peroli night #1 プロダクトの作り方 —実践編—
8月4日(木)19時30分より「peroli night #1 プロダクトの作り方 —実践編—」が開催されました。
このイベントはキュレーションプラットフォーム「MERY」を運営する株式会社ペロリが主催。開催の発表直後から注目度が高く、増席に増席を重ねた結果、約200名もの方が参加しました。
イベントは2部構成。第1部では、ペロリの代表取締役である中川綾太郎さん、取締役の河合真吾さん、クリエイティブ部とSEO部の部長を務める有川鴻哉さんによるパネルディスカッションが行われます。
「創業者中川、河合、有川による、MERYができるまで、今後。」と題されたパネルディスカッションでは、「MERY」の立ち上げに関わった3人がその誕生の経緯とこれからの展望を話しました。
イベント後半である第2部には、中川さんがモデレーターを務め、株式会社エウレカの取締役顧問である赤坂優さんと株式会社フンザの代表取締役である笹森良さんをゲストに迎えたパネルディスカッションを開催。
「ゼロからプロダクトを生み出した創業者によるパネルディスカッション」というタイトルで行われたパネルディスカッションでは、「プロダクトの生み出し方」に関する3人の熱い議論が展開されました。
それでは、第1部の「創業者中川、河合、有川による、MERYができるまで、今後。」から紹介します!
創業者中川、河合、有川による、MERYができるまで、今後。
中川綾太郎(なかがわ・あやたろう)/ 株式会社ペロリ代表取締役。1988年生まれ。兵庫県出身。2012年、ペロリを創業。現在は個人投資家としても活動中。
パネルディスカッションに先立ち、中川さんはまずペロリについて紹介されました。
株式会社ペロリは2012年8月に創業。シード期にEast Ventures、anriから資金調達し、2013年4月から女性向けキュレーションプラットフォーム「MERY」の運営を開始します。2014年10月には株式会社DeNAによるM&Aを受け、子会社化。2016年7月現在、正社員85名を抱え、その事業規模は右肩上がりに伸び続けている真っ最中です。
月間UUは驚きの2000万!
続いて中川さんは、ペロリが運営する「MERY」を紹介。
「MERY」はファッション、メイク・コスメ、美容、グルメ、恋愛など「女性の生活に関する全てのジャンル」を網羅した情報メディアです。ウェブサービスとしてスタートし、現在はアプリとしても展開しています。
2016年7月現在、「MERY」の月間UU数は2000万(※)、PV数は4億にも達します。アプリのDL数も500万DLを突破し、女性向け情報プラットフォームとしてナンバーワンの利用者数を獲得しています。
※月間UUは、Google Analyticsの集計によるのべ月間利用者数のことで、1ユーザによるスマートフォンやPC等からのデバイス横断でのアクセス重複も⼀部含みます。なおMERYのデバイス比率は、スマートフォン93.8%、PC6.2%です。
その勢いはウェブやアプリにとどまりません。今年3月には、雑誌『MERY』を発売。有村架純さんが表紙の「vol.1」は店舗単位で完売が相次ぎました。8月1日には、高畑充希さんが表紙を飾る第2号も発売。その注目度はますます高まるばかりです。
「作りたいもの」は作らない?
河合真吾(かわい・しんご)/ 株式会社ペロリ取締役。1991生まれ。東京都出身。早稲田大学在学中にインターンとして入社した企業で、未経験ながらエンジニアとしてサービス開発に従事し、最終的には取締役に。20歳のときに中川氏とともにペロリを創業する。
有川鴻哉(ありかわ・こうや)/ 株式会社ペロリクリエイティブ部部長兼SEO部部長。1992年生まれ。東京都出身。MERY立ち上げ時よりデザインおよびSEOに従事。
中川さんによる「MERY」の紹介の後、その「MERY」がどのように生まれたのか、河合さん、有川さんも参加して3名によるパネルディスカッションがスタートします。有川さんをモデレーターに「リリース前後」「現在まで」「未来」の時間軸に区切り、各フェーズでの施策などについて話しました。
— アプリ全盛期にウェブサービスとして「MERY」を立ち上げたのはなぜ?
中川 当時、共同創業者の河合はエンジニアとしてまだ1年くらいの経験しかなかったんですね。僕自身にもビジネススキルはほとんどない状態です。だから、小資本で戦えるウェブを選択しました。アプリは技術的なハードルも高いし、ウェブに比べると柔軟性が低いわけです。後は、ファッションのECマーケットは大きくて、企画段階で126%くらいの成長率だったのも理由です。
— 創業期の目標は?
河合 目標としては低いのですが、まず「死なないこと」「生きること」が目標でした。当時からポール・グレアムを尊敬しているんですけど、ポールが「死ななければ、いずれは勝つ」というようなことを言っていたので、「死なないサービス」を目指しました。数字的な目標というよりも「多くの人が日常的に使ってくれて、たくさんの時間を消費してくれるヤバいサービス」にしたいと思っていましたね。
中川 短期的には「死なないこと」。とは言え、当初から長期的な展望もありました。ファッションのマーケットサイズは大きいし、アパレルブランドがブランディングのために出稿する額も小さくありません。ですから、「MERY」が大きくなったときに、ECや予約などの機能と連携できるように設計していました。
— なぜこのサービスを始めたの?
中川 「MERY」の構想は初めからあったわけではなく、ヒアリングを重ねる中で見つかったものなんです。ファッションの領域で「衝動買い」であるとか、「欲しいものが見つかる」みたいな感覚がおもしろいんじゃないかと思いました。ファッションサービスとは認知されていなくとも、まとめ型のコンテンツフォーマットはユーザー体験として良質だし、グロースの可能性も高いとヒアリングからわかりました。
— 男性2人で女性向けサービスを始めることについては?
中川 自分がわからないサービスの方が、きちんとヒアリングをして、ユーザーから受け入れられるものを作れると思いました。マーケットを見て、ヒアリングを重ねて、受け入れられるものを作るというスタンスが、サービスを作る基本的なポイントだと思っています。
河合 自分がユーザーであるサービスを作っている人は稀だと思っているので、そこに特別こだわりはありませんでした。
— ゼロからプロダクトを作る上で大切にしていたことは?
河合 作ったばっかりの頃は、グロース以外のことはやらないことが一番大事だったと思っています。他媒体に配信していくことよりも「MERY」そのものが太いチャネルになることを重要視して、それ以外の細かいチューニングはやらないということを意識していましたね。
— 当時と現在とではグロースへの姿勢は変わった?
中川 一番始めはまずUUを優先していましたが、すぐ離脱したら全く意味がないので、直帰率や滞在時間を見てユーザーが定着しているかどうかをチェックしていました。今はアプリなので1日や3日、長期のリターンレートを見ています。また、アプリではユーザーを分類してユーザーごとに動きを見ていくように変わっていますね。
— 創業期の仲間集めで意識していたことは?
河合 「MERY」を伸ばすために「有川さんが絶対に必要だ」と中川と話していました。有川さんはフリーで活動していて、初めは週1くらいで手伝ってもらっていたのですが、採用するために中川が口説きました。
中川 本人を前にちょっと言いづらいんだけど(笑)。創業期に少人数で運営していくために、特定の領域しかできない人だとトータルのスピードがすごく遅くなるんですよね。有川さんはSEOができてUIデザインもできて、グラフィックもできて、マーケティングもわかって、しかも電話もとれる(笑)。
有川 恥ずかしい(笑)。
中川 後からわかったのはフェーズによって必要な人材が異なること。初期は有川や河合のようになんでもできる人が必要でしたが、成長につれて特定の分野にすごく詳しい人が必要になってきています。
— 人数が少ない初期に決めていたことは?
中川 営業は絶対やらないと決めていました。コンシューマー向けサービスを立ち上げるときに、経験とかビジネススキルは全く関係ないので、できないことをやるよりも、自分たちができることをやろうと考えた。電話も徹底して出ませんでした(笑)。
有川 そもそも電話機を置いてなかったですもんね(笑)。
CM放映3週間前にアプリを白紙に
— 「これはいける」と思った瞬間は?
河合 初月から結構PVがあったので「死なないな」と思えました。
中川 初月で200万か300万くらい、約3か月で1000万PVを達成できました。後はPVだけではなく定着率ですね。検索から流入したユーザーはあまり定着しないと言われているのですが、滞在時間や訪問別のページPVもいい数字が出ていたので「これはいけるんじゃないかな」と感じました。
— 新機能を追加するときに心掛けていたことは?
河合 細かい機能を調整することは得意なのですが、「重い機能」を重要視して取り組んでいました。「工数の重さ」っていうだけではなく、例えば「この施策を打てばこの数字が改善する」というような単純な企画よりも、「この施策を打てば、さらに次にこういう仮説の検証ができるようになるはず」みたいにひとつ先を見てインパクトを定義して、優先度を判断するように心掛けていましたね。
— 「収益化」につながる機能として考えていたものは?
中川 「LOVE」の機能ですね。これは、提携しているECサイトの商品に「LOVE」をしておくと、値段が下がったり、売り切れる間際だったり、再入荷したときにお知らせが来る機能です。EC事業者やアパレルブランドからすれば、宣伝になりますし、ユーザーからみれば「記事を読んで終わり」だけじゃないコミュニケーションができるわけです。ですから、スケーラビリティと収益化のバランスを中長期的に考えて、とても重い機能ですが実装しました。細かい施策は後からでもできるので、初期にはこういった機能を優先してガンガンやっていました。
— やってよかったことは?
有川 3回くらい行ったブランドチェンジはかなりよかったと思っています。当初は、自分が男で「かわいい」の感覚をよくわかっていなかったこともあり、まるっこくてピンクな「どストレートに“かわいい”を連想させるデザイン」を作っていました。これを変更したことはユーザー層を広げるのにかなり貢献したと思います。羊のシンボルマークは、ウェブサービスだけではなくリアルへの展開もしていくという意思表示でもあるんです。
— 雑誌を発売してよかった?
中川 とてもよかったです。まず、本質としてはコンテンツを届けられる形態が、ウェブだけに留まらないという点が重要です。さらに、ビジネス的にも広告が一定量事前に予測ができますので、インターネットだけでは作れない予算のコンテンツが作れます。その結果、ウェブのコンテンツにも20万、30万かける流れが加速されています。良質なコンテンツを本気で作る流れを確立するために雑誌はよかったと思います。
— やっていたら危なかったものはありますか?
河合 サービス名を「ガールズまとめ」にしなくてよかった。どう考えてもやばいじゃないですか、雑誌とか絶対出せない(笑)。でも、新しいコンテンツフォーマットが伝わらないので、当時は真剣に悩んでいました。
— 失敗した事例は?
中川 これは初めて話す失敗の事例ですが、美容師さんからの利用がとても順調に増えていた時期があったんです。その時に、美容業界には「予約管理システム」のニーズがあるというのがわかりまして、「MERY」と連携して送客することでユーザーにもメリットがあり、事業としてもシナジーがあるなと思いました。そして、3週間ぐらいで集中して開発したのですが、作り終わった後に「これ、誰が広めるの?」と気がつきました。結局、リリースせずにクローズしています。
有川 アプリに関する失敗もあります。実は、2年くらい前からアプリは作り始めていて、アプリは完成していました。でも、そのアプリはウェブサービスとしての「MERY」の延長線上に過ぎないものだったんです。当時は、それがいいんじゃないかと本気で思っていのですが、だんだんアプリを出すなら大きくシフトチェンジすべきじゃないかという意見が出てきました。ただ、アプリは完成していて、3週間後にCMを打つことも決まっているタイミングです。それでも、アプリは一度出すと印象が強くついてしまうので、ゼロからアプリを作りなおすことに決定しました。CMもリスケして、ゼロからアプリを作って1年前くらいにリリースできましたね。
中川 半年くらいアプリのリリースは遅れたけど、トータルの結果としてはよかったと思いますね。
メディアとしての「MERY」からの脱却
— M&Aをして変わったことは?
有川 優秀な人が増えました。それによって、できることも大きく増えたし、ひとつひとつを深掘りできるように変わったと思いますね。
中川 打てる施策が深くなり、分析なども専門的なチームが組めるようになりました。収益化しながらサービスを伸ばしていくこともできるようになったし、いいコンテンツをつくること、よりマーケティングに加速させることなど、戦い方の幅が明確に広がっている点が、ダイナミズムがあっておもしろいですね。
— サービスとして今後のマネタイズをどう考えているか?
中川 現在は広告の出稿がビジネスの中心です。インターネット上でブランドの価値を伝えやすい場所ってまだまだ整っていないと思いますので、「MERY」のデータを使ってブランドの価値を届けやすい環境を作っていきたいです。それが広告でも、ユーザーにとって楽しめるコンテンツにしていきます。これが短期的に注力していることのひとつです。さらに単なるメディアではなく、ブランドの広告事業や、事業会社のマーケティングに使ってもらえるプラットフォームとして垂直統合できるように目指しています。
— 「MERY」以外のサービスは?
中川 既にリリースしている月額制ネイルサービスの「MERY PASS」もそうなのですが、「MERY」のトラフィックがなくても事業として成立するかどうかを最重要な項目としています。
河合 今、動画の事業も担当していますが「MERY」無しでも「MERY」に追いつけると思ってやっています。雑誌を作ったこともそうなのですが、「MERY」のいいところは異なる形に最適化したコンテンツを作れるところです。だから、動画という新しい表現形態でもいいものを作れると思っています。MERYは「Instagram」にも力を入れていて、7つのアカウントを合計すると60万人くらいフォロワーがいるんです。「記事のメディア」と思われがちですが、それ以外のフォーマットに対しても編集チームがいて、適切なコンテンツを作れることは強みですね。
— 最後に、今後どのような会社にしていきたいですか?
中川 現在は、メディアとしての「MERY」から、サービスとして、プラットフォームとしての「MERY」にすべく力を入れています。僕らはインターネットのサービスがすごく好きなので、そのカルチャーを大切にしています。マネタイズより先にユーザーがあると思うし、自分たちが良いと思うものを大切にして発信していけるカルチャーが根付く会社にしていきたいですね。組織としても、300人、400人の規模にしていくフェーズだと思っているので、まだまだ人が足りません。新規事業にもどんどん力を入れていきますので、こういった状況を楽しめる人は是非来ていただければと思います。
ゼロからプロダクトを生み出した創業者によるパネルディスカッション
赤坂優(あかさか・ゆう)/ 株式会社エウレカ共同創業者 取締役顧問。1983年9月生まれ。イマージュ・ネットを経て、2008年11月に株式会社エウレカを設立し、代表取締役CEOに就任。恋愛・婚活マッチングサービス「pairs」やカップルのためのコミュニケーションアプリ「Couples」を提供。2015年5月、米InterActiveCorp(IAC)に事業売却。2016年9月、取締役顧問に就任。「ライザップ」に通い、1ヶ月半で8kg減量した経験も。
笹森良(ささもり・りょう)/ 株式会社フンザ代表取締役。1979年12月生まれ。楽天、Zynga Japanジェネラル・マネージャーなどを経て2013年3月に株式会社フンザを設立。ジャズ、エレクトロニカを中心とした音楽鑑賞とインターネットが趣味。
第1部終了後、10分ほどの休憩を挟んで第2部「ゼロからプロダクトを生み出した創業者によるパネルディスカッション」に移ります。
第2部は中川さんがモデレーターとなり、パネラーに株式会社エウレカ取締役顧問の赤坂さんと、株式会社フンザ代表取締役の笹森さんを迎えたパネルディスカッションが実施されます。
赤坂さんと笹森さんは、「ゼロからプロダクトを生み出した創業者」として中川さんに呼ばれたわけですが、両者の手掛けている事業を簡単に紹介します。
赤坂さんが創業したエウレカでは、会員数400万人を超える恋愛・婚活マッチングサービス「pairs」と350万ダウンロードを突破したカップル専用のコミュニケーションアプリ「Couples」を運営。笹森さんが創業したフンザでは会員数200万人を超えるC2Cのチケット売買サービス「チケットキャンプ」を運営しています。さらに、赤坂さんと笹森さんは、それぞれ自社をM&Aで売却した経験があります。これは中川さんとの共通点でもあります。
プロダクトを作るときに大事にした、たった1つのこと
— プロダクトをゼロから作るときに一番大事にしたことは?
笹森 フンザの起業は絶対に負けられない戦いだと思いました。なぜならば、起業メンバーは30歳を超えていたり、家庭を持っていたりしたからです。さらに、自分が起業できるチャンスはこれが最初で最後かもしれないと思いました。ですから、なによりも大事にしたのはビジョンではなく「勝つこと」でした。勝てるマーケットを選定して、勝てる戦略を作ることを重要視しました。
赤坂 チケットの事業をやりたかったわけではない?
笹森 特別チケットにこだわったわけでは無くて(笑)。僕がとったのはマーケットインのやり方です。マーケットを深く見ることで競合や関連性あるデータを分析して、「チケットはいける」と参入しました。
中川 どの辺で「チケットいける」と思ったんですか?
笹森 「行けなくなったチケットをどうする?」って聞いてみた時に、誰もバイネームでサービスの名前を挙げなかったんですね。それにも関わらず、チケットの市場はでかいと思ったので、自分たちが乗り込めるんじゃないかと思いました。
中川 赤坂さんは?
赤坂 「プロダクトをゼロからつくるときに大事にしたこと」は、笹森さんと一緒ですね。僕も今の事業領域をどうしてもやりたいという気持ちがあったわけではありません。「確実に勝ちにいけるマーケット」を選んだ結果、たまたま今ここにいるだけです。
— ユーザーを集めるための初期の仮説は?
笹森 チケットが欲しい熱狂的なアーティストのファンって「Twitter」で売買しているんですね。しかし、「Twitter」は決済機能を持っていませんし、いちいちフォローし合ってDMでやりとりして、その結果当日ドタキャンみたいなことが起こっているんです。ですから、「Twitter」にアプローチしていくことが初期の選択だったんですが、かなり上手くいったと思います。
赤坂 最初から狙って?
笹森 この攻めるポイントが見えていなければこのチケット事業をそもそもやらなかった。
赤坂 僕もやっていることは全く同じですね。マッチングサービスは、とにかく“人”が集まらないと回転しないビジネスなので、まず集客が最優先課題でした。では、「そのターゲットとなる見込みユーザーはどこにいるのか?」と考えた時に想定されるのが、検索エンジンとSNSの2つ。そこから「自社プロダクトにフィットするのはどちらのユーザープールか? SNSであればどのサービスか?」と掘り下げていきました。現在、pairsのFacebookページは、ファン数が700万人を超えており、国内最大級のページとなっています。当時、それを作ることができれば確実に勝てるビジネスだとわかっていたので、サービス開発とセットで集客施策に取り組みました。
笹森 マッチングサービスを始めるときに、その施策があったということ? なんで思いついたの?
赤坂 自社サービスを始める以前、まだ広告代理事業をやっていた頃に、ブランド企業の商品販売のお手伝いをさせていただいた経験からですね。企業がカジュアルアプリを作り、そこでのキャンペーンで獲得したユーザーに対し、CRMに基づくコミュニケーションを通して商品を販売する戦略がありました。そこでFacebookマーケティングやUI・UX戦略のノウハウを掴んでいたことが大きいです。
— ユーザーのバランスは? 男女で獲得のペースが違ったりする?
赤坂 うちはマッチングサービスですから、どちらかというと女性ユーザーの比率が少ない傾向にあります。なので、女性ユーザーを獲得するコストの方が高くなりますね。
笹森 チケット事業はC2Cなので、男女では見てないです。「買い手」か「売り手」かで捉えています。でも、「買い手」と「売り手」は表裏一体なので、「買い手だけ集める施策」とか「売り手だけ集める施策」はイメージできませんでしたが、立ち上がりの時点で重要かつ希少性が高いのは「売り手」だと考えていたので「売り手」を優遇する施策を中心におこなっていました。
— プロデューサーとしてどのくらいのディテールまでプロダクトを見る?
笹森 今は4年目なのですが、丸3年間は全てのワイヤーフレーム、施策、メールの文言など、FAQを除いて全て自分で作っていました。自分が一番「チケットキャンプ」のことを考えていると自負していましたから、自分でやるのが効率いいし、人に相談する時間がもったいなかったんですね。4人のエンジニアとのコミュニケーションだけで、ひたすらアップデートを繰り返してました。コミュニケーションコストを最小化したのが少人数時代の特徴でしたね。
赤坂 現在は?
笹森 役割ごとにミッションを決めてゴールを目指す、平行型の開発、事業戦略に切り替えてます。その理由は、いい人材をたくさん採用できているからです。
赤坂 うちも同じ経緯だけど、どっちが正しいのかな?
笹森 プロダクトが伸びるまでは絶対に創業者が見るべきです。それは責任をとれるのは創業者だからです。でも、ゼロからイチになったタイミングでスケールを目指す方が、組織としては正しいと思います。
デザインの変更はしない?
笹森 「MERY」のKPIって、何を見てるんですか?
中川 「記事あたりのPV」は単にこの記事がどうだったかっていう話。ユーザーがどのような体験をしているかが大事なので、「MERY」では「訪問当りのPV」を見ています。
赤坂 中川さんの新機能実装や、UIの意思決定をするアイデア着想フレームワークって?
中川 それ僕が聞きたかったんだけど(笑)。まず、数字とか全部見て、現在のサービスを触りながら「これ使いにくい」っていうダメなところを出していきます。そして、なんでダメなのかを考えることで思いつきます。さらに、競合サービスや全然関係ない海外のサービスを触る中で気づきがあったりします。
笹森 僕はゼロイチのタイミングでは「KPIに直結しないものはやらない」というのが重要だと思っています。例えば、退会機能は今やることではないと思って公開後6か月間は用意してませんでした。
中川 じゃあデザイン変更ってどうしてるんですか? KPIの変化があるかもわからないし難しいですよね。
笹森 うん、だから滅多にデザイン変更はやらない(笑)。
赤坂 やらないんだ? 僕はがっつりやる(笑)。
中川 どういうタイミングでやりますか?
赤坂 細かい機能改善というよりも、サービスを文化の面から根本的に変えなければいけないと感じた時かな。例えば「paris」の場合、ガラケー時代の「出会い系サービス」とは全く異なる、安心・安全な「オンラインデーティング」と呼ばれる領域のビジネスですが、まだまだ世の中からは同じカテゴリのものとみなされてしまうこともあります。そこで、ユーザーアイコンを四角形から丸型にデザイン変更しました。たしかに、四角形の方が画像の面積が大きくてアイコンの表情もわかりやすい。でも、なぜわざわざ丸型に変更したのかと言うと、「丸型の方が“出会い系”のイメージを払拭できるのではないか?」という、主に僕の感性による判断です。そして、適切なタイミングでデザイン変更に取り組んでいると思います。
中川 「MERY」はピンクから白に変えたときに直帰率が減ったんですよ。なんでかと言えば、効果分析はできないので仮説なんですが、ピンクだと「私じゃないかも?」と思う人の幅が増えるんだと思います。このときは「白にしたほうが上がりそう」という理由で判断したのですが、こういう施策を提案されたら、笹森さんはどうするんですか?
笹森 ないない、「言い切れない施策」はやらないんです。赤と白どっちがいいか効果測定するんだったら、自分が「こうだ!」と言い切れる施策に開発コストをぶつけたいんです。
赤坂 そのやり方だと連続的な成長は出来ると思います。でも、そこから非連続的な成長ってできるんですか?
笹森 「これは絶対だ」と思える仮設を数字ドリブンで高速回転させるのが自分の得意なことだし、自分の役割だと思うのでそこまでは僕がやります。そして、そこをやり尽くしたと感じてきたので、最近は新しく採用できた優秀なメンバーに「チケットキャンプ」の成長を任せています。
中川 絶対だと思った施策はどのくらいの勝率なんですか?
笹森 10打数9安打くらいですね。これまで自分が楽天でECをやっていたり、15年くらいインターネット業界に入るので引出しが多い方だと思います。
赤坂 うちもサービス作りの思想はECにあって、「カゴ落ち率」や「レジ前コンテンツ」などを重要視しています。コマース概念を持ってサービス作りができるプレイヤーは、「数字ドリブン×施策」というアイデアのベースがある点が非常に強いですね。
バグ修正より急ぐこと
— 新しい施策はどのように思いつく?
笹森 他社のアプリ、プロダクトを見ているときです。日本や世界を代表するECとかのサイトを見て、そのプロデューサーの意図を汲みとって、それをどう活かすか、みたいな。
赤坂 自分とプロダクトとは違う業種のサービスを使って、その日々のユーザー体験から着想を得ている感じですね。
— 実装する施策の優先順位はどうつけている?
赤坂 プロダクトを頂点として、その下に「マネタイズ」「グロースハック」「キャンペーン」というファネル別のチームがあります。それぞれ頂点であるプロダクトからのトップダウンでKPIを設定しているので、その方向性がブレることはありません。さらに、プロダクトのKPIとメンバー個人のOKRが一致するようにもしているので、事業と組織の連動性もあります。
笹森 うちは全然違う(笑)。まず、チームは分かれていません。「チケットキャンプのエンジニア」がいるだけ。やりたい施策は「Backlog」に全て書き出して貯めていて、それぞれ「売上」「SEO」「バグ」「広告」みたいにテーマわけしてあります。その中で「売上」と「SEO」は常に優先度が高く設定しているので、例えば「新しい売上の施策」が出てきたらバグよりも優先して取り組むわけです。手が早いエンジニアが、優先度の高いタスクに常に取り組めるチームですね。
中川 重要だけど時間が掛かりそうな施策って、後回しにしがちじゃないですか。その優先順位の判断はどうするんですか?
笹森 その優先順位のつけ方こそがプロダクトマネージャーの力量が試されると思っています。プロダクトマネージャーがエンジニア、マーケッターの全てのリソースを握っているとすれば、この順位を間違えてしまうとすべてが無駄になるので、創業者兼プロダクトマネージャーの自分がすべてを決めていました。
赤坂 工数はどう予測していたの?
笹森 小中大に分類していて、さらに3日以上掛かるものはかならず分割してひとつのタスクにしないようにしていました。機能は全て小分けにしています。
— アイディアの精度を高めるためにやったことは?
笹森 カスタマーサポートミーティングの場を、ユーザーの困りごとを共有するのではなくてどうやって解決するか提案させる場にしています。それを四半期にチームごとに150個出させます。それは問い合わせをなくすために「チケットキャンプ」のサービスとして、どんな改善をするべきなのかという提案ですから、カスタマーサポートの意識改革も含めてよかったんじゃないかと思います。
赤坂 カスタマーサポート対エンジニアの対立にはならない?
笹森 ならないですね。
大切なのは「現場感」
— なぜM&Aを選んだのか?
赤坂 オンラインデーティングサービスは、大企業も参入するなど、ひとつの市場として大きく成長してきました。今後、テレビCMの広告審査が業界として認められるようになった際には、確実に大型の資本勝負へと発展することが予測されます。そしてそのとき、このままの延長線上では、自己資本で戦える距離感に自分たちは立つことができていないだろうと判断したのが理由のひとつです。事業売却先として選んだのは、InterActiveCorp(IAC)という米国企業です。オンラインデーティング市場において歴史と実績のある米国企業のKPIを導入した方が、海外でも確実に勝てるサービスを作れるのではないかと考えました。
笹森 スタートしたときに3年で結果を出すことに徹底してこだわりがありました。ですので、いくつか候補があったのですが、M&Aの選択をしたのは目的達成だとも思っています。
— どのようにディレクターやプロデューサーを採用していますか?
笹森 ハードワークに耐えられるか「ガッツチェック」をします。あと、他社とかアプリをどれくらい日常的に見ているかのスマホアプリのチェックはしますね。アメリカのアプリランキング1〜100位まで全部見ているような人を、フンザとしては求めたいと思いますね。
赤坂 一緒にお酒を飲みに行ったりすることで、その人の自然な姿を見て、人間的に信頼できるか見ていますね。
笹森 そこに行くまでは?
赤坂 面談ではやっぱりスマホチェックですね。
笹森 最近、「CocoPPa」でアイコンをピンクだらけにしている女の子が来て、評価に迷った(笑)。
— 最後に、参加者の皆さんに一言お願いします。
笹森 僕はインターネットが大好きで、今でも仕事だと思ったことが一度もないくらいどっぷりハマっているんですけど。ここにいる人達もインターネットが大好きな方だと信じていますので、刺激し合い、新しいことに挑戦してネット業界を盛り上げていきましょう。
赤坂 中川さんが、今日笹森さんや僕に声を掛けてくれたのは「プレイヤー」であるとみなされているからだと思っています。現場感なくしてサービスを成長させることはできないと、中川さんも考えているでしょうし、僕もそう思います。アプリランキングの1〜150位の順位変動に気づく、アプリアイコンのデザインが変わったら気づく、など。誰よりも調べて手を動かす人が最後は勝つと思っています。そして、傷を癒やすのは結果だけだと思っていて。中川さんが過去にTwitterで「発言する前に結果を出そう」といった趣旨の投稿をしていて、僕も同じことを信念としています。
中川 今日は、「自分が聞きたいこと」を聞こうと思って第2部のパネルディスカッションを企画しました。実際に、様々な話が赤裸々に伺えたと思っています。本日はありがとうございました。
懇親会&豪華おみやげ!
第2部終了後は、赤坂さんの音頭により懇親会のスタートです!
パネルディスカッションが白熱し、予定よりも遅い時間となりましたが多くの方が懇親会に参加。インターネットサービス談議に花が咲き、活発な交流が行われていました。
さらに! 帰り際には発売されたばかりの雑誌『MERY vol.2』を始めとした多数のグッズがプレゼントされました。
最後に参加者の感想を少しご紹介。
https://twitter.com/atakaP/status/761182613155348480
https://twitter.com/Yukimi000/status/761188302670049281
https://twitter.com/Anrit/status/761194013705719808
https://twitter.com/okayama1991/status/761195251633573888
https://twitter.com/makoto0327/status/761205353966993408
https://twitter.com/konshu1002/status/761609720356405249
「peroli night #2」の開催を楽しみにお待ちしています!