「マネージャーなんて“道具”と思ってもらえればいいんです」メルカリの成長を支えるエンジニアリングマネージャー対談!
フリマアプリ「メルカリ」を運営する株式会社メルカリの創業は2013年2月。創立から4年が経過した現在「メルカリ」は、日本・アメリカの2カ国で提供されている。DL数も伸び続け、国内では4,000万DL、アメリカでも既に2,000万DLを突破した。このような急スピードでスケールするプロダクトの展開を、エンジニアチームはどのように支えてきたのであろうか。
本稿では2014年末からメルカリへ参画し、現在はそれぞれエンジニアリングマネージャーを務めている新井啓太さん、濵本喜章さんにお話を伺った。
新井啓太(あらい・けいた)/株式会社メルカリ エンジニアリングマネージャー。ウノウ株式会社、株式会社クロコスをはじめとする複数の企業での勤務を経て、2014年末にメルカリへ入社。現在は、サーバーサイドエンジニアのマネージャーを務めている。
濵本喜章(はまもと・よしあき)/株式会社メルカリ エンジニアリングマネージャー。サイバーエージェントグループの企業などでの勤務を経て、2014年末にメルカリへ入社。現在は、CXIチームのマネージャーを務めている。
マネージャーはメンバーの「道具」
―― まず、新井さんのこれまでご経歴を教えてください。
新井 新卒でエンジニアとしてキャリアをスタートさせて以来、数社に勤務したのですが、あるとき「技術的にトガッたところで働きたいな」と考えていました。
そこで当時としては画期的だったのですが、エンジニアが技術ブログを書いているなど独自の文化があったウノウ株式会社に入社しました。ご存知の通り、ウノウは現在メルカリの代表である山田進太郎が設立した会社です。
―― 当時から接点があったのですね。
新井 ウノウで5年くらい働いた後、株式会社クロコスへ転職しました。クロコスは、メルカリのCTOである柄沢聡太郎らが創業した会社で、現在はヤフー株式会社に買収されています。
ちょうどその買収の時期、2014年末のことですが、山田がエンジニアを探していたのでメルカリに入りました。
―― 続いて、濵本さんのキャリアをご紹介ください。
濵本 前職ではサイバーエージェントグループの企業でエンジニアを務めていまして、検索エンジンやリスティング広告を担当していました。他にもSNSプラットフォームとか、そこに紐付いたソーシャルゲームの開発をしたりもしていましたね。
そこから、私も2014年末頃にメルカリへ入社しました。
―― 新井さんも濵本さんも同じくらいの時期にメルカリへ参画されたのですね。当時はどの程度の規模だったのでしょうか?
濵本 全社で約60名、エンジニアは15名くらいの時期でした。ちょうどたくさん採用し始めた時代です。
―― メルカリへ入社してからはどのようなミッションを担われているのでしょうか?
濵本 入社当時はサーバーサイドエンジニアとしてコードを書いていました。その後はエンゲージメントチームというユーザー向けのプロモーションを担当しています。
さらに、現在はCS部門が使うオペレーションシステムを開発するCXI(Customer Experience Improvement)というチームに所属しておりまして、エンジニアリングマネージャーとして活動中です。
新井 入社して初めの3ヶ月くらいはエンジニアとして配送案件を担当し配送会社と連携する仕組みづくりを、そのあとの数ヶ月は初めて出品したユーザーに対する仕組みづくりを担当しました。
2015年の夏頃、社内のリソースを見直すプロジェクトが立ち上がったんですね。そのときには、全エンジニアの9割をアメリカプロジェクトのリソースに充てることが決まりました。9割というと残りのエンジニアは1人だけです。そして、私だけで日本のプロダクトを見ることになりました(笑)。
そこから、プロデューサーとともに日本のプロジェクトマネジメントを行なったりもしながら、現在はサーバーサイドのエンジニアリングのマネジメントを行っています。
―― 開発手法は全社で決まっているのでしょうか?
新井 基本的にチームは機能で分かれているのですが、ワークフロー自体はどのチームもそれほど離れていません。開発手法は各チームがそれぞれの機能に適したものを選択していますね。
例えばスクラムでやっているチームもありますし、外部連携を担当するチームはウォーターフォールで開発しています。チームは5名か6名くらいの規模がほとんどなのですが、各チームのリーダーが決めたり、メンバー全員で話し合って決めたりしています。
―― 貴社に根付いている文化があればご紹介ください。
新井 「当たり前のことをしっかりやるのが美徳」という価値観はありますね。
濵本 エンジニアにかぎらず、全社として掲げているバリューのひとつに「Be Professional」というものがあります。
これはエンジニアリング観点から見れば、プロダクトを開発していく過程で溜まってしまう技術的負債を、上手く返済していく働き方が求められているということだと思っています。
実際、エンジニアはその意識を強く持っています。技術的負債や課題に対して、マネージャーの指示がなくても自発的に意見を出して改善する文化がありますね。
新井 「Be Professional Day」という普段できないことを自身でオーナシップをもって行うための日を設けてはいますが、その日がなくても自ずと改善できると思います。
メンバーのプロフェッショナル意識が高く、ひとりひとりのレベルも「濃い」んです。
―― レベルが「濃い」とは?
新井 スキルベースとして、フレームワークやライブラリまで作ることができるエンジニアが多いということです。
私たちマネージャーは「ここ改善したいけど時間を確保してくれ」とメンバーに「道具」として使われていますよ(笑)。
マネジメントスキルよりも大切なもの
―― 現在のマネージャー職には、お二人とも自ら志願されたのですか?
濵本 組織的にマネージャーが必要となり、前職でマネジメント経験があったので任されたという感じです。
メルカリには自主性を持ったエンジニアが多くいるので、人数が少ないうちはマネージャーがいなくても組織はうまく回っていたんです。でも、人員が増えたタイミングで、広範囲でメンバーを見るポジションが必要になったというイメージですね。
新井 私は自ら志願しましたが、濵本さんには私がお願いしたような感じです。
エンジニアを評価するにもCXIチームの細かいタスクを理解するまでの時間は私になかったんですね。そこで、「そうだ、濵本さんがいるじゃん」って(笑)。
―― 業務においてマネジメントとエンジニアリングの割合はどのくらいですか?
濵本 マネジメントが7割か8割ですね。
新井 月によりますが、私も現在マネジメントが8割くらいです。今後も少なくともエンジニアリングに2割くらいは時間を使えるように維持していきたいですね。
濵本 理想論で言えば、マネジメントとエンジニアリングが5対5になればいいですね。メルカリではマネージャーだからといってコードを書けないわけではないので、エンジニアリングがゼロになるのは嫌なんです。
―― マネジメント専門の方はいらっしゃるのですか?
新井 エンジニア出身でマネジメントだけやってる人はいないと思います。
濵本 他の企業でも同じだと思いますが、プロダクト軸とエンジニアリング軸の2つの評価基準があります。会社としてもエンジニアには技術的な成長も求めているんですね。
新井 そうですね。スペシャリストのような役職もありますし、そういった方はマネジメント業務は行わなくてもきちんと評価されています。
―― お二人はマネジメントの業務をどのように捉えているのですか?
濵本 まだメルカリでマネージャー職に就いてからそれほど時間は経っていませんが、一緒に働くエンジニアが100%の力で仕事に取り組める環境をつくれていることは嬉しいですね。
新井 自分がやりたいことのためにあらゆる人を動かせ、会社にも貢献できることがマネージャーの醍醐味だと思います。
例えば、「これから開発環境を新しくするチームが必要になるな」と考えて、そのチームを事前につくったんですね。それが上手く狙いどおりにハマったのは成功事例のひとつです。
私はマネージャーとしてのタスクを自分が担当することが、会社やプロダクトをよくできると思って異動しました。ですから、会社に変えたい部分がなくなったら、エンジニアに戻って開発していくとは思っています。ただ、今はまだまだ変えたいことがたくさんあります。
―― このようなマネジメントのスキルは、全てのエンジニアに必要だとお考えですか?
濵本 いわゆるマネジメントスキルは、必ずしもエンジニアに必要ではないと思います。それよりもエンジニアにとって大切なのは、自身をドライブできるような「自主性」や「主体性」です。
これがないとマネジメント、スペシャリストのどちらの方向にいっても厳しいと思います。
新井 「コミュニケーションスキル」は全てのエンジニアにあったほうがいいと思います。他のメンバーとのコミュニケーションをとって進めるのが得意だったり、仕様要件を聞いて整えるのが上手かったりというようなスキルです。
でも、「マネジメントスキル」は全てのエンジニアには必要ありません。
今お話した「コミュニケーションスキル」って、「マネジメントスキル」に近い印象があると思います。私はその2つには差があると考えています。
それは「めんどくさいことまでやる覚悟」があるかどうかという差です。マネージャーをやりたいのであれば、例えば、社内の申請など細かいことまで会社がまわるようにやる覚悟が必要です。
だから、メンバーにも「面倒なことは全てマネージャーに押し付けてくれ」と普段から言っていますし、やっぱりマネージャーって組織が円滑になるための「道具」だと思いますよ。