事業会社とデザイン会社で、身につく「スキル」と「キャリア」の歩み方に違いはあるか? 〜 Service Design Night vol.4 〜
2017年2月28日(火)に「Service Design Night vol.4 〜 事業会社とデザイン会社 デザイナーぶっちゃけトーク 〜」が開催されました。
昨今では、デザイナーが果たす役割はデザイン制作だけでなく、機能やUIの意思決定プロセスやチームビルディング、仕様設計も含め幅広くなっています。Service Design Nightは、事業開発やプロダクト開発に関わる方向けに、スキルやノウハウの共有、参加者同士の繋がりを広げることを目指してスタートしました。主催しているのは、Webサービス開発に特化したデザインコンサルティングとデザイン制作を手がける株式会社root。
これまでのService Design Nightは「デザイナーはどのような考え方でサービスデザインを行っていくか?」や「組織としてどのようにデザイン思考を取り入れていくか?」といったテーマでイベントを開催。
今回のVol.4では、「デザイナーぶっちゃけトーク」と題して、デザイナー個人のスキルに注目しました。イベントにはデザイナーを中心に、150人以上の方が参加。チケットは告知開始早々に売り切れ、キャンセル待ちが出るほどの盛況なイベントとなりました。
「事業会社とデザイン会社のどちらで働くべきか」というテーマを軸に、現役デザイナー4名のキーノートやパネルディスカッションが行われました。本レポートでは、イベントの模様をお届けします。
キャリアパスは考えすぎず、その時々の興味関心に従って行動する
河原香奈子さん(株式会社バンク デザイナー)
最初に登壇したのは、株式会社バンクでデザイナーを務める河原香奈子さん。「キャリアパスは考えすぎないほうがいい」をテーマに、自身のキャリアを振り返りプレゼンテーションを行いました。
河原さんは、2008年に新卒で出版社のウェブ制作の部署に入社。制作スキル向上を目指して、2010年にウェブ制作会社に転職します。その後、「サービスを育ててみたい」と考え、無料でネットショップを作成できるサービス「STORES.jp」を運営するブラケットに2013年に入社。
2017年に「サービスを立ち上げてみたい」と考えるようになり、株式会社バンクに入社します。河原さんは現在の会社で、「世の中で適切にデザインされていないものを、デザインしたい」という想いを持ちながら、「お金」に関するサービスの立ち上げを準備中だそうです。
河原さんは自身のキャリアを振り返って、制作会社から事業会社へ転職したことがひとつの転機になったと語ります。河原さんが考える、制作会社と事業会社のそれぞれで得られる経験や能力について次のようにコメント。
河原:制作会社時代に得た能力は「引き出しの多さ」と「スピード」です。当時は、華やかなキャンペーンサイトから、証券会社の採用サイトまで、幅広いウェブサイトのデザインを手がけました。その中で、どのような依頼にも応えられる「引き出しの多さ」が身につきました。制作会社には納期が急な案件が来ることもあります。時間が短い中で、クライアントからの様々な要望に応えていくことで、「スピード」も身につきました。
制作会社と対比しながら、事業会社で得られた経験について河原さんは次のように語ります。
河原:事業会社では自社サービスが成長すると、多くの人に使ってもらえるようになる喜びがあります。様々な職能の方とチームを組み、チームの一員としてサービスをつくることも醍醐味のひとつ。自社サービスを手がけていると、イベントなどの場で名刺交換をする時に、「あのサービスのデザイナーなんですね」と認知されやすいのもメリットなのかなと。
最後に、河原さんは「考えすぎないキャリアパス」について次のようにまとめ、キーノートを締めました。
河原:キャリアパスは予測がつかないほうが面白いです。やりきった先に何かが見えてくると信じて、走りながら考えればいいんです。デザインの業界はトレンドも変わりやすいですし、自分自身の興味や関心も変化する。興味や関心の変化に従って、柔軟にキャリアパスを変えられるように、スキルを磨き続け、日々の情報収集を入念に行い、そして、舞い込むチャンスに飛び込む心の準備をしておきましょう。
独自のコンセプトを持つことで、自分だけのデザインができるように
割石裕太さん(株式会社Fablic アートディレクター/UIデザイナー)
続いて登壇したのは、株式会社Fablicでフリマアプリ「フリル」のアートディレクター・UIデザイナーを務める割石裕太さん。
割石さんは制作会社の面白法人カヤックに新卒で入社し、約4年半務めた後、事業会社のFablicに転職。「OH」という個人名義で、ロゴやサービスのデザインも手がけています。
割石さんは「自分を生かすコンセプト」というテーマで発表をする中で「コンセプトが独自性を生む」「自分の強い判断基準を持つ」「語れるストーリーをつくる」の3点について言及。
まず、1点目は「コンセプトが独自性を生む」について。トレンドの移り変わりが激しいデザイン業界において、デザイナーとして認知されるために重要なのは「コンセプト」であると、割石さんは強調します。
実際に割石さんは「OH」という個人名義で活動する際に、活動のコンセプトを「『わ!』より『お!』となる体験を」に決定。デザインを通じて、「わ!」と相手に衝撃を与えるのではなく、驚きよりも納得を感じる「お!」という感嘆を大切にしていると語ります。
割石:デザインスキルは時間をかければ伸びていきます。スキルが伸びるのは周囲の人も同様。周りと差別化を図るために必要なのが、コンセプトです。コンセプトを定めることで、自身の考え方に共感してくれるクライアントと仕事がしやすくなります。そのためには、アウトプットを出すまでのプロセスを可視化することがとても大切。デザインする際に何を考えてつくっているのか、なぜその表現に至ったのか。デザインプロセスを丁寧に伝えることで、自分というデザイナーの存在が認識されやすくなります。
2つ目は「自分の強い判断基準を持つ」こと。割石さんは社会人2年目の頃に「優秀な周囲の人間に気を取られ、自分は本当に何をやりたいのかわからなかった」と当時を振り返ります。「自分は何をやりたいのか」を考える中で、判断基準を持つことの重要性に気づいたそうです。
割石:世の中に求められているデザイナー像に合わせて自分を変えるのではなく、自分がやりたい表現ができる場所を選ぶ。自分なりの判断基準を持つことが、「自分がなりたいもの」に近づくきっかけを与えてくれると思います。
3つ目は「語れるストーリーをつくる」こと。いざ独自のコンセプトを打ち出しても、アウトプットにつながらなければ、認知されにくい。割石さんは、自身のコンセプトを反映させつつ、年にひとつは自信作をつくることを意識して活動していると語ります。2015年には、日本の伝統を新しい形で世界に発信するプロジェクト 「tsune ni idm -つねにいどむ-」のロゴ・プロダクト・ウェブなどブランド全体のデザインを担当したそうです。
割石:コンセプトがないままで作品を作っていると、自分のポートフォリオに掲載される作品はバラバラになりがちです。コンセプトに基いてデザインをしていくことで、作品に自分自身の色が濃く反映され、ひとつの語れるストーリーが生まれます。コンセプトは、人生のコンパスのようであり、これまでの道のりをあらわす地図のような存在でもあるのです。
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事業会社から制作会社への転職経験から考える、デザイナーが身につけるべきスキルとは?