AWS、三菱重工、freeeでAIプロジェクトに携わる女性エンジニアが語る、生成AI活用の現在地とキャリア
登場以降、瞬く間に私たちの生活やビジネスに浸透した生成AI。既に、多くの企業で活用や関連プロジェクトが進行している。AWS・三菱重工・freeeの担当メンバーに登壇してもらい、活用や開発の現在地ならびに、女性エンジニアならではのキャリアについても語ってもらった。アーカイブ動画
さまざまな領域のメンバーが集まったチームで、生成AIを活用していくことが重要

三菱重工業株式会社
デジタルイノベーション本部
DPI部SoEグループエクスペリエンスデザインチーム
山内 惠理香氏
最初に登壇したのは、大学時代は映画の勉強に夢中になっており、ソフトウェア開発は未経験だったと話す三菱重工業(以下、三菱重工)の山内惠理香氏だ。新卒で入社したSIerでソフトウェアエンジニアとしてのキャリアをスタートさせると、iPadアプリのSaaSベンダーでキャリアを重ね、三菱重工に入社。現在はスクラムマスターとしてプロジェクトを推進する。
山内氏は生成AIに関する2つの試行事例を紹介した。1つ目は、この後のアマゾン ウェブサービス ジャパン(以下、AWS)のセッションで改めて解説する、AWSのEBAプログラム(Experience-Based Acceleration)を活用した事例だ。

EBAプログラムを活用することで、期間を明確に区切る、また、合宿的なアプローチで生成AIを活用したプロダクトのプロトタイプを開発することを目標とした。「ユニークだったのは、異なる属性のメンバーで構成された2チームで臨んだことです」と、山内氏は語る。

EBAプログラムで組んだ臨時チームでは5名のドメインエキスパートが集まったのに対し、エンジニアは山内氏を含め5名という構成で、かつ、3名のエンジニアはソフトウェア開発が未経験であった。
山内氏らのチームのテーマは、フォーマットが決まっていない複数ドキュメントを読み込み、ドキュメント間の比較を行うツールのプロトタイプを開発すること。
チームの半数以上がソフトウェア開発初心者ということで、まずは全体的な処理を実装した後、メンバーを分担しパートごとにペアプログラミングやモブプログラミングといった手法を活用しながら、ツールの精度向上を目指した。
分からないことや壁にぶち当たった際には生成AIを活用したり、AWSのメンバーのサポートを受けるようにして、3日間開発に取り組んだ。

生成AIを活用することで、ソフトウェア開発未経験者でも何をやるべきか、どのようなプロンプトを打ち込めばよいのかといったことが学べたとの成果が得られたと山内氏。「生成AIが先生のような役割で道筋を示してくれました。いい未来がやってきたのではと、素直に感じました」と、生成AI活用の感想を述べた。
また、「未経験者の1人が生成AIを活用したことで、開発が楽しいと言ってくれたことも大きいですし、よい経験につながったと思います」と、続けた。
一方で、コードも含めた成果物の品質や精度についてはあくまで定性的に行ったのみであったこと。生成AIが示した内容が、正しかったのかどうか検証していないこと。山内氏ともう一人の経験者、加えてAWSのサポートメンバーのアシストがあったからこそスムーズに進んだと、1チーム目のプロジェクトの感想を述べた。

2つ目の事例は、3人全員がバリバリのフロントエンドエンジニアであり、コード生成をアシストしてくれるClineとGitHub Copilot両方を使い、パフォーマンスを調べるという内容だ。
活用範囲を限定したり、自分たちが得意ではない領域。例えばデータ領域のコーディングといったシーンでは、生成AIは力を発揮した。
一方で、自分たちが得意な領域においては「自分でやった方が早いとまだまだ感じる」と、山内氏。人の場合は抽象度の高いバックログの具体化を頭の中で明確にしながら取り組んでいるからなど、理由もあわせて述べた。
2つの試行事例の結果を踏まえ、山内氏はソフトウェア開発における生成AI活用のメリット・デメリットを改めて述べた。そして、このような結果を踏まえた上で自分が打ち込んだコンテキストはもちろん、生成AIが返答した回答を疑うといった、「前提を疑うこと。そのためには何が正しくて正しくないのか、とにかく手を動かして選択肢の幅を広げていくことが重要です」と、述べた。
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とはいえ、1人で疑い続けることや、あらゆる領域を1人で網羅することは難しい。だからこそ、さまざまな領域のメンバーがチームとなる。チームで生成AIを活用することが重要であり「今後もチーム開発を重視しながら、生成AIを活用してよいプロダクトを開発していきたい」と述べ、セッションをまとめた。

非エンジニアでも簡便に自作LLMアプリを開発できる基盤を整備。セールス業務にも活用。

フリー株式会社
AIラボ
MLエンジニア兼AIプロダクトマネージャー
翁 理紗子氏
続いては、フリーの翁理紗子氏が登壇した。学生時代はプログラミングが苦手であり、社会人のキャリアスタートも異なる職種に就いていた翁氏だが、エンジニアの夫がフレキシブルな働き方をしている姿に憧れ、エンジニアを目指すようになる。
そこからはスタートアップでのアプリケーション開発を経て、2022年にフリーに入社。CRE (Customer Reliability Engineering)で経験を積んだ後、社内の異動制度を使い関心の高かったAI部門に。現在はAIラボという部署で、機械学習エンジニアとAIプロダクトマネージャーを兼務する。

翁氏は3つのテーマについて発表した。まずは、所属するチームで開発している社内LLM基盤に関する内容だ。AWSが提供する生成AIサービスのAWS Bedrockを活用し、非エンジニアであってもノーコードでセキュアに、RAG等を使った自作LLMアプリを作れるプラットフォームである。

翁氏は、この社内LLM基盤の活用に向けた啓蒙活動にも取り組んでおり、ワークショップやハッカソン、活用事例を共有するイベントなどを開催している。例えば、ヘルプページの作成時間が4分の1に減少した、といった事例だ。
啓蒙活動が奏功し、現在は多くのユーザーから相談を受けているという。一方で、施策の効果測定が難しいことなどを課題に感じている。また、相談数が多いためにすべてに応じることが難しく、「今後は各部署や現場にLLMに詳しい人材を育成・配置し、その方たちが相談に応じるようなかたちにしていきたいと考えています」と、今後の展開を述べた。
2つ目のテーマは、セールスにおいてAIを活用した事例だ。フリーではセールスに限らず、マーケティングやカスタマーサクセスといった部門でも、さまざまなデータとAIを活用することで顧客コミュニケーションのパーソナライズに取り組んでいる。

中でもセールスにおいては、商談の事後処理時間が45.2%、架電の事後処理時間が56.2%削減。その結果、セールスの本来の仕事である顧客とのコミュニケーションにより多くの時間を割けるようになった。
このような取り組みや効果が評価され、新しい時代の営業活動を表彰する「Forbes JAPAN NEW SALES OF THE YEAR 2025」で、「AIトランスフォーメーション賞」を獲得している。

一方で、ここまでの道のりはそう簡単ではなかったと翁氏は言う。まずは、セールスが具体的にどのような業務なのか、ドメイン知識が希薄であったからだ。そこで、セールスのハイパフォーマーにインタビューを行ったり、架電のロールプレイングを体験してみるなどしてドメイン知識を補い、システムの設計に反映していった。

実装フェーズにおいても、課題が上がった。例えば、出力から過去既に顧客に提案している内容を省くことが難しかった。さらには、ちょうど繁忙期だったこともあり、当初はセールスのメンバーが機会損失のリスクや成果への懸念などからあまり協力的でない場合もあり、評価業務が思ったように進まなかった。
そこで翁氏は、セールスのメンバーと積極的にコミュニケーションを取り、強制ではなくAIはあくまでセールスのメンバーが考えたり、お客様に提案する内容の選択肢を増やすサジェストの位置付けであることを強調した。このような努力の結果、次第に協力を得ていき前述のような成果、Awardの獲得にまで至ったのである。

最後のテーマは、AI時代のエンジニアのあり方である。フリーでは既にClineなどのAIコーディングエージェントの利用が進んでおり、エンジニアの役割はまさにスライドの右側で描かれたイラストのように、複数のAIエージェントのマネージャーのような役割になるだろう、と翁氏は述べた。
そして、人間同士の温かみのあるコミュニケーションなど、人間にしかできないことを探すこと、常に新しい技術をキャッチアップしていくことが重要だと続けた。一方で進化スピードは早いため、柔軟かつ楽しむことが大事だとも翁氏は言う。
「自分もいつも、楽しい心でいるように心がけています。みなさんも楽しんでいきましょう!」(翁氏)
言葉どおり、にっこりと楽しそうな笑顔で参加者にメッセージを投げかけ、セッションを締めた。
生成AIはあくまで道具。人間との最適な協働を設計するために学び続ける姿勢が重要。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
プロフェッショナルサービス部門 ML Engineer
Luxi Li氏
続いては、学生時代から統計学などを学び、卒業後はデータサイエンティストとしてAI/ML領域での知識とキャリアを積み重ねていったLuxi Li氏が登壇した。AWSに入社したのは2023年。現在は生成AI関連の幅広いプロジェクトに携わっている。
Amazonにおけるレコメンデーションや、毎日160万個における配達に向けたパッケージング、Alexaとのインタラクションなど。Amazonでは25年以上前からAIを活用した革新的なサービスを提供し続けてきた。

生成AIの活用にも積極的で、現在は3つのレイヤーでさまざまなサービスを展開する。生産性向上に向けては、対話型の生成AIアシスタントであるAmazon Q BusinessやAmazon Q Developer。生成AIアプリを構築するレイヤーでは、フリーの社内LLM基盤の構築でも活用していると翁氏が紹介した。
APIを介してさまざまな最先端の基盤モデルを活用することで、AIアプリケーションの構築やカスタマイズができるAmazon Bedrockを。
自らAIモデルの構築やトレーニング、デプロイといった一連の開発プロセスを提供する、MLOps的なサービス、Amazon SageMakerなどである。
Li氏が所属するプロフェッショナルサービス部門では、このように生成AIに関する新しい技術やメソドロジーを、顧客が効率的に活用できるように支援している。
「技術的な面ももちろんありますが、人やプロセスの変革といった人材育成にも取り組んでいます。我々は世界中にネットワークがあり、そこで得た知見がありますから、それをお客様にフィードバックしています」(Li氏)

生成AIを導入するまでの流れも詳しく解説した。スライドで示したように、構想、評価、設計、実装と4つのフェーズがあり、まずは構想フェーズで、ビジネスの価値を発見する。
次に、可能性がどれくらいかのアセスメントを行い、その後はPoCやMVP(Minimum Viable Product)の作成、さらには実装となる。加えて、生成AIを活用し、データプラットフォームを構築するような支援も行っている。
EBAプログラムについても改めて詳しく解説した。パーティーと呼ばれる3日という短期間でプロトタイプを開発することが目的であり、実現に向けては全関係者が参加するデザインワークショップを。さらにはエンジニアやPMが集まり、こちらも山内氏が説明したように、バックログや各種データなどを整備する。

EBAプログラムに参加したメンバーの中には、AWSや生成AIの活用が未経験であったにもかかわらず、Amazon Bedrockを活用することでRAGの構築ならびに性能検証を行うなど、生成AIに関するフルスタック人材として成長する過程が、わずか数週間で見ることができたとLi氏。「もちろん、参加者の勉強熱心さも必要です」と、成果を述べた。

Li氏は個人としても生成AI関連プロジェクトにも数多く携わっていること、こちらの取り組みでも人材育成から実装領域まで取り組んでいることも紹介した。
AI時代におけるエンジニアのキャリアについても言及した。ポイントは大きく4つ。1つ目は、AIはあくまで技術や道具として効果的に活用するとの意識ならびにスキルを持つこと。具体的には、こちらも山内氏が述べたように、100%信じないことが重要だと、Li氏は語った。
2つ目は、AIが苦手とする分野での専門性を高めることだ。創造すること、深堀りすること、根本課題の理解などであり、このような専門性を身につけ、AIとビジネスの橋渡しを人間が行うことが重要だと続けた。
3つ目は、2つ目のテーマの後半に重なるが、人間とAIの最適な協働を設計することだ。4つ目はキャッチアップの姿勢であり、変化に対応し続けたり、同じく学習を続けることが重要だと述べ、Li氏はセッションを締めた。
【Q&A】参加者から寄せられた質問に登壇者が回答
トークセッション終了後はQ&Aタイムも設けられた。抜粋して紹介する。
Q.チームで生成AIを囲むとはどういう意味か?
山内:生成AIと1人のメンバーが1対1でやり取りしたケースでは、チームでレビューしても思考のプロセスが分かりません。そこで、モブプロやペアプロを行いながらチームメンバー全員もその様子を見ている、という意味です。違う結果が得られるのと共に、チームでものづくりが進められると考えています。
Q.社内で生成AIモデルを作る際のルール策定について
翁:前提として、フリーの社内LLM基盤では外部のモデルを利用しています。そのため、センシティブな情報を入れて学習に使われるとセキュリティリスクが高まるため、セキュリティ部署と連携しながら、どこまでの情報を入れてよいのか、ルールを作成しています。また、周知も徹底しています。
Q.EBAプログラムにおいて、初心者がスクラムを3日間で回せるのか?
山内:前提として、私が所属する部署では紹介した事例の以前からアジャイル的な取り組みを進めていて、特にスクラムのフレームワークを使った開発を行っているチームが複数あります。ただ、今回の事例では初めてアジャイルに取り組むメンバーもいたため、事前の研修期間でアジャイルやスクラムに関する研修を受講してもらった後、3日間の実践に取り組みました。
参考:https://aws.amazon.com/jp/blogs/news/mitsubishi-heavy-industries-genai-challenge/
Q.ユーザーが偏るなど、社内でのAI活用が思ったように進まないときはどうしたらいいか
翁:各部署に積極的にAIを活用する人をエバンジェリストのような肩書きとして配置し、全社的に活用を進めてもらうのがよいと考えています。
山内:スコープを絞って活用していくのが有効的だったと思っています。
Li:実例や実体験をお客様に伝えることで、活用に対する意欲を高めるようにしています。実際、お客様は思った以上に生成AIが活用できることを知り、驚かれるケースが多いです。
翁:セッションで紹介したワークショップやハッカソンでは、まずはLLMに慣れてもらいたいので、業務に関係なく自分が興味あるものを作ってもらい、それも思いつかない人のためにいくつかテーマを用意しておきました。実は新卒研修でも同じイベントを行ったのですが、その際は新卒の中で仲良くなれそうな人を探すマッチングアプリのようなアイデアが出ました(笑)。
Q.生成AIが対応できる領域の見極めは?
Li:判断においては実証が一番早いです。その上で、専門家に相談することもありますし、数カ月後に再び検証するなどして、自分たちで生成AIの限界を探すことが大切だと思います。
Q.ローカルLLMの活用についての見解を知りたい
翁:精度やスピード、コストどれを重要視するのかといった、タスクの内容によると思います。APIで主に利用しているようなLLMをローカルで動かそうと思うと、コストが嵩むからです。一方で、利用制限をなくしたいなどの場合は、ローカルで活用してもいいと思います。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
https://aws.amazon.com/jp/
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社の採用情報
https://aws.amazon.com/jp/careers/newgraduate/
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