【コラム】『HOME’S』のリニューアルを牽引し、50名のマネジメントをしたエンジニアが、やっぱり現場に戻った理由。
800万件以上の物件を掲載する『HOME’S』を中心とした不動産関連サービスや、暮らしや生活に関する新たなサービスを数多く開発・運営しているのは株式会社ネクストだ。
創立20周年を迎える同社は「働きがいのある会社」ランキングの常連であることでも知られている。
本稿では、メンバーが一丸となってサービス開発に取り組む環境をいかに作っているか、複数のプロジェクトでマネジャーを歴任したエンジニアである花多山和志さんにお話を伺った。
花多山和志(かたやま・かずし)/株式会社ネクスト HOME’S事業本部 事業統括部 ストック開発ユニット ユニット長 技術マネジャー。1976年生まれ。香川県出身。青山学院大学卒。SIerでの勤務を経て、2009年にネクストへ入社。大の馬好きで、5頭の一口馬主でもある。
マネジメントに専念する葛藤
―― まず、花多山さんのキャリアについてご紹介いただけますか?
花多山 前職ではソフトウェアの受託開発を行う企業に務めていました。そこで約10年間ウェブアプリの開発をしていました。
初めは自分の技術力を高めていけるということがモチベーションでした。しかし、受託開発を10年も経験すると環境を変えたいと思うようになったんです。自分の意思をサービスに反映させたいという気持ちが強くなっていったんですね。そこで、2009年にネクストへ転職しました。
―― ネクストではどのような案件を担当されたのですか?
花多山 初めの3年ほどは、いちエンジニアとして『HOME’S』のサイト改修であったり、バックエンドのシステムを作ったり、iOS用のネイティブアプリの新規開発に参加したりしました。
2012年から1年半くらいの期間は、マネジャーとして『HOME’S』のフルリニューアルの技術統括を担当しました。
―― そのマネジャーの立場には、花多山さんが志願されたのですか?
花多山 そうですね。当時、『HOME’S』は、課金モデルの大幅な変更を行ったのですが、新しいことに対するクライアントからの反発があり、それをうけて社内でもネガティブな声があがってました。
本来であれば、社内の部署間でうまく連携して、サービスを成長させなければいけませんが、社内にはそういった一体感が薄れていたように感じました。私はそれをあまり良くない状況と思い、組織を活性化させたいと考えてました。
ちょうどそのタイミングで、海外研修に参加する機会がありました。自分たちで研修先を決めて、その研修で感じたことを会社に持ち帰るという制度になります。
その海外研修で、ラスベガスのZapposという靴の通販事業を手掛けている会社を訪問しました。なぜ、Zapposを選んだのかといえば、経営理念が社員一人ひとりに深く浸透していて、家族のような企業文化を生み出している会社だったからです。
その研修から帰国した後、組織を活性化していくための取り組みの一つとしてビジョンプロジェクトを立ち上げました。会社のメンバー全員が同じ方向を向けるように、経営理念からブレイクダウンしたビジョンを各組織で定め、上長がそのビジョンをメンバーに浸透させていこうという取り組みになります。
その後、『HOME'S』のフルリニューアルのマネジャーを志願しました。
―― そうした取り組みを通じて、花多山さんが当初マネジメントしていたのはどのくらいの規模のチームでしたか?
花多山 エンジニアだけで20名くらいだったと思います。他の職種も含めると更に人数がいましたので、割りと大きな組織でしたね。
―― その『HOME’S』のフルリニューアルを行なっていた当時は、花多山さんはマネジメントに専念されていたのですか?
花多山 いえ、当時はプレイングマネジャーのようなイメージでした。実際に、『HOME’S』のフルリニューアルにおいては誰よりも手を動かして開発していました。
そのリニューアルが終わった後、2014年にはクリエイター系の部署の部長を務めることになりました。
『HOME’S』リニューアルプロジェクトのマネジャーが「現場の親方」だとすれば、この部長職は「現場の親方の親方」といったところでしょうか。組織を束ねるためのマネジメント職です。
―― その部署はどのくらいの規模だったのでしょうか?
花多山 ディレクター、デザイナー、エンジニアなどが50名ほどでしたね。
そういった組織をマネジメントする役割が大切で、誰かがやらなければいけないとはもちろんわかっているのです。ただ、実際にその立場になってみると漠然とした違和感を感じるようになりました。
―― それはなぜですか?
花多山 自分のエンジニアとしての伸びしろを感じることができなくなってきたというのが大きいと思います。
業務の中心は、組み立てた戦術を元に組織を運営していくことですが、事業的な判断はできても、エンジニアリングから遠ざかることで技術的な観点で適切な判断ができなくなっているもどかしさを感じました。
そこで、1年間その部長を務めた後、自身で考えた新しいサービスを自らの手で立ち上げたいという思いから、現場に戻してほしいとお願いをし、新サービスの立ち上げを行いました。
それが、昨年リリースした地図上からマンション物件の参考価格がわかる「HOME’S プライスマップ(http://www.homes.co.jp/price-map/)」です。
―― 「HOME’S プライスマップ」では、花多山さんご自身も開発されているのですか?
花多山 そうですね。ただし、プランニングから開発まで全て私ひとりだと滞ってしまいますから、予算だけは会社からもらいまして協力会社とともに開発して作り上げていきました。
現在、このプロダクトだけを担当しているわけではありませんが、社内に15名ほどのメンバーがいる部署になっています。
「マネジメント」は「推進すること」
―― これまでに現場のマネジメントや、組織のマネジメントを経験されたわけですが、どのような感想をお持ちですか?
花多山 マネジメントそのものは嫌いではありませんし、必要だと思っています。それはどうしてもひとりでできることには限界があるからです。
組織がビジョンを実現するには、ビジョンに向かう意義をメンバーに伝えて、組織全体でその目標に進んでいくことが必要です。そして、その過程では業務のひとつひとつがビジョンからブレイクダウンされたものであり、業務を遂行することでビジョンの実現に近づいていると感じられなくてはなりません。
ですから、やっぱりマネジメントは大切なものだと思いますし、エンジニアリングとの割合で葛藤はあったにせよ、今でもマネジメントにはすごくやりがいを感じていますよ。
―― メンバーに「ビジョンの実現に近づいている」と実感させるためにどのような取り組みを行っていますか?
花多山 なるべく定量化した目標を立てることですね。もちろん、その目標はプロダクトがエンドユーザーやクライアントに受け入れられることで達成できるものであり、その達成はメンバーにとって大きな手応えにつながります。
もう一つが、小さな成功体験を積み重ねてもらうことだと思います。業務において、ささいなことでいいから、一人ひとりが成功を実感すること、これによって目指している方向性やゴールのイメージが明確になると思います。
―― 花多山さんはそれぞれのエンジニアがマネジメント力を身に着けたほうがいいと思いますか?
花多山 そうですね、エンジニアであっても会社で働いている以上、マネジメント力は必要ではないでしょうか。
私はマネジメント力とは「推進力」だと思うんです。組織の目標、さらにその先のビジョンを実現する推進力こそが、マネジメント力です。エンジニアであれ、どんな職種であれ、マネジメントスキルは誰もが必要なものだと思います。
―― 具体的に花多山さんが行っている取り組みを教えてください。
花多山 繰り返しになりますが、私はメンバーにビジョンを浸透させることを重要視しています。そのために月1回ユニット全体を集めてビジョンに関する話をしていますね。
その他にも、個人としての成長を促すために、メンバーからの提案には基本やっていいよというスタンスでいることです。その代わり、目標達成はしっかりコミットしてもらう、そのバランスを大切にしています。
それと、もうひとつ常に意識しているのは「決めること」です。
―― 「決めること」ですか?
花多山 決断ができない人はマネジャーになるべきではないと私は思います。
私たちのような自社のプロダクトを展開する仕事では、「AとBで悩んでも、どちらが正解なのかはその時点でわからない」ことがほとんどです。とりあえずは決断したものを信じて世の中にプロダクトを出し、そこからのフィードバックで改良するというサイクルを、いかにスピード感を持って回せるかが重要なんです。
そのためには自分が責任を持って即座に決断することがマネジャーには必要だと考えています。
―― 最後に、どのようなメンバーと一緒に働きたいと思っているのかお聞かせください。
花多山 「自分の手でサービスを作りたい」と考えているエンジニアですね。この「作りたい」というのは、何か特定の機能を指すわけではありません。
私たちにとっての開発とは、単に作るだけではなく、「育てる」という意味合いが強いんです。この意識に共感してくれる人と一緒に働きたいですね。