日本で3,000万DL、アメリカで1,000万DLと計4,000万DLを達成しています。
メルカリから松本さん始め4名の社員が出向して2015年9月に新たに設立されたのが株式会社ソウゾウ。ソウゾウはメルカリの100%子会社です。今年3月に「メルカリアッテ」をリリースし、現在約30名のスタッフで運営されています。
「メルカリ アッテ」の3つのコンセプト
「メルカリ アッテ」は、松本さんとインターン生によって構想されたもの。
「メルカリの新規事業ならC to Cかな?」「メルカリがモノだったから、次はサービスC to Cかな?」などと構想を練り上げ、メルカリ同様、全方位でのC to Cサービスという方向性が固まると、海外マーケットも参考にしながらクラシファイド型サービスでいくことに決まりました。ここまでにかかった時間は1ヶ月です。
続いて、UIのコンセプト決め。モックアップツールで様々なパターンを何度も出していき、試行錯誤を重ねる中でUIコンセプトが「チャット感覚」「シンプルUI」「位置起点」の3つに決まっていきました。
ここから地域に特化したクラシファイド型サービスを目指した「メルカリ アッテ」は、ユーザーに支持されるサービスづくりへと注力していきます。そして、以下の3つのポイントを意識して、UXの改善に取り組みました。
・タイムラインのわかりやすさ
開発に関与していないメルカリのカスタマーサポートチームに「メルカリ アッテ」を使ってもらってインタビューした結果、わかりづらいとの声が出たそうです。そこで、タグの使用を決定。ユーザーが求めるものにダイレクトにたどり着けるようになりました。
・チャットらしさ
松本さんは「これからはチャットUIだろう」と昨年の夏より直感的に思っていたとのこと。運営からのお知らせも含め、ユーザーの様々な行動をチャットでのやり取りにさらに統一します。今後は画像や動画も送れるようにアップデートを目指しているとのことです。
・位置起点
3点目の位置起点は、地域コミュニティのサービスであることを意識付けるために設定したと言います。分類には「徒歩」「自転車」「バス」を採用。正確な距離で区切る範囲ではなく、交通手段でいける範囲を使うことで直感的に理解できることを重要視しました。
ユーザーはどのように「メルカリ アッテ」を利用しているのでしょうか。主な利用方法は3点です。
- 「モノをあげたり、売ったりすること」
- 「サービスを提供すること」
- 「仲間を募集すること」
送料が高いものを手渡しで売買したり、洋服選びを手伝うサービスを出品したり、フットサルや卓球の仲間を募集していたりと、「地域」という視点がある「メルカリ アッテ」だからこそ実現できるものが多くあるようです。
新規プロダクト立ち上げ時の4つのポイント
最後に、松本さんは新規プロダクト立ち上げに関して、下記4つのTipsを共有して講演をまとめました。
・One Concept
初めに、後々までブレることのないコンセプトをつくることが大事だと松本さんは言います。このコンセプトがブレると大変遠回りになるのだとか。 「メルカリ アッテ」の場合は、「クラシファイド型の地域コミュニティ、チャットUIでシンプル」というコンセプトを採用しました。
・Two Pizza Rule
Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏が提唱したのがこのルールです。 2枚のピザを分け合うことのできる5〜8名がメンバー数として最適とのこと。コミュニケーションコストとマンパワーのバランスを取ることは、サービスの成功確率に大きく影響します。
・Three Arrows
プロダクトリリース後の目標は3つまでにするべきだと松本さんは提唱します。 数を絞ることで、チーム全体の目標をメンバー全員で共有し、なぜそれをやらなくてはいけないかを理解しながらプロジェクトを推進できるようになるからです。
・Adventure
チームのメンバーが今までにない技術的、サービス的な挑戦をすることは、全体の気持ちの盛り上がりに良い影響を与えると言います。
大白熱のパネルディスカッション!
イベントの後半はパネルディスカッションです。登壇者も参加者もお酒をいただきながらリラックスした雰囲気でスタートします。
塩田元規(しおた・もとのり)/ 株式会社アカツキ 共同創業者 代表取締役 CEO。横浜国立大学電子情報工学科を経て、一橋大学大学院MBAコース卒業。 卒業後は、株式会社ディー・エヌ・エーでアフィリエイト営業マネージャー、 広告事業本部ディレクターを歴任。2010年にソーシャルゲームなどの開発・提供を行うアカツキを創業。2016年3月に東証マザーズ上場を果たす。
モデレーターを務めるのは、プライベートでも親交があるという株式会社アカツキの塩田さんです。パネルディスカッションは、参加者から寄せられた質問を塩田さんがお二人に尋ねる形式で進行します。
— サービスを設計するうえで行っていることは?
松本 常に様々なサービスを使うように心掛けています。世の中の大きなトレンドを掴むことも大事ですよね。「MixChannel」やライブストリーミングの人気が出てきた時に「あらゆるサービスが動画化していくんだろうな」と感じることが必要です。
秋好 ダウンロードしてちょっと触ってみるだけではなくて、本当にサービスを使うことって重要だと思うんです。「メルカリ」だったら実際に出品してみて、他のサービスとどのように異なるのか体感してみる。
松本 メルカリで「らくらくメルカリ便」がファミリーマートから発送できるようになった際、役員陣はみんなファミマに行って利用していましたね。
— どのくらいの売上を想定していまのサービスを始めた?
松本 海外市場におけるクラシファイド型サービスの規模を見て、トップを走るアメリカ企業の売上が400億円くらい、中国でトップの企業の売上は200億円でした。だから、「メルカリ アッテ」にも100億くらいのポテンシャルはあると分析しましたね。
秋好 事業計画とか一切つくらずに自己資金900万円で事業を始めたんです。その時は売上のことは一切考えていませんでした。売上よりも「オンラインで人が働く世界をつくる」ことを最上位に置いていましたね。資金調達時に事業計画を立てて、市場調査をしたんです。事業規模計算をしたら、日本だけでも4000億円の市場が見込めることが初めてわかりました(笑)。
— 2人は様々なKPIにどう向き合っている?
秋好 KPIはもちろん大事なんですが、それは結果論であって本質ではないと考えています。ユーザーの実像から逆引きしてプロダクトをつくり、その結果がKPIだったりもする。そこのゴールと手段を履き違えないことが重要だと思います。
松本 結局、KPIは直近の過去でしかなくて。そのあと何をすべきなのかは、主観で選ぶしかないんです。だから、自分がユーザーだとしたら何がほしいかと置き換えて考えますね。
— そういった感覚と数字を見るバランスはどうしてる?
松本 全体のバランスを取ることがプロダクトオーナーとしての一番の仕事だと思います。オーナーがプロジェクトを見きれるうちはオーナーがバランスをとり、チームが大きくなり見きれなくなる前にその感覚を文化に落とし込むことが大切ですね。
秋好 数字への向き合い方はフェーズによって変えていました。立ち上げ期には、自分がプロダクトオーナーとプロダクトマネージャーを務め、数字よりも感覚を重視していましたね。この時期のプロダクトには「独裁者」がいることが大事だと思いますよ。数字より、独裁者がどういうミッションでどういうプロダクトにしていくかで進めていくんです。そして、その中で本質的なKPIを上げるための方程式を作ることがプロダクトマネージャーの仕事だと思います。
— 組織としてのマネージメントはどのくらいの時期に意識し始めた?
秋好 30人くらいですね。それまでは自分が中心でなんとかなっていました。
松本 「メルカリ アッテ」は、1年後に40〜50人くらいの規模にすることを目標にしているところです。実は、「メルカリ アッテ」をどうしていくのかという話に自分は関わらないようにしています。リリースから3ヶ月ですが、メンバーに委譲を進めているんです。今のメンバーはセルフドライブできる人ばかりなので、自分が離れても大丈夫だろうと思っています。
秋好 そういう自走できるメンバーを採用するコツってありますか?
松本 一次面接は自分が極力やっています。その時にスキル面はあまり見ません。会社とのカルチャーマッチを重要視しています。目標達成とチームへの貢献欲のバランス感、あとは知的好奇心などですね。端的にいうと「一緒に飲みたいやつかどうか」です。
— プロダクトから自分が抜けて、メンバーに任せるためにどうしてる?
松本 己の欲との闘いでもあるのですが、月に一度くらいしか意見しないようにしています。口を出すのはどうしてもユーザー目線で良くないと思うものくらいですね。
秋好 プロダクトの細かい部分はメンバーに任せて、自分がやっているのは大きく3つのことです。このプロダクトを作って何がしたかったのかを常に言い続けること、優秀な人を雇用すること、自社のサービスを自ら積極的に使うことですね。メンバーに意見は言わないようにしてはいるのですが、週に一度くらいは伝えていますね。
— 「これをやってよかった」と思うことは?
松本 チームのTシャツやステッカー作成、飲み会などですね。一見生産性がないようなことをやることは大事です。
秋好 ビジョンの共有や会社のスピリットを話し合うようなアナログ文化を作ったこと。会社としての差別化要因はここにあると思っています。事業としての「ランサーズ」を模倣することはできますが、このチームの真似はできません。組織が本当の強みなんです。
— 反対に「やらなければよかった」ことは?
松本 今はもう3社目なので過去の反省を踏まえてマネージメントしています。
秋好 会社の成長を急いだときに、採用基準をスキルに設定したことですね。
— 機能の追加など改善時に大事にしていることは?
松本 定性的な感覚も含めた上でのコストパフォーマンス。その感覚もどんどん委ねていきたいです。
秋好 不可逆なこと以外には基本的にチャレンジすることを大事にしている。不可逆なことはユーザーの立場にたって考えぬきます。
— 自分の会社のイケてる点は?
松本 文化祭前日みたいな楽しさが社内にあること。今は本当に楽しんでいる。
秋好 いまだに年次で300%成長していること。働けなかった人が働けるようになる場を提供できていると思っています。あとは、ユーザーにすごく近いですね。
— イケてない点は?
松本 社員20人の企業にしてはベンチャー感が足りない。もう少しシビアな感じがあってもいいかなと思います。
秋好 ベンチャーなのに真面目すぎること。もっとグイグイいってもいいと思います。
— 新規事業を生むコツは?
秋好 経営者は諦めなかったら負けじゃないと思うので、自分のモチベーションを保てる新規事業のテーマを選ぶことですね。
松本 「市場が大きくビジネスモデルとしてイケてるか」と「サービスに落とし込んだときのUIでイケるか」を、同軸で考えることです。
オフレコ的な話も多く飛び出し、パネルディスカッションの予定時間はあっという間に終了します。
最後にモデレーターの塩田さんは「新規事業においては覚悟が大事であり、真摯にユーザーやあらゆる人に向き合い続けることのできる人間がイケてるプロダクトマネージャーだと思います」とまとめました。
懇親会&参加者感想!
パネルディスカッションの盛況で時間が押してしまいましたが、秋好さんの音頭により懇親会が始まります。
短い時間ではありましたが、活発な交流が行われていたようです。
最後に、参加者の感想を少しだけ紹介します!
https://twitter.com/KZendama/status/745253726282092545
https://twitter.com/naru0504/status/745233945906667520
https://twitter.com/shun0102/status/745224686749966341
https://twitter.com/KZendama/status/745218622566469632
秋好さん、松本さん、塩田さん、またの登壇をお待ちしています!
取材・文/108UNITED