実践例から見えた!新規事業におけるチームビルディングの鉄則 〜 Service Design Night vol.3 〜
2016年10月13日(木)、「Service Design Night vol.3 〜 新規事業立ち上げ時のチームビルディングとプロセス 〜」が開催されました。本イベントは、Webサービス開発に特化したデザインコンサルティングと制作サービスを手がける株式会社rootが主催。
毎回、事業開発やプロダクトの構築プロセスで起こりがちな課題に対し、キーノートやパネルディスカッションを通じて解決方法を探っています。また、中でもその解決方法において「デザイナーが活躍できる価値」を見つめ直すのも特色のひとつといえます。
3回目の開催となるこの日のテーマは「新規事業におけるチームビルディング」。立ち上げ時にはどのようなメンバー構成にすべきか?何人体制が理想的なのか?といった「そもそも」論はもちろん、成長フェーズにおける追加メンバーの考え方、事業規模の拡大に伴う方向性の見つめ直しなどを、登壇者が実践例を用いながら共有するひと時となりました。
新規事業開発に携わる人をはじめ、総エントリー107名の参加表明があった本イベント。後方のひな壇席にまで観客の姿が多く見られるほどの賑わいでした。このレポートでは、前半に登壇者3名のキーノートを要約し、後半はパネルディスカッションの模様をお届けします。
「何より大事なのは“誰と始めるか”」株式会社ココナラ取締役・新明氏
まずは、株式会社ココナラの共同創業者取締役である新明智さんが登壇。新明さんは大手ITベンダーでの勤務や、マイクロファイナンスを扱うNPOの立ち上げを経験した後、知識やスキルを個人間で売買できる“CtoCマーケットプレイス”の「ココナラ」を創業、プロダクトマネージャーやデザイングループのグループマネージャーを務めています。
新明さんは膨大な試行錯誤が起きる「0から1へ」の新規事業においては、集めたメンバーのパフォーマンスを高めることよりも、「どんなメンバーを集めるか」に比重を置くべきだと指摘します。
新明さんが勧める人材は、多様性よりも共通性を感じさせ、コミットできる熱量が同じくらいであること。その理由は、PayPalの共同創業者で元CTOであるマックス・レヴチンの言葉を引けば「初期のチームにおいては、高度に均質なバックグラウンド、教育、思考、好みなどがある方がよい。議論のムダが省ける」からであり、熱量の差異によってモチベーションの低下を招かないためでもあると言います。
また、新規事業では「プロダクト」「ユーザー」「ビジネス」の3要素を矛盾を乗り越えながら粘り強く統合できるリーダーも必要だと言い切ります(いない場合は、自分がなることを考える)。矛盾する要素をいかに統合するかを考えられないと、ビジネスだけをみてユーザーを置き去りにして使われないものができたり、プロダクトとユーザーだけをみてビジネスとして価値があるものに着地させず事業継続性が初めからない、といった問題を回避できないからです。
成功する確率を高めるための「メンバー」と「リーダー」の要素を例示し、新明さんは新規事業の出発点を示しました。
「フェーズに合わせた手法を」株式会社スタンダード・鈴木氏
2人目の登壇者は株式会社スタンダードでUX Designerを務める鈴木智大さんです。サービス設計に特化したデザインファームであるスタンダードは受託開発がメイン。しかしながら、ワークショップを通じて「クライアントが自ら組織を動かしていける仕組み」を残すなど、単なる受発注の関係でないパートナーシップの構築を志向しています。
「同じゴールを目指して複数のメンバーが進んでいく」ことをチームビルディングの定義に置く鈴木さんは、キックオフミーティングやアイスブレイクといった数ある手法も「使い分け」が大切であると強調。必要な場面で役割が異なるUXデザインと同じく、フェーズや環境に合わせた手法を選択しなくてはならないと言います。
環境の違いについて、たとえば事業のスタート地点に目を向けてみると、新規事業はチームにカルチャーもないので、組織を変化させながら進んでいける。一方で、既存事業は組織自体が変化しにくくなっているため、新しい施策よりはチューニングが大切になってくるのだとか。
同様に、メンバーのモチベーションに差が出る「トップダウン/ボトムアップ」、優先度で方向性が異なる「ビジョン/ビジネス」、失敗のしやすさに関わる「スタートアップ/大きな企業」の文化といったように、それぞれの環境を俯瞰し、必要なものを選び取ることが不可欠だと鈴木さんは考えています。
特に、所属するスタンダードが手がける受託開発の形式であれば、意思決定は基本的にクライアントが行うため、「変えられること/変えられないこと」のコントロールが及ぶ範囲を明確にしておくが重要であるとして、締めくくりました。
「腹を割るための3ステップ合宿」株式会社アトラエCTO・岡氏
キーノートの最後は株式会社アトラエ取締役CTOで、ビジネスマッチングアプリ『yenta』の開発責任者を務める岡利幸さん。新卒でアトラエに入社、転職サイト「Green」の営業に3年従事した後にエンジニアへ転向した経歴を持ちます。アトラエでは複数の新規事業開発や大阪支社の再建などを経験しました。
岡さんは自らが行った「yentaの合宿」を実例に、より強いチームを作るためにすべきことを紹介。Airbnbで一軒家を借りたyentaメンバー4名の合宿は、3つのステップで進行していったそう。
まずは、お互いの価値観を埋めるための自問自答タイム。「なぜやるのか」「他のプロダクトに何を実現されたら悔しいか」「解決したい社会的課題」「達成したいゴールと、そのためにチームがあるべき姿」といった、サービスやチームの根幹に関わる設問に答えます。この回答をすり合わせることで、価値観における微妙なニュアンスのズレを認識して正せるだけでなく、「自分たちらしい理想のチームとは何か」の像が見えてきます。
次に、その理想を叶えるために「自分を知る」体験として、メンバーのうち1人を退出させ、その1人の良いところ/悪いところを挙げ、出てきた課題を腹を割ってフィードバック。最後の仕上げには、そのフィードバックを基に、メンバー同士がどのようにコミットメントをし合って進めていけるかを話します。弱点も性格も認識し、熱意をサポートし合える相互理解を深め、「言えないことがない状態」に持っていければ、プロダクトを推進しやすくなるのです。
また、岡さんはチームビルディングの手法を学ぶために、Googleのインターンシップを描いた映画『The Internship』が要素をわかりやすく網羅しているとオススメしていました。
パネルディスカッション:「新規事業あるある」を解決しよう
休憩を挟んでのパネルディスカッションでは、株式会社root 代表取締役でデザインディレクターの西村和則さんがモデレーターとして参加。以下、抜粋にてまとめていきます。
— 職種に縛られず「正しさ」を選び取れるか
西村 新規事業のチームビルディングでは「メンバーの人選」が大切ということですが、人選のポイントをもう少し教えていただけますか?
新明 やはり共通性だと思います。僕と(ココナラ)代表の南章行は、大学が一緒で、お互い理念も似ているNPOを立ち上げた経験があり、仕事の仕方がプロフェッショナルファーム文化で、音楽が好き……と、後から振り返ると共通の価値観が多くて、ココナラの方向性もぶつからなかったんです。ただ、ケンカはすごくします(笑)。それくらいの距離感というか、間柄になっていたいですし、根本的な部分でズレがないことが大事ですね。
岡 僕も変なことで気を使いたくないので、そういう関係性を作れるのを大前提にしていますね。それから、自分の職種にこだわりすぎずに動ける人がいるかも大事だと思ってます。僕はもともと営業畑からキャリアをスタートして、現在はエンジニアですが、初期の段階では開発より営業が必要だと判断すれば、営業に徹する。「自分はエンジニアだからコードを書いていたい」というようなスタンスではなく、職種に縛られず、プロダクトを前へ進めるための「正しさ」を選び取れる人がいいですね。
— 人数を拡大するフェーズでは「言語化」が効く!
西村 組織の文化醸成では、初期フェーズでは対面コミュニケーションが大事ですが、人数が増えた時にはどういったアプローチが有効でしょうか?
新明 経営陣が大事にしてきた価値観を文章化して、バリューや行動指針、あるいは社是に落とし込んで共有することです。事業を進める中で価値観が問われるような印象的だった出来事を思い出して判断基準や大事にしたいことを言語化するんです。それ以外にも、新規事業の初期衝動をエモい文章にして残しておくのがオススメです。ココナラもローンチから4年経ちましたが、初期衝動って忘れていくんですよ。つい最近もココナラ立ち上げ時に残していた文章を見返したんですが、今見ても意外といいこと言ってるし(笑)、根本の価値観や成し遂げたい世界観は4年たっても変わらない。見直すと初心に戻れますしね。
岡 アトラエも創業13年で、僕はインターン時代を含めれば11年務めていますが、会社にとって変わらない価値感があります。「儲かっていても、この価値観が保たれなければ(会社を)たたもう」みたいな大事なものです。それを社員全員、業務委託でも何でもすべてのメンバーで共有しています。それによって統一感が生まれたり、すべての意思決定基準となって機能しています。
— 全員イエスマン&早期拡大は失敗の素?
西村 新規事業の立ち上げに関して、むしろ失敗事例の要因があれば教えてください。
岡 チームビルディングという観点では、あまり失敗事例ってのはないんですけど、あえてあげるとすると、私が大阪支社を立て直しに行く前にいたチームは、完璧には機能していなかったのかなと思います。当時大阪にいた3人のメンバーは“仲は良かった”んですけど、もし改善点を挙げるとすると、仲が良いことが悪い方向に働き、同調圧力が強くなってしまって、みんながイエスマンになったり、考え方にバイアスがかかったりしていたんじゃないかと思います。
鈴木 チームの早期拡大がよくあるケースではないでしょうか。新規事業なのに、早い段階で10名以上の規模になってくると、明らかにコミュニケーションロスが起きますし、引き際の決断が先延ばしになってサービスをピボットできずにチームごとクローズするというケースも見ますね。さらに言えば、チームの規模に関係なく、失敗を修正しないのが、もっと大きな失策です。たとえば早期拡大には「早めにメンバーがマネジメントの経験値を積める」というメリットもあるのですが、そんな時によく起こる“成長痛”を活用できないと、何も次に繋がりません。
新明 立ち上げだけではありませんが、自分が意思決定したことが失敗した時に「なかったこと」や「曖昧なまま」にするのは一番良くなかったですね。失敗したときこそ丁寧に話すのと、あとはなんだかんだいって失敗した時の後始末って難しいので、はじめに「撤退基準」をつくるのも大事かなと思います。曖昧なままやらず、期限を決めて、ここまでに達しなかったらリソースをこれ以上は割かない、といったように決めるといいでしょう。
— 新規事業は何人がべスト?
西村 実際のところ、新規事業のチームは何人がベストだと思いますか?
新明 少なければ少ないほどいいですね。それでいうと3人か、ぎりぎり4〜5人か。バランス的にはビジネスができる人、エンジニア、デザイナーの3人。少なくとも、1人はやめたほうがいい。事業を批判的に見られずに突っ走りがちなので、一部の特殊な人をのぞいて、だいたいはスピードがめちゃくちゃ遅くなります。ディスカッションができるパートナーは維持したほうがいい。
パネルディスカッションは質疑応答までを含めて、2時間弱の開催。その後は交流会の場が設けられ、「新規事業あるある」など同業者ならではの悩みを共有できることもあってか、あちこちで会話に花が咲いていました。
今後も引き続きService Design Nightを開催していきます。
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