サービスのリニューアルやグロースにおけるチームのあり方とは?〜 Service Design Night vol.5 〜
2017年7月13日(木)に「Service Design Night vol.5 〜大規模リニューアル&グロースハックの舞台裏 〜Webサービスはリリースした後が肝心!〜」が開催されました。
昨今、デザイナーが果たす役割はUIデザインだけでなく、機能やUIの意思決定プロセスやチームビルディング、仕様設計も含め、幅が広がっています。
Service Design Nightは、デザイナーをはじめ、事業開発やプロダクト開発に関わる方向けに、スキルやノウハウを共有し、参加者同士の繋がりを広げることを目指してスタートしました。主催は、Webサービス開発に特化したデザインコンサルティングとデザイン制作を手がける株式会社rootです。 これまでのService Design Nightは「デザイナーはどのような考え方でサービスデザインを行っていくか?」や「事業会社とデザイン会社で身につくスキルとキャリアパスに違いはあるか?」といったテーマで開催されてきました。
Vol.5は、Webサービスのリリース後に焦点を当てて開催されました。当日の内容は、「大企業」と「スタートアップ」の2つのテーマに分かれ、各セッションにプロダクトマネージャー、エンジニア、デザイナーという異なる立場のメンバーが登壇。サービスのリニューアルやグロースの舞台裏、その成功を支えたチームについて語られました。
デザイナーがエンジニアとPMをつなぐ役割を果たす
宮本氏は、広告効果測定ツール「ADPLAN」のリニューアルを担当。そこに古里氏が、デザインパートナーとして同プロジェクトに参加しました。
参考:オプトの広告効果測定ツール『ADPLAN』の大幅リニューアルに貢献したUI/UXデザインパートナーの関わり方【前編】
宮本:オプトの社内にはエンジニア組織がほぼおらず、はじめ「ADPLAN」の開発は外部に依頼していました。2015年4月に「ADPLAN」のリニューアルプロジェクトが始まるほぼ同時期にオプト内にエンジニア組織を立ち上げる計画が持ち上がり、徐々にエンジニアの数が増えていきました。
2016年4月には、同社初のエンジニア組織である「オプトテクノロジーズ」を設立。「AD PLAN」のリニューアルプロジェクトは同時並行で進み、2017年1月に「AD PLAN」の新バージョンがリリースされました。
当初、オプト内にエンジニアがほとんど在籍していなかったこともあり、開発を進める上でのコミュニケーションに苦しんだと、宮本氏は語ります。
宮本:社内に常駐頂き、「ADPLAN」の開発に関わってもらいました。エンジニアの方は、技術力はあるものの、広告の効果測定やアドテクに関するバックグラウンドがないため、ADPLANの目指す世界観やプロダクトの意義を伝えようとしても、共通言語がなく、苦労しました。少しずつ正しい要件の伝え方を学び、コミュニケーションを取れるように工夫していきました。
「ADPLAN」はまずα版をつくり、その後、正式版を開発しました。正式版を開発する際にデザイナーの必要性を感じ、rootに依頼。古里氏はデザイナーとして「ADPLAN」のプロジェクトに参加した当時を次のように振り返ります。
古里:α版の段階では、デザイナーがプロジェクト内にいなかったため、要件がそのまま仕様としてエンジニアに伝わり実装されていました。そのため情報設計やUIデザインがされておらず、実際にα版を使ってみると非常に使いづらい状態でした。まずはプロトタイプから作り直し、プロジェクトメンバーと十分に精査した上で、再度実装へ入っていきました。 「パートナーのようにプロジェクトに関わってくれるので、チームとして動きやすかった」宮本氏はリニューアル時の様子をこのように振り返っていました。
宮本:古里さんが加入することで、実装したい内容をプロトタイプに落とし込めるようになり、プロダクトマネージャーとエンジニアに共通言語が生まれました。
エンジニアやデザイナーが働きやすい体制づくりを実施
「大企業」をテーマにしたセッションには、エン・ジャパン株式会社 次世代HRビジネス開発室 技術責任者 工藤陽氏も登壇。同氏は現在、エン・ジャパンにて新規事業の立ち上げを担当しています。同組織ではこれまでに無料で採用サイトが作れるサービス「engage」の立ち上げを行っています。
工藤:エン・ジャパンに入社する前は、動画制作クラウドソーシング『Crevo』に創業メンバーとして参画し、CTOを担当していました。前職で、自社コーポレートサイトのリニューアルを実施した際に、古里さんにウェブサイトのデザインやグロースハックを担当していただきました。 次世代HRビジネス開発室の立ち上げから半年が経ち、ディレクターやエンジニアを含めて10名ほどの組織に成長しました。現在デザイナーはチーム内にはおらず、rootのメンバーがデザインパートナーとして参加しています。
エン・ジャパンもオプトと同様に、社内にプロダクト開発チームがいない状態から、HR Techに関する新規事業立ち上げが始まりました。工藤氏は社内でのエンジニアやデザイナーの受け入れ体制をどのように整えていったのでしょうか。
工藤:チームみんなで、エンジニアやデザイナーをはじめとするクリエイティブな人たちが働きやすい組織を考えています。これまでに実現したことは、リモートワークの導入やオフィス環境の改善です。今後も職種や時代に合わせた新しい働き方を試していくつもりです。今後は次世代HRビジネス開発室の規模をひとまず20名程度まで拡大していきたいと考えています。 組織内におけるデザイナーの役割を工藤氏は次のように語ります。
工藤:デザイナーはビジュアルでわかりやすく物事を伝えられるので、プロジェクト内ではコミュニケーションのハブとして活躍してもらいたいです。エンジニアのアウトプットは一部の人しか理解できないコードなので、どうしても周囲には伝わりにくくなってしまいます。
月間3000万人が使うサービスのペルソナ設定の難しさ
内野友明氏(Retty株式会社 グロース担当執行役員 )
「スタートアップ」をテーマにしたセッションでは、ClipLine株式会社 取締役 田中信行氏、株式会社マネーフォワード『MFクラウドファイナンス』プロダクトオーナー兼エンジニア 加藤拓也氏、Retty株式会社 グロース担当執行役員 内野友明氏が登壇。 内野氏は、2017年5月に月間ユーザー数が3000万人を突破した実名グルメサービス「Retty」にてグロース担当執行役員を務めています。グロース担当執行役員とは、ユーザー数や投稿数などのサービスの主要KPIの達成を担う役割。3000万人ものユーザーを抱える巨大サービスになるまでに、ターゲットユーザーをどのように設定するかが、Rettyでは課題でした。
内野:Rettyは最初、グルメな人向けのサービスとして始まりました。ですが、サービスを成長させるためには、新しいターゲットユーザーをどのように取り込むかも重要でした。エンジニアやデザイナーとも相談しつつ、事業の根幹に関わる「ターゲットユーザーの決定」は代表ともディスカッションをしながら行っていきました。 ターゲットユーザーが決まった後は、そのユーザーに対してどのような価値を届けるのかを考えなくてはいけません。具体的な機能の提案やプロトタイプづくりはデザイナーを初期から巻き込んで、エンジニア、プランナーが協力して行います。
内野:ターゲットユーザーが決まれば、そのターゲットに近いユーザーに徹底的にヒアリングを行います。デザイナーも同席し、そのユーザーの声を反映させながら、プロトタイプを作り直していきます。そうすることで、組織にプロトタイプをつくる文化が浸透していきます。これにより、サービス設計の上流工程で、ユーザーのニーズを汲んだ機能をサービスに取り込むことができています。
自分が想定ユーザーではないサービスは、ペルソナ設定が重要になる
加藤拓也氏(株式会社マネーフォワード『MFクラウドファイナンス』プロダクトオーナー兼エンジニア)
加藤氏は、プロダクトオーナー兼エンジニアとして、クラウド型の資金調達サービス「MFクラウドファイナンス」を担当しています。マネーフォワードの組織のユニークな点のひとつは、チーム内にプロダクトオーナーと、プロジェクトマネージャーがいること。加藤氏は両者の違いを次のように語ります。
加藤:プロダクトオーナーは、プロダクトを通じて実現したい社会はどのようなものか、そのビジョンをつくります。例えるなら前を見る役割。プロジェクトマネージャーは、ビジョンの達成のために期限を定めてプロジェクトがキチンと前に進めるように調整を行う、例えるなら足元を見る役割を担っています。
「MFクラウドファイナンス」におけるデザイナーの重要な役割は、ユーザーを想起しやすいペルソナをつくること。同サービスはBtoBのプロダクトであり資金調達という分野のため、開発に関わるメンバーのほとんどは対象ユーザーではありません。
加藤:デザイナーと一緒にペルソナやユーザーストーリーを作ることで、想定ユーザーが明確になり、そのユーザーの不安や課題を解消するための機能の仮説を立てることができます。また、資金調達というセンシティブな分野でもあるので、ユーザーからのフィードバックを集める方法もよく考える必要があります。 「MFクラウドファイナンス」では、法人企業の経営者や個人事業主のほかに、税理士や会計事務所、銀行の融資担当者にもヒアリングを実施。サービスを使用する様々なユーザーの声をプロダクトに反映させることで、グロース戦略に活かしているそうです。
継続的なサービスグロースを可能にする組織創りの難しさ
田中信行氏(ClipLine株式会社 取締役 )
ClipLine株式会社は、国内・海外に多店舗を展開している企業に対して、SaaS型の動画配信・共有サービス「ClipLine(クリップライン)」を提供。田中氏は「ClipLine」のプロダクト開発部門で責任者を務めています。 同サービスは、動画を活用した店舗スタッフの教育や事例・ノウハウ共有から、本部が遠隔地にある多店舗とのコミュニケーションとマネジメントのために利用されることが多いという。
動画を活用することにより、従来の紙マニュアルの利用や、対面教育(OJT)では難しかった、接客や商品製造の技術習得を容易にしたり、本部と店舗間で発生する伝言ゲームのような非効率なコミュニケーションやマネジメント上の課題も解消されるとのことです。 現在ClipLineは、吉野家やクリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン等の外食系企業だけでなく、医療、介護、小売、美容や金融業界の幅広いサービス業で導入されています。
田中:ClipLineは、店舗数によってユーザー数が異なるのですが、大規模なチェーン店を展開するような企業では、1企業で数万人が利用して頂いています。利用するユーザーは、店舗のアルバイトから、本部の営業部マネージャーや人事部の教育担当者の方になり、各ユーザーの目的に合わせたアプリケーションを提供しています。
様々なユーザーが使うサービスだからこそ、各ユーザーからのフィードバックを集め、各ユーザーの目的を達成できるようにプロダクトを改善することが重要になります。そのためには、店舗のユーザーからフィードバックを集める機会を増やしていく必要があります。
田中:プロダクトに対するフィードバックは、本部のユーザーは直接頂く機会は多いのですが、店舗のユーザーから直接フィードバックを頂く機会はまだまだ十分ではないと考えています。店舗のユーザーは、リテラシーレベルも様々で、デザインやユーザービリティだけでなく、全体の利用体験を継続して良くしていかないと使ってくれなくなるので、店舗のユーザーから直接フィードバックを得るための機会をこれまで以上に増やして、サービスをグロースできるようにしていきたいです。
ClipLineには、動画の制作支援を行うグラフィック部門、顧客への提案・導入支援を行うセールス・コンサル部門、継続利用のサポートを行うCS部門とプロダクト開発部門のメンバーを合わせて、現在25名のメンバーが在籍しています。
サービスを利用するユーザー数の増加や、組織規模の拡大が重なり、「プロダクトデザインに関する考え方のズレが起きている」と、田中氏はサービスを成長させる上での課題について語ります。
田中:プロダクトデザインはプロダクト開発部門で取りまとめているのですが、サービスをローンチした頃と違い、日々利用して頂いている既存のユーザーがいる中で、新しいビジネス要件、ユーザーニーズ、技術要件のバランスを取るのが難しくなってきています。部門のメンバーそれぞれでバックグラウンドが異なることや、顧客の業界や主な利用用途が違うことにより、プロダクトデザインに関する考え方がズレてしまうという課題も出てきています。
このような組織課題は「30人の壁」と呼ばれています。田中氏は改めてサービスを成長させるスピードを上げていくために、社内共通の判断基準の決め直しや、社内の仕組みのブラシュアップにいま取り組んでいるそうです。
最後に
サービスのグロースや、リニューアルを成功させるには、チームを組成し、ユーザーからのフィードバックを集めながら、サービスを改善する。この基本的なプロセスを徹底して行う必要があります。これは大企業も、スタートアップも、同様です。
その中でも組織作りやプロダクト開発を円滑に進めるための仕組み作りを行うことがサービスグロースの要になるのではないでしょうか?
プロダクトマネージャー、デザイナー、エンジニアが個々に活躍するのではなく、それぞれの連携を促し、より効果的な仕組みを構築をすることでグロースするサービスや大規模リニューアルが成功するのではないでしょうか。