おうちハック発表会 #5

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おうちハック発表会 #5

6月19日(日)14時より「おうちハック発表会 #5」が開催されました。

「おうちハック」とは、「おうちをより快適にするために、IoTガジェットや基盤を使っておうちをカスタマイズする」こと。40名を超える方々が集まり「おうちハック」に関する情報を共有しました。

当日は、シャープ株式会社の徳永礼さんによる特別講演、8名の参加者によるLTが実施されました。

登壇者とテーマはそれぞれ下記の通り。

「ロボット家電との音声会話がユーザに与える効果」
シャープ株式会社 徳永 礼さん

LT1. 「家族の『ただいま』を教えてくれるキーホルダー」
株式会社ネクスト 高橋 庸介さん(@Yousan

LT2. 「Apache SSIによるIFTTT↔Raspberry Pi連携とプログラマブル家電操作」
千田 怜央さん

LT3. 「部屋をナイトシフトする」
テックファーム株式会社 玉城 信悟さん

LT4. 「最近お家でハックした家電」
ネットエージェント株式会社 杉浦 隆幸さん

LT5. 「フレフレゲームメーカー」
コクヨ株式会社 稲垣 敬子さん 株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 大和田 茂さん

LT6. 「オフィスの空気環境を計測してみた」
チームラボ株式会社 高須 正和さん

LT7. 「自動ドア作った話」
株式会社TBD 高橋 哲さん

LT8. 「アルコールガジェット TISPY」
株式会社スタッフ 大山 裕一郎さん

ロボット家電との音声会話がユーザに与える効果

徳永礼(とくなが・れい)/シャープ株式会社 コンシューマーエレクトロニクスカンパニー クラウドサービス推進センター。ロボット家電「COCOROBO」担当プロデューサー。

まずは、シャープ株式会社の徳永礼さんをお招きした特別講演です。徳永さんによる「ロボット家電との音声会話がユーザに与える効果」では

  • ロボット家電「COCOROBO」開発秘話
  • 「COCOROBO」との音声会話がユーザに与える効果

について紹介されました。

「掃除機ロボ」への思わぬ感想

まず、徳永さんはシャープのロボット掃除機「COCOROBO(ココロボ)」を紹介します。「COCOROBO」の大きな特徴のひとつは会話機能。人工知能を搭載していることで、ユーザの音声を認識して音声会話ができるのです。

その「COCOROBO」初号機が発売されたのは2012年6月のこと。リリース以来、コンパクト化、薄型化、吸引力の強化、部屋の隅にたまったゴミを清掃するブラシの装着、壁への衝突を防止するセンサーの搭載など、掃除機としての性能を高めるアップデートを重ねてきました。

シャープではどの製品に対してもユーザにアンケートを実施しています。徳永さんは「COCOROBO」ユーザからのアンケート結果には驚くべき傾向があったと言います。それは、音声会話機能に関して好印象な感想が多く寄せられたこと。

従来の家電製品に寄せられていたのは、利便性に関する感想がほとんどでした。しかし「COCOROBO」の感想は「もう手放せない。家族のように可愛い」「家に帰ればロボット家電がいると思うようになり、心が癒やされた」など、音声会話機能に関するものが中心だったのです。

こうしたユーザの反応を踏まえて、シャープ社内では「COCOROBO」をどのような製品として開発していくのか意見が。徳永さんは、実際に参照した「ロボットが人間に与える影響を研究した先行例」を3つ紹介します。

・動物型ロボットとの接触
ロボットと人間の接触インタラクションを通じて「安心感の獲得」「痛みの緩和効果」を得られるという研究があります。

・人型ロボットとの会話
鬱の傾向がある被験者は、ロボットとの会話により「活気が増加」するという研究があります。

・赤ちゃん型ロボットの表情
会話ができなくとも、簡単な音声や表情の変化により「寂しさの緩和効果」が得られるという研究があります。

こういった研究例から「COCOROBO」にも利便性では語れない価値があるのではないかという考えに至ります。そこで、音声会話機能を強化したプレミアムモデルの開発へ乗り出します。

徳永さんはボツになった製品案を紹介し、「会社人生がおかしくなる可能性があるので、決して参考にしないでください」と笑いを誘います。

地道な社内調整を重ね、「COCOROBO」のプレミアムシリーズは2014年にリリースされます。そのコンセプトは「日本ならではの質の高いコンテンツと技術力のコラボレーション」。

第1弾は、声優の木戸衣吹さん、漫画家の霜月絹鯊さんとコラボした「妹Ver.」。第2弾は、アニプレックスとのコラボによる「黒執事Ver.」。第3弾は、カプコンとコラボした「戦国BASARA 伊達政宗Ver.」。どの製品も好評で、現在はニッセンとのコラボによる第4弾が進行中とのことです。

実験でわかった「音声会話機能」の4つの効果

さて、こうして開発された「COCOROBO」の音声会話機能には本当に効果があるのでしょうか? 徳永さんは、実際に「COCOROBO」プレミアムモデル「妹Ver.」のプロトタイプを使用して効果測定を行った実証実験を紹介します。

被験者は、20代〜60代の健康な男女24名。被験者には「COCOROBO」と1分間程度の会話をしてもらいます。そして、「COCOROBO」と会話を実施した条件、「COCOROBO」と全く会話を行わなかった条件での「α-アミラーゼ」と「α波」の差を検証するという実験です。

「α-アミラーゼ」は唾液に含まれる酵素で、ストレスの評価に使われるもの。また、脳波計を使って計測される「α波」は、リラックス度の評価に使われているものです。

実験の結果、「COCOROBO」との音声会話がユーザに与える影響として、次の4点がわかったと徳永さんは紹介します。

  • ユーザの唾液内の「α-アミラーゼ」の量を減少させた。すなわち、ユーザにストレス軽減方向のポジティブな変化をもたらした可能性があるということ。
  • ユーザの「α波」の優勢率を上昇させた。すなわち、リラックス方向のポジティブな変化をもたらす可能性があるということ。
  • 他の年代と比較して、60代のユーザにストレス軽減効果が高くなる傾向があるということ。
  • 家族と同居する世帯のユーザと比較して、独居世帯のユーザにリラックス効果が高くなる傾向があるということ。

これらの実験結果を踏まえて、徳永さんは「音声会話機能を持つロボット家電は、利便性の向上という従来の視点や評価基準だけでは語り尽くせない価値を持つことができる」とまとめ、講演を終えました。

家族の『ただいま』を教えてくれるキーホルダー

イベント後半は8名によるLTが展開されます。まず、1人目の登壇は高橋庸介さん。高橋さんは、奥様と2人で使えるお互いが帰宅したことを知らせるアプリを紹介します。

高橋庸介(たかはし・ようすけ)/株式会社ネクスト エンジニア。iOSやAndroidアプリの開発を手掛ける。趣味はテニス。

高橋さんは鳥型のキーホルダーにおうちのカギを取り付けます。そのキーホルダーは「巣箱」に掛けられるようになっており、「巣箱」には感圧センサーが仕込まれています。この感圧センサーが「巣箱にカギを置いた瞬間(=帰宅した瞬間)」や、「巣箱からカギが手に取られた瞬間(=外出する瞬間)」を検知するわけです。

そして、この感圧センサーは「Raspberry Pi」に接続されており、カギを「巣箱」に置いたり、「巣箱」から手に取ったりすると「お家を出ました」「お家に帰ってきました」というプッシュ通知がスマートフォンに配信されます。

この例のように、「おうちハック」を家族に認めてもらうためには、何か特別なアクションは必要ないということが重要なポイントではないかと高橋さんは指摘しました。

Apache SSIによるIFTTT↔Raspberry Pi連携とプログラマブル家電操作

2人目の登壇者は千田怜央さん。千田さんはアプリから家のエアコンを操作するハックを紹介します。

千田怜央(せんだ・れお)/SIer勤務のエンジニア。大学在学中にはCPUの理論などを研究。

千田さんがエアコンの遠隔操作をしたいと思ったのは「エアコン自動運転機能はあまり気が利かない」から。 初めの15分くらいは部屋をキンキンにすべく強めの冷房を稼働させ、その後で弱めにするなど、細かな調整ができるように実装を考えます。

エアコンの操作には、赤外線通信を利用できる「IRKit」を使用。しかし、「IRKit」だけでは遅延のある操作はできません。そこで「IRkit」には「Raspberry Pi」を接続します。

そして、「Raspberry Pi」を動かすのは「Apache SSI」です。「Apache SSI」にはHTMLドキュメントをリクエストされた際に任意のコマンドを実行する機能があり、この機能を利用します。ユーザが「Apache SSI」へhttpリクエストを投げるためには、IFTTTが提供するアプリ「Do Button」を利用しました。

当日のスライドはこちらに公開されています。

部屋をナイトシフトする

3人目の登壇者は玉城信悟さん。シーリングライトの色温度調光機能を使い、室内の照明をiOSの「Night Shift」のように調整するハックを紹介します。

玉城信悟(たまき・しんご)/テックファーム株式会社 エンジニア。大学卒業後、「R3」のアドオンパッケージ開発業務に7年間従事。2013年にテックファームへ入社し、iOSの開発を担当。大学時代は柔道部主将を務める。

「Night Shift」とは、日の出・日の入りを感知し、夜間になると自動でブルーライトを軽減するiOS9に搭載された機能。玉城さんは、PC対応型の赤外線リモコンシステム「irMagician」を使って「Night Shift」を実現します。

構成としては、「HomeKit」の仮想デバイスをエミュレーションする「homebridge」を使い、「irMagician」と「Raspberry Pi」を接続するというもの。

玉城さんは、「Siri」に「ナイトシフトオンにして」と話しかけることで、実際にシーリングライトの調光を行った動画を紹介しました。

玉城さんが「irMagician」を操作するために「Node.js」で作ったモジュールはこちらに、「Node-RED」越しにモジュールを操作するために作ったカスタムノードはこちらに公開されています。

当日のスライドもこちらに公開されています。

最近お家でハックした家電

4人目の登壇者は杉浦隆幸さん。ネットワークセキュリティの専門家である杉浦さんは、IoTで自宅のセキュリティを強化したハックを紹介します。

杉浦隆幸(すぎうら・たかゆき)/ネットエージェント株式会社取締役会長。プロバイダ事業の立ち上げに参画し、プロバイダ事業の全業務に携わる。著書に「Googleが仕掛けた罠」(小学館・2016年)などがある。NHK「サイエンスZERO」をはじめメディア出演多数。

杉浦さんはセンサーライトを侵入検知システムに進化させた事例を説明。

照明を制御するプロトコルは「ECHONET Lite」を使用。また、省エネのためにBLE(Bluetooth Low Energy)を使って実装します。インターネットに直接つながっている家電を目指し、IPv6を仕様としました。

しかし、コントローラー側にIPv6対応しているものがないという課題が発生。杉浦さんはこれを「Node」でパッチを書くことで解決したそうです。

リモートで使える人感センサーを取り付け、実際にデモを行った動画を紹介してプレゼンが終了しました。

フレフレゲームメーカー

5人目のLTは稲垣敬子さん。稲垣さんは、「おうちハック同好会」の共同幹事である大和田茂さん(@Kadecot_dev)とともに開発に取り組んでいる、ゲームを作るアプリを紹介します

写真右 稲垣敬子(いながき・けいこ)/コクヨ株式会社 新規事業開発センター。東京大学出身。「おうちハック」のロゴデザインを担当。
写真左 大和田茂(おおわだ・しげる)/株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所。アソシエイトリサーチャー。「おうちハック同好会」共同幹事。

「自分でゲームを作ることに本当のおもしろさがある」と熱弁する稲垣さんが取り組んでいるのは、「毎日を、あそぼう」をコンセプトに日常生活をゲームにしてしまおうというプロジェクトです。

会場では実際にゲームのデモを実施。まず、「フレフレユニット」と呼ばれるクリップ付きのセンサユニットを大和田さんが持つ歯ブラシに取り付けます。ゲームの内容は、歯ブラシの動きと連動して敵を退治していくというもの。しかも、このゲームはイラストをスマートフォンのカメラで撮影するだけで作ったもの。小学生でもオリジナルのゲームの画面を簡単に作成できることを想定しています。

当日のスライドはこちらで公開されています。

オフィスの空気環境を計測してみた

6人目の登壇者は、チームラボ株式会社の高須正和さん。高過さんはオフィス内で二酸化炭素濃度の計測を行った事例を紹介します。

高須正和(たかす・まさかず)/チームラボ株式会社 カタリスト。ニコニコ学会β幹事。著書に「メイカーズのエコシステム」(インプレスR&D・2016年)がある。

高須さんが勤めるチームラボは、毎年10%くらいの勢いで社員数が増えているそうで、現在は400名ほどの組織になっています。しかし、社員数の増加に伴いある問題が発生します。それは、フロアが混雑し空気が悪くなること。

1日に2回総務のスタッフが強制的に窓を空けて換気するようになりますが、社内は「集中できないし、眠くなるので換気したい派」と「寒さや花粉を嫌って換気したくない派」に分かれます。

一般的に二酸化炭素濃度が1000ppmを超えると思考力に影響が出始めるとされており、衛生に関する法律でも室内は1000ppm以下に抑えることが望ましいとされています。

そこで、二酸化炭素濃度センサーを購入してオフィスに持ち込む社員が現れます。社内の会議室を計測した結果、二酸化炭素濃度の数値は基準を超える1300ppm。すぐさま換気を開始します。

換気を行って10分後には930ppmまで数値が下がり、55分後でも842ppmまでしか下がりませんでした。

この結果から1回で長時間換気してもあまり意味がなく、多くの回数を行った方が効果的であるとわかります。また、技術に裏付けされた数値が出たので「換気したくない派」も納得し、社内も円満になったと高須さんは説明しました。

当日のスライドはこちらに、オフィスの空気環境を調査した話の詳細はこちらに公開されています。

自動ドア作った話

7人目の登壇者は高橋哲さんです。高橋さんは「おうちハック同好会」が6月11日に開催した「つっぱり棒ハッカソン」に参加。その時に構想した3つのハックの中から「自動ドア」について紹介します。

高橋哲(たかはし・さとる)/株式会社TBD。東北大学卒。今年から「おうちハック」への取り組みを開始。

高橋さんが作った自動ドアのテーマは「IoT meets 日本家屋」。 引き戸や襖をスマートフォンから「100%開ける」「50%だけ開ける」などのように設定することが可能です。スマートフォンからリモートでモーターの電源を操作し、螺旋の力で長ネジを回すことでつっぱり棒の調整を行います。

この自動ドアの仕組みを、高橋さんは「つっぱり忍者ドア FUSUMAN」と名付け、会場には笑いに包まれます。

当日は「父の日」だったこともあり、日本家屋向けのIoTソリューション「FUSUMAN」を使って親孝行して欲しいと高橋さんはまとめました。

当日のスライドはこちらに公開されています。

アルコールガジェット TISPY

最後の登壇者は大山裕一郎さん。大山さんは既存のアルコールチェッカーよりも高度な機能をもった「TISPY」を紹介します。

大山裕一郎(おおやま・ゆういちろう)/株式会社スタッフ。ネットワーク系を担当するエンジニア。鹿児島県出身。好きなお酒は順に、ワイン・ビール・ハイボール・焼酎・日本酒。

大山さんが技術担当しているアルコールガジェット「TISPY」は、呼気アルコール濃度測定を行うだけではありません。測定データを蓄積・解析することで、飲酒量を推定したり、アルコール濃度がこの後どのように推移するか予測したり、飲酒量の限界を通知するように開発しています。

「TISPY」にはマイコンとして「mbed」が組み込まれています。また、無線LAN通信が行える東芝のSDカード「FlashAir」を搭載。

「mbed」を採用した理由はオンライン開発環境があり、ライブラリがコードごと公開されているので使いやすかったからとのこと。 「FlashAir」はウェブサーバとして使える機能を持っているため、「HTML5+CSS+JavaScript」で簡単に実装できるのがメリットだということです。

「TISPY」の詳細はこちらのクラウドファンディングを実施していたページでご確認いただけます。

「おうちハック」の進む道

LTの終了後、「おうちハック同好会」の幹事を務める湯村翼さん(@yumu19)から今後の展望が語られます。

湯村翼(ゆむら・つばさ)/国立研究開発法人情報通信研究機構 研究員。「おうちハック同好会」幹事。

湯村さんは、コミックマーケットでの同人誌の頒布、「おうちハック同好会」発のツールキットの製品化、新Tシャツ作成など、個人的に考えているという「おうちハック同好会」の展望を語りました。

続いて全員で集合写真!

そのまま始まった懇親会も大変盛り上がりました!

最後に参加者の感想をちょっとだけ紹介します。

https://twitter.com/tks/status/744394582604005376

https://twitter.com/sera_ramon/status/744404205125832704

https://twitter.com/KKKKKKKKKULA/status/744406152859922432

https://twitter.com/Kasuga_91/status/744445228837310464

次回の開催は10月頃を予定。楽しみにお待ちしています!

取材・文/108UNITED

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